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特集:欧州が直面するビジネス環境の変化と中国・同企業の動向ドイツ産業界、中国のさらなる市場開放の拡大に期待-在欧専門家に聞く

2021年5月20日

今後批准に向けた手続きが進められるEU・中国包括的投資協定(CAI)や地域的な包括的経済連携(RCEP)協定について、欧州の産業界はどのように評価しているのだろうか。連載9回目の今回は、ドイツ産業連盟(BDI)の国際市場部門長を務めるフリードリン・シュトラク氏にドイツ産業界から見た意見を聞いた(2021年3月23日)。


フリードリン・シュトラク氏〔BDI提供、(c)Christian Kruppa)〕
質問:
EUは2020年12月30日、中国との間で包括的投資協定(CAI)について原則合意したことを発表した。EU側の狙いと意義について、どのように考えるか。
答え:
交渉を進める中でEUにとっては、(1)市場アクセス、(2)公正な競争条件(level playing field)、(3)欧州企業の広範囲におよぶ投資保護の達成・確保の3つが重要な要素だった。そのうち、12月に原則合意した投資協定は、特に、市場アクセスと公正な競争条件の2つに重点が置かれている。ドイツの産業界にとって、この2つは中国との経済関係で最大の課題といえる。
ドイツの産業界は、中国のさらなる市場開放の拡大に大きく期待している。(EU企業が中国で事業展開するにあたってさまざまな制限がある一方で)中国企業は欧州の開かれた市場の恩恵を受けるかたちで不均衡が拡大している。市場アクセスについて、この不均衡の改善を求める声が強まっている。
公正な競争条件について言うと、欧州市場から中国の競合企業を締め出すことが本意ではない。必要なのは、公正な競争を可能にする有効な手段を用意し、導入すること。貿易ではEUの反ダンピング措置の導入が既に効果を上げている。しかし、他の分野ではEUの経済防衛措置は不十分だ。欧州にとって特に重要なのは、(1)不当な補助金に対して有効な防衛措置を取り、(2)EUが国際公共調達規則(International Procurement Instrument、注1)を採択し、(3)公正な競争条件の確保に向け、米国や日本をはじめとする民主主義的な市場経済を支持する国と協力を強化することと言える。
CAIには投資保護は含まれていない。そのため、EU加盟国と中国がこれまでに個別に締結した投資協定が引き続き効力を持つ(注2)。欧州委員会と中国政府はCAIの署名から2年以内に、追加交渉の完了を目指している。ドイツの産業界としては、原則合意した投資協定から投資保護規定が切り離されることは問題視していない。しかし、その2年間でドイツの国外投資を保護する有効な手段について合意し、その際、効果的な紛争解決メカニズムを必ず確保すべきだと考えている。
質問:
EUでは今後、CAIの正式な締結に向けて、EU理事会(閣僚理事会)と欧州議会で承認を受ける必要がある。一部の加盟国や欧州議会議員からは、中国の人権状況を問題視する声や、対中政策で米国との協調的な対応を求める声が上がる。こうしたことから、CAIの早期批准に対する慎重論も根強いと認識している。また、中国側がどこまで真摯(しんし)に向き合うか疑問視する声もある。今後の見通しについてどのようにみるか。
答え:
欧州委員会によると、協定文書をEUの全加盟国の言語に翻訳するために数カ月かかる。欧州議会が協定について審議するのは、2021年末または2022年初めになると見込んでいる。最終的には、欧州理事会と欧州議会の承認が必要だ。
火急の問題は、中国に対して指摘が挙がっている人権問題だ。ドイツの産業界は、新疆ウイグル自治区に関する報道を受けて大きな懸念を抱いている。批判を重要な問題と受け止めている。中国はこうした問題が政治・経済関係を悪化させると認識すべきだ。ドイツの産業界にとって人権は普遍的なもので、交渉の余地はない。ドイツ企業は社会的責任を認識している。これは世界中のどの拠点においても同じだ。 欧州委員会が米国の新政権と再び共通の目標に向かって協力することも重要だ。相互にメリットがあれば、日本も、EUや米国との協力に加わるべきと考える。中国関連の問題も含めて、だ。
質問:
2020年11月15日に、インドを除く15カ国が署名した地域的な包括的経済連携(RCEP)協定による中国のアジア地域での存在感の高まりを警戒する声も一部にある。欧州またはドイツの立場から、影響をどのようにみるか。
答え:
RCEPの自由化の度合いは、EUの自由貿易協定に比べると明らかに低い。しかし、RCEPによってアジア・太平洋地域の経済統合は進展する。RCEP参加国間の貿易は増え、非参加国との貿易は減少するだろう。(RCEPに加わっていない)欧州の輸出事業者は、市場アクセスの相対的悪化や貿易転換の影響を見込まなければならない。欧州拠点の国際的な競争力は低下する一方、アジアで事業展開するドイツ企業は、他のアジア諸国の企業と同様にRCEPの利益を得ることができる。RCEPにより人口23億人、GDP26兆ドルを擁する世界最大の自由貿易協定地域が誕生し、このことは欧州にとって間違いなく警鐘を鳴らすものとなる。
従ってわれわれは欧州委員会に対し、当該地域へのアクセスを失わないために、当該地域との自由貿易協定に関する交渉を精力的に進めるよう求めていく。
質問:
近年、中国の「一帯一路」構想の文脈の中で、中国企業による欧州のハイテク企業やインフラ関連企業の買収事例が相次いでいる。各国政府による危機感も高まっていると思うが、どのようにみるか。
答え:
ドイツや他の多くのEU加盟国で近年、第三国からの投資に対する規制が強化されている。2020年末にはEU全体で第三国からの投資を審査する規則が発効した(2020年10月13日付ビジネス短信参照)。これにより、第三国からの企業買収について加盟国間および欧州委員会との間で体系的に情報を共有する投資管理の枠組みが構築された。われわれとしては、国外投資に対する開放性と安全性の確保のバランスが取れた規則であると評価している。政府による介入は、産業政策のためではなく、国家安全保障のためだけ認められている。
一方、国外からの投資の阻止を決定する権限は、引き続き個々のEU加盟国にある。ドイツでの投資規制強化について言えば、政府の権利が大幅に拡大されている。われわれは行き過ぎの部分があると評価している。例えば、2020年に行われた直近の改定では、国家安全保障の「実際の危険」ではなく、「起こり得る損害」が制限の審査基準となっている。このような広範囲に及ぶ国家介入権は、国外の投資家にとって投資活動の法的安全性とドイツの拠点としての魅力を低下させる。
質問:
欧州企業、特にドイツ企業などの対中進出についてどうみるか。とくに新型コロナ禍の中では、中国がほぼ唯一の成長市場と言える。ドイツの自動車メーカーも中国依存が増している。今後もその傾向が強まるものか。
答え:
ドイツ経済の中国への極度な依存はないだろう。ドイツの近年の中国への輸出は総額の約7~8%で、欧州域内市場の方がドイツ産業にとっては何倍も重要だ。個々の企業では、売上高に占める中国市場の割合が高いケースもある。しかし総合的にみると、統計的に依存している状況にはない。
一方、中国の景気が上向いていのは確かだ。ドイツ産業の中国事業は、2020年半ばから成長軌道に戻ってきた。第4四半期(10~12月)の中国への輸出は21.5億ユーロ、すなわち8.6%増加した。
質問:
新型コロナウイルス感染拡大に加え、中国の独特な規制や知的財産保護など、対中ビジネスを進める上で、さまざまなリスクを懸念する声も聞かれる。欧州企業は「チャイナリスク」をどのようにみているか。
答え:
中国に投資しているドイツと欧州の企業は、知的財産保護における問題、不透明な規制、一部の業界での合弁会社設立義務など、中国における問題については以前から認識している。これらの問題に対しては、ドイツ財界アジア太平洋委員会(APA)やドイツ産業連盟(BDI)として、ドイツや中国の政治家との話し合いに繰り返し関与している。ただ、全体を見ると、中国で事業活動する全てのドイツ企業が市場アクセスの問題に直面しているわけではないことも事実だ。事実、大多数の企業ではこれまで大きな問題が発生していない。
中国の経済政策がこれまで以上に技術的、経済的な自立を目指す方向性を強めていることは、グローバルな協力構築をより困難にしている。中国政府が中国や世界市場で公正な競争を妨げる限り、中国経済の持続可能な成長という大きな可能性を活用することはできないだろう。中国と欧州が協力強化することによって得られたはずの利益を失ってしまうのだ。
EU・中国の投資協定により、よりバランスの取れた中国との経済関係に向けて少しは前進した。しかし、二国間でパートナーシップを組むという方式の限界も見えてきた。 EUは中国に対し、パートナー、競合、体系的(政治的)なライバルとして、何本ものレールを引き続き進まなければならないことがあらためて明らかになった。すなわち、多面的な関係を継続しなければならないということになるだろう。

注1:
域外企業に対して開放的なEUの政府調達政策を改め、貿易相手国にも政府調達市場 の互恵的な開放を求めるもの
注2:
EU加盟国のうち、26カ国が個別に投資協定を結んでいる。
執筆者紹介
ジェトロ・デュッセルドルフ事務所 ディレクター(執筆当時)
森 悠介(もり ゆうすけ)
2011年、ジェトロ入構。対日投資部対日投資課(2011年4月~2012年8月)、対日投資部誘致プロモーション課(2012年9月~2015年11月)を経て現職。
執筆者紹介
ジェトロ・デュッセルドルフ事務所
ベアナデット・マイヤー
2017年よりジェトロ・デュッセルドルフ事務所で調査および農水事業を担当。

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