特集:欧州が直面するビジネス環境の変化と中国・同企業の動向デジタル課税に向け、議論が続く(EU)-在欧専門家に聞く

2021年5月20日

経済協力開発機構(OECD)の枠組みで、デジタル課税についての新たな国際ルールに向けた議論が進む。そこで各国間の合意に達することができるかに、注目が集まっている。

欧州では、世界各国で活動し、莫大(ばくだい)な利益を生むデジタル・プラットフォーマーに対する警戒感への高まりとともに、独自にデジタル課税を導入する国も出てきている。今後、この議論がどのような形で進むと考えられるか、欧州有数のシンクタンクの1つである欧州経済研究センター(ZEW)のクリストファー・ルートビッヒ研究員に聞いた(2021年2月8日)。


クリストファー・ルートビッヒ研究員(本人提供、(c) MBS Mannheim/Felix Zeiffer)
質問:
デジタル課税について、今後、EU全体または各加盟国で、どのような形で議論が進んでいくと思われるか。
答え:
OECDではデジタル企業に対する税制改革について、包括的な議論に発展している。2019年に2つのコンセプトに到達した。1つは、新たな課税権の分配だ。課税権を企業の所在地の国だけでなく、課税対象企業が事業を行う各市場にも付与することが想定される。もう1つは、グローバルな最低税率の導入だ。この2つの柱によって、利益が法人税などの課税率が低い国にシフトされることを防ごうとしている。
OECDでの議論では、税制改革全体の議論が展開された。そうした中、議論は多岐にわたっている。OECDの議論では、既述の「新たな課税権の分配」「最低税率の導入」の2つのコンセプトのように、大枠では議論の方向性が定まっている。しかし、具体的にどのように規定するかについての詳細は意見調整が難しい。合意形成に時間がかかることが予想される。最終的な合意に至らない可能性もある。
OECDと並行して、EUでも議論が進められている。EUの議論は、OECDでの議論に比較的歩調を合わせたものになっている。ただし、OECDでは世界規模での税制改革に焦点が当てられてしているのに対しEUの議論では、世界的に活動し、莫大な利益を上げる多国籍IT企業の課税逃れを防止することに関心が置かれる。OECDとの議論と比較して、課税するターゲットを限定した形で進んでいる。
欧州委員会は2018年3月21日、デジタル分野での課税に関する指令案を発表した(2018年4月5日付ビジネス短信参照)。この指令案は、域内に実体的な拠点がなくインターネットを通じてサービスを提供する場合も企業収益課税を可能にする法案と、一部企業のデジタル分野での収益に対する暫定的な課税措置から成る。前者については、中長期的な議論が必要とされるだろう。一方で、後者については一時的な解決策として導入される可能性がある。またEUは、OECDでの議論の停滞を受け、EU域内での枠組み構築に向けて積極的に議論を進めようしている。2021年1月には、デジタル課税についての公開協議を開始。4月12日まで意見募集を行う。
なお、英国、オーストリア、イタリア、スペインなどの加盟国の一部では、すでにデジタル課税が導入されている。
質問:
新型コロナウイルス対策の支出・債務が大幅に増える中、EUはデジタル課税と国境炭素税などによる歳入を新たな財源として期待している。税収面でのインパクトをどう見るか。
答え:
新型コロナウイルスの復興措置に充てる予算をデジタル税でだけで賄うには、現状、デジタル税から得られうる税収規模は小さすぎる。欧州委は、デジタル課税による歳入を50億ユーロと見積もる。現実的な歳入は年30~40億ユーロ程度だろう。デジタル税が、大きな税収の柱になるには時間を要すると考える。
質問:
バイデン政権への移行に伴う米国側の動き・態度の変化についてどうみるか。公正な課税と米国の軋轢(あつれき)のトレードオフについて、主要欧州各国のスタンスはどんなものか。
答え:
「アメリカ・ファースト」の考えや米国企業を保護する姿勢は、バイデン政権においても大きな変化はないと見ている。米国のテクノロジー企業をデジタル税から守ろうとする姿勢は変わらず、トランプ前政権ほどの激しい対立にはならないだろうが今後も議論は続くだろう。
フランスのデジタル課税導入とそれに反発した米国による報復関税により、フランスと米国の関係が緊迫化した。しかし、2020年1月にフランスが若干態度を軟化させ、課税導入を同年12月まで見送る姿勢を示した。これは、フランスも積極的に関わっているEUやOECDでの合意形成に配慮したためだ(注)。フランスは、オーストリアなどと比べ、米国ハイテク企業の売り上げが大きい。米国のハイテク企業にとって、デジタル課税導入で受けるインパクトが大きいことになる。そのため、米国側での関心も高い(2019年12月3日2020年1月30日2020年6月4日2020年7月14日2021年1月12日2021年1月21日付ビジネス短信参照)。
質問:
デジタル課税の合意には時間がかかることが予想される。今後どのように議論が進むとみるか。
答え:
EUは、OECDの方針に足並みをそろえようとしている。世界的に活動する多国籍企業への課税方針は、個別の国というより多国間での課題だ。よって、まずは国際レベルでの合意形成をめざすのが、EUの基本姿勢だ。OECDでの議論が滞るようなら、EU独自の対策を進めようという動きになる。しかし、EU内の合意形成も全会一致が必要なため、難しいというのが現状だ。
デジタル課税を巡っては、イノベーションの推進を妨げる懸念もある。EUは研究開発、イノベーションの推進を重視する立場だ。税の導入が対象企業の研究開発や投資、イノベーションの阻害要因となる可能性があることには注意も必要だ。
我々が2019年に発表した調査によると、欧州委員会の提案に基づくデジタル課税の対象となり得る企業は222社。うち日系企業は28社だった。OECDの提案に基づく場合、課税対象企業数はさらに多くなる。 もっとも、税収確保の観点で言うと、欧州では付加価値税(VAT)による税収が大きい。そのため、デジタル税の課税対象拡大よりも、VATの課税漏れ問題に優先して取り組むべきと、個人的には考える。
質問:
現在、ドイツではデジタル課税制度は導入されていない。ドイツ政府の受け止め方はどうか。また、9月の連邦議会選挙の結果により、デジタル課税へのドイツの見方が変わる可能性はあるか。
答え:
現政権では、まだ議論の段階。ドイツの連立与党のうち、中道左派政党の社会民主党(SPD)は、デジタル課税に前向きな方向のようだ。対して、アンゲラ・メルケル首相が属する中道右派のキリスト教民主同盟(CDU)では、まだ明確な意見形成ができていないように見える。9月の連邦議会選挙では環境政党の緑の党の立場が強くなる見通しで、同党はデジタル課税を支持している。緑の党が属する環境政党グループは、欧州委員会や欧州議会でも影響力が強まっている。
このような状況から、ドイツでも今後、デジタル課税を支持する動きが強まる可能性がある。

注:
OECDの協議では合意に至らず、フランスは12月から独自課税の徴収を再開した。
執筆者紹介
ジェトロ・デュッセルドルフ事務所 ディレクター(執筆当時)
森 悠介(もり ゆうすけ)
2011年、ジェトロ入構。対日投資部対日投資課(2011年4月~2012年8月)、対日投資部誘致プロモーション課(2012年9月~2015年11月)を経て現職。
執筆者紹介
ジェトロ・デュッセルドルフ事務所
ベアナデット・マイヤー
2017年よりジェトロ・デュッセルドルフ事務所で調査および農水事業を担当。

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