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特集:新型コロナ感染拡大調達先、生産地見直しのキーワードは「地産地消」「分散化」「輸出対応」
新型コロナでビジネスを見直す日系企業の現場の苦悩と新たなビジネスの模索(後編)

2020年9月3日

日系企業への調査では、サプライチェーンのうち、調達先や生産地の見直しについては慎重な姿勢がうかがえる。調達先の見直しを行う企業は 2割程度、生産地の見直しは1 割程度となった。なお、調達先と生産地を見直す企業には、「複数調達など、コロナ以前から着手」(化学、中国)、「コロナの影響による見直しではない」(電機、中国)など、新型コロナウイルスの前からすでに取り組んでいた企業は含まれていない。 新型コロナによるサプライチェーンへの影響が出ていても、見直さない理由としては「すぐに判断できない(様子見)」との声が多い。「代わりの取引先を探すことが、非常に困難」(その他製造、米国)や「客先指定カスタム品のため不可能」(商社、米国)、「自力ではどうにもできない」(繊維、中国)との指摘からも、調達先と生産地の見直しについては一筋縄にはいかないことが改めて認識された。

では、調達先と生産地の見直しを行う企業はどのような見直しを考えているのか。「信用不安が生じる懸念のある取引先からの調達を見直す」(卸売り、ベトナム)、「サプライチェーンの安定化のため、日本偏重から現地調達化を推進する。コスト効果もある」(電子、中国)、「リスク回避のため、ベトナム工場で生産していない商品の生産地を、中国自社工場からベトナムへのシフトを検討中」(製造業、ベトナム)など、「安定」を目指して見直しを進めている様子がわかる。

また、企業のコメントを追っていくと、サプライチェーン分断の回避や不測の事態への柔軟な対応を連想させる、いくつかのキーワードが浮かび上がる(表1参照)。進出国内で生産して、同国・地域内向けに販売する「地産地消」、従来限られていた調達先を複数に分け、生産地を1拠点に集約させない「分散化」、そして進出国内での生産ではなく、周辺国や日本などからの輸出で対応する「輸出対応」だ。

表1:進出日系企業による、「地産地消」「分散化」「輸出対応」に関する具体的なコメント
キーワード 具体的なコメント(業種、進出先)
地産地消
  • 「国内で完結する地産地消」(商社、米国)
  • 「現地生産への移行の早急な対応」(ロシア)
  • 「地産地消を進めたい。特に原材料を日本製→中国国内製にしたい」(化学、中国)
分散化
  • 「複数調達化」(製造業、シンガポール)
  • 「他地域の生産能力余剰を活かした複数調達の拡大に取り組み中」(輸送機器、中国)
  • 「中国中心の調達から多角化を検討」(その他製造、米国)
  • 「グループ内生産地域の多角化」(化学、米国)
  • 「中国一極集中のリスクが大きいと考え、一部製品の生産拠点を中国以外の拠点に分散」(医療機器、中国)
輸出対応
  • 「(米国向け商品の)米国以外での生産」(金属、米国)
  • 「地産地消だけでなく輸出も含めたフレキシブルな生産販売体制の構築」(化学、中国)
  • 「現地生産モデルの見直し」(ブラジル)

注:業種不明の場合、業種名は割愛。調査実施時期は中国・華東(6/28-7/2)、シンガポール(6/9-6/12)、ブラジル(6/12-6/22)、ロシア(5/20-5/29)、米国(6/26-7/1、5/27-6/1)。
出所:各地日本商工会やジェトロ海外事務所が実施主体の新型コロナの影響に関するアンケート調査からジェトロ作成

例えば、「需要や生産変動に対するリードタイムの削減」(輸送機器、米国)を見直し理由とする場合、リードタイムを削減しやすい「地産地消」は向いているが、「輸出対応」は見直し方針として必ずしもいいとは限らない。その点では、現地市場向けを現地で生産する「地産地消」は、「輸出対応」とは相反するものともいえる。見直しを進める際、これら3つすべてのキーワードが必要になるわけではなく、ターゲット市場や業種の違い、企業の戦略などにより異なるだろう。ただ、今後、調達や生産を見直す際のキーワードにはなりそうだ。なお、生産地の見直しや「複数調達」に関係して、アンケートの自由記述からは「自社生産(内製)」というフレーズも見え隠れする。「リスク分散のための調達先の拡充や内製化の検討」(食品、ベトナム)、「内製拡大」(輸送機器、米国)、「技術提携にて米国で生産を行っているが、コロナのような危機があった場合、(同生産委託先とは)資本関係がなく、コントロールが利かないので、自社資本を投下した形での生産工場の設立」(化学、米国)。

販売戦略の変更、生産地や調達先の見直し、そして人材面や財務面での見直しについて、これまでみてきたが、これらの見直しを実行できるのか。今後、見直す際に課題となる点も企業から寄せられている。技術的な制約、取引先の意向、そして現場との本社との考え方の違いだ。

特に、調達の見直しを進める上では、技術的な制約や取引先の意向が課題との指摘がある。「原料の現地調達も進めているが、主に技術的な理由で現地化できない原料がある。いかに安定した品質の原料を調達できるかが課題」(化学、中国)、「輸入原料は半数以上を占めるため、これらを中国国内で調達できるか(取引先の商社も含め)検討中。簡単には原料の変更ができないのでサンプルを入手しテストを行っている。以前も地産(中国)原料への変更を実施したことがあるが、品質が悪く断念した」(化学、中国)といったように、求める品質レベルの原料が現地で入手困難など技術的な制約により、現地調達化が思うように進まない、と指摘する企業がある。ほかにも、取引先の意向により複数調達化に踏み込めない、という企業もある。「仕入先の拡大を図り、複数調達化を目指しているが、日本の最終ユーザーがトレーサビリティの観点から認めない。また、仕入先の変更に関しても、申請して許可を取る必要があり、変更まで数カ月を要する」(商社、中国)。

また、現場である進出先と日本本社とで考え方が違うことにより、思うように見直しを進められない、との指摘がある。「地産地消を推進していくべきだが、日本本社との温度差が大きい」(産業機械、中国)、「人材現地化に取りかかっているものの、どこまで任せていくかについて本社と考えが違う」(商社、中国)、「日本の本社側が現地の事情をなかなか理解してくれない」(電機、米国)、「現地社員と本社側との意思疎通(に苦慮している)」(ブラジル)。新型コロナ以前であれば、例えば、日本の本社担当者が進出先に出張し、直接、現地担当者と会ってじっくりと話すことで歩み寄れる部分があったのかもしれない。新型コロナの最中では、直接会うことが難しいため、会話の手段が限られる。「今後は親会社と資金や資材の入手について、今まで以上に厳密に検討することが多くなる」(その他製造、米国)とのコメントに代表されるように、新型コロナという未曾有の状況を生き抜くため、現場(進出先)と本社は、これまで以上に連絡を取り合い、双方の考え方を理解し合い、一丸となって、ビジネスの見直しを進めていくしかないのかもしれない。

ビジネスを見直す企業は、今後のビジネスとして、具体的にどのような事業を検討しているのか。企業のコメントを製造業と非製造業に分けてみると、製造業では、異業種や新領域への参入・シフトによりビジネスの幅を広げていこう(リスク分散を図ろう)とする姿勢がうかがえる。一方、非製造業では、新型コロナにより需要が伸びる領域への参入・シフトが多い印象である(表2参照)。

表2:進出日系企業による、今後のビジネスに関する具体的なコメント
業種 具体的なコメント(業種、進出先)
製造業
  • 「取り扱い分野の拡大」(鉄鋼、中国)
  • 「ひとつの業界に絞らず他の業界向けのビジネスを広げる」(化学、中国)
  • 「景気変動影響を受けにくい食品製造業への参入」(電気・電子、米国)
  • 「(医療、航空等)自動車以外の領域への参入」(金属、米国)
  • 「部品レベルの製造販売だけでなく、ユニットレベルの販売」(その他製造、米国)
  • 「工場空きスペースを利用した倉庫事業」(繊維、米国)
非製造業
  • 「楽器ビジネスの教育市場偏重から自宅エンターテインメント需要喚起への方針転換」(商社、中国)
  • 「(現地人材が育っていない顧客企業での、即戦力現地人材の採用ニーズ増加を見込んだ)人材現地化に関する企業支援サービス」(サービス、中国)
  • 「テレワーク体制のルール化にあたっての就業規則の見直し(支援)、テレワークにマッチしたネットワークインフラソリューションの確立」(通信・IT、中国)
  • 「新サービス分野(進出国出張代行支援、コロナ資材調達支援)への進出」(IT、ベトナム)
  • 「外国語学習アプリの開発や日本語や日本文化理解アプリの開発」(非製造業、ベトナム)
  • 「オンライン教育進出に向けて準備中」(サービス、米国)
  • 「クリーンエネルギー分野への関与」(運輸、米国)

注:業種不明の場合、業種名は割愛。調査実施時期は中国・華東(6/28-7/2)、米国(6/26-7/1、5/27-6/1)、ベトナム(6/18-6/24)。
出所:各地日本商工会やジェトロ海外事務所が実施主体の新型コロナの影響に関するアンケート調査からジェトロ作成

最後に、ビジネスを見直す企業は、見直すこと自体をどのように捉えているのか。「これまで発想がなかった方法も模索していきたい」(運輸、中国)、「事業環境の変化…一部は元には戻らないという認識が必要。変化への対応を新たなビジネスチャンスと受け止め取り組む」(繊維、中国)、「コロナの影響による消費者の価値観の変化に対応した訴求へ切り替えが必要」(ロシア)、「ニューノーマルへの対応」(シンガポール)、「環境変化への柔軟な対応」(チェコ)。これらのコメントからは、「環境や価値観の変化をビジネスチャンスと捉え、それに柔軟に対応していく」と、前向きな姿勢を感じる。

新型コロナによる影響を受け、ビジネスの見直しを迫られる進出日系企業の中には、従来のビジネスの延長として、見直しを進める企業は多いだろう。しかし、前述のとおり、新型コロナによる今回の見直しの機会をチャンスと捉えることができる企業にとっては、新型コロナが、今後の新たなビジネスを創り出すきっかけとなるのかもしれない。


新型コロナでビジネスを見直す日系企業の現場の苦悩と新たなビジネスの模索

  1. 約7割が「販売戦略の変更」で、需要減少に対応
  2. 調達先、生産地見直しのキーワードは「地産地消」「分散化」「輸出対応」
執筆者紹介
ジェトロ海外調査部国際経済課 課長代理
古川 祐(ふるかわ たすく)
2002年、ジェトロ入講。欧州課(欧州班)、ジェトロ愛媛、ジェトロ・ブカレスト事務所長などを経て現職。共著「欧州経済の基礎知識」(ジェトロ)。

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