特集:新型コロナ感染拡大約7割が「販売戦略の変更」で、需要減少に対応
新型コロナでビジネスを見直す日系企業の現場の苦悩と新たなビジネスの模索(前編)

2020年9月3日

世界各地の日本商工会やジェトロ海外事務所が実施主体の、新型コロナウイルスの影響に関するアンケート調査で回答した進出日系企業のコメントをみると、事業戦略やビジネスモデルなどの見直しの現場での苦悩がにじみ出ている。同調査結果によると、約半数の企業はビジネスの見直しの着手はこれから。本レポート(前編)と後編の2回にわたり、企業のコメントを拾うことで、現在、そしてこれから見直しに着手する企業にとっての、ビジネス見直し方針や今後のビジネスに関するキーワードなどのヒントを探る。

需要の減少やサプライチェーンの分断など、負の影響(注)をもたらした新型コロナは、日系企業に中長期的な事業戦略やビジネスモデルの見直しをも迫る。

各地アンケート調査によると、新型コロナを受け、事業戦略やビジネスモデルを見直す日系企業の比率は、実施国・地域によっても異なるものの、 平均して6 割程度に達する(図1参照)。

図1:進出日系企業の新型コロナを受けた事業戦略やビジネスモデルの
見直しの方向性
「見直す」「見直さない」の順にそれぞれ、 中国・華東(n=942)、38.0%、62.0%。 シンガポール(n=267)、56.6%、43.4%。 インドネシア(n=362)、73.2%、26.8%。 メキシコ(n=208)、38.9%、61.1%。 ブラジル(n=97)、70.1%、29.9%。 ロシア(n=101)、52.5%、47.5%。 UAE(n=130)、44.6%、55.4%。 (参考)日本(n=106)、76.4%、23.6%。

注:調査実施時期は中国・華東(6/28-7/2)、シンガポール(6/9-6/12)、インドネシア(6/8-6/16)、メキシコ(6/25-6/29)、ブラジル(6/12-6/22)、ロシア(5/20-5/29)、UAE(6/2-6/4)、日本(5/29)。
出所:各地日本商工会やジェトロ海外事務所が実施主体の新型コロナの影響に関するアンケート調査、ASEANウェビナー(5/29、ジェトロ本部実施)アンケート結果から作成

また、見直す時期については、9 割程度は既に見直しに着手しているか、2020年内には見直すと回答した一方、一部の企業は2021年以降と回答した(図2参照)。

図2:進出日系企業の新型コロナを受けた事業戦略やビジネスモデルの見直し時期
「既に着手」「年内」「来年以降」「未定」の順にそれぞれ、 中国・華東(n=354)、66.1%、24.9%、7.9%、1.1%。 シンガポール(n=151)、43.0%、49.0%、5.3%、2.6%。 インドネシア(n=222)、59.5%、35.1%、1.8%、3.6%。 メキシコ(n=84)、51.2%、34.5%、8.3%、6.0%。 ブラジル(n=65)、69.2%、24.6%、3.1%、3.1%。 ロシア(n=53)、54.7% 、32.1%、3.8%、9.4%。 UAE(n=58)、55.2%、32.8%、3.4%、8.6%。 (参考)日本(n=81)、43.2%、29.6%、3.7%、23.5%。

注:調査実施時期は図1に同じ。
出所:図1に同じ

では、どのような見直しを行うのか。見直し内容としては、調達先や生産地の見直しがそれぞれ2割、1割程度となったほか、販売戦略の変更は約7割にのぼる(図3)。その他の見直し内容としては、雇用・雇用条件といった人材面や財務面を挙げる回答も目立つ。

図3:進出日系企業の新型コロナを受けた事業戦略やビジネスモデルの
見直し内容(複数回答)
 「中国・華東(n=354)」「シンガポール(n=151)」「インドネシア(n=265)」「メキシコ(n=81)」「ブラジル(n=68)」「ロシア(n=53)」「UAE(n=58)」「(参考)日本(n=81)」の順にそれぞれ、 調達先の見直し、28.2%、 15.2%、 21.9%、 25.9%、 25.0%、 9.4%、 17.2%、 21.0% 。 生産地の見直し、16.9%、 5.3%、 4.2%、 16.0%、 4.4%、 5.7%、 6.9%、 6.2% 。 販売戦略の変更、66.1%、 57.0%、 69.1%、 64.2%、 61.8%、 67.9%、77.6%、 70.4% 。 雇用・雇用条件の見直し、23.7%、 44.4%、なし、 38.3%、 42.6%、 34.0%、 32.8%、 17.3% 。 人材の現地化(駐在員削減)、23.4%、 23.8%、 24.9%、 なし、19.1 %、15.1%、 10.3%、 9.9% 。 財務・ファイナンスの見直し、17.8%、 11.3%、 なし、38.3%、 38.2%、 34.0%、 27.6%、 21.0% 。

注1:調査実施時期は中国・華東(6/28-7/2)、シンガポール(6/9-6/12)、インドネシア(6/8-6/16)、メキシコ(6/25-6/29)、ブラジル(6/12-6/22)、ロシア(5/20-5/29)、UAE(6/2-6/4)、日本(5/29)。
注2:設問内容や選択肢数はアンケートにより異なるが、図表記載の選択肢以外は集計から外した。インドネシアは「雇用・雇用条件の見直し」と「財務・ファイナンスの見直し」、メキシコは「人材の現地化」の選択肢の設定がそれぞれない。進出先以外のビジネスを含めて回答している場合があるため、調達・生産・販売先は必ずしも調査実施国とは限らない。
注3:いずれも対象業種は製造業、非製造業を含む。
出所:各地日本商工会やジェトロ海外事務所が実施主体の新型コロナの影響に関するアンケート調査、ASEANウェビナー(5/29、ジェトロ本部実施)アンケート結果から作成

最も回答比率が高い「販売戦略の変更」について、企業の具体的なコメントをみると、商品・サービス、販売時期、販売先(ターゲット)、販売・営業方法、販売ネットワークなど、需要減少への対応やデジタル活用を意識した見直しが目立つ(表参照)。

表:進出日系企業による、販売戦略の変更に関する具体的なコメント
見直し内容 具体的なコメント(業種、進出先)
商品・サービスの見直し
  • 「中国国内市場向け商品開発へのシフト」(電機、中国)
  • 「新規商材として地産地消できるものを検討中」(小売、ベトナム)
  • 「オンラインで完結するサービスの導入」(金融・保険、米国)
  • 「月額サービス収益型ビジネスの拡大」(通信・IT、米国)
販売時期の見直し
  • 「新商品の販売時期の再検討」(食品、米国)
販売先(ターゲット)の見直し
  • 「従来の企業間取引からECサイトを使った一般消費者向けの販売を実施。それに伴う商材の拡充」(その他非製造、ベトナム)
  • 「B2BだけでなくB2C、D2Cの販売網拡大」(ロシア)
  • 「新型コロナの影響が軽微もしくは販売好調な業界への販売シフト」(卸売、ベトナム)
  • 「状況に左右されづらい商品への販売リソース強化」(カナダ)
  • 「ローカルマーケットの拡大」(不動産、米国)
  • 「営業活動を大口商談から小口商談にシフト」(卸売、米国)
販売・営業方法の見直し(オンライン)
  • 「非対面型・リモートの営業スタイルの構築」(金融・保険、中国)
  • 「客先に直接出向く、デリバリーシステムの構築」(カナダ)
  • 「ネット販売の強化」(食品、中国)
販売ネットワーク等の見直し
  • 「コロナ影響を鑑みて、エリア毎に有力販売代理商の強化と新たな構築」(化学、中国)

注:業種不明の場合、業種名は割愛。調査実施時期は中国とロシアは図1に同じ。それ以外の国については、ベトナム(6/18-6/24)、米国(6/26-7/1、5/27-6/1)、カナダ(5/26-5/28)。
出所:各地日本商工会やジェトロ海外事務所が実施主体の新型コロナの影響に関するアンケート調査からジェトロ作成

雇用・雇用条件の見直しや人材の現地化などの人材面では、さまざまな観点からのコメントが目立った。雇用については、「必要人員の再確認」(輸送機器、米国)、「販社(姉妹会社)との連携強化。(それによる)少数精鋭の生産体制の確立」(一般機械、米国)、「生産の自動化を加速させて人員削減」(産業機械、中国)、「より柔軟性を持った雇用形態への変革」(輸送機器、米国)といったように、効率性と柔軟性を確保しながら、最低限必要な人員に絞り込むコメントがみられた。また、雇用条件に踏み込んだ見直し方針としては、「労働時間の調整」(その他製造、米国)、「今期(部分的もしくは通期)の昇給見送りを検討中」(UAE)、「新規雇用予定だったものを中断し、既に雇用している従業員の業務内容(ジョブ・ディスクリプション)を拡大・縮小することで対応」(一般機械、米国)、「在宅勤務により社員の生産性が顕著に財務諸表に表れてきている。そのため、業務内容の見直しや人員整理など守りの経営が今後の見直し内容の主体」(一般機械、米国)などが挙がっている。雇用条件ではないものの、「従業員の福利厚生見直し」(商社、米国)、「社員旅行の中止」(物流、ベトナム)など、社内福利厚生関連の見直しを指摘する企業もいた。特に雇用・雇用条件の見直しについては、各国の労働法に沿って進める必要があるため、慎重な対応が求められるだろう。

人材の現地化については、「今回のコロナの影響だけではないものの、人材の現地化を進めていく必要がある」(流通、中国)とのコメントに代表されるように、新型コロナを機に人材の現地化に取り組もうとする企業が目立つ。一方で、新型コロナの前からすでに取り組んでいたものの、その取り組みを加速化させる企業もあった。「経営幹部人材の現地化が急務である」(輸送機器、中国)、「コロナに関係なく人材の現地化について取り組み中だった。ただ、駐在員が2カ月不在だった間に課題が見つかり、人材の現地化に取り組むスピードを早める可能性が出てきた」(繊維、中国)。

また、オンラインによる会議や商談が増えるに従い、「日本から仕事ができるうえ、ビザ申請が厳しくなっていることが人材の現地化を進める要因になっている」(シンガポール)という声がある一方で、「人材現地化を進める必要性は理解しているが、現実的には人材の確保はそう容易ではない」(シンガポール) 「管理者の人材現地化を進めたいが、マッチした人材がいない」(金属、中国)と、適した人材の確保が現地で難しいとの指摘がある。さらに、重要技術の流出の観点から人材の現地化をどこまで進めるべきか、そのバランスのとり方に悩む企業もいる。「人材の現地化の流れは否定しないものの、長期的な戦略として、製法などの技術ノウハウの流出防止の観点から、現地化すべき人材と、すべきでない人材をよく考えて見直しすべき」(食品、中国)、「人材現地化については、コア技術に関わるエンジニアリング以外では推進してきた。ただ、人材の流動性が日本と比べはるかに高く、重要技術には関わらせていない」(産業機械、中国)など、人材の現地化の実現は一筋縄ではいかない現状もうかがえる。そして、「人材の現地化を推し進めているものの、今回のような非常事態が発生した場合に、日本本社が情報収集を円滑に行えるか疑問に思う」(電機、中国)と、人材の現地化を進めることによる弊害に着目する企業もいた。

なお、人材関連では、日本からの駐在員に関する課題が目立つ。新型コロナ感染拡大が駐在員の帰赴任時期の 4 月と重なったこともあり、「日本からの米国法人への赴任および短期出張に支障をきたしており、米国に既にいる社員の帰国を延ばすなどでしのいでいる」(建設、米国)、「渡航リスク(政府指定の施設による隔離など)により、今年度に現地へ新たに増員予定であった駐在員の赴任時期の大幅な後ろ倒し」(不動産、ベトナム)といった、帰赴任時期を後ろ倒しにする事例が目立った。一方で、「国境をまたぐ行動制限により出張ベースの業務の大幅見直しが必要になる。これまで出張でカバーしていた人材の出向化を進める」(産業機械、中国)、「(駐在員を含め)撤退し、日本からの出張ベースにシフト」(商社、中国)、「出向者人材の機能見直し」(産業機械、中国)といった、駐在員の派遣そのものに関するコメントもみられた。

財務面では「売り上げ減に備えて、キャッシュフロー重視の経営を推進」[アラブ首長国連邦(UAE)]、「秋から工場拡張を進める計画だったが、1年延期を決定」(金属、ベトナム)、「出資額のサイズなどリスクマネーの見直し」(商社、米国)、「資金調達のタイミングの変更(前倒し)」(事業関連サービス、米国)など、企業が手元資金の確保を優先している様子がうかがえる。


注:
ジェトロ2020年版世界貿易投資報告」第2章4節(2)(52ページ)参照。

新型コロナでビジネスを見直す日系企業の現場の苦悩と新たなビジネスの模索

執筆者紹介
ジェトロ海外調査部国際経済課 課長代理
古川 祐(ふるかわ たすく)
2002年、ジェトロ入講。欧州課(欧州班)、ジェトロ愛媛、ジェトロ・ブカレスト事務所長などを経て現職。共著「欧州経済の基礎知識」(ジェトロ)。

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