特集:世界の知日家の眼日本経済は「アベノミクス景気」継続で安定(中国)
張季風氏:中国社会科学院日本研究所副所長・研究員(教授)

2018年6月27日

日本経済は世界経済の回復を受けた外需の好調やアベノミクス等で回復基調が続いているという指摘がある一方、その先行きを懸念する声も聞かれる。そこで、日本の最大の貿易相手国であり、2018年に日中平和友好条約締結40周年を迎えるなど友好の気運が高まっている中国の社会科学院日本研究所・張季風副所長に日本経済に対する見方、日本に対する期待などについて聞いた(インタビュー実施日:5月21日)。張副所長は、日本は株価、為替ともに安定しており、実質GDP成長率も先進国としては高いことなどから、日本人は自国の経済にもっと自信をもつべきと述べた。日中関係については、この気運のもと、東アジア地域包括的経済連携(RCEP)や日中韓FTAの交渉を加速し、「日中韓+X」の協力モデルを推進するなどして、「ウィンウィン」の協力を深めていけば良いと指摘した。

日本経済にもっと自信を

質問:
日本経済に対する見方は。
答え:
日本経済は「アベノミクス景気」が継続し安定している。リーマン・ショックに端を発した景気悪化の際に7,000円を割り込んだ日経平均株価は、現在は2万円を上回っている。また、円とドルの為替レートも1ドル=110円前後で推移している。輸出入の両面から考えても適切な為替レートになっている。
マクロ経済の需要面から考えると、経済発展の原動力である輸出が2017年は前年と比べて順調に増加した。中国をはじめ世界経済が好調であり、日本の外需にプラスの材料をもたらしている。日本のGDPの約6割を占める個人消費も伸びはほぼ横ばいで安定している。設備投資も、安倍晋三内閣の下で好調であり、2017年は力強く推移した。
供給面からみると、技術力やイノベーション力を反映する全要素生産性が2010年から上昇しているという日本の研究機関の調査がある。日本の製造技術はもう限界だと言われることもあるが、そうではない。日本は2000年以降数多くのノーベル賞受賞者を輩出している。化学分野の基礎・理論研究は米国、欧州も進んでいるが、アジアでは日本が一番だ。中国は特許出願件数では日本を超えているが、日本は特許の実用化率が高いとされる。また、中国では実際の生産に用いられる特許が日本ほど多くないとの指摘もある。さらに、日本は知的財産権保護に関する法律・法規の整備も進んでいる。研究開発費総額の対GDP比率については、中国は2017年に2.12%まで上昇したが、日本は数十年にわたって高いレベルを維持している。
労働力については、日本は人手不足といわれ、完全失業率は2%台で推移しており、先進諸国の中でも優等生だ。そして、日本では高齢者、女性が十分に活躍している。アベノミクスで「働き方改革」を進めようとしており、今後さらに効率的に労働力を活用できるようになるだろう。資本については、アベノミクスを受けて、輸出企業、大企業を中心に資金が潤沢である。特に自動車、半導体などの業種が好調なようだ。
日本人は日本経済のネガティブな側面を強調する傾向があるが、もっと自信を持つべきだ。日本国民の生活は豊かであり、株価も好調、為替レートも安定している。2017年の実質GDP成長率は1.7%と、先進国としては高い。

良好な機運の維持を

質問:
日本に対する期待は。
答え:
5月初旬に日中韓サミット、日中首脳会談などが行われたが、両国の関係をこのままより良い方向に導くよう、安倍政権には「言行一致」を期待したい。両国国民の多くは日中友好を望んでいる。現在の良好な機運の下、日本と中国が「ウィンウィン」で協力していけば良い。このまま良好な関係が続くと、2018年内に安倍首相が訪中をして経済協力環境のさらなる改善を図り、2019年には習近平国家主席が訪日する可能性もある。もし日中関係が悪化し、現状から後退するようなことがあれば、日本経済は未来を失う。
また、日中韓サミット関連で、経済分野で特に印象に残ったものが3つある。第1に、東アジア地域包括的経済連携(RCEP)や日中韓自由貿易協定(FTA)の交渉加速、第2に、「日中韓+X」の協力モデルの推進、第3に、あらゆる保護主義との闘いやビジネス環境の改善に引き続きコミットすることの合意である。この3つを確実に推進すれば良い。
日中韓FTA、RCEPは経済効果もあるし、アジア地域と世界の繁栄、平和、安定に寄与する。「日中韓+X」の協力モデルは、3カ国による第四国市場における協力で、例えば、3カ国が協力して、モンゴルで風力発電に取り組むことなどがある。また、「一帯一路」建設を受けて発着数が増加している「中欧班列(中国と欧州を結ぶ国際定期貨物列車)」について、東京から中国を経由して欧州を結ぶということも考えられる。そして、保護主義との闘いに関する合意は歴史的なもので、保護主義、一国主義を採る米国にとってもプレッシャーになっている。
このほか、日中首脳会談に合わせて、両国は10の協定・覚書に署名したが、サービス産業の協力強化など、そのうちの幾つかは経済分野のものである。これらを着実に実行することで、多くの経済効果がもたらされると期待している。

日中貿易は2017年に3,000億ドル台を回復

質問:
日中経済交流の現状は。
答え:
日中経済交流は過去5年のうち、2017年を除いて低迷していたと考える。中国側の統計で日本の対中直接投資額をみると、2012年に74億ドルと過去最高を記録してから2016年まで減少を続け、2017年に前年比5.1%増の33億ドルとプラスになった。日中貿易額も、どちらの国の統計を採用するかで差はあるものの、両国ともに2017年に好転した。貿易や投資について、前年に減少した場合は翌年に反動増があるとされるが、5年余りの減少からの反動増は大きいと期待している。
中国側の統計では、日中貿易総額は2011年には3,400億ドル台だったが、2015年、2016年に3,000億ドル台を下回り、2017年にようやく3,000億ドル台を回復した。米中貿易額が2017年に6,000億ドルに迫っていることを考えると、世界第2位と3位の経済大国である日中の貿易額は、3,500億ドルに達しても決して多くない。日中関係が良好な中、両国企業はさらにビジネスを活発化させるだろう。今後の日中経済交流の先行きは明るい。

張季風氏(中国社会科学院の前で、ジェトロ撮影)
略歴
張季風(Zhang JiFeng)
1959年8月生まれ。1982年に東北師範大学外国語学部を卒業。1992年に東北師範大学日本研究所で修士号を、1999年に日本の東北大学で経済学博士号を取得。現在は中国社会科学院日本研究所の副所長・研究員(教授)を務めている。研究分野は日本マクロ経済分析、日中経済関係、日本国土総合開発。
執筆者紹介
ジェトロ・北京事務所 経済信息部 部長
宗金 建志(むねかね けんじ)
1999年、ジェトロ入構。海外調査部中国北アジアチーム、ジェトロ岡山、ジェトロ・北京事務所、海外調査部中国北アジア課を経て、2012年12月より現職。

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