欧州委、デジタル経済への課税を提案

(EU)

ブリュッセル発

2018年04月05日

欧州委員会は3月21日、デジタル分野における課税に関する指令案を発表した。域内に実体的な拠点がなく、インターネットを通じてサービスを提供する場合も企業の収益に対する課税を可能にする法案と、一部企業のデジタル分野での収益に対する暫定的な課税措置から成る。デジタル分野への課税については、G20やOECDでも議論が行われている。欧州委は、グローバルな合意に基づく課税ルールが好ましいとしつつも、現状で多額の利益が課税されていない状況を看過できなくなったかたちだ。

現行税制では捕捉困難なデジタル分野

欧州委は、近年のソーシャルメディアや、共有型経済のプラットフォーム、コンテンツ配信などデジタル経済の拡大は、EUの経済成長に大きく貢献したものの、関連企業の実効税率は、従来分野の企業の約半分程度だと指摘。これらの企業の多くが多国籍企業であることや、EU域内に実体的な拠点を必要としないことによって、現行の税制で捕捉できないことが原因だとして、公平な税負担を実現する必要があると強調した。

さらに、一部の加盟国が現段階で捕捉されていないデジタル分野での課税を検討し始めたことに対し、域内における制度の乱立を避け、デジタル経済の成長を妨げない公正かつ持続可能な課税に向けて、域内で統一的なアプローチを取る必要があるとの認識を示した。欧州委は、以下の2点の提案を行った。

デジタル課税に向けた長期的な解決案

1つ目は、実体的な拠点が存在しない場合も、次の条件のいずれかを満たす場合は、企業が域内に「有意なデジタルの存在」を有していると見なし、加盟国が国内で発生した利益を課税できるようにする。

  • ある加盟国でデジタルサービスから得られる年間の収益が700万ユーロを超えた場合
  • ある加盟国でデジタルサービスの利用者が年間10万人を超えた場合
  • 企業が他の事業者と年間3,000件を超えるデジタルサービスの契約を締結した場合

このルールが適用された場合、収益が生じた場所に応じて課税されるため、納税先の加盟国が変化する可能性があるという。なお欧州委は、長期的には次項の暫定的な解決策よりも、この提案が好ましいとみている。

暫定的な解決案として売上高に3%の課税

2つ目の提案は、現在捕捉されていないデジタル分野の収益に加盟国がすぐに課税できるように、暫定的な税(interim tax)を導入するものだ。課税額は利益ではなく、売上高をベースに算出される。この提案は、包括的な税制改革が実施されるまでの暫定的な措置と位置付けられている。

欧州委は、スタートアップ企業などの成長に配慮し、全世界での売上高が7億5,000万ユーロ以上かつEU域内の売上高が5,000万ユーロ以上の企業のみをこの課税の対象とする提案を行った。徴税はユーザーが所在する加盟国が行う。加えて、現段階の税率は3%を想定しており、年間50億ユーロの税収増が見込まれるとしている。課税対象として、次の例が示された。

  • ウェブ上の宣伝スペースの販売から得られる収益
  • ユーザー間の相互作用を可能とし、商品の販売やサービス提供を促進する、ウェブ上の仲介業務から得られる収益
  • ユーザーが提供した情報から生成されたデータの販売による収益

産業界はグローバルな取り組みを求める

欧州委が提案を発表した3月21日、フランスとドイツ、イタリア、スペイン、英国の加盟5カ国は共同声明を発表した。「G20やOECDで合意が存在しない中では、EUレベルでの取り組みが必要だ」と強調し、欧州委の提案を歓迎。さらに、これを契機にG20やOECDでの議論が活発化することに期待を示した。

一方、OECDは、2018年3月16日に発表したデジタル化に伴う税制の課題に関する中間報告書において、欧州委が提案したような暫定的な税について「利点または必要性については合意が形成されておらず、導入を勧告しない」としていた。通信やインターネットサービス分野の企業が加盟する、コンピューター通信産業協会(CCIA)は3月21日に声明を発表し、欧州委の暫定的な税を「差別的」と批判した。EUに対して、「欧州のデジタル経済と国際貿易へのリスクとなる一方的な措置でなく、OECDを通じた国際的な税制改革を模索するよう推奨する」とした。

(村岡有)

(EU)

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