特集:世界の知日家の眼日本企業はもっと外向きになり、存在感の打ち出しを(トルコ)
メフメト・サーミ氏:元トルコ日本合同経済委員会副委員長 (プレティウムのアドバイザリー・共同設立者)

2018年9月7日

迅速な経営判断と良好な両国関係を生かした日本の存在感の打ち出しを

元トルコ日本合同経済委員会副委員長のメフメト・サーミ氏は、トルコ海外経済関係評議会(DEIK)委員として1996年からトルコ日本合同経済委員会に関わり、2009~2015年には副委員長を務めるなど、長期にわたり日本・トルコ間の経済交流を推進してきた知日派である。同氏に、両国関係深化のための意見や提言を聞いた。(8月9日)

質問:
現在の両国のビジネス関係についてどうみているか。
答え:
ここ2、3年、両国間でのハイレベルの交流が少なくなったように思われる。日本は少し静か過ぎるのではないだろうか。両国関係の発展には継続的な交流が重要である。先般、エルドアン大統領が新政権の政策指針を発表したが、中国との関係強化が多く取り上げられている。トルコ政府は、新たな市場としてBRICsを重視しているほか、ビジネス界からはアフリカへの期待が高まっている。私自身は多くのトルコ企業と会う機会が多いが、日本に関する話題がだんだん出てこなくなっている。トルコは確かに親日国ではあるが、この良好な関係をビジネスにしっかりつなげていく工夫が必要である。
質問:
日本企業とのビジネスでどのようなことを感じるか。
答え:
日本企業とビジネスをする際によく言われるのが、重要な案件であっても経営者へダイレクトにコンタクトできないことが多いことだ。投資案件に関する重要な情報であっても、経営層に上がるまでフィルターがかけられ、最終的に意図していない情報となってしまうことがある。私は、トルコ市場への参入について、英国や米国企業の上層部との交渉に多く携わってきているが、日本企業は投資決定メカニズムを迅速にし、かつ交渉窓口をよりオープンにしないと、トルコを含め海外の貴重なビジネスチャンスを逃しまうのではないか。日本企業はもっと外向きになるべきだと思う。
質問:
今後、日本企業にとってトルコにおいてどのようなビジネスが有望か。
答え:
トルコにおけるスタートアップビジネスは、非常に速いスピードで成長している。ある大手会計事務所が2017年にリストアップしたトルコのM&A案件のうち、半分がスタートアップ系だった。トルコの起業家は目下、シリコンバレーや英国などのベンチャーキャピタル(VC)に目が行っている。2018年7月には、アリババがトルコのeコマース企業トレンドヨル(Trendyol)を7億4,000万ドル規模で買収した。この分野に日本の姿はほとんど見られないが、私自身は日本の投資家に対して8年前からトルコにおけるeコマース市場の可能性について、かなり踏み込んだ内容の情報を提供し続けていた経緯があり、とても残念に思う。
トルコにはあらゆる産業が幅広くそろっているので、細かく見ていけば本当に多くのビジネスチャンスがある。例えば、多くの若年人口が存在していることから、電子ゲーム、バーチャルリアリティー(VR)、e-Sportsなどで大きな市場があり、この分野に強い日本企業であれば、市場開拓できるはずである。ロボティクス、オートメーション、金融なども有望だ。また、トルコを基点とした周辺国市場へのアクセスの良さ、製造業からサービス業に至るあらゆるセクターに従事する人材を見つけられる点も、トルコの大きな強みである。トルコ人の危機や変化(ボラティリティー)への対応能力、製造業の規模などを含め、イスタンブールと同様に地域ハブであるドバイにはない、トルコの利点であることを強調したい。インドとドイツの間に位置する最も発展した大きな市場はトルコだと思う。
質問:
今後の両国のビジネス関係についてどのように考えるか。
答え:
現在、交渉が続いている日トルコ経済連携協定(EPA)は、トルコにとっては対日輸出拡大、日本にとってもトルコのビジネスチャンスをつかむ機会を提供することになろう。EPAは確かに重要ではあるが、同時並行の取り組みとして、日本はトルコにおいてもっと存在感を打ち出していくべきだ。トルコにおける日本製品の品質や技術に対する評価が高い、というアドバンテージを生かせるはずだ。一方、トルコ側からすると、日本のセクター別のマーケット情報や貿易実務情報が少なく、日本とビジネスをしようとする初期の段階で断念してしまっていることも多い。トルコだけでなく、日本側でもこうした情報を英語で発信し、双方向でのアクセシビリティーを円滑化にしたらよいのではないか。また、在トルコの英国やドイツの商業会議所には、トルコ企業も会員や役員に入っている。これらの会議所はトルコ企業の考えも取り入れることで、双方向でのビジネス戦略の立案を行うなど、アクティブに活動している。日本にもこうしたかたちのリージョナル・プラットフォーム的な戦略が必要だと感じる。

ジェトロ・イスタンブール事務所で面談するメフメト・サーミ氏(ジェトロ撮影)

略歴

メフメト・サーミ(Mehmet Sami)
プレティウム(Pretium)のアドバイザリー 共同設立者
トルコ海外経済関係評議会(DEIK)トルコ日本合同経済委員会メンバー(1996年~2000年)、同副委員長(2009年~2015年)
英国の大学で経済学の学士号、ビジネスシステム分析・設計の修士号を取得後、フィナンスバンク(Finansbank)、ユーロチュルクバンク(Euroturk Bank)のコーポレートファイナンス部門、アタ・インベストメント(ATA Investment)取締役、デロイト・トルコを経て、現在、コンサルティング会社であるプレティウムのアドバイザリーとしてトルコの大手上場企業のコーポレートガバナンス取締役を務める。アタ時代に日本を戦略的重点国に位置付けトルコの金融情報を3年間にわたり日本語で日系企業へ提供、2001年に国際経済交流財団(JEF)のJASPIE経営幹部プログラム(日本)に参加したほか、DEIKの合同経済委員会委員を務めていた際には、日本や欧州の主要都市で日系企業向けにトルコビジネスに関する講演を実施した。
執筆者紹介
ジェトロ・イスタンブール事務所 次長
佐野 充明(さの みつあき)
1995年、ジェトロ入構。ジェトロ・イスタンブール事務所、ジェトロ静岡、ビジネス展開支援部などを経て現職。

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