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特集:欧州が直面するビジネス環境の変化と中国・同企業の動向5Gネットワーク、ドイツ政府と産業界の見方は?-在欧専門家に聞く

2021年5月20日

華為技術(ファーウェイ)など中国のIT企業への対応については、欧州諸国の中でも対応が分かれている。英国などでは5Gネットワークから排除する動きや同製品の据え付けの禁止が加速する。一方、ドイツは直接的な特定の事業者を名指ししての排除は行わない方針が示されている。

このテーマについて、ドイツの産業界はどのように捉えているか。ドイツ産業連盟(BDI)の国際市場部門長を務めるフリードリン・シュトラク氏に聞いた(2021年3月23日)。

質問:
英国などでは、ファーウェイなどの製品を第5世代移動通信システム(5G)ネットワークから排除する動きや同製品の据え付けの禁止が加速する。一方ドイツは、直接的な特定の事業者を名指ししての排除は行わない。このように、EU域内でも、対応に差がみられる。今後、EU全体または各加盟国で、どのような形で議論が進んでいくと思われるか。
答え:
欧州委員会は早い段階で、5Gネットワークの安全な構築のガイドラインとして「5Gツールボックス」を加盟国に提供した。すべてのメーカーは、自社の部品で構築されたネットワークについて、安全性、利用可能性、ある特定の政府の影響下にないことなどにおいてEU全体で統一された高水準の要件を満たさなければならない。このことは、国内の議論において重要なマイルストーンとなった。BDIは、データ、サービス、4Gおよび5Gネットワークの安全性を強化するため、EU共通の対策を要求していた。
ただ、国家安全保障については各加盟国に権限があることから、欧州全体で統一されたルールの作成が実現しているわけではない。この状況が近い将来に変わることはないだろう。多くの欧州諸国にとっては、5Gサプライヤーの信頼性を審査する際に、技術面と政治的な要素の双方を満足する実行可能な法的解決策を見つけることが極めて難しいためだ。
ドイツでは、個々のサプライヤーを政治的な決定によって除外するのではなく、すべてのサプライヤーに対して共通の高い安全性基準を求める法的に透明な手順を設定することを、当初から極めて重視していた。BDIも、このような措置を支持していた。2年以上にわたる交渉の末、内閣は2020年12月に改定ITセキュリティ法案を承認した(注1)。
この法案では、5G分野における個々のサプライヤーの信頼性について審査する際、技術的、政治的な要素について、複数の段階による審査を求めている。ドイツにおいて中国の5Gサプライヤーの参入に関する最終決定は、個別に行われ、一定の時間がかかる。ドイツでの同法案に関する議論は複雑だ。長い時間がかかっていることは、経済的利益と、戦略的・安全上のリスクを比較検討することが容易ではないことを示している。
質問:
米国と各国との関係にも影響が出ると思料するが、どうか。英国やフランスは、米国とある程度足並みをそろえることで、安全保障上の関係を強める狙いもあると思われる。ドイツは経済的な影響も踏まえ、中国を重視せざるを得ない部分もあると思われる。
答え:
ドイツ経済は中国には依存しているわけではない。BDIは、(中国に対して、従属的ではなく対等な立場で)欧州の利益と価値観を長期的に求めていく必要があると考えている。バイデン政権は、国際政策において、同盟国と再び緊密に調整していきたいとの意向を明らかにした。BDIとしては、EUはこの申し出をぜひとも受け入れるべきであるという考えだ。例えば、国際的な気候変動対策での連携、あるいはWTOの枠組みでの多国間貿易体制の活性化を進めるにあたって、大きなチャンスになる。
質問:
ファーウェイや中興通訊(ZTE)は、アフリカなどの新興国を中心に、デジタル化の基盤となる通信設備の建設を進めている。こうした中国企業の動きへの欧州各国の危機感をどのようにみるか。
答え:
開発途上国の多くは、道路、港、鉄道網、発電所などのより良いインフラの整備を必要としている。中国が開発途上国の発展に資する前向きな刺激を与えている点は評価すべきだ。
その一方で、我々としては3つの問題があると認識している。1つ目は、第三国市場でも公正な競争環境がゆがめられている点だ。中国企業は多くの場合において、中国政府による不当な補助金や比較的に閉じられた巨大な中国内市場での利益を源泉とし、こうした第三国市場で展開している。2つ目は、持続可能性の問題。いくつかのプロジェクトにおいては、資金調達と環境保護に問題があるとみている。3つ目は、中国企業は中国以外でも、国際的な技術基準ではなく、自国の技術基準を採用しているケースが多い点だ。結果的に、中国は、開発途上国において、独自の基準を基盤とした将来市場を形成している。
これらのリスクに対抗するため、EUは、「欧州・アジア連結戦略(EU-Asia Connectivity Strategy)」(注2)を実現する必要がある。このEUの取り組みはこれまでのところ、中国の「一帯一路」構想や日本の「質の高いインフラパートナーシップ」と比べ、見劣りしている。欧州委員会には当該戦略の個別予算がなく、中央調整窓口も設置されていない。
また、我々は、欧州と日本が緊密に協力することによる可能性も大きいとみている。この意味で、2019年9月に締結した「持続可能な連結性および質の高いインフラに関する日・EUパートナーシップ」(注3)を歓迎する。EUと日本は、持続可能性またはデジタル化の分野で、具体的な今後の模範となる共同プロジェクトを、できるだけ早く立ち上げるべきだ。

注1:
連邦議会(下院)で2021年4月23日、連邦参議院(上院)で同年5月7日、同法案可決。なお、連邦議会で同法案は数多くの修正が加えられた。
注2:
2018年9月にEUが発表したEUとアジアのよりよい連結関係を構築するための包括的な戦略案。欧州とアジアの市民と社会基盤の繁栄、安全、耐久性を強化するため、持続可能で、包括的、かつルールに基づく連結性強化を目指す。分野としては運輸、エネルギー、デジタル、人的交流の4つを掲げ、(1)これらの連結を強化していくこと、(2)互いに合意したルールや標準にのっとった関係強化、(3)投資のための持続可能な資金提供の仕組み構築などを行動計画として挙げている。
注3:
日本とEUは、デジタル、運輸、エネルギーおよび人的交流を含む連結性促進に、二国間および多国間で共に取り組む意図を確認。特に西バルカン、東欧、中央アジア、インド太平洋およびアフリカ地域などを念頭に、ニーズと需要を考慮し、かつその財政能力および債務持続可能性に留意しつつ、質の高いインフラ提供などで協調していくことで合意した。
執筆者紹介
ジェトロ・デュッセルドルフ事務所 ディレクター(執筆当時)
森 悠介(もり ゆうすけ)
2011年、ジェトロ入構。対日投資部対日投資課(2011年4月~2012年8月)、対日投資部誘致プロモーション課(2012年9月~2015年11月)を経て現職。
執筆者紹介
ジェトロ・デュッセルドルフ事務所
ベアナデット・マイヤー
2017年よりジェトロ・デュッセルドルフ事務所で調査および農水事業を担当。

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