特集:世界の知日家の眼両国企業のスキルやノウハウの融合が重要(オーストラリア)
デービッド・ジェイコブズ氏:豪日経済委員会(AJBCC)CEO

2018年8月15日

豪日経済委員会(AJBCC)CEO(最高経営責任者)のデービッド・ジェイコブズ氏は、両国にまたがるビジネスに長年携わり、ニューサウスウェールズ州豪日協会(AJSNSW)の要職も歴任するなど、オーストラリアきっての知日派として知られている。 長年の友好国で、経済的にも重要的なパートナーである両国関係をどう見ているのか、話を聞いた(6月20日)。


デービッド・ジェイコブズ氏(ジェトロ撮影)

ロボットと中小企業にチャンス

質問:
現在の日本経済をどのように見ているか
答え:
1980年代後半から1990年代前半までのバブル時代と、バブル崩壊以降続く日本経済の低迷、高齢化の進行、人口の縮小といった事象が、世界に誤ったイメージを伝えている。これらのマイナス要素は一部の見方にすぎない。日本は米国、中国に次ぐ世界3位の経済大国として引き続き重視されるべき国だ。
興味深いポイントが2点ある。1点目は、日本はロボット技術が優れており、同技術に関する経験が豊富である点だ。これらは日本企業の精密機械の設計や製造力に支えられている。日本政府の科学技術政策「ソサエティ5.0」でも見られるとおり、今後はロボット技術、モノのインターネット(IoT)製品が日本の急成長分野となるだろう。
2点目は、日本の多くの中小企業が高い技術と生産能力を有しており、海外市場へ進出する可能性、潜在的なチャンスを持っていることだ。
質問:
日本の市場をどのように見ているか
答え:
日本は利用できる土地の面積は狭いが、オーストラリアに比べて限られたスペースに多くの人口が集中しており、都市化が進んでいる。よって、日本市場は規模が大きいにもかかわらず、アクセスがしやすいといった利点がある。
質問:
日本企業の強みは何か。
答え:
日本企業の最大の強みはやはり「ものづくり」だ。「カイゼン」を徹底することによる日本の品質水準の高さは、全世界で非常によく理解されている。また、日本の金融、保険、通信、法律、会計など、サービス産業においても海外のパートナーと連携して新規のビジネスチャンスを創出したり、既存ビジネスを効率化するチャンスがあるかもしれない。
質問:
日本とオーストラリアのビジネス関係の展望はどうか。
答え:
日本は長年、オーストラリアと良好な経済関係、ビジネス関係を築いてきた。1957年に日豪通商協定を締結し、日本は1970年代からオーストラリアへの直接投資を進め、今ではオーストラリアへの投資国として日本は世界2位である。
今後の日豪ビジネス関係では、さらに両国企業が協力し、お互いのスキルやノウハウを融合させるような事例が増えることを期待したい。
質問:
最近の注目すべき日豪ビジネスは。
答え:
幾つか事例を挙げたい。ロボット分野では、日立製作所のGPSを利用した無人の農業用トラクターがオーストラリアで多数活躍している。医療分野では、ビクトリア州の医療機関やメディテック企業が、日本の医学研究者や製薬会社と協力する事例が複数出ている。
エネルギー分野では、ブロックチェーンで活躍するオーストラリアのパワーレッジャ―が、日本の関西電力と共同で電力直接取引プラットフォーム構築の取り組みを開始した。また、川崎重工業が主導する世界初の褐炭水素プロジェクトでは、オーストラリアのエネルギー大手AGLと協同している。
第三国での両国企業の協力事例としては、オーストラリアのレンドリースと日本のソフトバンクが、米国で通信プロジェクトを展開する予定だ。
質問:
日豪経済合同委員会会議について教えてほしい。
答え:
日本とオーストラリアのビジネス関係には、56年前に両国で設立された豪日経済委員会(AJBCC)、日豪経済委員会(JABCC)の2団体が大きな役割を果たしている。
AJBCCとJABCCは毎年10月、日本とオーストラリアの交互開催で「日豪経済合同委員会会議」を共同開催している。同会議は今年で56回目、両国関係に関わる大手企業の幹部など400人以上が一堂に会する。
既存の強固なビジネス関係をさらに発展させ、新規ビジネスを創出するための重要な交流機会となるだろう。

略歴

デービッド・ジェイコブズ(David Jacobs)
1951年生まれ。1973年シドニー大学経済学部卒。1969年に初来日以来、東京、大阪、京都、福岡を中心に、これまで130回以上日本に渡航している。1974年から日豪経済協議会(AJEI)でエコノミストとして勤務。1989年に日本専門の戦略アドバイザリー会社を創業。その後、AJEIの所長、ニューサウスウェールズ(NSW)州豪日協会(AJSNSW)の会長などを歴任。2015年にAJBCC のCEOに就任。日豪友好協力基本条約調印40周年記念外務大臣表彰(日本)。
執筆者紹介
ジェトロ・シドニー事務所
小柳 智美(こやなぎ ともみ)
2016年6月、ジェトロ入構。同月よりジェトロ・シドニー事務所所員。

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