特集:欧州で先行するSDGs達成に寄与する政策と経営 環境を中心に、政府、社会、企業が先進な取り組み(スウェーデン)

2022年5月24日

北欧諸国は、2030年までに「世界で最も持続可能で統合された地域になる」という目標を掲げる。これは北欧諸国で構成している北欧閣僚理事会で2020年に決定し、「環境に優しい北欧地域」「競争力のある北欧地域」「社会的に持続可能な北欧地域」を実現するための計画を北欧諸国全体で講じている。国連の持続可能な開発目標(SDGs)の達成に向け、積極的に取り組み姿勢が見えてくる。

2021年のSDGs達成・進捗状況を報告した「Sustainable Development Report 2021外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます」によると、スウェーデンはフィンランドに続く2位。ちなみに、2020年の同報告では1位だった。まさしくSDGs先進国と言える。

特に同国が積極的に取り組んでいる事項は、「1.貧困をなくそう」「5.ジェンダー平等を実現しよう」「7.エネルギーをみんなにそしてクリーンに」「9.産業と技術革新の基盤をつくろう」だ。1972年にストックホルムで開催された国連人間環境会議がSDGsの出発点だった。それから現在まで、政府、自治体、企業がそれぞれSDGs達成に向け、取り組んでいる。

取り組みは、環境、ジェンダー、福祉分野などに及ぶ

スウェーデン政府は2016年6月、2030年までにエネルギー効率を50%高め、2040年までに発電すべてに再生可能エネルギー(再エネ)を用いるという目標を設定。さらに、2045年までに温室効果ガス(GHG)の排出量を実質ゼロにするともした。目標達成に向けた取り組みの例としては、再エネを用いた交通機関の促進が挙げられる〔電気道路システム(注1)の計画や、環境に配慮した車両の税制優遇など〕。また、住宅に次世代電力網を配備し、暖かい時期に余剰電力を蓄電し寒期にその電力を供給する取り組みも行われている。

ジェトロは2022年2月23日、ストックホルム市に対し、環境に配慮した取り組みについてインタビューした。その結果として、南部の郊外都市を重点地区として選定し、循環システムを用いて廃棄物を土壌に戻せるよう加工することで、植林に役立てる例が紹介された(当該地区は、主要工業地帯として環境汚染が深刻だった)。また、持続可能な街にするために、太陽光パネルや電気自動車の充電ポイントを設置。地熱を利用するエコロジカルな街づくりの取り組みも進められているという。

また、2045年ネットゼロの目標達成にあたっては、持続可能なプラスチックの使用が不可欠だ。スウェーデン政府はプラスチックに関する施策を2022年2月21日に発表(類種の施策として同国初だった)。2030年までに、新規プラスチック包装には平均で30%以上のリサイクル原料を使用する目標を決定した。発表した施策は、プラスチックが気候や環境に与える影響を軽減するための55の項目で構成されている。施策の中には、(1)事業者が飲食物を販売する際に、プラスチックを15%以上含む使い捨て飲料容器の使用を禁止することや、(2)再利用可能な飲料容器や弁当箱を提供することを義務付ける措置、などが含まれている。

また、同政府は、ジェンダー平等の推進を明言。1970年代初頭から、男性と女性が社会生活を平等に送れるよう取り組んでいる。女性の雇用率はEUで最も高い72%だ。2021年11月には、同国初の女性首相も誕生している(注2)。現在23人の閣僚のうち、約半数の11人が女性だ。そのポストの中には、労働・男女共同参画相もある(2021年12月3日付ビジネス短信参照)。

さらに、同国では1998年に、国内の教育方針が見直され、性別の固定概念を生まない取り組みを進めている。例えば、ストックホルム市では、「ジェンダーニュートラル」を掲げるプリスクールが設置された。(1)先生が「男の子」と「女の子」と言う代わりに「名前」などで呼ぶ、(2)与えるおもちゃを男女で分けない、など、これまでの性に対する印象や固定観念を生まないように工夫している。また同国では2012年に、男女中立な代名詞「hen」が主流化した。教育だけでなく、一般的に意識が高まったことが垣間見える。

貧困層の支援を目的とした福祉制度もある。教育制度は無料で、すべての人に平等な機会が与えられている。ストックホルム市には暖房用の熱供給網があり、多くの住宅で暖房費が家賃に含まれている。そのため、光熱費の支払いができないため暖房が止まってしまうという危険はほぼない。すなわち、他国で生じているエネルギー貧困(注3)は、同市では生じにくい。医療費も無料。最貧困層への経済援助もある。外国人向けのプログラムも設けられている。例えば、育児支援システムなどを知らない外国人向けに市の職員が直接家庭を訪問し、説明することがある。

さらに、父親と母親でそれぞれ取得期間を分けることができる14カ月間の有給育児休暇も。ジェンダー平等に資する制度になっている。

市民社会が積極的にSDGs活動に参加

スウェーデンには、81の市民社会組織で構成されるプラットフォーム「Concord Sweden)がある。この組織は、貧困と不平等のない持続可能な世界、公平な政治、ジェンダー平等、将来の世代への責任を推進。公正で持続可能な世界の実現を目指して活動し、政策提言することもある。また、同プラットフォームと政治家との討論や、政治家・メディア間の議論の内容を、市民にわかりやすく伝えるための取り組みも進めている。

ストックホルム市では、学界、企業、市民社会が相互に協力して、SDGsの目標を達成するための「アジェンダ2030評議会(The 2030 Agenda council)」が開かれている。同市によると、9人の政治家とさまざまな分野の8人の専門家の計17人のメンバーで構成されており、日々、SDGsについて議論が行われている。

エネルギー分野では水素に注目

ジェトロは2022年2月22日、フォッシル・フリー・スウェーデン(注4)に、同国のエネルギー事情について聞いた。

同国の強みは、森林の多さ、水力発電、原子力発電などの環境が整備されている点などにあるという。また、バルト海はそれほど深くなく、洋上風力発電を安価に建設することができる。そのため、洋上風力発電をさらに増強していく予定とした。

今後は水素に注目している、とも。水素社会が実現すると、クリーンエネルギー100%発電への移行が可能になり、より効率的に電力を製造することができる。将来的には、アンモニア、水素、メタノールを発電や船舶向けの燃料に利用することを検討している。

一方で、同国の課題として、人材と能力不足を挙げた。そのため、新たな教育の提供や技術獲得の支援が必要と指摘した。また、国内の電力関連の法律や規制が厳しく迅速な技術導入困難なことや、技術者が不足し新たな取り組みの上で課題になっていることにも触れた。

企業は、環境を意識したビジネスを展開

ここで、当地企業の取り組みについて概観してみる。

  • アイモパーク(駐車場事業大手)
    同社は、2019年5月に住友商事が買収し、スウェーデン国内に約6,000カ所の拠点、約30万台の駐車スペースを保有。駐車場サービスの運営・維持管理、モニタリングなどを行っている。
    ジェトロが3月14日に聴取したところ、二酸化炭素(CO2)排出削減に向けた取り組みの一環として、低炭素電力を利用しているとのこと。また、より環境に配慮した自動車の利用を促進するため、駐車場内に充電スタンドを増設。事業で使用する車両は、一部航続距離の問題でハイブリッド車もあるが、電気自動車の使用を基本方針としている。
  • IKEA(家具製造・販売大手)
    同社は、2030年までに、すべての製品について再生可能素材またはリサイクル素材だけを使用すると公約している。2030年までに、再エネと資源を基盤として、完全循環型の気候変動対応型社会を実現するための取り組みだ。
    同社にとって、特に木材は不可欠な資源と言える。先の公約には「フォレスト・ポジティブ(注5)」も盛り込まれた。2022年1月現在、同社が使用する木材の99%以上がリサイクル材か森林管理協議会(FSC)認証材になっている。
    2020年11月初旬には、同国南部のエスキルストゥーナに、同社家具の中古品専用販売店舗もオープン。世界初の試みだ。あわせて、一定の基準を満たした商品について家具を買い取る制度を導入した。
    また、サブスクリプションサービス「Strömma」を、2021年8月に開始。太陽光と風力で発電したクリーンエネルギーを販売する。このサービスでは、電力の使用量をモバイルアプリから確認することもできる。同社から太陽光パネルを購入している顧客は、余剰電力を同社に対して売り戻すことも可能とした。
  • マックスバーガー(ハンバーガーチェーン)
    同社は、気候変動に関する持続可能な方針を採用した世界初のファストフード店として知られる。
    同社では、GHG排出量実質ゼロを達成するために、長年にわたって植林によるカーボン・オフセットに投資。2020年のレポートによると、2008年以降、アフリカで290万本ほど植林してきた。植林は、CO2の吸収による環境面での影響のほか、雇用創出などの社会的な利益をもたらすという。
    2016年には、牛肉から代替品への切り替え促進を目的として新たな商品ライン「グリーンファミリー」を発売。さらに、2022年までの7年間で同社のCO2排出量の3割を削減する目標を設定。そのために、同社が提供する商品の半分を牛肉以外の魚や野菜、代替肉で提供するとした。ちなみに、2020年1月までの時点で、CO2排出量削減割合は目標を超えた40%に達している。
  • ボルボ・カーズ(自動車大手)
    ボルボも、SDGsに関する取り組みを進めている。同社は、自動車1台あたりのライフサイクルCO2排出量を、2025年までに、2018年比で40%削減することを目標に掲げる。さらに2030年までに、販売するのは電気自動車だけに限るようにすることを計画。2040年までに、気候中立かつ循環型のビジネスの形成を目指すとしている。
    SDGsに向けた目下の取り組みとしては、車内のシートバックやヘッドレストなどに新素材を使用することが挙げられる。同社が開発した「ノルディコ」は、スウェーデンとフィンランドの森林から採取したバイオ原料とリサイクル原料を使用した素材だ。同社によると、革に比べてCO2排出量を74%削減する。
    また2022年4月には、新素材開発企業への投資も発表した。ベンチャーキャピタル部門のボルボ・カーズ・テック・ファンドを通じて、スイスのBcompに出資する。Bcompは、バイオ由来の亜麻繊維を使用し、天然繊維複合材を製造する企業だ。この素材を使用することで、通常のプラスチック部品と比較して最大50%軽量化できる。そのうえ、使用するプラスチックを最大70%削減、CO2排出量を最大62%削減できるという。同社は、これを次世代電気自動車に使用することを検討するとしている。

注1:
電気道路システムとは、道路を通じて車両を充電することができる仕組み。
注2:
ステファン・ロベーン前首相が2021年11月に辞任。その後任として、女性のマグダレーナ・アンデション前財務相が同月に首相に就任した。
注3:
エネルギー貧困の対象になるのは、燃料費が収入の10%超を占める家庭。
注4:
フォッシル・フリー・スウェーデンは、スウェーデンでエネルギー問題をとり扱う団体。
注5:
フォレスト・ポジティブとは、積極的かつ持続可能なように森林管理に貢献する活動のこと。森林の減少や劣化をなくすのが、その狙いだ。
執筆者紹介
ジェトロ・ロンドン事務所
島村 英莉(しまむら えり)
2021年8月、ジェトロ・ロンドン事務所入所。
執筆者紹介
ジェトロ・ロンドン事務所
篠崎 美佐(しのざき みさ)(在スウェーデン)
1994年、ジェトロ・ストックホルム事務所入所。現在ジェトロ・ストックホルム・レジデントエージェント。
執筆者紹介
ジェトロ・ロンドン事務所
尾崎 翔太(おざき しょうた)
2013年、七十七銀行入行。2019年11月からジェトロに出向し、海外調査部欧州ロシアCIS課勤務を経て2020年9月から現職。

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