特集:欧州で先行するSDGs達成に寄与する政策と経営プラスチック、繊維製品の廃棄物削減に向けて進む官民の取り組み(フランス)

2021年12月6日

2015年9月に国連で採択された17の「持続可能な開発目標(SDGs)」に基づき、フランスは2019年9月、この目標達成のロードマップを採択した。公共政策が持続可能な開発に対応し、SDGsと気候変動に関するパリ協定との相乗効果を強化するために、公共政策の一貫性を確保し、それにより、国内および国際的に持続可能な開発を確実に実行するという公約を掲げた。本稿では、SDGsにおけるプラスチックと繊維・靴製品の廃棄物削減に向けたフランスの取り組みを中心に紹介する。

SDGs達成のための政策

フランスのSDGsロードマップは、(1)全ての差別や不平等と闘い、全ての人に平等な権利、機会、自由を保障する「公正な移行」に向けて行動する、(2)気候、地球、生物多様性に有益な行動をするために低炭素、天然資源による経済を通じて社会モデルを変革する、(3)構築すべき世界や持続可能な開発のためのチャレンジに適応した行動、生活様式へ生涯教育、生涯訓練を行う、(4)健康的で持続可能な農業や食品を通じ、全ての人の健康、快適さのために行動する、(5)持続可能な開発目標達成のための市民参加を効果的なものとし、国内の実験やイノベーションの強化を通じ行動変容を具現化する、(6)社会、平和、連帯の持続可能な変革のために欧州や国際レベルで活動するという6つの課題を柱とする。

プラスチックの廃棄物削減に向けて

1950年代から始まったプラスチックの大量生産・消費により、世界のプラスチック生産量は1950年の150万トンから2019年には約250倍の3億7,000万トンへ飛躍的に増大している。また、近年、プラスチックごみの海流への流出による海洋生物の誤飲など、海洋プラスチックごみ問題が地球規模の大きな課題となっている。国連自然保護連合は2020年10月、「毎年23万トンのプラスチックごみが地中海に廃棄されており、このまま措置を講じない場合は、2040年にはその廃棄量が倍増する」と発表した。

SDGsのターゲット14.1では、「2025年までに海洋堆積物や富栄養化を含む、特に陸上活動による汚染など、あらゆる種類の海洋汚染を防止し、大幅に削減する」ことを掲げている。

フランス政府は2018年6月、2025年までに海洋プラスチックごみをゼロにすることを目標に、陸上を含むプラスチックごみによる汚染防止や市民および公的、経済的関係者の意識向上に努める35の指針を示す「ゼロ海洋プラスチックごみ行動計画(2020~2025年)(839.06KB)」を策定した。

また、海洋プラスチックごみの80%を占めると言われる陸上からの流出を抑えるため、政府は他国に先駆けて使い捨てプラスチック製品の市場投入を禁止してきた。2016年からレジ袋、2020年からコップ、グラス、皿、綿棒など、2021年からストロー、カトラリーなど、2022年からはティーバッグ、無料の付録おもちゃなどでの使い捨てプラスチック使用を禁止、2020年2月12日施行の経済循環法では2040年までに使い捨てのプラスチック包装の市場投入を禁止するとしている。さらに、8月25日施行の気候変動対策・レジリエンス強化法では、「2030年1月1日から400平方メートル以上のスーパーマーケットは、売り場面積の20%を包装のない量り売り販売とする」ことを義務付けた。


小売店で販売されている木製の使い捨てカトラリー
(ジェトロ撮影)

スーパーマーケット内の量り売りコーナーの様子
(ジェトロ撮影)

政府の支援と企業の取り組み

2019年2月、ダノン、ロレアル、カルフールなどフランスの大手13社(現在16社)は、2つの環境関連非営利団体と政府間で使い捨てプラスチック包装の削減を目的とする「プラスチック包装に関する国家協定」(1.35MB)を締結(2020年6月4日付地域・分析レポート参照)した。2020年5月には、ポリ塩化ビニル(PVC)や発泡ポリスチレンなどを含む、廃止または廃止を検討すべき12の素材、および不要と考えられるプラスチック包装のリスト(348.30KB)を発表した。同協定のコーディネーターが2021年7月に発表した2020年活動報告書(1.82MB)によると、プラスチックの軽量化や他の素材への変更により、5,800トンの問題のある、または不要なプラスチックの使用をやめた。その結果、2019年比で2.5%の使い捨てプラスチック包装を削減した。また、PVC使用は家庭用プラスチック包装の0.5%に減少し、プラスチック包装のリサイクル率は64%(2019年は45%)、再生プラスチックの使用率は15%(同11%)に拡大した。

政府の企業支援策としては、使い捨てプラスチックの削減、未使用のプラスチックから再生プラスチックへの代替、プラスチックの再使用に対し、経済復興策の枠内で4,000万ユーロを充てている。環境移行庁(ADEME)はその一環で、未使用のプラスチックの補完やその代替のための再生プラスチックの利用、製造システムを変更するためのプロジェクトに補助金を支出している。

2011年に設立された再生プラスチックのベンチャー企業カルビオ(CARBIOS)は、2017年にポリエチレンテレフタレート (PET)のリサイクル技術開発のため、ロレアルとコンソーシアムを設立し、2019年にネスレウォーターズ、ペプシコ、サントリー食品ヨーロッパをコンソーシアムに加えた。同年、酵素によりPETをリサイクルするプロジェクトの第1段階の実証に成功、 ADEMEから140万ユーロの補助金を受け、2021年6月にはコンソーシアムの参加企業(前述4社)による100%再生PETボトルの製造に成功したことを発表した。

同社の酵素によるリサイクル技術はPETの97%を16時間で分解するもので、透明、不透明、着色、多層などあらゆる種類のPETを短時間でバージンPETボトルと同等に再生できるという特長がある。

ロレアルは、カルビオとの共同開発によって製造する再生プラスチックのみでできたボトルを同社の基礎化粧品ブランドのビオテルムの製品に使用し、2025年から市場に投入することを目指す。「プラスチック包装に関する国家協定」に署名しているロレアルは、プラスチック包装削減に積極的に取り組んでおり、再生可能な材料の使用、循環経済を考慮した包装により、包装材料の削減量は2019年には前年比で52%増の1万3,204トンに達した。同社は、2025年をめどにプラスチック包装の50%を再生プラスチック、バイオマスプラスチックとし、全てのプラスチック包装は、詰め替えや再利用、リサイクル、コンポストが可能なものとするとしている。

繊維・靴製品の「イノベーションチャレンジ賞」

SDGsの目標12.5では「2030年までに、廃棄物の発生防止、削減、再生利用および再利用により、廃棄物の発生を大幅に削減する」と定めている。フランスの繊維・靴製品の販売量は年間約60万トン、1人当たりの年間廃棄量は10キログラムだ。これを削減するため、政府は循環経済法で2022年1月1日までに繊維製品の売れ残り商品の廃棄を禁止、再利用やリサイクル、寄付を義務付けた。


パリ市内に設置された繊維・革製品の回収ボックス
(ジェトロ撮影)

2019年の繊維・靴製品の市場投入量は64万8,000トン、廃棄物の収集量は24万8,547トンと、市場投入量が廃棄物の収集量を大きく上回っている。同分野のエコオーガニズム(注1)Refashionは、2010年からリサイクル促進のためのイノベーション、循環経済を支援する「イノベーションチャレンジ賞」のプロジェクトを募集、2020年までに同賞を受けたプロジェクト55件のうち、既に15件がパイロット生産を開始している。工業化や商業化が可能な優秀なプロジェクトには年間総額50万ユーロを支援しており、2020年には40社が応募、フェニックス・スポー社やベール・ティカル・ノール社のプロジェクトなど4つのプロジェクトが「イノベーションチャレンジ賞」を受賞した。

スポーツクラブ、スポーツ連盟、地方公共団体向けのスポーツ用品の製造・流通業者のフェニックス・スポー社は、スポーツクラブ、スポーツ連盟、地方公共団体から再利用が不可能なポリエステルのスポーツウエアを回収し、プラスチックの複合材を製造する実証機器を開発した。プラスチックの複合材は、教育現場で使うスポーツ用品製造の材料として使用する。リファッションから9万6,143ユーロの資金援助を受け、プロジェクトの実用化を促進、2022年に19トン、2023年には36トンのスポーウエアのリサイクルを目指す。

造園業者ベール・ティカル・ノール社は、リサイクル繊維を基盤とする壁面緑化システムのプロジェクトを開発した。このプロジェクトには1平方メートル当たり8.4キログラムのリサイクル繊維が必要で、線製品の収集、再利用、リサイクルを専門とするル・ルレ(Le Relais)社と協力している。ベール・ティカル・ノール社は、リファッションから7万1,813ユーロの資金援助を得て、2021年に自動給水システムを備えた50~100平方メートルの実証機器を製作、消費エネルギーに関するデータを収集し、2022年には公共入札でこのソリューションを提供する予定だ。

フランスにおける非財務情報開示に関する規則

非財務情報の開示は、企業の戦略やガバナンス、存在意義などの企業倫理をSDGsの課題に合わせる手段だ。フランスは意欲的に企業倫理の立法化に取り組んできた。政府は2001年の「新経済規制法」で初めて上場企業に対し、社会、環境(気候変動)、労働環境への取り組みなど「企業の社会的責任(CSR)」に関する情報の年次報告書への記載を義務付けた。さらに、2010年に制定した「環境国家契約法(グルネル第2法)」では、持続可能な発展に係る事項の年次報告書への記載義務を追加した。

2017年には「注意義務法」(2021年6月10日付地域・分析レポート参照)を制定し、「非財務情報開示に関するEU指令(2014/95/EU)」を「7月19日付オルドナンス」(注2)で国内法制化し、「2017年8月9日付政令」を発布している。開示を義務付けられている企業は「2020年12月29日付政令」により、2021年1月1日以降、従業員500人以上で総資産または純売上高が1億ユーロ以上の企業に改正され、企業の活動による社会、環境、気候変動への影響を考慮した企業方針、持続可能な社会、循環経済への社会的公約、差別や多様性促進への取り組みなどの非財務情報の開示が義務付けられた。また、2019年には「企業の成長と変革に関する法」により、企業は定款に存在意義を記載することが可能となり、企業の設立目的に社会的・環境的課題を含めることができるようになった。2022年7月からは、非財務情報の気候変動への影響の項目に新たに、企業活動の川上、川下の輸送活動に関する直接的および間接的な温室効果ガス(GHG)排出、鉄道、河川輸送、バイオ燃料、電気自動車の利用などによるGHG排出削減のための行動計画が加えられる。

公的投資銀行(Bpiフランス)が2019年に600社以上を対象に、CSR観測所(注3)とPwCの協力の下に実施したアンケートによると、3分の1の企業が注意義務法の施行以降、CSR関連の問い合わせが増え、CSRはサプライチェーンにおける必要不可欠なステップだと回答している。サプライヤーの61%が取引先からのCSRに関する要求に対応することで業務の改善につながり、新たな機会を生む可能性を認識しており、多くの中小企業でもCSRへの取り組みが経済的利益を生むことを確信していることがわかる。SDGsはCSRに直接結びついていることから、今後、SDGsに取り組む企業が増加していくことが予想される。


注1:
エコオーガニズムは、拡大生産者責任の枠組みの中で、国の認可を得てリサイクルや廃棄物の管理を行う非営利法人。
注2:
政府の委任立法権限に基づく法規。
注3:
企業のCSR戦略をサポートするマルチステークホルダーの協会。
執筆者紹介
ジェトロ・パリ事務所
奥山 直子(おくやま なおこ)
1985年からジェトロ・パリ事務所勤務。フランスの規制関連の調査を担当