特集:女性の経済エンパワーメントテック産業に女性を(米国)
米国テック産業の「圧倒的男性優位」を変える取り組み

2018年3月7日

世界経済フォーラムによれば、米国の女性のビジネス進出は先進国トップレベルだ。しかし、米国経済の主要産業であるテック業界で働く女性の割合は3割を下回る。同産業の男性優位の現状と、それを変えようとする女性エンジニアや女性起業家など支援の動きを紹介する。

「女性のビジネス進出」は先進国トップ

世界経済フォーラム発表の「2017年世界ジェンダー・ギャップ報告書」で示された「国別ジェンダー・ギャップ」で、「女性のビジネス進出(経済的参画・機会)」における米国の順位は対象144カ国中19位。この順位は一見するとあまり上位に感じられないかもしれないが、経済規模の近い国内総生産(GDP)トップ10内の国と比較すると、女性のビジネス進出においては米国の順位が最上位となる(表1)。

表1:GDPトップ10か国のジェンダーギャップランキング(2017)(単位:10億米ドル)
順位 国名 国内総生産
(単位:10億米ドル)
ジェンダーギャップランキング
経済的参画・機会 教育的達成 健康と生存率 政治的権限 総合
1 米国 19,362.13 19 1 82 96 49
2 中国 11,937.56 86 102 144 77 100
3 日本 4,884.49 114 74 1 123 114
4 ドイツ 3,651.87 43 98 70 10 12
5 フランス 2,574.81 64 1 54 9 11
6 英国 2,565.05 53 36 100 17 15
7 インド 2,439.01 139 112 141 15 108
8 ブラジル 2,080.92 83 1 1 110 90
9 イタリア 1,921.14 118 60 123 46 82
10 カナダ 1,640.39 29 1 105 20 16
注:
ランキング内太字は各カテゴリー最上位(10か国内に限る)。
出所:
IMF/ワールドエコノミックフォーラム「世界ジェンダーギャップ報告書2017」を基にジェトロ作成

この国別ジェンダー・ギャップは、四つの指標

  1. 女性のビジネス進出(経済的参画・機会)
  2. 教育における男女格差(教育的達成)
  3. 健康と生存率
  4. 女性の政界進出(政治的権限)

においてスコアを測り、総合順位と各指標の順位をつけ、男女格差が小さい国ほど上位になる。女性のビジネス進出(経済的参画・機会)は五つの副指標「労働参画」、「類似した仕事における賃金の平等」、「推定収入」、「国会議員・政府高官・マネジャーの比率」、「専門・技術労働者の比率」のスコアによって決まる。

同報告書によると、米国は「女性の政界進出(政治的権限)」における順位が低く、上述10カ国中では日本とブラジルを上回るものの7番目に位置し、総合順位でも、フランス、ドイツ、カナダに引き離されている。一方、「女性のビジネス進出(経済参画と機会)」においては、米国の男女格差が最も小さい。つまり、世界基準において米国はビジネスにおける男女平等が最も実現されているレベルといえる。有給の出産・育児休暇が連邦レベルで法令化していない点(注1)、都市部を中心に高騰するデイケア(保育園)費用など、米国は、働く女性にとってさまざまなライフステージを通して必ずしも恵まれた労働環境とは言い難い中、この順位は先進国としてビジネス進出における男女格差縮小へ努めてきた表れだろう(表2、3)。

表2:ジェンダー・ギャップ総合
順位 国名
1 アイスランド
2 ノルウェー
3 フィンランド
4 ルワンダ
5 スウェーデン
6 ニカラグア
7 スロベニア
8 アイルランド
9 ニュージーランド
10 フィリピン
11 フランス
12 ドイツ
13 ナミビア
14 デンマーク
15 英国
16 カナダ
17 ボリビア
18 ブルガリア
19 南アフリカ
20 ラトビア
表3:「経済参画・機会」順位
順位 国名
1 ブルンジ
2 バルバドス
3 バハマ諸島
4 ベニン
5 ベラルーシ
6 ボツワナ
7 ルワンダ
8 ノルウェー
9 ナミビア
10 ギニア
11 モルドバ
12 スウェーデン
13 スロベニア
14 アイスランド
15 ラトビア
16 フィンランド
17 モザンビーク
18 ガーナ
19 米国
20 モンゴル

出所:「世界ジェンダーギャップ報告書2017」を基にジェトロ作成(表2、3とも)

テック産業は圧倒的な男性優位

しかし、米国のビジネスすべてに男女格差がないわけではなく、男性優位が著しい産業はまだある。テック産業がその一つだ。2017年の米国労働省労働統計局によると、全職種の労働人口のうち女性比率は46.9%だが、コンピューター・数学関連職の労働人口のうち女性の比率はわずか25.5%、コンピューター・情報システムマネジャー職では28.6%にとどまる。主要テック企業別の従業員男女比率を見ても(図1~3)、同産業の男性優位傾向は、従業員全体での比率よりも上級管理職や技術職になるとさらに強まっていることが分かる。

こうした背景から、テック産業を男性社会と示すような「ブロ・カルチャー(Bro Culture)」や「ボーイズ・クラブ」とやゆする声は多い。過去数年の間には、女性エンジニアが「エンジニアには見えない」と言われたことを発端にした「I look like an engineer」ムーブメント(注2)や、ウーバーの元女性社員が同社で受けたセクハラと不適切な社内風土を告発するなど(注3)、男性優位社会であるテック産業における女性の働きづらさに焦点が当たった。

図1~3:大手テック企業別の男女比率(2017年) (単位:%)

図1: 従業員全体
Yahooは男性63.0%、女性37.0%。LinkedInは男性58.0%、女性42.0%。Twitterは男性63.0%、女性37.0%。 Appleは男性68.0%、女性32.0%。Salesforceは男性68.7%、女性30.9%。 Microsoftは男性74.0%、女性25.9%。Facebookは男性65.0%、女性35.0%。 Googleは男性69.0%、女性31.0%。 
図2:上級管理職
Yahooは男性78.0%、女性22.0%。LinkedInは男性62.0%、女性38.0%。Twitterは男性70.0%、女性30.0%。 Appleは男性71.0%、女性29.0%。Salesforceは男性78.9%、女性20.9%。 Microsoftは男性80.9%、女性19.1%。Facebookは男性72.0%、女性28.0%。 Googleは男性75.0%、女性25.0%。 
図3:技術職
Yahooは男性83.0%、女性17.0%。LinkedInは男性79.0%、女性21.0%。Twitterは男性85.0%、女性15.0%。 Appleは男性77.0%、女性23.0%。Salesforceは男性78.4%、女性21.4%。 Microsoftは男性81.0%、女性19.0%。Facebookは男性81.0%、女性19.0%。 Googleは男性80.0%、女性20.0%。
注1:
Twitter、Yahooは2016年データを使用。
注2:
Salesforceのデータは性的マイノリティを除くため男女比率合計は100%未満。
出所:
各社ダイバーシティ報告書(グローバルデータ)を基にジェトロ作成 ※図1~3とも。

「学び」と「つながり」深め成長促す

現在のテック産業で働く女性が少ないのはなぜか。男性の方が女性より技術者として優れているという雇用側の無意識のバイアスの他、技術職に就くための高等教育を受ける女性の数自体が少ないことも理由の一つに考えられる。シリコンバレーの地域経済を研究するジョイントベンチャー・シリコンバレーが発表した「2018シリコンバレー・インデックス」によると、シリコンバレーにおいて科学・工学系学位を持つ女性は全体の3割台にとどまり、過去20年ほどの間で大きく変化していないことが分かった。

コンサルティング企業のアクセンチュアと、12~18歳の女子生徒を対象にプログラムコーディングを教える非営利団体ガールズ・フー・コード(Girls Who Code、本部:ニューヨーク)の共同調査報告書によると、コーディングを学習する機会が男子生徒、女子生徒に同等にあっても、男子生徒のほうが女子生徒より19%高くコンピューター系の専攻に興味を示した。また、女子生徒は中学生の時にコーディングに興味があっても、高校生になると興味を失うケースが多く、同じクラスに一緒にコーディングを学ぶ友達がいない女子生徒は大学でコーディングなどを学ぶ可能性が33%も下がる。一方で、女子生徒は、教師が女性の場合には男性の場合よりもコーディング学習への興味が高まることが分かった。

コンピューター関連職を持つ女性の74%が中学生時代にコーディングなどに親しんだ経験があることから、早いうちにゲームでも良いのでコーディングを経験し、女子生徒も中学から大学を通して興味を持続できる環境づくりが必要だと同報告書は述べている。

同調査を行ったガールズ・フー・コードはテック産業の男女格差縮小を目的に2011年設立から徐々に運営地域を拡大し、現在では全米50州で展開する。同団体がコーディングを教えた女子生徒数はおよそ4万人に達する。高校生を対象とした夏季集中プログラムでは、テック企業での就労体験も含まれ、参加費用が無料なだけでなく、参加中にかかる交通費や生活費も支給されるという。

また、ウィメン・フー・コード(Women Who Code、2013年設立、本部:サンフランシスコ)はテック産業で働く女性の活躍を支援する。同団体は、活動の場を全米だけでなくロンドンやマニラなど20カ国60都市に広げ、5万人の女性が参加するコミュニティーだ。各地でコーディングスキルを習得するワークショップや企業の面接に備えたセッションを無料または低コストで年1,500件以上行っている。ウェブサイトには、エンジニアなどの人材募集広告を有料で企業が掲載できるようになっており、企業にとってより優秀な人材へのアクセスを可能にし、同団体に集う女性により良い機会を与える仕組みを作っている。さらに、会員は奨学金や世界的イベントへの参加権を手に入れるチャンスもあるなど、多角的に女性テッキー(techie)をバックアップしている。

資金面でも女性をバックアップ

こうしたテック産業で働く女性をサポートする動きは、コーディングを学び女性同士のつながりを深める場を提供するだけではなく、起業における資金支援も始まっている。マリア・カントウェル上院議員(民主党・ワシントン州)がまとめた「女性起業家が直面する21世紀の障壁(2014年)」と題したレポートでは、女性起業家はいまだ資金調達において困難に直面しており、中小企業が借りるローン全体の4%しか女性起業家に回っていないと指摘している。2013年にニューヨークで設立されたフィーメール・ファウンダーズ・ファンド(Female Founders Fund)は、その名の通り女性起業家率いるテック系スタートアップに投資するベンチャーキャピタルだ。同ファンドは、ウェブサイト上で「女性は男性よりも大きな成功を収め、失敗も少ないにも関わらず、既存のベンチャーキャピタルはその事実を反映していない」と述べている。投資先のスタートアップには資金だけでなく、テック産業で活躍するCEOやエキスパートとのネットワークも豊富に提供し、女性起業家を支援している。


年次テックイベント、ディスラプトSFで2017年に初めて開催された女性向けセッション
「ウィメンズ・ブレックファースト」の様子(ジェトロ撮影)

注1:
サンフランシスコなど市レベルや、一部大企業の福利厚生としては導入済み (2016年4月22日付『通商弘報』「サンフランシスコ市、給与全額支給の育児休暇を義務付け-全米で初の制度導入-」(ジェトロ)、および2015年8月25日付『通商弘報』「大手IT企業で出産・育児休暇拡充の動き-人材獲得競争が過熱するシリコンバレー-」(ジェトロ)参照)。
注2:
2015年にサンフランシスコ市のテック企業に勤める女性エンジニア(アイシス・アンチャリー氏)が勤務先の人材募集広告のモデルの1人になったが、駅構内などに張られたポスターを見た人が「エンジニアには見えない。ただのモデルではないか」などと性差別的なコメントをフェイスブックに書き込んだことから、アンチャリー氏が自身のブログでポスターに関する反応や、これまでテック産業で働いてきた中で受けたセクハラなどをブログに記載し、「私はエンジニアに見える(I look like an engineer.)」と書いた紙を持った自分の写真を掲載した。これをきっかけに、多くの女性や人種的・性的マイノリティーのエンジニアから共感を集め、「私はエンジニアに見える」とハッシュタグをつけた写真が次々とソーシャルメディアに掲載された。さらに、クラウドファンディングによってシリコンバレーの高速道路沿いにビルボード広告を出したり、大企業のCEOや有名投資家でもない、いちエンジニアのアンチャリー氏がテックイベントの「ディスラプトSF」(2015年)でテック産業の多様性をテーマにしたセッションにゲストとして登壇した。
注3:
元社員の女性が告発内容を書いたブログはウーバー社内捜査に発展し、同社はセクハラに関与した従業員20人を解雇するに至った。
執筆者紹介
ジェトロ・サンフランシスコ事務所 調査部
田中 三保子(たなか みほこ)
2015年、ジェトロ入構。外資系消費財企業を経て2012年渡米、サンフランシスコ・ベイエリアでは日系食品メーカー勤務ののち、2015年2月から現職。