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特集:欧州が直面するビジネス環境の変化と中国・同企業の動向欧州企業、米中・欧中のデカップリングに警戒感-在欧専門家に聞く

2021年5月25日

EU・中国の関係悪化は投資協定批准に影響も-在欧専門家に聞く」を踏まえ、中国で事業を行う欧州企業が直面する課題や今秋予定されるドイツ連邦議会選挙に伴う対中政策への影響を探る。引き続き、ドイツのキール世界経済研究所(ifw Kiel)国際貿易・投資センター副所長フランク・ビッケンバッハ氏と、同研究所主任研究員のワンシン・リュー博士に聞いた(2021年3月8日)。

質問:
新型コロナウイルス禍の中、中国はほぼ唯一の成長市場だ。たとえばドイツの自動車メーカーも中国依存が増している。今後も中国依存の傾向は強まるとみるか。また、企業の対中ビジネスの態度について変化はみられるか。
答え:
(リュー博士)
コロナ禍において、中国は他国と比べはるかにうまく経済成長を維持している。また、中国が世界2位の経済大国で、将来の成長潜在力も大きい。こうした点から、欧州だけでなく世界の企業にとって、中国は引き続き関心の高い市場であり続けるだろう。欧州が中国製品に過度に依存しすぎているということは活発に議論され、このような現状を見直すべきであるとの論調が強い。しかし、EUの貿易はEU単一市場内のものが大部分を占めている。全体を俯瞰(ふかん)すると、中国市場は欧州企業の利益のごく一部を構成しているに過ぎない。すなわち、過度に依存しているとは言えない状況だ。
中国がEUにとって重要な相手国であることは、事実と言える。EU域外では、米国に次ぐ2番目の貿易相手国だ。EUと中国の2019年の貿易総額は5,600億ユーロで、2000年に比べると約8倍に拡大した。EUにとって中国の重要性は増しているといえる。しかし、2019年時点でのEUの輸出は、約67%がEU単一市場向けで占めていた。中国向けの輸出は全体の2.4%にとどまり、米国向け(5.7%)よりも小さい。中国がEUにとって重要な貿易相手国である一方、EUが中国市場に依存しているとは言えないことが分かる。
また、EUが中国から主に輸入し、中国が世界的に重要な供給国である製品を見てみると、製品カテゴリーのトップ10のうちの6つが消費財か電化製品(コンピュータ、携帯端末)関連だ。中国からの供給が滞ったとしても極めて大きな問題に発展するとは言い難い。マスクを例にとると、一時的にマスクが不足する状況には陥ったものの、サプライチェーンを見直して将来的に調達国が多様化すれば解決する問題だ。そのような対応が迅速にできるようであれば、調達に関して中国市場への依存度の高まりが大きなリスクとなることはないだろう。 ただ、自動車用電池のように、産業分野によっては、中国製品が極めて重要な意味を持つ場合もある。中国への依存について一般化できないのも事実だ。中国への過度な依存していないかについては、企業や産業分野ごとに個別リスクを見極める必要がある。
質問:
中国市場は魅力的な一方対中ビジネスを進めるうえで、さまざまなリスクを懸念する声も聞かれる。例えば、技術移転の要求など制度的な面の問題、知的財産の保護などがある。欧州企業は、そのような「チャイナリスク」をどのようにみているか。
答え:
(ビッケンバッハ氏)
中国で事業展開する欧州企業にとって現時点で最も大きなチャイナリスクは、中国と米国の間、あるいは中国と欧州間の「デカップリング(分断)」だろう。欧中間のデカップリングは、特に最近懸念が高まってきたものだ。中国と米国の間で異なる標準が採用されたり、一定の輸出・輸入が制限されたりするといった状況に欧州企業は対応しなければならない。
中国で生産活動を行う欧州企業では近年、(中国で生産した製品を輸出するのではなく)中国市場向けの製品を中国国内で生産する動きが加速した。また、そうした流れの一環として、サプライチェーンや研究開発拠点の一部を中国に移管する企業も見られた。多くの欧州企業は「デカップリング」の動きの強まりを懸念している、との調査結果もある。多くの企業にとって、自社のデジタル戦略やサプライチェーン戦略、研究開発戦略のさらなる調整が必要になる局面を迎えているといえるだろう。中国向けと欧米向けに個別のサプライチェーンを設けたり、個別の研究開発を行わなければならなかったりする状況になると、特に小規模・中堅規模の企業にとってコスト負担が大きい。
香港や新疆ウイグル自治区などの状況は、ほとんどの欧州企業にとって主に政治的な問題だ。しかし、例えば、投資協定の批准に影響を与える可能性もあるため、企業に間接的に影響を与える問題にもなるだろう。また、新疆ウイグル自治区に生産拠点を持っている欧州企業やサプライチェーンを通じて同自治区と緊密な関係にある欧州企業は、解決が困難な紛争に巻き込まれる可能性を認識すべきだ。欧州政府・国民と中国政府・国民の相反する期待や要求のはざまに立たされる可能性があるからだ。
(リュー博士)
「チャイナリスク」については、さまざまな不確定要素を考慮して判断していく必要がある。例えば、中国の第14次五カ年計画(2021~2025年)によって・どの企業、業種が影響を受けるかといった政治的な要素だけでなく、今後の各産業がどのように発展していくかについても配慮する必要があるだろう。
質問:
欧州各国は第5世代移動通信システム(5G)など高速通信網の整備を急ぐ一方、華為技術(ファーウェイ)への対応について欧州各国で対応方針が分かれている。今後、どのように議論が進むとみるか。
答え:
(ビッケンバッハ氏)
ドイツでは秋の連邦議会選挙の後、政権が交代し、その政権交代が(政策に)影響する可能性がある。方向転換は起こり得る。選挙に立候補しないアンゲラ・メルケル首相〔キリスト教民主同盟 (CDU)〕は、中国製品を明確には排除しない方針だった。しかし、CDU、政府内ともに、意見が分かれている。現在、野党で、環境政党である緑の党も、5Gネットワーク構築への中国の参加に対して懸念を示している。他国でも、姿勢に変化があった。例えば英国は当初、中国製品を排除しない方針を示していたが、後にその方針が転換された。現行の規制に満足していない向きは、EU内で多く聞かれる。 EUによって統一かつ厳格化されたアプローチが導入されれば、多くの人が歓迎するだろうが、現状その合意に至らず、表向きは中立的な立場にとどまっている。
EUによって統一かつ厳格化されたアプローチが導入されれば、多くの人が歓迎するだろうが、現状その合意に至らず、表向きは中立的な立場にとどまっている。
(リュー博士)
中国の政策展開もまた、EUやドイツによる5G関連規制の厳格化に影響を与える。中国企業への中国政府の影響力がこれまで以上に強まるようなら、EUやドイツはむしろ規制強化に動く可能性もあるだろう。中国政府は、イノベーションを積極的に推進する方針を示し、国内企業が技術面で主導的な立場を確保することも目指している。中国政府の企業への影響力は大きい。今後、EUやドイツの政策決定で、中国の産業政策がますます考慮される可能性がある。
質問:
ドイツの連邦議会選挙(首相交代)の対中政策への影響をどう見るか。
答え:
(ビッケンバッハ氏)
キリスト教民主・社会同盟(CDU/CSU)と社会民主党(SPD)の連立政権が再び成立するようなら、それほど大きな方向転換はないだろう。一方、CDU/CSUが緑の党と連立政権を組む可能性もある。緑の党は多くの場合、人権問題をより重視するため、政府内での中国に対する批判の声が強まるだろう。 しかし、ドイツ政府の中国に対する政策が大きく変化することはないとみる。たとえこれまで以上に強い批判が出たとしても、対外経済政策は基本的にEUレベルで決定されるため、根本的な方向転換はないと考える。
(リュー博士)
中国が引き続き重要な市場で、中国が世界第2の経済大国という事実は変わらない。そのため、中国の経済成長から利益を得ようとする姿勢や、経済的な関係を構築していこうという方針は変わらないだろう。
中国とどの程度協力していくかについては、(1) これまでのメルケル政権同様に中国に好意的な姿勢を継続する方向性、 (2) 中国に厳しく対峙(たいじ)する方向性、の双方が考えられる。ただ、中国に厳しく対峙する場合であっても、極端な政策変更にはならず、中国の様子をうかがいつつこれまでより批判を強めるといった範囲にとどまるだろう。EUやドイツが批判を強めることはあっても、経済的利益が今後も考慮されるだろう。
執筆者紹介
ジェトロ・デュッセルドルフ事務所
ベアナデット・マイヤー
2017年よりジェトロ・デュッセルドルフ事務所で調査および農水事業を担当。
執筆者紹介
ジェトロ・デュッセルドルフ事務所 ディレクター(執筆当時)
森 悠介(もり ゆうすけ)
2011年、ジェトロ入構。対日投資部対日投資課(2011年4月~2012年8月)、対日投資部誘致プロモーション課(2012年9月~2015年11月)を経て現職。

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