特集:世界の知日家の眼イノベーション力が日本経済の強み(フランスその2)
ジャン=ミシェル・セール氏:オレンジジャパンCEO

2018年11月14日

2013年からオレンジジャパンのCEO(最高経営責任者)を務めるジャン=ミシェル・セール氏は、在日フランス商工会議所の理事のほか、2015年7月からはフランス政府の貿易アドバイザー日本委員会の会長を務めるなど、日本におけるフランス企業の活動促進に力を入れる知日派である。日本の経済や日本企業の強みについて聞いた(10月11日)。


ジャン=ミシェル・セール氏(セール氏提供)
質問:
日本経済をどう見ているか。日本経済の魅力は何か。
答え:
日本国外では、日本経済について人口減少が強調されることが多く、日本経済が堅調であることはあまり知られていない。貿易・経常収支の持続的な黒字をみれば、それを十分納得できるはずだ。日本の人口問題、つまり高齢化と人口減少が引き起こすさまざまな影響が日本の底力を呼び覚ますことになろう。日本はこの束縛とリスクから、日本と同じような人口推移をたどる多くの国にとって有効なソリューションを開発し、競争上の優位性を生み出そうとしている。日本経済の強固さは、大部分が日本のイノベーション力を基盤にしたものだ。イノベーションに向けた投資は、フローとストックでみた日本企業による特許数が十分証明している。
質問:
グローバル市場における日本企業の強みは何か。
答え:
日本企業は、資金力とイノベーション力という2つの重要な切り札をうまく利用している。日本企業は潤沢な自己資本、強固な銀行システム、必要であれば、大規模な商社からの支援という財務上の3つのアドバンテージを持つ。イノベーションは今後ますますグローバル化し、需要が高まっていく優秀な人材をよりどころとすることになろう。日本企業はそれを十分理解し、日本国外にイノベーション・センターを設立する動きを強化している。
未来のイノベーションは、長期的な視野に立った巨額の投資を伴うイノベーションに注力できる大企業(例えば、ホンダによる米国自動運転GMクルーズへの出資)と、顧客のニーズに迅速かつ柔軟に対応できる中小企業(スタートアップ)とのアライアンスがさらに必要となってくるだろう。
日本は、イノベーティブな大企業の資本を頼りにすることができるが、デジタル革命が生み出した爆発的なチャンスの拡大に応じ、技術的イノベーションを製品やサービスに変えることができるスタートアップは十分に育っていないようだ。特に、グローバルな視点を持ったスタートアップ企業は数が少ない。日本が持つ巨大な国内市場と文化上の特殊性(とりわけ言語)は、スタートアップの世界進出の後押しにはならず、長期的にみて日本のスタートアップを弱体化することになった。しかし、この状況は変わりつつある。企業や政府のイニシアチブ、特に「J-スタートアップ」は良い政策だ。
質問:
日仏経済関係をどのように捉えているか。
答え:
日本は成功するために、世界に向け、よりオープンにならなければならないだろう。フランスは歴史的、文化的な理由から良好なウィンウィンの経済協力関係を日本と構築できる国の1つだ。両国の経営文化は補完的であり、現実的な共栄を可能にしている。世界における両国のポジション、両国の花形企業、両国におけるイノベーションの質は双方にリスペクトをもたらしている。
欧州、東南アジア、日本以外の地域で、日仏協力にとって最も有効な地域がアフリカであることに疑いの余地はない。日本はそのイノベーション力により、例えばロボット、自動制御、人工知能、新エネルギー、持続可能な成長など、フランス企業が同様に卓越するハイテク分野において、技術的なパートナーシップの提携先となり得る。
フランス企業は、大企業のみならず、日本事業拡大に向け関心を強めていくべきだ。そのノウハウは日本市場のニーズを満たし、日本国内におけるソリューションを補完し、高品質なプレミアム製品への要求の厳しさで知られる日本市場での成功のイメージによって、アジアへのさらなる進出につながることがよくあるからだ。
質問:
フランス進出を目指す日本企業にとって大切なことは何か。フランスで日本企業にとって有望な市場はどの分野と考えるか。
答え:
日本企業は、利益を上げるため、フランスへの進出を検討すべきだろう。すでに投資先にフランスを選び、毎年フランスで雇用を増やしている日本企業もある。フランス政府が投資先としての魅力改善のため取り組む改革により、フランスは日本の投資家に対してかつてないほど開放されている。フランスの強みは労働力の質の高さで、特にテクロノジーやインフラ分野における人材に注目すべきだろう。
2つの経済大国である日本とフランスは、ライフスタイル産業やハイテク産業など幅広い分野で卓越した力を持つ。質を優先することで、多くの分野で双方向のチャンスがある。両国の文化は大きく違っているように見えるが、両者は密接につながっている。また、両国は観光やスポーツ大国であり、この点でも一致している。

略歴

ジャン=ミシェル・セール(Jean-Michel Serre)
1980年エコール・ノルマル・シュペリウール(高等師範学校)卒業、原子物理学博士。1983年よりフランス・テレコム(現オレンジ)で品質管理ディレクター、欧州・ユーラシア・エジプト事業開発ディレクターなど重要ポストを歴任。2013年より現職。
執筆者紹介
ジェトロ・パリ事務所
ナタリー・アルメル
1982年よりジェトロ・パリ事務所に勤務。所長秘書を務める傍ら、調査、渉外を担当。

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