特集:欧州が直面するビジネス環境の変化と中国・同企業の動向 英国がファーウェイ排除、スウェーデンも追随

2021年3月25日

EUは、2050年までの気候中立を目指す「欧州グリーン・ディール」に加えて、デジタル化を新型コロナウイルス後のEUの復興を支えるカギとして重視している。第5世代移動通信システム(5G)は端末の通信速度向上や高画質だけでなく、製造現場や運輸、医療、建設、教育など、さまざまビジネスモデルの変化を起こす、デジタル化のカギともされるインフラを提供する。欧州各国は5Gインフラの導入を急ぐ一方、基幹インフラについて中国企業依存に対する懸念も生まれている。ここ最近の欧州各国の対応状況について、政府が公に打ち出した対応策を報告する。

英国政府、欧州内でいち早くファーウェイ排除打ち出す

英国政府は2020年11月30日、5G通信網から中国の通信機器大手、華為技術(ファーウェイ)を排除する計画の一環として、2021年9月末以降、国内の通信事業者に対して、通信網にファーウェイ製品を組み込むことを禁止すると発表した(2020年12月7日付ビジネス短信参照)。政府は2020年7月に、国内の通信事業者による同社製品の新規購入を2021年1月から禁止し、2027年までに5G通信網から完全排除する方針を打ち出していた。今回、同社製品の組み込みを2021年9月末で停止するというロードマップを示したものだ。

米国がファーウェイの機器調達を認めないよう英国政府に要請する中、ジョンソン政権は2020年1月、同社の参入を限定的に容認することを決めていた(2020年1月30日付ビジネス短信参照)。同社製品を排除した場合、5G通信網の整備に深刻な遅れが生じるとの判断によるもので、5G網などの国家重要インフラ通信網などに関して、中核機能に関わる機器調達からは除外する一方、非中核部分への参入については35%を上限に、高リスク(注)事業者全体からの調達を認める方針を打ち出した。しかし、米国が2020年5月にファーウェイに対する制裁を強化したことなどを背景に、7月に完全排除に方針転換した。

デジタル・文化・メディア・スポーツ相のオリバー・ダウデン氏はこれについて、「英国の5G通信網から高リスク事業者を完全に排除するための明確な道筋を定めた。前例のない新たな権限を通じて、国の安全保障を脅かす通信機器を特定し、使用を禁止する」と述べている。また、英政府は今回、5Gインフラの調達先を多様化するため、2億5,000万ポンド(約380億円、1ポンド=約152円)を投じる計画も発表した。新たに研究施設を立ち上げるほか、2021年中にNECの技術を使った実証実験を行う。

英国政府は2020年11月下旬、5G通信網のセキュリティーを強化するため、国内の通信事業者が高リスク事業者の製品を排除しなかった場合などの違反に対し、多額の罰金を科せるようにする法案を議会に提出。違反した場合は最大で売上高の10分の1か、1日10万ポンドの罰金を科すとしている。


英国のダウデン・デジタル・文化・メディア・スポーツ相((c)Richard Townshend)

スウェーデンもファーウェイ、ZTE除外を決定

英国の方針に追随する動きを見せたのがスウェーデンだ。スウェーデン通信当局の郵便電気通信庁(PTS)は2020年10月20日、5Gの通信網整備で、ファーウェイと、中興通訊(ZTE)の機器を排除する方向を示した。欧州では英国に次いでファーウェイ締め出しの方針を明らかにした国となる。この決定は軍とスウェーデン国家安全警察(Säpo)の勧告に基づくもの。11月10日に開始した5Gの周波数帯域割り当て入札に参加する企業は両社の機器を使用することが禁止された。さらに、これらの企業は既存の通信基幹インフラで使用している両社製品を2025年1月までに排除することを求められる。

これに対し、ファーウェイは声明で「当社の製品が安全保障上の脅威という主張を裏付ける根拠はない」として、スウェーデンの決定に反発している。

欧州で5Gからのファーウェイ排除が進めば、競合するエリクソン(スウェーデン)、ノキア(フィンランド)にとって追い風となる。ノキアは2020年9月29日、英通信大手BTグループと5G向けの無線アクセス機器の供給契約を結んだと発表した。これによって同社はBTにとって最大の通信機器供給事業者となる。これまではBTのロンドン、イングランド中央部ミッドランド地方など一部地域の通信網に機器を供給していたが、全土の数多くの都市に広がることになる。2020年9月29日付ロイター通信によると、BTが必要とする同機器の63%をノキアが供給するという。


エリクソンの5G New Radio(NR)無線装置(エリクソン提供)

ドイツ、フィンランドは、特定企業排除を明記せず、安全性確保に舵取り

一方、重要な通信インフラに関する規制を強めつつも、中国メーカーの排除を明示しない方針を打ち出した国もある。ドイツ政府は2020年12月16日の閣議で、ITセキュリティー法(正式名称:情報技術システムの安全性向上のための第2法)案を承認した(2020年12月25日付ビジネス短信参照)。通信網など社会・経済システムを維持する上で重要なインフラに用いる主要部品のセキュリティー上の安全性を国が審査するルールの導入が最大の柱。同法案が規制対象とする重要インフラには、5Gも含まれる。セキュリティー上の懸念が持たれるメーカーの排除することを目的としているが、ファーウェイなど中国メーカーの名前は明示していない。

新たな法案では、定められる認証義務のある重要部品を利用する重要インフラ事業者は、その使用に際しては、あらかじめ重要部品の製造者による信頼性保証書を添付して内務・建設・地域省に届け出て、その使用の認可を得ることに加え、重要部品の納入者は、そのサプライチェーン全体で信頼性を示す義務が課せられるなど二重のチェック機能を導入することなどを盛り込んでいる。関連設備調達に関して連邦情報技術セキュリティー庁(BSI)への報告を義務付ける対象を軍需企業と大手企業にまで拡大する規定も盛り込んだ。また、重要なインフラを運用する企業に対して、2年ごとに技術的・組織的要件を満たしていることを示す義務も課す。BSIの権限も大きく強化され、情報セキュリティーに関するリスクがあると判断される場合、通信事業者に法的拘束力のある命令を発出する権限が与えられたほか、セキュリティー維持のため、特定の通信インフラ事業に関して通信データログを最大12カ月間保持し、その情報を処理する権限も付与された。

フィンランドでも、改正電子通信サービス法が2021年1月1日から適用されている。こちらも、国家の安全を脅かす可能性がある通信ネットワーク機器の排除ができる規定が設けられているが、具体的な特定企業名は挙げていない。

中・東欧でも米国と同調の動き

中・東欧諸国では、米国と歩調を合わせようとする動きが見られる。2020年5月6日、チェコのアンドレイ・バビシュ首相と米国のマイク・ポンペオ国務長官(当時)は共同宣言に署名した(2020年5月15日付ビジネス短信参照)。「通信ネットワークを通信妨害や外部操作から守り、両国国民のプライバシーと個人の自由を保障することが、5Gがもたらす大きな経済チャンスを活用するために極めて重要だ」(声明文)とし、米国とチェコが5Gのセキュリティー分野で協力強化することで合意した。両国は、信頼性の高いハードウエアとソフトウエアのサプライヤーの5G市場参加の推奨、リスク評価の考慮、不正アクセスや干渉から効果的に5Gネットワークを保護するフレームワークの促進の重要性を強調するとともに、5G関連サプライヤーがイノベーションを生み出し、効率を改善する製品やサービスを提供する必要性も指摘。ネットワークの安全性、5Gコンポーネントとソフトウエア・プロバイダーの評価で慎重かつバランスの取れたアプローチの重要性に言及している。

具体的には、通信網のハードウエア/ソフトウエアのサプライヤーの評価で特に重要な要素として、(1)独立した司法審査機能がない外国政府の影響下に置かれていないか、(2)出資構成、ビジネスパートナー、コーポレートガバナンスに透明性があるか、(3)新たなイノベーション創出に尽力し、知的財産権を尊重する義務を果たしているか、(4)倫理的な企業行動標準に基づいて行動しており、企業行動の透明性を強いるような法的環境に置かれているか、を挙げている。

チェコのサイバーセキュリティー当局(NUKIB)は2018年12月、ファーウェイとZTEについて、中国では企業に対して当局の情報活動への協力が義務付けられている点に懸念を示し、両社の製品の使用を警告している。また、このほかの中・東欧諸国では、ポーランドが2019年9月に米国と5G分野での協力に合意している。

EU、調達先の多様化に大きな遅れ指摘

EUレベルでも、加盟国全体で5Gネットワークの安全性を確保するための取り組みが進んでいる。EUは2019年10月に5Gネットワークのリスク評価に関する報告書を発表。これにより、主要な脅威、脅威をもたらしうる主体、センシティブな技術などの資産、脆弱(ぜいじゃく)性やリスクを明らかにした上で、2020年1月にはEU加盟国で合意した対応策パッケージを欧州委員会が承認、これを基に各国は対策を進めてきた。対策パッケージは、5Gネットワークの安全性を脅かすリスク要因を取り除くため、加盟国に対して、通信インフラの安全性を脅かすことが疑われる企業がネットワークの中核部分に参入するのを制限または阻止できる仕組みを導入することなどを求めている。EUが2020年7月24日に発表した取り組みの進捗状況に関する報告書によると、多くの加盟国が通信事業者のネットワーク機器の調達やサービス提供に関して、国の規制権限を強め、安全性に対するリスクに基づき、こうした企業を排除する仕組みを導入する動きがあると評価。早期に法制化し、執行体制を構築することを求めている。一方、関連機器の調達先の多様化については、遅れが著しいと指摘、多くの加盟国で調達先の多様化に関する戦略が形成されていないとしている。


注:
ここでは、市場で独占的な立場を有している、透明性が確保されていない、技術的な脆弱(ぜいじゃく)性がある、外国政府の影響下にあるなどの理由から、通信網の維持・運営面で安全性を脅かす可能性が排除できないことを指す。
執筆者紹介
ジェトロ・デュッセルドルフ事務所 ディレクター(執筆当時)
森 悠介(もり ゆうすけ)
2011年、ジェトロ入構。対日投資部対日投資課(2011年4月~2012年8月)、対日投資部誘致プロモーション課(2012年9月~2015年11月)を経て現職。
執筆者紹介
ジェトロ・デュッセルドルフ事務所
ベアナデット・マイヤー
2017年よりジェトロ・デュッセルドルフ事務所で調査および農水事業を担当。