特集:新型コロナ感染拡大「グリーン」と「デジタル」を2大柱に復興を模索(欧州)

2020年9月17日

新型コロナ感染拡大の中心の1つとなった欧州。2020年1月25日にフランスで3人の感染者を確認したのを皮切りに、ドイツ、イタリアと各国で感染が拡大した。欧州32カ国(注1)の1日の新規感染者数は、4月1日に3万6,000人を超え、7月までの間での頂点に達した。感染拡大防止策として、欧州の多くの国で厳しい移動制限措置や店舗営業の制限措置、生産活動の停止措置などが実施された。その結果、6月29日には1日の新規感染者数は3,364人まで減少した。しかし、各加盟国での経済活動の再開、さらには7月以降の観光客受け入れに伴い、特に観光客の多いスペイン、フランスなどを中心に再び増加傾向に転じた。8月31日には、1日の新規感染者数が4月の新規感染者数を更新し、さらに9月14日には、約4万7,000人に達するなど、先行きが見通せない状況になっている(注2)。

本稿では、現時点で読み取れる限りで、新型コロナウイルスによる欧州ビジネス環境への影響について分析する。

移動制限と店舗制限により生産活動が一時停止へ

急速な感染拡大により、通勤、通院などを除く移動を3月10日から禁止したイタリアを筆頭に、多くの国で厳しい移動制限が講じられた。小売店、飲食店、文化・娯楽施設などは、ほとんどの欧州諸国で何らかの閉鎖措置がとられた。また、イタリア、スペインでは一部の必要不可欠な部門を除き、一時、全ての生産活動を停止した(イタリア:3月23日~5月3日、スペイン:3月30日~4月9日)。

事業の規制措置により、多くの販売店舗などが一時閉鎖された(表1参照)。日系企業では、ユニクロが4月7日時点で欧州域内の97店舗(ロシアの41店舗を含む)を臨時休業した。移動制限措置により従業員の通勤が困難となったため、多くの企業が事務部門を中心に在宅勤務の体制をとった。ただし、その対応は国ごとに異なる。進出日系企業アンケート調査結果によると、製造拠点が多く立地するチェコでは、在宅勤務従業員の割合が半数以下との回答が全体の54%だった。一方、事業統括など管理部門が多い英国では、全員在宅勤務とする割合が56%に及んだ(表2参照)。

表1:在欧日系企業のロックダウン後の事業実施状況
国名 アンケート
調査時期
休業中 規模を縮小して事業継続 同程度の活動規模で事業継続
英国 5月中旬 2% 5% 44%
チェコ 5月下旬・6月上旬 3% 64% 32%
ベルギー 5月中・下旬 4% 53% 44%

出所:在英日本商工会議所およびジェトロ・ロンドン事務所によるアンケート調査(2020年5月18~21日実施)、ジェトロ・プラハ事務所によるアンケート調査(2020年5月28日~6月5日実施)、在ベルギー日本国大使館およびジェトロ・ブリュッセル事務所によるアンケート調査(2020年5月14~27日実施)の結果からジェトロ作成

表2:在欧日系企業での在宅勤務者の割合
国名 アンケート
調査時期
0%~
50%未満
50%~
100%未満
100%
(全員在宅)
英国 5月中旬 14% 30% 56%
チェコ 5月下旬・6月上旬 56% 32% 12%
ベルギー 5月中・下旬 25% 75% 75%

出所:在英日本商工会議所およびジェトロ・ロンドン事務所によるアンケート調査 2020年5月18~21日実施)、ジェトロ・プラハ事務所によるアンケート調査2020年5月28日~6月5日実施)、在ベルギー日本国大使館およびジェトロ・ブリュッセル事務所によるアンケート調査(2020年5月14~27日実施)の結果からジェトロ作成

国内の移動制限措置に加え、27カ国で単一市場を形成するEUは、他地域とは異なる困難な課題に直面している。欧州委員会は3月17日、30日間の欧州域外からの入域制限措置を加盟国に要請。その後2度にわたり延長要請し、最終的に期限を6月15日とした。また同時に欧州委は、EU域内の国境管理についても、EU加盟国が公衆衛生などに関わる緊急な事情の下で、他の加盟国からの入国者に対する措置を再導入することを認めた(2020年3月17日付ビジネス短信参照)。その結果、加盟国間の国境措置が暫定導入され、EUの基本理念である域内の4つの移動の原則のひとつ「人」の移動の自由が一時的に制限された。こうした欧州諸国間での暫定的な国境管理に加えて、日本を含む欧州域外国との出入国も制限されたことにより、欧州域内および日欧間で人の移動がほぼできなくなった。営業やサービスのための顧客訪問も不可能となり、商機の喪失につながった。欧州では、特定国に拠点を設置し、複数国でビジネスを展開する日系企業も多い。域内の移動制限は欧州ビジネスにおいて、大きな足かせとなった。

その後、域内の感染状況改善を踏まえ、欧州委が6月15日からの域内の移動制限解除を加盟国に提案、その後、制限解除が進んだ。しかし、感染者数が増加する国や地域には再度制限措置を導入するなど一部の国・地域では一進一退の状況が続いている。このように、感染防止対策として求められる新たな保健衛生上の危機への対応は、EUに対し、単一市場の基本理念を揺るがしかねない問題を突きつけている。

また、欧州域外とはいまだ移動制限措置が続いている。日本人駐在員の人事でも、前任者が帰任したものの後任者が着任できずに空白が生じ、円滑な経営の継承に支障をきたすというケースが発生している。ドイツやチェコでの日系企業アンケートでは、回答企業の6割以上から、出張が不可能になったことでビジネス機会を喪失した旨の回答があった。また、3割以上が、駐在員人事に影響が出ているとした。

また、フォルクスワーゲン(VW)が3月から4月にかけて欧州における生産を一時停止したのをはじめとして、日系メーカー(スズキ、トヨタ、日産、ホンダ)の欧州工場も3月から5月にかけて生産を一時停止した。完成車メーカーの生産停止は関連企業にも波及。自動車部品・素材メーカーの多くも生産の一時停止を余儀なくされた。従業員の出勤の困難さや部品・資材の供給の問題よりも、在宅要請や営業店舗閉鎖による需要の減退がその大きな要因だった。欧州の新車登録台数は、3月に前年の半分の水準、4月には2割程度にまで落ち込んだ(表3参照)。販売代理店が閉鎖された英国、イタリア、スペインなどでは、前年同月比でマイナス幅が96%を超え、事実上、自動車販売が停止した。5月に入って、欧州全体で4割強程度まで回復したが、感染拡大が続いた英国では引き続き、1割程度の登録台数にとどまっている。日系自動車メーカーも影響は避けられず、全体の新車登録台数の落ち込みとほぼ同程度の減少幅を記録した。日系企業のアンケート結果では、自動車産業に限らず、チェコで減産・生産停止した製造業企業の97%がその要因として需要の減少を挙げた。なお、新車登録台数は6月に入ると、欧州全体で8割近くに回復してきている。同様に、英国でも7割弱まで回復した。

表3:欧州の乗用車新車登録台数(単位:台、%)(△はマイナス値)
国・地域 2020年2月 2020年3月 2020年4月 2020年5月 2020年6月
台数 前年同月比 台数 前年同月比 台数 前年同月比 台数 前年同月比 台数 前年同月比
フランス 167,782 △ 2.7 62,668 △ 72.2 20,997 △ 88.8 96,310 △ 50.3 233,814 1.2
ドイツ 239,943 △ 10.8 215,119 △ 37.7 120,840 △ 61.1 168,148 △ 49.5 220,272 △ 32.3
イタリア 162,793 △ 8.8 28,326 △ 85.4 4,279 △ 97.6 99,711 △ 49.6 132,457 △ 23.1
スペイン 94,620 △ 6.0 37,644 △ 69.3 4,163 △ 96.5 34,337 △ 72.7 82,651 △ 36.7
ベルギー 46,775 △ 6.3 28,801 △ 47.5 5,296 △ 90.1 34,752 △ 32.0 49,141 △ 1.8
ポーランド 38,508 △ 12.0 29,657 △ 40.8 15,239 △ 67.1 21,149 △ 55.1 35,797 △ 20.5
オーストリア 21,067 △ 10.9 10,654 △ 66.7 11,220 △ 64.9 20,211 △ 33.9 26,676 △ 18.0
オランダ 29,868 0.3 29,496 △ 23.4 15,373 △ 53.0 14,934 △ 59.2 24,926 △ 39.2
スウェーデン 21,694 △ 6.3 27,649 △ 8.6 18,916 △ 37.5 15,881 △ 50.2 24,747 △ 22.3
チェコ 17,377 △ 9.2 13,685 △ 36.3 10,679 △ 53.4 13,385 △ 44.4 20,771 △ 5.2
ハンガリー 11,078 △ 1.3 11,478 △ 14.3 6,170 △ 50.3 6,472 △ 54.5 10,355 △ 23.7
ルーマニア 8,836 △ 26.8 6,654 △ 32.2 4,321 △ 50.3 7,155 △ 45.0 10,161 △ 27.8
ギリシャ 7,862 4.0 3,743 △ 60.7 2,434 △ 80.2 4,497 △ 67.5 8,249 △ 37.2
スロバキア 7,220 △ 4.7 5,013 △ 45.6 3,424 △ 61.5 4,123 △ 58.3 7,502 △ 20.2
EU(マルタを除く) 957,052 △ 7.4 567,308 △ 55.1 270,682 △ 76.3 581,161 △ 52.3 949,722 △ 22.3
英国 79,594 △ 2.9 254,684 △ 44.4 4,321 △ 97.3 20,247 △ 89.0 145,377 △ 34.9
EU・EFTA ・英国 1,066,794 △ 7.2 853,077 △ 51.8 292,182 △ 78.3 623,812 △ 56.8 1,131,843 △ 24.1

注:「EU・EFTA・英国」は、マルタを除くEU26カ国と英国、スイス、ノルウェー、アイスランドの合計。
出所:欧州自動車工業会(ACEA)資料からジェトロ作成

感染拡大の沈静化と各種制限措置の緩和により、各国で事業再開に当たって企業が取るべき感染防止の衛生対策ガイドラインが示された。これを受け、多くの企業が4月下旬以降、必要な対策を準備しながら事業再開に着手した。在欧日系企業にとっても、衛生ガイドラインなどの情報収集・自社制度の整備、実行に当たっての従業員、労組との協議などが事業再開の課題となった。

なお、新型コロナが在欧日系企業の経営に与えた影響は大きい。日系企業アンケートでは、英国で7割近く、ドイツ、オランダ、チェコで8割以上の企業が、売り上げの減少を回答した。このほか、英国、チェコの4割近くの企業が、一時帰休を実施するなど雇用に影響が出ていると回答している(表4参照)。

表4:新型コロナ感染拡大の影響を受けた在欧日系企業の割合(-は値なし)
国名 アンケート
調査時期
売り上げが減少した 雇用に影響が生じた
英国 5月中旬 66% 38%
ドイツ 5月上・中旬 81%
オランダ 5月下旬・6月上旬 83%
チェコ 5月下旬・6月上旬 96% 38%

出所:英国とチェコは表1に同じ。ジェトロ在ドイツ3事務所によるアンケート調査(2020年5月6~20日実施)、在蘭日本商工会議所によるアンケート調査(2020年5月29日~6月3日実施)の結果からジェトロ作成

販路多様化の重要性が浮き彫りに

このように、欧州進出日系企業では、需要の減退が大きな課題となった。しかし、調達面についての課題は大きく顕在化しなかった。欧州各国が、モノの自由移動については維持したためだ。しかし、国境でドライバーの検温などの管理を導入した国も多く、物流の遅延が発生した。多くの日系企業もこれを指摘している。欧州のトラック輸送のデータ解析を行うSixfoldのデータによると、4月上旬には、国境通過に要する時間はコロナ前と比べて平均で3割増しとなった。6月上旬時点では、5%増とほぼ正常化した。しかし、引き続き、ドイツやフランスからスイスへの輸送などは2時間程度の滞留が確認されている。EU域外から空路でのモノの移動についても、域外からの移動の制限に伴い旅客便が減少。輸送貨物の需給のバランスが崩れた結果、料金上昇が課題として報告されている。これに対し、全日本空輸(ANA)は6月10日からドイツへの貨物専用機の臨時運航を開始、貨物需要に対応している。欧州方面への貨物専用機の運航は同社として初めてだという。

自動車産業など、顧客が在庫を積み上げない産業では、再稼働に備え、サプライヤー側で在庫積み上げを行う必要が生じた。これをコスト圧迫要因とする日系企業の報告も確認された。また、6月になって生産活動が正常化しつつある中で、こうした顧客が積み増していた在庫処理を進めた結果、制限解除後にも、受注減を課題として報告する企業もあった。

新型コロナ禍で、需要が減退する中、特に戦略転換の必要に迫られたのは食品分野だ。欧州では、外食が営業停止を余儀なくされた一方、小売りは社会的に「必須な」機能として、営業の継続を認められた。食品を小売りと外食の双方に販売していた(日系を含む)日本食卸など企業にとっては、外食向けの販売減を小売りが補完するといった現象がみられ、顧客セグメントの分散の重要性が再認識された。また、レストランなどの業態でも、デリバリー業務は営業を許された国が多く、資金を投じ、こうした新たな業態へ拡大するか否かが問われる大きな分岐点ともなった。

食品以外の分野でも、店舗販売が停止された影響を受けた。結果として、オンライン販売への移行、実店舗の機能の見直しなどが欧州系、日系を問わず進んだ。新型コロナで経済活動が大きく制限される中、大手小売・アパレル産業を中心に、低迷する店舗販売の一方、オンライン販売が前年同期比で大きく伸びたとの発表が相次いだ。コロナ後も新たな消費傾向が定着するとみて、電子商取引への対応を強化する動きも活発化している。さらに宅配インフラなど、デジタル技術を活用した周辺サービスも注目が高まっている。三菱商事とNTTは6月2日、位置情報および関連サービスのオランダのヒア・テクノロジーズへの出資を発表。ヒアが有する世界最大規模の位置情報データベースを活用し、物流における最適ルートを提供するサービスの開発に取り組む。今後、需要が高まると予想される宅配サービスなどに携わる物流業者らとの提携検討を進めており、年度内に実証事業の開始を目指す。また、カーナビや地理情報システム関連のソフトウエアを開発するゼンリン(本社:北九州市)は6月9日、ヒアが持つ位置情報技術プラットフォーム「ヒア・マーケットプレイス」との連携を発表。世界的な位置情報サービス業界の成長を後押しする。デジタル関連市場の拡大は、コロナ後も欧州における需要の牽引役として期待される。

域内市場・経済低迷に加え、単一市場の危機に直面

他方、コロナ危機後の欧州経済全般の見通しは厳しい。欧州委員会は7月7日に発表した夏季経済予測において、2020年のEU27カ国の実質GDP成長率をマイナス8.3%、ユーロ圏についてはマイナス8.7%と予測し、それぞれ春季経済予測(2020年5月6日発表)から0.9ポイント、1.0ポイント下方修正した。中でも2020年のマイナス成長率が2桁に達すると予測されているのは、イタリア(マイナス11.2%)、スペイン(マイナス10.9%)、クロアチア(マイナス10.8%)、フランス(マイナス10.6%)の4カ国だ。四半期ごとの成長率(前期比)では、2020年第2四半期(4~6月)はEU27カ国でマイナス13.1%となり、スペイン(マイナス16.9%)、フランス(マイナス16.8%)を筆頭に、ほとんどの加盟国が前期比で2桁のマイナス成長を記録した。さらに、夏季経済予測時点では、2020年後半には経済の回復が予想されると指摘している。とはいえ、2020年4月を頂点に減少傾向に転じた新規感染者数も、前述のとおり、各加盟国での経済活動の再開や観光客の受け入れに伴い7月以降再び増加傾向にある。これを受けて一部加盟国では、国内の移動制限や事業所閉鎖などの措置、国境措置などの対策を再強化する動きがみられる。欧州委も同予測において、新型コロナウイルス感染拡大第2波を下振れリスクの1つに挙げており、予断を許さない状況が続いている。欧州中央銀行(ECB)は、4月の経済活動で最も急激に落ち込んだ部門としてレジャーおよび運輸サービス部門を挙げた。あわせて、旅行・観光産業に依存する国では経済全体に与える影響が深刻で長期間にわたる、と指摘する。

EU機能条約(TFEU)は、域内競争を不当にゆがめる可能性があることから、特定の企業や製品に対する国家補助を原則として禁止している。しかし、欧州委は緊急対応として、この原則を緩和する措置を導入した。新型コロナの打撃を大きく受けた当該産業・企業を救済するためだ。2020年末までの時限的措置として、加盟国が例外的に、企業向け直接給付や税制優遇、銀行の企業融資への国家補償、雇用維持を目的とした企業への賃金支払い支援、一定の条件を満たす企業への資本増強と劣後債の引き受けなどを行うことを、欧州委の事前承認を得る条件で認める。さらに、欧州委は本緩和措置について、3月以降も順次対象の拡大を続けている。6月29日には3度目の改正として、2019年12月31日以前に財政的に困難な状況に陥っていた企業を支援対象に含めることなどを発表した。コロナ禍でスタートアップを含む零細・小規模企業などが多数破産する恐れがあり、EU経済に深刻な混乱を引き起こす可能性がある点や、比較的、国家補助による競争市場の歪曲(わいきょく)につながりにくい点を考慮した結果だ。

欧州委によると、2020年9月5日までに承認された加盟国の国家補助措置は282件に上る。一方、このような措置は、EUの基本理念である「単一市場」を歪曲するとの指摘がある。欧州議会・経済通貨委員会の議員は、同措置に関して5月26日、欧州委が承認した国家援助の約47%がドイツ企業に集中している点に懸念を示した。新型コロナはEUに対し、単一市場と経済復興のバランスの課題を突き付けている。こうした新型コロナを受けた時限的措置が積み重なると、競争市場をゆがめかねない。このような点で、欧州市場でビジネスを行う日系企業にとっても今後、懸念材料となる恐れがある。

復興のカギは「グリーン」と「デジタル」

欧州委は5月27日、7,500億ユーロ規模のコロナ危機からの復興基金を盛り込み増強した2021~2027年の次期中期予算計画(多年度財政枠組み:MFF)の新提案を発表。新提案では、2050年までの気候中立を目指す「欧州グリーンディール」および「デジタル変革」が、コロナ後のEUの復興を支える鍵として重視されている。また、グリーン化・デジタル化を柱に据えた復興の動きは、5月以降、フランス、スペインでの電気自動車(EV)などエコカーの購入・買い替えなどの支援、ドイツでのEV普及促進のための投資など、加盟国レベルでも既に相次ぎ発表されている。

新型コロナウイルス感染症の拡大に伴い、欧州各国が行ったロックダウン措置は、自動車業界に大きな影響を与えた。ACEA(欧州自動車工業会)は2020年の新車販売台数は前年比25%減となると予測している(2020年8月4日付ビジネス短信参照)。しかし、ドイツのコンサルティング企業のマティアス・シュミットによると、西欧18カ国(注3)で電気自動車の7月の販売台数は過去最高となった。同社は、「コロナ禍」からの経済復興の施策の1つとして、ドイツ(2020年7月15日付ビジネス短信参照)やフランス(2020年5月28日付7月30日付ビジネス短信参照)が行った電気自動車購入への補助金の増額などが追い風になったとみている。ACEAによると、ドイツ、フランスでは2020年第2四半期において、主にプラグインハイブリッド電気自動車(PHEV)が牽引し、電気自動車を含めた代替燃料車の販売台数が、ドイツで前年同期比20.6%増、フランスで51.5%増となったという。

さらに、欧州における日系自動車メーカーの新たな取り組みとして、トヨタは欧州で1月から自動車の月利用の定額サービス「KINTO」の提供を開始。同社は、「自動車メーカー」から「モビリティサービス企業」への転換戦略の一環と位置付け、「包括的で信頼できる」「持続可能な」ブランドを目指すとした。新型コロナ禍を機に、持続可能性の追求が加速する欧州社会のニーズを取り込むことが期待される。

また、日本企業による環境・再生エネルギー分野での欧州への投資は、コロナ危機下にあっても活発だった。例えば、日立キャピタルは4月30日、英国での再エネ利用とEV化の加速を支援するため、英国市場をリードする技術を持つグリッドサービス・サステナブルエナジーとパートナーシップを締結。今後5年間で、EV充電ステーション(注4)を英国全土に100カ所以上展開する計画を発表した。また、東京電力グループと中部電力が出資する発電会社JERAは6月22日、フランスの風力発電Ideolおよびフランス環境・エネルギー管理庁傘下の投資会社ADEME Investissementと、浮体式洋上風力発電事業の開発会社設立に関する基本合意を締結した。こうした動きは、コロナ危機をきっかけに、今後さらに加速するとみられる。

デジタル分野では、既にみたように、企業レベルで電子商取引に対応する動きが活発化している。また、特に欧州では、グリーン・デジタル社会への移行が加速する。このような観点から、今後新たな商機が生まれる可能性が期待される。


注1:
EU加盟国、EFTA諸国、英国。
注2:
欧州の一部の国では夏以降、土曜および日曜分の新規感染者数を翌月曜日の報告に含める方針に変更している。この変更後、統計上は毎週月曜日に新規感染者数が多くなる傾向にある。欧州での最新の新型コロナウイルス新規感染者・死亡者数およびその推移については欧州疾病予防管理センター(ECDC)ウェブサイト外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます で参照が可能。
注3:
EU14カ国(ベルギー、ドイツ、フランス、イタリア、ルクセンブルク、オランダ、デンマーク、アイルランド、ギリシャ、スペイン、ポルトガル、オーストリア、フィンランド、スウェーデン)、および、ノルウェー、アイスランド、スイス、英国の計18カ国
注4:
EV充電ステーションでは、EVへの高速充電、太陽光発電のクリーンエネルギー供給などができる。
執筆者紹介
ジェトロ海外調査部欧州ロシアCIS課
根津 奈緒美(ねづ なおみ)
2007年、ジェトロ入構。2007年4月~2012年6月、産業技術部(当時)地域産業連携課、先端技術交流課などで製造業、バイオ産業分野の地域間交流事業や展示会出展を支援。2012年6月~2013年5月、アジア経済研究所研究人材課。2013年5月~2015年7月、経済産業省通商政策局経済連携課にて関税担当としてFTA交渉に従事。2015年7月より海外調査部欧州ロシアCIS課にてEUなど地域を担当。
執筆者紹介
ジェトロ海外調査部 欧州ロシアCIS課
福井 崇泰(ふくい たかやす)
2004年、ジェトロ入構。貿易投資相談センター対日ビジネス課、ジェトロ北九州、総務部広報課、ジェトロ・デュッセルドルフ事務所(調査及び海外展開支援担当)等を経て現職。
執筆者紹介
ジェトロ海外調査部欧州ロシアCIS課長
田中 晋(たなか すすむ)
1990年、ジェトロ入構。ジェトロ・パリ事務所(1995~1998年)、海外調査部欧州課長代理(2000~2001年)、ジェトロ・ブリュッセル事務所(2002~2004年)、同次長(2004~2007年)、欧州課長(2008~2010年)、欧州ロシアCIS課長(2010年)、ジェトロ・ブリュッセル事務所次長(2010~2015年)を経て現職。著書は「欧州経済の基礎知識」(編著)など。