特集:女性の経済エンパワーメントモロッコ社会の現状と男女平等のための政府計画
モロッコ社会における女性の活躍(1)

2019年8月5日

モロッコの首都ラバトなどの都市部では、一般家庭でも掃除や子守の手伝いとして家政婦を雇う習慣があり、女性が仕事をしながら子育てをしやすい環境がある。家政婦がいない家庭でも、大世帯で助け合って暮らす伝統的文化が残っており、祖父母が子守をしているという例はよく耳にする。一方、地方では、「女性は家事をし教養を深める必要はない」という考えが残っており、地方女性の識字率の低さの一因になっている。

依然として高い地方女性の非識字率と残る失業率の男女間格差

モロッコ高等計画委員会(HCP)の報告によると、2014年時点でモロッコの女性の識字率は57.9%に達し、1960年の4%と比べ大幅に改善した。しかし、2014年時点で地方女性の10人に6人は読み書きができない状況で、都市部女性の非識字率が30.5%であるのに比べ、地方女性の非識字率は60%と高い。地方男性の非識字率は35.2%という結果である。

就業率に関しては、2018年時点で全就業者に占める女性就業者の割合は23.2%と低い。2018年時点の全就業者数は1,081万1,000人で、生産年齢人口の41.7%を占める。失業率は、2018年時点での全体が9.8%で、失業者数は116万8,000人。失業率を男女別にみると、男性の8.4%に比べ、女性は14.0%と高い。ただ、女性の失業率は2017年と比べると0.7ポイント低下している。

世界経済フォーラムがまとめるグローバル・ジェンダーギャップ指数では、2018年時点で対象の149カ国中、日本は110位、モロッコは137位の結果で、モロッコの低さが際立っている(注1)。


土曜日の市場を歩く地方の女性たち
(ジェトロ撮影)

旧市街でパンや菓子を売る女性と買う女性
(ジェトロ撮影)

ラバト市内でショッピングを楽しむ女性たち
(ジェトロ撮影)

女性のエンパワーメント促進のため政府計画を開始

モロッコの家族・連帯・平等・社会開発省は、「男女平等のための政府計画(ICRAM )2012~2016年」(以下、ICRAM1)を2012年から実施。男女の平等の推進や、女性の権利を公共政策に反映することを目的とする。本計画は、主に8つの柱から成り立つ。なお、本政府計画の実行のため、EUから4,500万ユーロの資金提供を受けた。

本計画の8つの主軸は以下のとおり。

  1. 公平性と平等の原則の制度化と普及、確立。
  2. 女性に対する差別や暴力の解決。
  3. 公平性と平等性に基づく教育訓練システムの改善。
  4. 保健サービスへの公平で平等なアクセスの強化。
  5. 女性や女児の生活環境を改善するための基本的なインフラの開発。
  6. 女性の社会的、経済的なエンパワーメント。
  7. 行政、政治、経済における意思決定への公平かつ平等なアクセスの確立。
  8. 労働機会における男女平等の達成。

2016年に同省が発表した成果報告書によると、ICRAM1では、各省庁で計156のプロジェクトが実施され、完全達成率は全体の75%(117のプロジェクトが100%の達成率)となった。例えば、文化・コミュニケーション省の取り組みでは、テレビのニュース番組への女性著名人の出演は、2013年下半期には全体の5%だったが、2014年同期に9.8%、2015年同期には10.1%まで増加した。2015年上半期の全テレビ番組における女性出演率は13.0%となった。

その後、2017年にはICRAMの第2弾として、「男女平等のための政府計画(ICRAM2)2017~2021年」(以下、ICRAM2とする )を開始した。ICRAM1の後、同省は女性の起業家精神と経済的エンパワーメントを促進することを目指している。バシマ・エル・ハッカウィ家族・連帯・平等・社会開発相は、女性の昇進を促進する必要性に触れ、女性の経済的エンパワーメントの低さの原因として、家族内での位置づけに起因して女性事業が不安定にならざるを得ないこと(the precariousness of the female enterprise as a family structure)、女性起業家に対する銀行の信頼が不足していること、女性役員が現状ほとんどいないこと、などが挙げられると、メディア(2018年5月16日)の会見で話している。また、女性起業家が国内の起業家総数の10%しか占めていないという事実にも言及した。ハッカウィ氏自身、女性の大臣である。

ICRAM2は、男女平等の達成と全国民のエンパワーメントを目指し、主に7つの柱から成り立つ。

  1. 女性の雇用力と経済的エンパワーメントの強化。
  2. 家族関係における女性の権利の確立(家事と仕事の両立の強化)。
  3. 女性の意思決定(政治)への参加。
  4. 女性の保護と権利の強化。
  5. (男女)平等の普及およびジェンダー差別や固定観念との闘い。
  6. すべての政府の政策およびプログラムにおけるジェンダー主流化。
  7. 本計画を地域主導で実施すること。

また、2019年3月5日には、同相はICRAM2の一環として、女性管理職や省の幹部向けに、女性の専門技術力強化を通じた、女性のリーダーシップ育成プログラムを開催した。

前述のとおり、モロッコにおける女性の識字率や失業率は改善傾向にあるが、まだ就業者に占める女性の割合は低い。国の計画として男女平等は推進しているが、依然として男女格差指数は低いままだ。そのようなモロッコ社会で活躍する3人の女性に、モロッコ社会で成功する秘訣(ひけつ)、現在の地位に至った過程などを聞いた。次回から紹介する。


注1:
グローバル・ジェンダーギャップ指数(The Global Gender Gap Index):世界経済フォーラム(WEF)が毎年、公表する各国の社会進出における男女格差を示す指標。経済活動や政治への参画度、教育水準、出生率や健康寿命などから算出される上位の国ほど、男女格差が小さいとされる。
注2:
参照:ICRAM1成果報告書(家族・連帯・平等・社会開発省)PDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)(10.6MB)
執筆者紹介
ジェトロ・ラバト事務所
本田 貴子(ほんだ たかこ)
2016年、ジェトロ入構。東京本部にて、ビジネス講座やセミナーのライブ配信・オンデマンド配信の運営、ジェトロ会員サービスの提供に従事。2018年8月から現職。モロッコでの日本企業の投資促進や現地活動支援に従事するとともに、調査・情報発信、現地スタートアップ発掘等にも携わる。