特集:欧州が直面するビジネス環境の変化と中国・同企業の動向 中国企業、競争力のあるバッテリー、通信分野で欧州に攻勢

2021年3月25日

ドイツをはじめとした欧州の自動車メーカーが中国ビジネス拡大に取り組む中、逆の動きもある。特に、中国のバッテリーメーカーの欧州進出の動きが顕著だ。シリーズ4回目の今回は、最近目立つバッテリー分野の中国企業による欧州への進出事例と、中国が強みを持つ通信分野を中心に、中国企業の欧州進出事例を紹介する。

域内でのEV製造サプライチェーン構築を急ぐ欧州

欧州自動車工業会(ACEA)によると、2020年の欧州(注1)の電動駆動乗用車(注2)の新車登録台数は136万4,813台、前年比で2.4倍と大きく拡大した。乗用車全体では、前年比で24.3%減となるなど低迷する中でも、堅調な伸びを維持している。EUは電気自動車(EV)の最も重要な部品であるバッテリーの域内調達促進を目指しており、こうした状況は中国企業にとって、魅力的となっている。中でも、ここ最近はドイツへの進出が相次ぐ。

ドイツのザールラント州政府と中国のリチウムイオン電池メーカーの蜂巣能源科技(SVOLT)は2020年11月17日の共同記者会見で、同州にバッテリーセル工場とバッテリーモジュール・パック工場を建設する計画を発表した。セル工場の生産能力は段階的に拡大していく計画で、工期は2021年初めから2023年末まで。生産能力は6ギガワット時(GWh)から始まり、段階的に6GWhずつ拡大し、最終的に24GWhとなる予定。これは、年間で30万~50万台分のEV向け電池を生産する能力に相当する。これら2工場の建設に総額で最大20億ユーロを投資し、従業員数は最終的に2,000人となると見込む。


SVOLTのバッテリーパック(SVOLT提供)

相次ぐ中国バッテリーメーカーのドイツ進出

ドイツに生産拠点を構える中国のバッテリーメーカーはSVOLTが初めてではない。北東部に位置するザクセン・アンハルト州の経済・学術・デジタル化省傘下の投資誘致機関のザクセン・アンハルト投資・マーケティング公社は2019年5月8日、中国のリチウムイオン電池メーカー孚能科技(ファラシス・エナジー)が同州にバッテリーなどの生産工場を建設すると発表した。ファラシスは、2019年にシュツットガルトに設立した子会社ファラシス・エナジー・ヨーロッパを通して、新工場に6億ユーロ超を投資する。新工場では、バッテリーセル、モジュール、バッテリーパックを生産する計画で、従業員数は最終的に600人以上になる予定。新工場は2022年末に生産を開始し、生産能力は、当初の年6GWhから10GWhへと拡大していく計画だという。

ファラシス・エナジー・ヨーロッパのセバスティアン・ボルフ社長は、ザクセン・アンハルト州経済・学術・デジタル化省の発行誌「HIER+JETZT-Impulsmagazin」(2020年12月18日発行)の中で、この新拠点を生産のみではなく、開発から生産、リサイクルまで電池のライフサイクル全体に対応する「バッテリー・コンピテンスセンター」とする計画を明らかにしている。中期的には、同拠点を増強し、従業員数を最大2,000人に拡大する可能性があるとした。また、同工場の主要顧客にはドイツ自動車大手のダイムラーが含まれていると述べ、トルコ初の国産EV開発に取り組むトルコの自動車メーカー、トルコ・オートモービル・イニシアチブ・グループ(TOGG)にバッテリーセルを供給することも明らかにした。

また、中国の電池メーカーの寧徳時代新能源科技(CATL)は2019年10月18日、ドイツ中部チューリンゲン州エアフルトに建設するリチウムイオン電池工場のくわ入れ式を行った。同工場はCATLにとって初めての国外工場となる。生産能力は2022年までに14GWhとする計画。同工場には、バッテリーセルとバッテリーモジュール両方の生産ラインを導入する。従業員数は2024~25年までに約2,000人を予定しているという。

CATLのマティアス・ツェントグラフ欧州事業共同責任者によると、GATLは5年以内に同工場に18億ユーロを投資する計画だという。将来、生産能力を14GWhから24GWhにまで引き上げ、さらなる生産能力の増強も視野に入れている。

ドイツの研究機関とも連携を強める同社は2020年10月9日、ドイツ子会社のCATT(Contemporary Amperex Technology Thuringia)がバッテリーに関するプロジェクト「BattLife」に参加すると発表している。同プロジェクトは、バッテリーのライフサイクルや信頼性分析に関する新しいアプローチを開発する産学連携プロジェクトだ。フラウンホーファー・セラミック技術・システム研究所(IKTS)の支部として新設されたBattery Innovation and Technology Center(BITC)が主導しており、CATTは同プロジェクトの最初の産業パートナーとなった。プロジェクトでは、CATTはBITCによるビッグデータモデルを使用し、バッテリーデータを収集してバッテリーのライフサイクルを分析し、BITCと共同で革新的な最新のバッテリー技術の可能性を調査する。研究成果はCATTのバッテリーの生産に直接、適用される予定という。

バッテリー用部材メーカーは中・東欧に進出

ドイツ以外の国への進出事例も見られる。ハンガリー投資促進庁(HIPA)は2020年11月10日、中国のバッテリー部品メーカー、上海恩捷新材料科技(上海エナジー)がハンガリー東部のデブレツェンにリチウムイオン電池用のセパレーターフィルム工場を建設すると発表した。同社が国外に工場を設けるのは初めてで、2021年に着工する予定だという。2023年初めに稼働を開始し、440人を雇用する予定。ハンガリー国営通信(2020年11月10日付)によると、投資額655億フォリント(約229億円、1フォリント=0.35円)のうち130億フォリントを政府が助成する。リチウムイオン電池に使われるセパレーターフィルムを開発・生産する上海エナジーは現在、中国に5工場を持ち、LG化学やパナソニック、サムスンSDI、比亜迪(BYD)、SKイノベーションなどを顧客として持つ。同社の製品は主に、EVやハイブリッド車のバッテリー、家電製品に使用されている。ハンガリー工場の建設により、同社の年間生産能力は約12%拡大する。

また、HIPAは2020年12月21日、リチウムイオン電池向け精密部品を開発・生産する中国の深セン市科達利実業が約4,000万ユーロを投資して、ブダペスト郊外のケデルレーに工場を建設することを発表した。同工場では、サムスンSDIに供給するアルミ構造部品を生産する。新工場は、2021年第2四半期(4~6月)に試験稼働し、2024年までにフル稼働へ移行する予定。まずは生産ライン6本を整備し、24年までにさらに4本を設置する計画。330人の雇用創出を見込む。

バッテリーやその部材メーカーだけでなく、完成車メーカーの進出の動きもあった。中国自動車大手の吉利汽車(Geely Auto Group)は2019年5月16日、ドイツのヘッセン州フランクフルト近郊に新しい研究開発センター「Geely Auto Technical Deutschland (GATD)」を開設したと発表した。ドイツ自動車産業の持つ高い技能と技術の活用を期待しており、特に、高級EV開発に重点を置くという。吉利汽車はスウェーデンのヨーテボリに研究開発センターを有するほか、2019年2月にはイングランド中西部のコベントリーにデザイン・イノベーション拠点の開設を発表。欧州での存在感を強めている。

通信分野の進出ではインフラ面、消費財の両面で進出進む

コンピュータ・電子機器・光学機器分野は中国企業が積極的に海外展開を進めている分野だ。欧州への進出でも、通信分野の事例が目立ち、インフラ面と消費財の双方で中国企業のドイツ進出が見られた。中国のケーブルメーカー、亨通光電(ヘントン・グループ)とドイツの電線大手レオニの合弁会社j-fiber Hengtongは2019年11月8日、ドイツのチューリンゲン州イエナでシングルモード光ファイバーの生産開始を祝う式典を開催した。この合弁会社は、欧州市場向けに「メード・イン・ジャーマニー」の製品を供給する。ドイツや他の欧州諸国では、ブロードバンドの増設に伴いシングルモード光ファイバーの需要が高まっている。また、全土を網羅する光ファイバー網の整備は、第5世代移動通信システム(5G)の導入の前提条件となる。例えば、チューリンゲン州は2025年までに同州全域に光ファイバー網の整備を目標として掲げている。

レオニと亨通光電はこれに先立つ2019年1月31日にj-fiber Hengtong設立に合意したと発表、同年春に合弁会社設立を完了していた。

携帯電話端末では、中国のスマートフォンメーカー、オッポ(OPPO)が2020年10月13日、ドイツの電気通信サービス大手のドイツテレコムと戦略提携すると発表した。提携を通して、オッポの5Gスマートフォン「Reno4」シリーズをドイツ、オランダ、ポーランドで同月に発売し、将来は他の市場にも販売を広げて行く。オッポは今回の提携について、欧州市場でのプレゼンスを強化する成長計画の一環に位置付けている。

これより前の同年9月に、オッポはドイツの家電販売チェーン大手ザトゥーン・マルクトの国内最大拠点であるハンブルク特別市の店舗内に、同社にとってドイツ初の販売スペース(ショップ)を開設したと発表していた。面積は120平方メートルで、オッポの欧州域内のショップでは最も広い。

また、2020年5月には、ドイツのノルトライン・ウェストファーレン州デュッセルドルフに欧州事業の中核拠点を開設した。ドイツの従業員数は2020年9月時点で100人を超えており、うち約30人がドイツ市場を担当しているという。オッポはデュッセルドルフの欧州事業中核拠点の開設に際し、今後5年以内にドイツの従業員数を400~500人に増やし、同国でのスマートフォンの販売を400万台に拡大、市場シェアで15%を確保するとの目標を明らかにしている。オッポは現在、世界40カ国・地域に事業進出し、ロンドンにはデザインセンターを持つ。世界全体では従業員4万人以上を抱えている。

デュッセルドルフに中国通信企業3社が拠点開設

デュッセルドルフ市の2019年10月9日付の発表によると、オッポに加え、中国のスマートフォンメーカー、小米科技(Xiaomi)とビーボ・コミュニケーション・テクノロジー(VIVO)も同市内に拠点を設けている。VIVOは、携帯端末の製造やソフトウエアサービス、オンラインサービス提供などを行っており、5Gや人工知能(AI)の研究にも取り組む。小米科技は同社にとってドイツでは初めてとなるオフィスをデュッセルドルフに開設し、スマートフォンやスマートホーム機器の販売や顧客サービスを行っている。その後、電子商取引(Eコマース)のプラットフォーム「mi.com」をドイツ市場に投入し、独自のドイツ販売拠点も開設した。


注1:
マルタとブルガリアを除くEU25カ国と、スイス、ノルウェー、アイスランド、リヒテンシュタイン、英国
注2:
電動バッテリー車(BEV)、プラグインハイブリッド車(PHEV)、燃料電池車(FCEV)、航続距離延長型電気自動車(EREV)の合計
執筆者紹介
ジェトロ・デュッセルドルフ事務所 ディレクター(執筆当時)
森 悠介(もり ゆうすけ)
2011年、ジェトロ入構。対日投資部対日投資課(2011年4月~2012年8月)、対日投資部誘致プロモーション課(2012年9月~2015年11月)を経て現職。
執筆者紹介
ジェトロ・デュッセルドルフ事務所
ベアナデット・マイヤー
2017年よりジェトロ・デュッセルドルフ事務所で調査および農水事業を担当。

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