特集:新型コロナ感染拡大コロナ禍が中国進出日系企業にもたらしたもの
経済正常化に向け、査証対策が目下の課題

2020年9月7日

新型コロナウイルスは、2019年12月、中国・湖北省武漢市で初めて確認された。それ以降、日本をはじめ、韓国や香港、台湾など北東アジア地域でも感染が拡大した。

中国の感染者数は、2020年2月上旬がピークだった。それからは減少傾向に転じ、国内感染は抑制されつつある。9月現在、感染者は主に国外からの輸入症例だ。

中国での経済活動が正常化していく中で、中国進出日系企業の直面する課題が変化してきた。本レポートでは、コロナ禍に伴う中国進出日系企業が直面した主な課題について、感染拡大期(1~2月中旬)、感染収束期(2月下旬~3月)、経済復興期(4月~7月)、直近(8月)の各期間に分けてみていく。

感染拡大期:マスクなど防疫物資の確保が最大の課題

感染拡大期(1~2月中旬)には、武漢市をはじめ各地で、移動制限などを通じた都市封鎖が実行された。国務院は1月24~30日としていた春節(旧正月)の休暇期間を、2月2日まで延長することを発表。これを受けて、上海市や浙江省などの省市では、独自の措置として企業の操業再開時期を2月10日以降に延期した。

企業の操業再開に当たっては、従業員の在宅勤務や時差出勤などの柔軟な勤務態勢の導入、現地政府への操業再開申請書の提出、一時的な隔離室の設置、マスクや消毒液などの医療物資の配備など、省市が定めた要件を満たす必要があった。

このうち、進出日系企業の課題となったのが、マスクや消毒液などの防疫品の調達や確保だった(表参照)。2月12~13日に北京市内に進出する日系企業を対象に行われたアンケート調査(注1)では、自社の操業再開における今後の課題について「マスクや消毒液などの防疫品の確保」を挙げた割合が61.7%で最多だった。

表:中国進出日系企業の主な課題
時期 主な課題
感染拡大期
(1~2月中旬)
  • 操業再開に必要となるマスクや消毒液などの防疫品の不足
  • 中央・省市レベルでの通知と現場の運用実態に生じる齟齬(そご)
感染収束期
(2月下旬~3月)
  • 14日間の隔離措置などによる省市をまたいだ移動制限やそれに伴う国内物流の混乱。サプライチェーンへの影響
  • 不可抗力証明書の証明期間と実際の操業再開期日に生じる齟齬
  • 日本一時帰国中に査証・居留許可などの有効期限が切れ、延長手続きが行えない
経済復興期
(4月~7月)
  • 日中を結ぶ航空便の減少や査証停止措置の影響から、日本滞在中の駐在員や新規赴任予定者、出張者などが中国に入国できず、彼らがいない前提で事業を継続せざるを得ない
  • 航空貨物を中心とする国際物流がボトルネックに
  • 内需・外需の不調で、中国工場などの稼働率が回復しない
  • 健康管理アプリの「健康コード」が外国人の申請に非対応で、日本人駐在員の生活に支障
直近(8月)
  • 査証取得後も航空便の制限で中国への渡航が困難(一部の地方政府は外国人技術者などを対象にチャーター便を手配)
  • 査証取得に際し省市自治区レベルで招聘(しょうへい)状が必要。招聘状はビジネス上渡航が必要と認められた人員のみ発行されるため、駐在員の帯同家族の再渡航は駐在員本人に比べ困難だが認められるケースも増えている

出所:日本商工会等のアンケート、ジェトロが実施したヒアリング調査等から作成

中国政府は異業種でマスク生産に参入する企業に補助金を支給するなどの支援を通じて、生産能力の増強を図った。2月末までに、1日当たり1億枚以上のマスクを生産できる態勢を整えた。生産能力が1カ月で5.2倍に拡大したことになる。その後、中国各地でマスクの購入を予約制にするなど、マスクの供給態勢を整えた。

感染収束期:隔離による人手不足でサプライチェーンに影響

感染収束期(2月下旬~3月)には、各省市での操業再開の動きが加速した。各都市では、市外から戻ってきた人に対し14日間の自宅隔離措置が実施された。このため、操業を再開しても従業員が十分に出勤できないという問題が生じた。また、陸送に関わるトラックのドライバーが大幅に不足した。このため、稼働率も大きく低下した。加えて、中国各地で交通制限や高速道路での検温などが強化されたことで、輸送時間を要するなどの問題も生じた。こうした隔離措置や移動制限によって生じた国内物流の混乱は、進出日系企業のサプライチェーンにも大きな影響を及ぼした。

習近平国家主席は3月10日、新型コロナの被害が最も甚大だった武漢市を訪問した。中国がウイルスの抑え込みに成功したことを国内外にアピールした。これを受けて中国国内では、各地域で「重大突発公共衛生事件」(注2)を1級から引き下げる動きが加速した。一方、3月に入って国外からの感染者輸入症例が増加したことで、国外からの入国制限が強化された。

中国民用航空局は3月26日、航空便の運航を限定する通知を発表した。中国の国内航空会社については各社ごとに各国1路線週1往復まで、外国の航空会社については各社ごとに中国との航空路線を1路線週1往復までとした。国際旅客便が大幅に減少したことで航空貨物スペースが逼迫し、輸送コストも高騰した。国際物流がボトルネックとなり、日系企業においては中国と日本、欧州、ASEANとの間のサプライチェーンに影響が生じた。

経済復興期:駐在員の赴任に関する問題目立つ

経済復興期(4月~7月)に日系企業の課題となったのが、日本人駐在員の赴任にかかる問題だった。中国政府は3月28日、有効な査証および居留許可証を有する全ての外国人の入国を暫定的に停止し、3月31日から日本人などに適用される15日間の査証免除措置も停止すると発表した。

この結果として、日本に一時帰国していた駐在員や出張者などが中国に入国できなくなった。日系企業では日本人駐在員や出張者がいない前提で現地ビジネスを継続せざるを得ない状況も見られた。日系企業からは「日本人総経理が半年不在になっており、組織経営に影響が出ている」「技術指導を行う日本人が中国に出張できず、不良品が多く発生してしまっている」といった声が聞かれた。日中間でチャーター便を手配する事例もあった。

その後、日本人駐在員は現地法人などが所在する省・市・自治区政府などに招聘(しょうへい)状を発行してもらうことで渡航のための査証を申請できるようになった。手続きについては図の通りだ。ただし、日系企業から査証申請の際に必要となる招聘状の発行基準が明らかでないとの指摘があり、発行までに時間がかかるケースなどもみられた(図参照)。

図:中国渡航までの流れ
中国渡航までの流れとして、まず、招聘状申請において、中国の省・市・自治区レベル政府に招聘状の発行を依頼する。次に、査証申請で、招聘状をもとに旅行代理店などを通じて中国の在外公館に査証申請手続きを行う。さらに、フライト確保で、旅行代理店などを通じて中国行きフライトを確保PCR検査を受ける(注)、中国に到着後、隔離でPCR検査の実施、ホテルなど集中隔離施設での隔離されて、現地へ赴く。 日本側で、招聘状申請に約2から3週間、査証申請に約1か月、フライト確保に約1~3か月、中国側で、到着後に隔離期間として約2週間を設けたあとに現地へ赴く。中国渡航までトータルで約3~5カ月かかる。 それぞれの段階で生じる課題として、招聘状申請では、招聘状が発行されない、発行までに時間がかかる、査証申請では、発給までに時間がかかる、査証が下りない、フライト確保では、フライト確保が難しい 、運賃が高い、PCR検査の費用が高い、到着・隔離期間では、言葉が通じない隔離施設で不安を感じる 、隔離施設の食事が口に合わないなどが挙げられる。

注:中国民用航空局などは7月20日、航空便で中国に到着する乗客に対し、搭乗日5日以内に中国の在外公館が指定した機関で実施したPCR検査の陰性証明を提示する必要があると通告。一方で、在日中国大使館は7月23日にウェブサイトで、日本を出発して中国に渡航する乗客は暫定的にPCR検査の陰性証明を必要としないと発表。
出所:日系企業へのヒアリングや中国政府の発表などを基に作成

在留資格保有者の再入国にかかる査証申請を開始

中国政府は7月20日付で、中国行き航空便の乗客に対し、PCR検査の陰性証明を求める通知外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますを発表した。この通知では、中国行きの航空便に搭乗する中国籍・外国籍の乗客は、搭乗前の5日以内にPCR検査を完了しておく必要があるとした。一方で、在日中国大使館は7月23日にウェブサイト外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますで、日本発中国行きの乗客は暫定的にPCR検査の陰性証明を必要としないことが追加発表された。今後、適切な時期に具体的な対応方法を公布するとしている。

また、在日中国大使館は、中国における有効な居留許可を所持している場合には、各省・市・自治区政府が発行する招聘状がなくても、8月22日午前0時から中国入国査証を申請できると発表した。今後、日本人駐在員の中国への渡航に関する査証手続きの時間短縮につながるとみられる。

一方で、日本政府は9月1日から、日本の在留資格を有する者の再入国に関する措置の対象者の範囲を変更した。(1)2020年8月31日までに再入国許可により日本を出国した、(2)現在、日本での在留資格および有効な再入国許可を有する、という2つの条件を満たせば、代理申請機関を通じて再入国を申請できる。中国から再入国するには、依然として在中国日本大使館が指定する確認書の提出や出国前72時間以内にコロナに関する検査を受け、医療機関からの陰性証明の取得が必要ではある。それにしても、入国規制が緩和されたことにはなる。

中国では8月16日以降、国内での新規感染者数ゼロを維持している(注3)。しかし、再び感染が拡大するリスクもある。感染対策を取りつつ、国際的な人の往来を再開していくことができるのか、中国の今後の動向が注目される。


注1:
日中経済協会北京事務所・中国日本商会「新型肺炎に関するアンケート結果のご報告」第1~4回から引用。
注2:
「国家突発公共事件総合緊急対応マニュアル」によると、疫病など公共衛生に関する突発事件について、1級(特に重大)、2級(重大)、3級(比較的重大)、4級(一般)の4段階に分類している。1級は国務院の決定と指揮に基づいて対策が取られ、2級は省レベルで対策を指揮する。
注3:
2020年9月2日現在。
執筆者紹介
ジェトロ海外調査部中国北アジア課
方 越(ほう えつ)
2006年4月、ジェトロ入構。展示事業部海外見本市課、金沢貿易情報センターを経て2013年6月から現職。

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