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特集:女性の経済エンパワーメント安心して子どもを預けられる環境づくりが鍵(マレーシア)

2018年5月15日

マレーシアは、女性の労働参加率という点で他の東南アジア諸国連合(ASEAN)加盟国の後塵(こうじん)を拝している。同国政府は2018年を「女性活躍推進の年」と定め、さまざまな施策を打ち出す。マレーシアの女性の悩みは、出産後の職場復帰に向けて子供の預け先を確保できるかどうかであり、女性の労働参加には保育所が重要な要素となっている。省庁や政府機関では事業所内型保育所の設立が推進されており、今後はこうした取り組みが民間企業にも浸透しそうだ。保育所への取材から見えた実態をリポートする。

保育所数は増加傾向

世界経済フォーラムが毎年発表する「世界ジェンダー・ギャップ報告書」の2017年版によると、マレーシアにおける女性の労働参加率は52.8%と、ベトナム(79.9%)、タイ(70.0%)、シンガポール(65.9%)といった他のASEAN主要国に比べて低い。マレーシア統計局の「賃金調査2016年」によると、年齢別の労働参加率では、25~34歳が73.4%と最も高く、35~44歳は66.8%、45~54歳は57.1%と高齢になるにつれ減少する(2018年3月8日記事参照)。マレーシアでは法律上、民間企業で60日間、公務員や政府系機関で90日間の産後休暇が定められているが、保育所などの託児施設の不足により、産後休暇後の職場復帰ができない女性も多い。

日本と同様にマレーシアも、小学校就学前の幼児を保育する施設として主に保育所(Child Care Centre)と幼稚園(Kindergarten)があり、それぞれ管轄省庁、対象年齢が異なる(表1)。産後休暇の取得後、すぐに職場復帰する場合は0歳児保育が可能な保育所を利用する必要がある。

表1:マレーシアにおける保育所と幼稚園の比較
項目 保育所 (Child Care Centre 幼稚園 (Kindergarten
法令 1984年保育所法 (Child Care Centre Act 1984) 1996年教育法 (Education Act 1996
対象年齢 4歳未満 4~6歳
管轄省庁 女性・家族・地域開発省 社会福祉局 教育省州教育局
運営者 個人、団体及び企業 個人、団体及び企業
注:
保育所は、社会福祉局長が必要性を認めた場合、4歳以上の保育も可能。
出所:
各法令

保育所を管轄する女性・家族・地域開発省によると、マレーシア国内では保育所として4,062施設(2016年6月時点)が登録されており、年々増加傾向にある。「1984年保育所法(Child Care Centre Act 1984)」によると、マレーシアの保育所は主に(1)民間企業・非政府組織(NGO)運営型、(2)事業所内型、(3)連邦政府や州政府が援助する地域型、(4)登録した個人の自宅で保育する家庭保育型の4種類がある。最も多いのは(1)民間企業・非政府組織(NGO)運営型施設で全体の8割以上を占める。また、近年では(2)事業所内型のニーズが高く、設置数は前年比25.4%増の178カ所となっている。事業所内型は、省庁や政府系機関が144カ所と多く、民間企業では34カ所にとどまっている。

表2:マレーシアにおける保育所数の推移
種類 2013年 2014年 2015年 2016年 構成比(%) (2016年) 伸び率(%) (2015⇒2016年)
民間企業・NGO運営型 1,912 2,847 3,193 3,393 83.5 6.3
事業所内型 政府 85 139 118 144 3.5 22.0
民間 25 26 24 34 0.8 41.7
110 165 142 178 4.4 25.4
地域型 24 45 43 44 1.1 2.3
家庭保育型 146 496 574 625 15.4 8.9
合計 2,082 3,388 3,810 4,062 100.0 6.6
出所:
マレーシア女性・家族・地域開発省

職員のための保育所は政府系機関にも

マレーシアの保育所の実態を知るため、筆者はコープ・マートレード社のアブー・バカール・ユスフ社長、アスノール・ヴィドヤ・ノール・アズミ取締役を取材した(2018年4月9日)。同社は、マレーシア国際貿易産業省(MITI)傘下のマレーシア貿易開発公社(マートレード)の保育所を運営している。同社は、マートレード職員向けの福利厚生サービスの提供、社会貢献活動などを行っている。


マートレード保育所の概観(向かって右にマートレードビルがある)(ジェトロ撮影)

マートレード保育所は、マートレード本部の敷地内に2008年に設置された。地域社会貢献活動の一環として運営されており、定員に空きがあれば、周辺の公的機関や民間企業の従業員も利用できる。児童数は48名(2018年4月現在)。年齢別に(1)新生児(2カ月~1歳まで)、(2)1歳~2歳児、(3)2~3歳児、(4)3~5歳児の4グループに分け、16名の保育士で保育している。現状、児童は全員マレー系となっている。

マレーシアの保育所では日本と同様に、児童の年齢ごとに、保育士1人が保育できる人数に上限が定められている。0~1歳児の場合は、児童3人につき少なくとも保育士1人が必要だ。ただし、マレーシアの保育士は日本と異なり、国家資格ではない。社会福祉局の指定機関において「基礎保育コース」を受講すれば保育士として仕事ができる。マレーシア会社登記所と国際児童基金(ユニセフ)が公開している「保育所設立に関する手引書」によると、管理者クラスでは幼児教育の大学、または専門学校卒業資格や数年の実務経験などが奨励されているが、必須条件ではない。


マートレード保育所の遊び場(ジェトロ撮影)

就学前教育の充実を求める声も

マートレード保育所では、保育時間は7時半から18時までとなっている。マートレードの就業時間は9時~18時だが、職員の事情に合わせ出勤時間を7時半~9時までの間で柔軟に変更可能で、保育時間もこの制度に合わせている。利用料金は児童の年齢により異なるが、1人当たり月額400~480リンギ(約1万1,000円~約1万3,200円、1リンギ=27.5円)で、民間運営施設よりもやや割安である。時間外保育は延長料金がかかるものの、利用者の都合に応じて18時以降も延長できる(21時くらいまでが一般的だが、交渉次第)。職場の事情に対応しやすい点は、事業所内型保育所ならではの利点だ。

施設は2階建てで、年齢グループごとの部屋、工作を行う部屋、食堂、屋内外の遊び場がある。児童の過ごし方としては、午前・午後に睡眠時間がある他、自由に遊んだり、テレビ番組を見ながら体を動かしたりする時間が多い。1歳児以上のクラスでは工作の時間が増え、3歳児以上のクラスでは週に2回、英語の授業がある。施設での教育は母国語であるマレー語を基本とするが、マレーシアでは就学前の英語教育に熱心な親が多く、要望に応える形で外部から英語教師を招いている。


マートレード保育所の新生児クラス(ジェトロ撮影)

政府も職場併設型の保育所設置を推進

マレーシア統計局の「2017年人口動態統計」によると、2016年のマレーシア全体の合計特殊出生率は1.9、民族別にみるとブミプトラ(マレー系および先住民族の総称)が2.5と最も高く、中華系、インド系はそれぞれ1.3となっている。アスノール取締役によると、「マレー系の家庭では、子供の数は3人が平均的」だという。職場復帰する場合、子供の預け先は(1)保育所、(2)ベビーシッター、(3)近隣に住む両親のいずれかとなるが、「クアラルンプール市を中心とする首都圏では、近隣に親が住んでいないことも多く、費用面からも保育所に預けるのが一般的」(アスノール取締役)だ。

こうした背景から、マレーシア政府としても省庁や政府機関に対して事業所内保育所の設置を奨励している。どの省庁や政府系機関が事業所内保育所を設置しているかについての情報は公開されていないが、マートレードに隣接する国際貿易産業省(MITI)や、地方自治体ではクアラルンプール市に隣接するペタリンジャヤ市役所も、保育所を設置している。マレーシア政府は2018年度予算案で、すべての新設オフィスビルに保育施設の設置を義務付けるよう、クアラルンプール市などの各地方政府に対し勧告しており、民間企業に対しても職場併設型の保育所を増やす方針を明確にしている。

保育所不足、保育士のスキル向上が課題

マレーシアにおける保育所運営の課題について聞くと、アスノール取締役は「保育所と(受け入れ可能な)人数枠の不足」、「保育士のスキル向上や適切な訓練の不足」などを挙げた。保育所不足はマレーシア全体の課題でもあり、施設数は増えているものの、依然として女性の職場復帰を妨げるハードルになっている。定員不足も同様で、「マートレード保育所もすでに児童数が定員に達しており、10名ほど順番待ちをしている状態」(アスノール取締役)とのこと。また、安全管理・衛生面だけでなく、就学前教育という観点からも「保育士へのさらなる教育と訓練が必要と感じている」とアスノール取締役は言う。

しかし、アスノール取締役をはじめ、子供を預けた経験のあるマートレードの女性職員からは、事業所内型保育施設は「すぐ駆けつけられる距離に子供を預けられるのは非常に安心」と好評を得ている。民間企業では大手企業が中心となり、事業所内、または近隣に保育所を設置する事例が増え始めている。知能教育の教材やおもちゃ、コンテンツなどの分野において日本が貢献できる可能性もあるだろう。例えば、大日本印刷が開発した体験型知育コンテンツ「TOYBOX OF JAPAN」は、マレーシア教育省から認定を受けており、2017年4~6月にクアラルンプールで開催された同コンテンツの展示イベントには約3,000人が来場した。

保育所の設立については、女性・家族・地域開発省傘下の社会福祉局への登録のほか、保育所を設置する地方自治体、消防局、保健局の承認が必要になる。社会福祉局の登録証明書は5年ごとに更新が必要だ。なお、子どものデイケアサービスは、それまで必須だった最低30%のブミプトラ資本の保有が撤廃され、2009年から外資100%の参入が可能になった。

執筆者紹介
ジェトロ・クアラルンプール事務所
田中 麻理(たなか まり)
2010年、ジェトロ入構。海外市場開拓部海外市場開拓課/生活文化産業部生活文化産業企画課/生活文化・サービス産業部生活文化産業企画課(当時)(2010~2014年)、ジェトロ・ダッカ事務所(実務研修生)(2014~2015年)、海外調査部アジア大洋州課(2015~2017年)を経て、2017年9月より現職。

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