特集:女性の経済エンパワーメント海外市場へ広がる女性の活躍(アジア)
内閣府がアジア太平洋の女性起業家の交流シンポを開催

2018年12月17日

内閣府主催のシンポジウム「つなぐ、架け橋 -アジア・太平洋で活躍する女性起業家たち-」が11月18日に東京都内で開催された。「アジア・太平洋輝く女性の交流事業」の一環として3年目の開催となる今回のテーマは「海外ビジネス」。この地域で活躍する国内外の女性起業家や支援団体の代表など30人を招き、海外での起業の経験談や支援プログラム、直面する問題、課題の克服や支援体制などについて議論した。一般参加者を交えたグループディスカッションも実施され、海外ビジネスやスタートアップを検討する女性を中心に約140人が参加して、グローバルな女性活躍に向けての学びと交流が活発に行われた。ジェトロはこのシンポジウムの運営に協力し、グループディスカッションへの参加や会場におけるブース展示を行った。

アジアで活発化する女性起業支援団体の活動

基調講演では、アセアン女性起業家ネットワーク(AWEN)のモム・ルアン・プローヤプン・スリダバット執行役員会長が「女性起業家の海外進出にあたっての女性起業家支援団体の役割とネットワークの力」と題し、AWENの活動について講演した。「ASEANメンバー国の全経済セクターの女性を代表する組織であるAWENの使命は、この地域における女性起業家の能力向上、発展とネットワーク構築の支援にある」と説明、国連の「持続可能な開発目標(SDGs)」の5番である「ジェンダー平等」の問題意識にも合致した取り組みであることを強調した。主な活動として、域内の女性起業家のビジネスマッチング・プログラムや展示会などの企画・開催、ビジネスに関する情報や知見の共有、女性起業家の経営能力やリーダーシップの向上支援などを挙げた、特に、現行の3カ年計画「AWEN プラン2018-2020」では、女性の起業スキルの強化やビジネス環境の向上のための支援活動に取り組んでおり、重点事項として、金融リテラシーの向上やデジタルエコノミーに対応するための能力の向上、女性リーダーや幹部の育成、活躍支援などを挙げた。海外進出支援としてASEAN域内のみならず日本を含む諸外国や国際機関などとの連携について紹介し、海外ビジネス支援におけるネットワーキングの重要性を指摘した。

海外で花開く女性ビジネスの数々

パネルディスカッション1では、「世界へ向かう女性起業家の課題」をテーマに、ロールモデルとなるアジア・太平洋地域で事業展開する国内外の女性起業家が自身の経験を語った。モデレーターを務めた「なでしこVoice」代表の濱田真里氏が海外で活躍、働く女性の声を発信するこの団体の活動をまず紹介したうえで、国内外の女性起業家がそれぞれの取り組みやビジネスの現状について語りつつ、苦労や課題を討議した。菓子店の株式会社ブラウンシュガー1stを立ち上げ、オーガニック食品などの輸入卸売販売を手掛ける同社代表取締役の荻野みどり氏は、2011年にわずか20万円ほどだったビジネスを、今では年商7億円に成長させたという。「わが子に食べさせたいかどうか」を基準に食材を厳選する理念を貫き、より良い原材料を追求する中でココナツオイルに出合った。タイにある取引先企業からの調達を徐々に拡大しながら日本全国のスーパーに販路を開拓、現在はコンビニエンスストアなども含めて3,000~4,000店舗と取り引きしており、同製品の国内におけるトップシェアを実現した。2018年には英国認証機関から「最もおいしいココナツオイル」との評価を得たという。主にフィリピンで活動するエダヤリサーチコーディリエラ代表の山下彩香氏は、2012年に竹のデザインやアートプロジェクトで共同起業、竹のジュエリーや楽器をはじめ、アートの創作を行っている。地域のリソースを使って地域を振興し、文化をデザインに生かして伝統を守ることをモットーに事業を続けている。

シンガポールから来日したAwfully Chocolate の最高経営責任者(CEO) リン・リー氏は、カフェやギフト用のチョコレート作りで起業した。おいしさだけでなく、デザインや文化をチョコレートに込めるブランド化で成功、上海にも出店した。普通のチョコレートでは消費者に訴求できないとの考えから、商品のブランド化を追求したことが成功の秘訣(ひけつ)だったという。韓国から参加したYolk代表のチャン・ソンウン氏が手掛けるビジネスは、太陽光関連製品の開発・製造だ。最初の製品はソーラーペーパーという薄型のソーラーパネルを備えたもので、米国や日本のクラウドファンディングで1億円以上の資金調達に成功した。大学でデザイン工学を学んだという「リケジョ」のセンスが製品作りに生かされている。また、児童労働や貧困削減に強い意欲を持っていた同氏は、ケニアでSolar Cowプロジェクトを立ち上げ、ボコット村の学校にウシ型の太陽光発電装置を設置した。授業中に充電できる装置で、保護者が子供を「労働ではなく、通学に向かわせる」というインセンティブを作り出して成果を挙げている。

女性の強み、人とのつながりを生かす

各氏のビジネスはさまざまだが、海外ビジネスにおける共通の課題として、資金調達と確保、事業パートナーの発掘、ブランドアイデンティティーの構築などが重要だとの意見が多く出された。加えて荻野氏は、日本市場に受け入れられるための品質管理・維持の苦労談も披露した。「日本の品質基準を理解してもらい、日本市場にチャレンジする姿勢を持ち続けてもらうことが大変だった」とし、そのためには現地に足を運んで根気強くコミュニーケーションを図ること、歩み寄れるところは歩み寄り、長期的観点から取引を行うことを訴え続け、取引先からの理解を得たという。

起業を目指す女性に対するメッセージをモデレーターから問われた山下氏は「強い思いや豊かな感性を持っているのが女性の強み。暮らしや社会に対する問題意識を反映した女性ならではのビジネスが有望だ」と述べた。「でも、行動に移せない女性も多い。ある種の突破力というか、いったん実行すると人が付いてきてくれるので、冒険に出るような勇気を持って、まずは踏み出してみてはどうか」とエールを送った。リー氏も、常にオープンマインドの姿勢でビジネスと向き合って来たとしたうえで、百点満点は無いのだからネットワークや人のつながりを大切にしてほしい、と訴えた。家族の理解も重要で「それは平等の精神から生まれる。パートナー同士が互いを尊重し、サポートし合うところから理解が深まっていく」と語った。チャン氏はビジネスを始めることは恐いことだったとしながらも、始めてしまえば人と出会い、人に助けられた、との体験を語った。荻野氏は「娘の未来に何を残すか」を常に考え、ビジネスが誰を豊かにするのかに思いを巡らしながら事業を継続してきたことを再び語った。「そういう強い思いが人々の共感を得て、消費者や顧客の支持、取引相手からの理解にもつながったのだと思う」と結んだ。

モデレーターの濱田氏は「議論を聞いていて浮かんだキーワードは、つなげる(Connecting)、共有する(Sharing)、導く(Mentoring)だった」と総括した。山下氏が述べたように、女性の強みは思いが強く、豊かな感性を持っていることだとすれば、それは製品・サービスを生み出す理念や、それらのブランディングにつながっていく。「共感を得ながら消費者や顧客を巻き込み、広がりをもって社会への影響力を高めていく、そうしたビジネスを具体化する力を有する女性が起業という形で社会進出すれば、新たなビジネスのあり方の創造にもつながるのではないか」と締めくくった。

支援機関に求められる役割は、グローバルな交流と連携

パネルディスカッション2では、国内外の女性起業家支援団体の代表が登壇した。女性経営者や起業家を支援する事業を手掛ける株式会社コラボラボ代表取締役の横田響子氏がモデレーターを務め、支援団体の活動や課題が議論された。

支援機関の活動について、まず全国商工会議所女性会連合会会長の藤沢薫氏が、経営理念やビジネスモデル、事業展開などを評価して女性のビジネスチャンスの拡大を支援する「女性起業家大賞」の実施や、海外での研修や海外女性経済団体との交流などを紹介した。シンガポール・マレー商工会議所(SMCCI)副会長兼女性部(DEWI)代表のファディラ マジド氏は、海外ビジネス支援メニューとしてビジネス相談や海外視察、展示会などへの参加を通じたビジネスマッチングなどの取り組みを話した。次に、会員数3万人を擁し、経済的エンパワーメントを通じて女性の社会進出、起業支援を目指すインドネシアビジネス女性協会(IWAPI)の事務総長常任委員長、リナ・ゾエット氏は、ビジネスに必要なスキルアップのための研修プログラムや女性起業家のスタートアップ支援の活動を紹介した。2015年からインドネシア商工会議所(KADIN)の女性のエンパワーメント部局長をIWAPIの会長が兼任することになり、IWAPIが経済界から認められて商工会議所への参加で組織としてより根を下ろしたため、多くの情報にアクセスして会員に提供できるようになったことは非常に有意義だと語った。

今後の課題についてモデレーターの横田氏からの問題提議に対しては、ビジネスマッチング促進のための女性起業家のデータベース化、コワーキングオフィスの設置といったネットワークの強化に向けた支援や、デジタル化への支援などが挙げられた。政府による女性の海外事業支援のプラットフォーム化を求める意見もあった。支援団体同士の協力を強化する方策として、互いの協力事業や共同調査の実施も提案された。

シンポジウム会場に隣接するスペースでは、これら女性起業家支援団体の活動や事業を紹介する展示、相談コーナーも設けられ、資料配布や閲覧が行われた。参加者が各ブースを訪れて熱心に質問する姿が見られた。


アジア・太平洋で活躍する女性起業家および支援団体の代表者ら(シンポジウム主催者提供)
執筆者紹介
海外調査部海外調査計画課長
的場 真太郎(まとば しんたろう)
ジェトロ・ヨハネスブルク事務所、海外調査部中東アフリカ課長代理、総括課長代理、ジェトロ・ナイロビ事務所などを経て、2017年8月から現職。中東アフリカ課長併任。
執筆者紹介
海外調査部 主査
仙田 浩子(せんだ ひろこ)
経済情報部、海外調査部、総務部、ジェトロ・モスクワ事務所等を経て、2017年7月から現職。