特集:欧州が直面するビジネス環境の変化と中国・同企業の動向 欧州自動車メーカーはEVに資源集中

2021年3月25日

中国市場は欧州の自動車産業にとって特に重要な市場となっている。欧州自動車工業会(ACEA)のデータによると、2019年に欧州で生産した乗用車の輸出先として中国が占める割合は金額ベースで17.4%。米国の30.2%に次いで第2位となった。ここ数年では輸出先の2割程度のシェアを維持する重要な市場となっている。これに加えて、多くの欧州自動車メーカーが中国を重要な生産拠点と促えて進出している。ドイツ自動車産業連合会(VDA)のデータによると、ドイツの自動車メーカーに限ってみても、2019年に507万6,907台が中国で生産された。これは、ドイツの自動車メーカーがドイツ国外で生産する自動車の45%に当たる。この割合は、アウディで52%、フォルクスワーゲン(VW)乗用車が48%など、特にVWグループで高い割合となっている。世界最大の自動車市場である中国での販路拡大に向けて、欧州企業は引き続きダイナミックな動きを見せている。ここ最近の欧州自動車メーカーの動きを紹介する。キーワードは電気自動車(EV)だ。

巨大な中国市場を目指す欧州自動車メーカー

中国自動車工業協会(CAAM)の2021年1月14日のデータによると、2020年の中国の新エネルギー車(乗用車)の新車登録台数は前年比14.6%増の124万6,000台となり、引き続き世界最大の市場となっている。2020年の中国の乗用車販売台数は前年比で6.0%減の2,017万8,000台と、ここ数年足踏みが続く中(2021年01月18日付ビジネス短信参照)でも、新エネルギー車〔バッテリー電気自動車(BEV)とプラグイン・ハイブリッド車(PHEV)〕の販売台数124万6,000台と前年比で14.6%増を達成。ドイツの自動車関連調査会社の自動車マネージメントセンター(CAM)の試算によると、2030年の中国におけるBEVとPHEVの新車販売台数は1,856万台、58%のシェア(注1)に達する。これは、ドイツの54%、EU平均の48%、米国の30%を上回る水準だ。技術開発が進み、バッテリー価格が大きく下落するなどの好意的な要因を含む楽観的シナリオでは2,400万台、シェア75%を試算している。CAMのステファン・ブラッツェル代表は「中国は新型コロナウイルス危機の中でも堅調な世界最大の自動車市場というだけでなく、EV市場にとっても最重要市場になっている。また、新規企業が大きな存在感を示している市場だ」としている。巨大な電動駆動車(BEV、PHEV)市場の獲得に向けて、ドイツを中心とした欧州の自動車メーカーも動き出している。

ドイツ大手は各社の戦略に基づき中国に投資

CAMの資料によるとVWは2019年時点で世界における電動駆動車販売台数で、テスラや比亜迪(BYD)、ルノー・日産・三菱アライアンスなどに続く第6位に位置している。ドイツの完成車メーカーの中では特にBEV重視を明確にしている。VWは2020年11月30日、中国の安亭鎮と仏山市の2工場で同社にとって中国では初めてとなるBEVの生産を開始したと発表した。2工場を合わせた生産能力は年最大60万台となる。世界最大の電動車市場である中国は、VWグループの電動車(Eモビリティー)戦略で中心的な役割を担うとし、プラットフォーム「MEB」(注2)をベースにした2つのモデルを最初に生産する。VWと第一汽車(FAW)の合弁会社である一汽大衆(FAW VW)が「ID.4 CROZZ」、VWと上海汽車(SAIC)の合弁会社の上汽大衆汽車(SVW)が「ID.4X」を生産する。さらに、ID.シリーズの3モデルの生産を2021年中に開始する予定。2023年までに中国で販売するID.シリーズを8モデルに増やす計画を明らかにしている。安亭鎮の工場はVWグループがBEVに特化して建設した最初のMEB工場となるという。

さらに、VWは2020年12月8日、中国安徽省合肥市で新しい研究開発センターの開所式を行った。同時に、VWと中国の自動車メーカー安徽江淮汽車(JAC)の合弁会社JACフォルクスワーゲンの社名をフォルクスワーゲン(安徽)オートモーティブ・カンパニー(以下、VW安徽)に改称。VWは将来的に、安徽をエレクトロモビリティー(電動化)のハブ拠点とするとともに、デジタル・ハブとして、コネクティビティー(接続性)やデジタル・サービスなどの事業を強化する意向だ。さらなる生産能力強化のため、VW安徽では、VWのプラットフォーム「MEB」をベースにしたEVを開発・生産する。同工場の生産能力は年35万台で、2022年末までに完成し、2023年からの稼働を計画している。また、VWは将来的に安徽に研究開発と品質保証、開発工程を同時進行するサイマルテニアス・エンジニアリング(SE)、量産前のプレシリーズ生産事業の統合を計画しているという。主要な機能の連携や、「MEB」プラットフォームの投入により、開発サイクルを短縮し、新しい製品の迅速な市場投入を目指す。

なお、VWは2020年5月末に、合弁会社JACフォルクスワーゲンの出資比率をこれまでの50%から75%に引き上げるとともに、安徽江淮汽車(JAC)にも50%を出資すると発表していた。VWはさらに、中国の安徽省合肥市に本社を置く電池メーカー国軒高科(Gotion High-Tech)の資本の26%を取得し、同社の筆頭株主となっている。


VWのID.4モデル(VW提供)

一方、BMWは、EV分野ではVWグループより強い存在感がある。CAMレポートによると、2019年の電動駆動車(BEVとPHEV)の世界での販売台数はVWをしのぐ第5位となっている。BEVより先にPHEVでの市場拡大を目指す戦略が色濃いのがVWとの違いだ。BMWは2020年9月14日、中国の華晨汽車(Brilliance)との合弁会社BMWブリリアンス・オートモーティブ(BBA)が瀋陽市に新しいバッテリー工場を開設したと発表した。2020年10月に同じく瀋陽市で生産を開始した電気バッテリー車「iX3」に搭載する第5世代高性能電池を生産している。「iX3」は内燃エンジン搭載モデル「X3」と同じ生産ラインで生産することで、柔軟かつ効率的な生産体制を整えているとしており、これにより、BMWの「X3」はガソリン車やディーゼル車(48Vマイルドハイブリッド車を含む)、PHEV、BEVのラインアップがそろう初めてのモデルになるという。

BBAは2017年に鉄西区に電池工場「ハイ・ボルテージ・バッテリー・センター」を開設し、BEVやPHEVの需要拡大への対応を進めてきた。この新たなバッテリー工場はBMWグループの中で最初に第5世代電池を生産する工場となる。BMWは現在、電動車5モデルを中国市場で販売している。


BMWのiX3モデル(BMW提供)

競争激化から事業ポートフォリオの修正迫られるケースも

競争が激化する中国市場での事業に関して、事業体制を再編成する動きも見られる。スウェーデン乗用車大手のボルボ・カーズは2019年10月7日、親会社である中国の浙江吉利控股集団(Geely)と合弁会社を設立し、それぞれの内燃エンジン事業を分離した上で新会社に統合すると発表(注3)。新合弁会社は次世代の内燃エンジンとハイブリッドシステムを開発し、ボルボ・カーズや浙江吉利控股集団傘下の自動車ブランドに供給するほか、外部の自動車メーカーへも販売する。具体的には、浙江吉利控股集団傘下の自動車ブランドである吉利汽車(Geely Auto)、マレーシアのプロトン(Proton)、英ロータス(Lotus)、英タクシー製造子会社ロンドン・エレクトリック・ビークル・カンパニー(LEVC)、リンク・アンド・コー(LYNK&CO)へ販売。合弁会社に移管する内燃エンジン事業には、研究開発や調達、製造、IT、財務が含まれており、ボルボ・カーズから約3,000人、浙江吉利控股集団から約5,000人の従業員が合弁会社に移るとした。

ボルボ・カーズでは、2020年代半ばには、同社の世界販売の半数が純粋なEVになり、残り半分はハイブリッド車になると予想している。ハイブリッド車に搭載するエンジンを合弁会社から調達し、同社は今後、純粋な電気駆動技術の開発に注力する計画だ。

フランス自動車大手ルノーは2020年4月14日、中国の東風汽車集団と湖北省武漢で展開してきた合弁事業から撤退すると発表した。折半出資する合弁会社の持ち分は東風汽車に売却し、合弁会社はこれによりルノー車の生産を打ち切る。

ルノーと東風汽車は2013年12月、武漢に合弁会社、東風雷諾汽車(DRAC)と工場を設立する合意書に署名した。ロイター通信(2020年4月14日付)によると、同合弁会社の工場はルノーにとって中国の主要生産拠点で、ガソリン車を中心に生産してきた。しかし、新型コロナウイルス感染拡大以前から販売が低迷しており、2019年の販売台数は同工場の年産能力(11万台)を大きく下回る1万8,607台にとどまり、15億元(約255億円、1元=約17円)の営業赤字を出していた。

ルノーは今後、中国でEVと商用車の生産に集中。東風汽車と日産自動車と設立した合弁会社eGTニュー・エナジー・オートモーティブと、江鈴汽車集団(JMCG)との合弁会社を通じたEV生産と、華晨汽車との合弁会社での軽商用車生産に絞って事業を継続する。


注1:
商用車を含む。
注2:
Modularer E-Antriebs-Baukastenの略。VWが開発した次世代EV向けモジュラープラットフォーム(共通設計・部品共通化のための基盤)。
注3:
さらにその後、ボルボ・カーズは2020年2月10日、親会社である中国の浙江吉利控股集団(Geely Holding)の子会社、吉利汽車(ジーリー・オートモービル)との統合を検討すると発表していたが、交渉は遅延し、2021年2月24日にこれを正式に撤回。統合ではなく、既存の組織を維持しながら、スウェーデンと中国における両社の強みを最大化し、EVアーキテクチャー、調達、自動運転技術、アフターセールスを共有することで、パワートレインの相乗効果を加速するとした。
執筆者紹介
ジェトロ・デュッセルドルフ事務所 ディレクター(執筆当時)
森 悠介(もり ゆうすけ)
2011年、ジェトロ入構。対日投資部対日投資課(2011年4月~2012年8月)、対日投資部誘致プロモーション課(2012年9月~2015年11月)を経て現職。
執筆者紹介
ジェトロ・デュッセルドルフ事務所
ベアナデット・マイヤー
2017年よりジェトロ・デュッセルドルフ事務所で調査および農水事業を担当。

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