特集:新型コロナ感染拡大感染拡大は緩やかに、経済活動再開で自動車産業に新たな動き(アフリカ)
アフリカの新型コロナ動向

2020年10月13日

アフリカ大陸の新型コロナウイルス(以下、新型コロナ)感染者数は、2020年9月30日時点で147万人(死者数3万5,637人、致死率2.4%)。検査施設・能力が不十分な国も多いため、実態はつかめないが、大陸全体の人口およそ13億人に比してみると、感染者数は0.1%ほどにとどまっている。

感染者数の伸びは鈍化も、経済的打撃は引き続き深刻

2月14日にエジプトでアフリカ大陸初の感染者が確認された後、大陸全体の感染者数は加速度的に伸び、医療態勢が脆弱(ぜいじゃく)なアフリカでは、欧米諸国などからタイムラグを置いて爆発的な感染拡大が起こることが予想された。しかしながら、初期段階でアフリカ各国が水際対策・国内の移動制限を強化したことなどから、当初想定されたほどには感染爆発が起きていない。7月25日をピークに感染者数の伸びが緩やかになり(9月30日時点で1日当たりの新規感染者数は7,347人)、特にアフリカ最多の感染者数を抱える南アフリカ共和国(以下、南ア)の状況が落ち着いたため、大陸全体でも伸びが緩やかになっている(図参照)。1日当たりの新規感染者数では、モロッコやエチオピアのように右肩上がりの国もあり、また、ピークアウトしたみられる南ア、エジプト、ナイジェリア、アルジェリアにも引き続きホットスポットが存在する、との指摘もある〔アフリカ開発銀行(AfDB)〕。

図: 1日あたりの新規感染者数推移(アフリカ大陸と南ア)
アフリカ大陸全体と、南アフリカ共和国の、3~9月までの1日あたりの新規感染者数推移のグラフを比較すると、両者は平行して同様の山型を描き、どちらも7月25日をピークに感染者数の伸びが緩やかになっている。アフリカ最多の感染者数を抱える南アフリカ共和国の状況が落ち着いたため、大陸全体でも伸びが緩やかになっていることが分かる。(グラフは欧州CDC(ロンドン時間 9月30日10:05更新)のデータを基にOur World in Dataが作成)

出所:Our world in data外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます

人的被害が他地域に比べて比較的抑えられている一方で、経済的な打撃は非常に大きくなることが予想されている。AfDBの7月時点での予測では、2020年にアフリカ大陸全体のGDPは約1,500億~1,900億ドルの喪失が見込まれ、経済成長率は平均でマイナス1.7%~マイナス3.4%と予測される(表1参照)。地域別にみると、ロックダウンで厳戒態勢を敷いた南アや産油国のアンゴラ、観光依存度の高いモーリシャスを擁する南部アフリカへの打撃が大きく、非資源国が多い東部アフリカへの影響は小さい。

また、10~20%の通貨下落が見込まれるのはアンゴラなどの4カ国で、アフリカ全体の財政赤字は2019年の2倍に悪化すると予想されている。特に深刻な例として、ザンビアが新型コロナの影響を受けたアフリカ初の債務不履行国になる、との報道もある(9月22日付ブルームバーグ)。同国は、コロナ以前から対中債務など多額の対外債務を抱えていたが、コロナでさらなる深刻な打撃を受けた国の1つだ。報道では、このほか、アンゴラ、チャド、ケニアも厳しい状況にあり、債務救済を求める動きが見られる、としている。アフリカ各国から債務削減を求める声が上がる中、中国の習近平国家主席は6月17日、一部の国に対して、債務免除あるいは返済猶予延長を提示した(2020年6月24日の記事参照)。さらにIMFも、各種スキームの下、新型コロナで財政難に陥る加盟各国に財政支援あるいは債務救済外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます をしている。財政状況が比較的良い状況にある国においても、各国政府は、医療態勢の整備や国内医療インフラへの投資、企業への融資や各種救済措置に予算を振り向けており、財政が逼迫気味に陥ることが予想される。

表1:2020年 実質GDP成長率(*予測値)(△はマイナス値)
地域 コロナ発生前
(Without COVID-19)
コロナ発生後 (With COVID-19, baseline) コロナ発生後(With COVID-19, worst-case)
アフリカ全体 3.9% △1.7% △3.4%
東部アフリカ 5.2% 1.2% 0.2%
北部アフリカ 4.4% △0.8% △2.3%
西部アフリカ 4.0% △2.0% △4.3%
中央アフリカ 3.5% △2.5% △2.5%
南部アフリカ 2.1% △4.9% △4.9%

出所:African Economic Outlook 2020, AfDB

新型コロナ禍も、ビジネスの種が続々芽吹く

こうした苦しい状況を脱すべく、一刻も早い経済回復を目指し、アフリカ各国政府は感染抑制が確認されるのを待たずに、早期に経済活動の再開に踏み切った。国境封鎖は徐々に解かれ、7月にはエジプトやコートジボワール、8月はケニア、9月にはガーナやナイジェリア、そして10月からはロックダウンのレベル1を維持しながら南アでも国際線の運航を再開した。

日本企業の集積が多い南アやエジプトでは、感染が急拡大する中でも、一時退避せず現地にとどまって操業する日本企業が多く存在した。現地に工場を置く企業は交代勤務やシフト制を導入したり、オフィスでは在宅勤務などの措置を講じたりして、営業を継続してきた。経済活動が再開した後も、企業関係者は引き続き感染予防策を講じつつ、慎重に活動することを強いられている。

エジプトでは、外出規制の影響を受けて対面でのビジネスが困難となり、代理店とのコンタクトや店舗販売ができない企業が見受けられた。海外との関係では、中国からの部品調達に時間がかかったことで生産工程に影響が出たり、欧州への部品輸出機会が減少するなどで生産調整を余儀なくされたりした企業もみられている。その一方で、経済特区などを利用して国内外でのビジネス展開に意欲的な企業もあれば、新規事業を検討する声も聞かれており、苦しい状況ながらも、アフリカ市場を中長期的な視点で捉え、ビジネスの種をまく様子が垣間見える。

また、経営の現地化が進む自動車市場では、コロナ禍の中にあっても、新たな動きが続々と発表されている(表2参照)。8月には、ドイツのフォルクスワーゲン(VW)がサブサハラアフリカで5番目となる自動車組立工場をガーナに開所したほか、豊田通商が9月、トヨタブランドの「トヨタ・スターレット」をアフリカ市場で販売開始することを発表している。

表2:自動車産業における企業の動向(最近の事例)
会社名 本社
所在国
報道/発表月 概要
豊田通商 日本 2020年9月 アフリカの中間層市場の拡大を見据え、スズキからインド製小型乗用車のOEM供給を受けて、トヨタブランド「トヨタ・スターレット」のアフリカ市場での販売開始を発表。9月中旬、南アフリカでの販売を皮切りに、順次アフリカ47カ国に拡大予定。
いすゞ 日本 2020年8月
(*1)
エジプトのAl Mansour Auto East Africaを正規販売代理店に指名し、3年ぶりにタンザニア市場での販売を開始すると発表。
カーペイディーエム 日本 2020年8月 豊田通商と資本業務提携し、中古車のオンライン輸出販売での協業を発表。需要拡大が見込まれるアフリカ等海外の中古車市場向けに販売拡大を目指す。
フォルクスワーゲン ドイツ 2020年8月 サブサハラで5番目となる自動車組立工場をガーナに開所(※その他4カ国は南ア、ケニア、ナイジェリア、ルワンダ)。
トヨタ 日本 2020年7月
(*2)
ダーバン工場(南ア)に新モデルを導入するため、25億ランド(約154億円)を追加投資し、ハイブリッド車の生産を行うと発表。2021年生産開始を目指す。
現代自動車 韓国 2020年7月
(*3)
マラソン・モーター・エンジニアリング(現代自動車とエチオピアの元陸上選手ハイレ・ゲブレセラシエ氏との合弁会社)がエチオピアの工場で、初の国産電気自動車の生産を開始。
日産 日本 2020年6月
(*4)
アフリカで今後2年間に新モデル7車種を発売する。新型コロナの流行で販売が低迷する中で高成長の市場を重視し、アフリカで小型商用車のハブとする計画。ガーナとケニアに工場を新設予定。
東風汽車 中国 2020年6月
(*5)
東風汽車とエル・ナスル・オートモーティブが、エジプトでの電気自動車生産に係る覚書を締結。

出所:1. 報道(ザ・シティズン)、2. 南ア政府ウェブサイト、3. 報道(クリーン・テクニカ)、4. 報道(ロイター)、5. 報道(エジプト・インディペンデント)、その他:各社プレスリリース

自動車産業以外では、空調メーカーのダイキン工業と、タンザニアで電力サービスを提供するワッシャ(WASSHA)が6月、エアコンのサブスクリプション事業を行う新会社「バリディバリディ(Baridi Baridi)」の設立を発表。テクノロジー分野では、日系ベンチャーキャピタル(VC)によるアフリカのスタートアップ(以下、SU)出資が見られ、ケップルアフリカベンチャーズが5月にチュニジアのアグリテックSU・nextProteinに出資参画、AAICが6月にエジプトのメンタルヘルスケアSU・シェズロン(Shezlong)に出資した。そのほか、ルワンダの食品運輸GET ITが7月に事業エリア拡大のため資金調達を行い、消費財のB to Bのためのeコマース・プラットフォームを提供するナイジェリアのTrade Depotも同月、事業拡大のため1,000万ドルの資金調達を行った、と報じられており、アフリカSUに関連した動きはコロナ禍でも進展している。

このように、アフリカ地域では、新型コロナの影響で短期的には経済全体が大きな打撃を受け、アフリカ各国政府も財政や債務問題で苦境に立たされているが、それと同時に、現地で活動する多くの企業もそれぞれに対策を講じながら、ポスト・コロナのビジネスを模索する最中にある。コロナ禍の中でもビジネス活動は止まらず、前向きな動きが見られるのは、アフリカの中長期的な成長に対する確信の表れだと考えられる。

執筆者紹介
ジェトロ海外調査部中東アフリカ課
堀田 萌乃(ほった もえの)
金融機関、外務省、在ザンビア日本国大使館(専門調査員)を経て、2014年4月にジェトロ入構。海外調査部中東アフリカ課、企画部海外地域戦略班(アフリカ担当)を経て、2020年5月から現職。