特集:新型コロナ感染拡大感染者数が再拡大も、国交正常化が追い風となるか(中東)
中東での新型コロナ禍

2020年9月29日

感染者数が再拡大、「第3波」が到来か

世界中で猛威を振るう新型コロナウイルスの感染拡大は、中東地域にも大きな影響を及ぼした。また、9月に入り多くの国で、感染者の再拡大傾向がみられる(2020年9月15日付ビジネス短信参照)。9月14日時点で、中東6カ国〔イラン、サウジアラビア、トルコ、イスラエル、カタール、アラブ首長国連邦(UAE)〕の新規感染者数の推移(図1参照)をみると、6月中旬に1日当たり1万人を超えてピークに達した。7~8月は減少傾向となったが、9月に入って再び増加し、ピーク時に迫る勢いになっている。

これまでの中東地域の感染動向を整理すると、感染者数は主に2~3月にイラン、3~4月にトルコ、4月にGCC(湾岸協力会議)諸国で増加した(図2参照)。5月のラマダン(断食)期間中までは、各国の厳しい制限措置により抑止にある程度成功していた。しかし、5月下旬のラマダン(断食)明け休暇が終了し、各国で制限緩和が実施されると「第2波」といえる感染の拡大状況を招いた。特に、イスラエルなどで顕著な9月以降の再拡大は、「第3波」とも呼べそうな状況になっている。 累計感染者数では、イラン、サウジアラビア、トルコが世界的にも上位にある。9月14日時点で順に13位(40万2,029人)、16位(32万5,651人)、18位(29万1,162人)となった。なお、イラクが8月以降に急激な伸びをみせて、トルコに次ぐ19位(29万309人)まで上昇した。

図1:中東6ヵ国(合計)の新規感染者数の推移
 3月に急増し、5月に一度は落ち着きを取り戻したが、6月以降に再増加し、1日当たり1万人を超えてピークに達した。7~8月には減少傾向となったが、9月に入って再び増加し、ピーク時に迫る勢いとなっている。

注:6ヵ国はイラン、サウジアラビア、トルコ、イスラエル、カタール、アラブ首長国連邦(UAE)
出所:Our World in Dataを基にジェトロ作成

図2:中東6ヵ国の累計感染者数の推移
1月下旬にアラブ首長国連邦(UAE)のドバイで初の感染者が確認されてから、2月以降に順を追って主要国で感染が拡大。特に2~3月にはイラン、3~4月にはトルコ、4~5月にはサウジアラビア、7月以降はイスラエルにおいて急激な増加がみられた。9月中旬の感染者数は、トップがイランで40万人超、次いでサウジアラビアが約33万人、トルコが約29万人となっている。

出所:Our World in Dataを基にジェトロ作成

経済的な苦境下でも、各国とも自国の強みを模索

経済的には、コロナによる需要急減と原油価格急落の二重苦で、多くの国がマイナス成長に転落。財政赤字も拡大するなど、深刻な経済の落ち込みが懸念される状況だ。他方で、自国が持つ強みを改めて見直し、ポスト・コロナに備えようという動きも見られる(2020年7月31日付地域・分析レポート参照)。

いくつかの国の動向をみる。UAEは、厳格な外出制限策を取ってきたが、2020年の実質GDP成長率はマイナス5.2%予測(UAE中央銀行)となった。観光、卸売り・小売り、交通・物流などの主要産業が、深刻なダメージを受けている。しかし、「地域ハブ」として、周辺国に先駆けて6月に国際線を再開。観光などの再活性化を狙っている。また、いち早く国を挙げてのデジタル化に取り組み、EC(電子商取引)が急速に成長している。2020年に開催予定だったドバイ万博は、会期が翌年(2021年10月1日~2022年3月31日)に延期となった。そうした中でも参加国会議をオンラインで開催し、着々と準備を進めている(2020年9月3日付ビジネス短信参照)。

サウジアラビアでは、ラマダン終了後の6月以降に感染者数が急増した。例外を除き、渡航規制も再開していない状況だ。世界でも有数の産油国として、原油価格下落のインパクトも大きい。2020年の成長率がマイナス6.8%に低迷する見込み(IMF)で、財政、雇用、サービス産業などが大打撃を受けた。政府は付加価値税(VAT)の引き上げや追加関税措置などの財政改革に取り組む。同時に、「ビジョン2030」の産業多角化の試みを継続し、デジタル化やキャッシュレス化を進めている。外出規制を受けて、小口配送サービスやテイクアウトも盛んになっている。

イスラエルは当初、早期のロックダウンにより感染拡大の抑え込みに成功したとみられていた。しかし、5月以降の緩和措置を受けて第2波が到来。7月には、反政府デモまで発生する事態となった。9月18日以降は、全土で再度3週間のロックダウンを強いられている。強みのスタートアップについても、2020年の投資額は前年比33%減になった。ただし、「コロナテック・スタートアップ」と呼ばれるデジタルヘルス分野の企業活動が活発化するなど、注目すべき動きも起きている。8月後半からは、1億ドルを超える資金調達(メガラウンド)のニュースも相次いでいる(2020年9月2日付ビジネス短信参照)。


観光客が戻り始めたドバイ・モール(ジェトロ撮影)

今後も注目されるイスラエル・UAE国交正常化の影響

地域の大きなトピックとして、8月13日のイスラエルとUAEとの国交正常化がある。コロナ対策は、その追い風にもなっている(2020年8月14日付ビジネス短信参照)。医療やコロナ対策分野では、急速に両国間の連携が進む。例えば、新型コロナウイルス検査キットの共同開発、感染対策への活用を視野に入れた再生医療(細胞治療)分野の共同研究、被験者の吐息から感染を検出する技術の実用化に向けた協働などが、矢継ぎ早に発表された(2020年8月18日付ビジネス短信参照)。

先端技術を持つスタートアップが集積するイスラエルと資金力のあるUAEが互いに協力することで、ヘルスケア分野でも新たな連携効果が期待できる。また、9月15日に米国で締結された平和協定では、医療に加えて、科学、テクノロジー、イノベーションなど15分野にわたる連携分野が示された。今後、さらなる広がりも期待できる(2020年9月17日付ビジネス短信参照)。

在UAE日系企業の大半は、事業正常化を2021年と見込む

現地日系企業への影響はどうか。ドバイで8月13~17日に実施した在UAE日系企業へのアンケート(第3回)PDFファイル(1.49MB) によると、新型コロナウイルス感染拡大の影響を受け、回答115社のうち90%に当たる104社が売り上げの落ち込みに「影響がある」とした(注)。第1回PDFファイル(767.69MB) (3月実施)では86%、第2回PDFファイル(1.72MB) (6月実施)では92%。3月以来継続して、9割前後と高い割合で推移してきたことになる。ドバイに拠点を置く日系企業は、中東アフリカ地域を広くカバーする企業が多い。このため、各国の取引先の資金繰りが悪化し売掛金の回収に苦慮している、との声も聞かれた。

物流への影響も、同アンケートでは78%に当たる89社が「影響がある」と回答。過去2回では80%を超えていたが、微減となった。中国での生産再開や国際航空便の増加も手伝い、わずかではあるが負の影響が緩和傾向になったと見られる。

感染拡大の収束と事業正常化の見込み時期については、「2021年上半期」が46%(53社)、「2021年下半期」が32%(37社)と、2021年内とする回答が78%を占めた。また、「2022年以降」が15%(17社)あったのに対し、「年内」はわずか6%(7社)だった。第2回(6月)では「年内」が27%を占めていたが、依然として先行きが不透明なことから、見込みを後ろ倒しにする企業が増加した。2020年9月以降の「第3波」の到来により、さらに事業正常化の見込みが遅れる可能性もある。

一方、在UAEの日本人駐在員については、76%(87社)の企業が1人も一時帰国(退避)させていない。この結果は、第2回(79%)とおおむね同様だ。また、一時帰国者の半数以上、新規赴任者の約7割がすでに渡航済みか、あるいは1カ月以内に渡航すると回答。駐在員の渡航は進んでいる模様だ。

感染拡大の収束時期がすぐには見込めない状況下で、いかに現地でのビジネスを進めていくかが今後の課題となる。


注:
全回答企業のうち、「影響はない」「該当なし」と回答した企業を除いた企業数。「売り上げ」は、アンケートに回答した在UAE日系企業が関係するビジネスの売り上げを指す。
執筆者紹介
ジェトロ海外調査部中東アフリカ課課長代理
米倉 大輔(よねくら だいすけ)
2000年、ジェトロ入構。貿易開発部、経済分析部、ジェトロ盛岡、ジェトロ・リヤド事務所(サウジアラビア)等の勤務を経て、2014年7月より現職。現在は中東諸国のビジネス動向の調査・情報発信を担当。
執筆者紹介
ジェトロ・ドバイ事務所
山村 千晴(やまむら ちはる)
2013年、ジェトロ入構。本部、ジェトロ岡山、ジェトロ・ラゴス事務所を経て、2019年12月から現職。執筆書籍に「飛躍するアフリカ!-イノベーションとスタートアップの最新動向」(部分執筆、ジェトロ、2020年)。

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