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特集:女性の経済エンパワーメント2018年を女性活躍推進年と宣言(マレーシア)

2018年3月7日

マレーシアにおける女性の労働参加率は約53%で、他の東南アジア諸国連合(ASEAN)加盟諸国と比べて低い水準にとどまっている。育児や介護などによる離職、託児施設の不足、ワーク・ライフ・バランスがとれた職業へのアクセスが制限されているなど、日本とも類似する状況を抱えている。政府は、今後の発展には女性活躍が不可欠として、2018年を「女性活躍推進年」と定めた。男女格差の是正に取り組む事例が増えている。女性活躍に関するマレーシアの現状を概観する。

働く女性は多い?

クアラルンプール市に住んでいると、マレーシアには働く女性が多いという印象を受ける。毎朝の通勤途中でも、自分と同様に通勤中の女性と多くすれ違う。マレーシアの省庁や政府機関との会議では、大抵は女性の管理職が出席している。マレーシアに進出する日系企業においても、特に進出企業数の多い電気・電子分野の製造業では、半数以上の工員が女性である場合が多い。とある日系製造業の経営者によると「電子部品の製造では検査工程が多く、細かな検査作業には女性の方が適している」という。ちなみに、ジェトロ・クアラルンプール事務所も、ナショナル・スタッフ13名のうち8名が女性スタッフだ。独身女性が納入した2015年の個人所得税額は2013年比で18.4%も増加したという統計もある。

女性が憧れるマレーシア人女性

アイコンとも言える、働くマレーシア人女性たちを紹介しよう。公的部門で活躍した女性として記憶に新しいのは、2016年4月に退任したゼティ・アクタル・アジズ中銀元総裁だろう。1997年の通貨危機直後に総裁代行として手腕を発揮し、2000年に女性として初めて総裁に就任した。総裁職を16年間務め、マレーシア経済の安定化に力を注いだ人物だ。世界の中銀総裁トップ10にランクインしたこともある金融政策の専門家でありながら、語り口の柔らかさから、国内外でファンが多い。

マレーシアでは、民族を問わず、若い女性の憧れとなる女性経営者が多い。ロハナ・アズハン氏は、マレーシアの有料衛星放送最大手であるアストロ・マレーシアの最高経営責任者(CEO)を2011年から務め、2016年4月にはグループCEOに就任した。2014年に日本で開催された「女性が輝く社会に向けた国際シンポジウム(WAW! Tokyo 2014)」にパネリストとして参加するなど、女性のエンパワーメントに大きな影響力を持つマレーシア人女性の一人だ。

格安航空会社(LCC)大手のエア・アジア・グループでは、エア・アジア社のCEOであったアイリーン・オマール氏が、2018年1月にグループ全体の副CEOに昇格した。オマール氏はパイロットやエンジニアといった職種に女性を起用することに積極的で、2017年2月にはフライトプランを作成するディスパッチャー、整備士、パイロット、客室乗務員まで全て女性が担当するフライトを企画、運行したことでも知られている。

若手では、女優でかつ起業家としても知られるマレー系女性のニローファ氏、ビビ・ユスフ氏などがいる。両者とも自身のファッションブランドやEコマースサイトを立ち上げ、20代~30代の女性の支持を集めている。マレーシア国内のみならず、東南アジアを中心に海外展開も行っていることも共通する。

男女格差、ASEAN諸国で最下位

活躍する女性が多いという印象のあるマレーシアだが、客観的な統計データからみると、状況は異なる。マレーシア統計局の「労働力調査2016年」によると、都市部での女性の労働参加率は55.8%であるのに対し、地方部では49.2%と5ポイント以上の差がある。民族別にみると、都市部に多く居住する中華系女性の労働参加率は56.3%で、ブミプトラ(51.9%)、インド系(49.0%)と比べて高い。

世界経済フォーラムが毎年発表する「世界ジェンダー・ギャップ報告書」の2017年版によると、マレーシアは144カ国中104位と振るわず、ASEANの中では最下位である。GGIが始まった2006年からの推移をみても、初年度の72位を除けば、その後は90~110位台から抜け出せていない。GGIは経済、教育、保健、政治の主要4分野における男女間の格差を指数化(注1)し、各国に順位を付けている。

マレーシアは、特に経済(87位)、政治(133位)での順位が低い。経済分野における労働参加率をみると、マレーシアは52.8%で、フィリピンの52.6%に次いで2番目に低い(注2)。また、議会の女性議員比率ではマレーシアは10.4%にとどまる。タイ、ブルネイ、ミャンマーよりも高いが、フィリピン(29.5%)の約3分の1の水準だ。現在のナジブ内閣の構成をみると、閣僚35人中、女性大臣は3人しかいない。マレーシアの歴代内閣で、女性大臣が4人以上入閣したことはない。

表:「2017年世界ジェンダー・ギャップ報告書」におけるASEAN各国の順位
国名 総合順位 経済 教育 保健 政治 女性労働
参加率
(%)
議会の
女性比率
(%)
フィリピン 10位 25位 1位 36位 13位 52.6 29.5
ラオス 64位 22位 118位 74位 87位 81.2 27.5
シンガポール 65位 27位 94位 101位 101位 65.9 23.8
ベトナム 69位 33位 97位 138位 97位 79.9 26.7
タイ 75位 24位 106位 51位 127位 70.0 4.8
ミャンマー 83位 26位 95位 66位 132位 79.3 10.2
インドネシア 84位 108位 88位 60位 63位 52.9 19.8
カンボジア 99位 56位 121位 1位 106位 77.9 20.3
ブルネイ 102位 61位 78位 111位 140位 54.1 9.1
マレーシア 104位 87位 77位 53位 133位 52.8 10.4
(参考)日本 114位 114位 74位 1位 123位 66.4 9.3
注:
太字は各分野で最も順位が高い/比率が高いことを示す。
出所:
世界経済フォーラム「2017年世界ジェンダー・ギャップ報告書」

他方、教育分野では、マレーシアは世界的にも高い水準を示している。教育分野の総合順位は77位だが指数は0.99で、男女間の格差がないことを示す1に近い数字である。女性家族地域開発省が発表した「女性エンパワーメントに関する報告書2017年」によると、初等、中等、高等教育それぞれにおける女性の就学率は、いずれも男性を上回っている。特に高等教育における就学率は他のASEAN諸国と比べても高い。同報告書によると、高等教育における就学率は男女で10ポイント以上の差があり、大学の卒業生数のうち約60%は女性が占める。

「二重の負担」が障壁

高い教育を受けた女性が多く存在するはずのマレーシアだが、社会に出るとその男女比は逆転する。マレーシア統計局の「労働力調査2016年」をみると、労働参加率は男性が80.2%に対し女性は54.3%にとどまる。年代別にみると、男性は25~54歳まで90%台をキープしているのに対し、女性は25~34歳に73.4%とピークを迎えたあと、35~44歳は66.8%、45~54歳は57.1%と減少していく。

男女間の賃金にも格差が見られる。マレーシア統計局の「賃金調査2016年」によると、2016年の男性の平均月収2,500リンギ(1リンギ=約27.14円)に対し、女性は2,398リンギにとどまる。民族別では、インド系、中華系、ブミプトラの順に男女格差が大きい。学歴別にみると、高等教育を受けた男女の平均月収はそれぞれ4,497リンギ、3,604リンギと約900リンギもの格差がある。

図:マレーシアにおける男女の賃金格差(月額)
マレーシア全体では、男性の平均月収が2,500リンギに対し、女性は2,398リンギ。以下、民族別。ブミプトラは、男性の平均月収が2,607リンギに対し、女性は2,490リンギ。中華系は、男性の平均月収が3,172リンギに対し、女性2,793リンギ。インド系は、男性の平均月収が2,645リンギに対し、女性が2,013リンギ。高等教育卒業の学歴を持つ人のマレーシア全体の平均月収では、男性が4,497リンギに対し、女性が3,604リンギ。出所は、マレーシア統計局「賃金調査2016年」  
出所:
マレーシア統計局「賃金調査2016年」

女性の労働参加率の低下について人材開発を担当する政府機関の人材開発公社(タレントコープ)は、女性が家族内で家事と育児(または介護)の「二重の負担」を負う傾向が強く、一度離職すると二度と復職しないことが要因だと指摘する。2013年にタレントコープがマレーシア公認会計士協会と共同で行った調査では、マレーシアの女性が離職する主な理由は、(1)子育て、(2)ワーク・ライフ・バランスの欠如、(3)介護などだが、約90%の女性が復職を望んでいるという結果が出ている。しかし、保育園など託児施設の不足やワーク・ライフ・バランスが保たれた仕事に就けないといった課題が、女性の復職を妨げている。

政府、企業はそれぞれのアプローチで対応を

近年、マレーシア人女性の就労を支援する取り組みが始まっている。タレントコープは、女性の復職促進を目的に「キャリア・カムバック・プログラム」を2015年から開始した。同プログラムでは、職場復帰したい女性と企業のマッチングを行うジョブフェアの開催や、復職希望の女性の採用に積極的な雇用者への補助金制度などが用意されている。同プログラムを通じて、2016年は200人以上の女性が職場復帰を果たした。

タレントコープでは、女性の職場復帰の事例紹介や「ライフ・アット・ワーク」と呼ばれる女性や家族に配慮した職場環境を整備する企業の表彰なども行っている。2017年にマレーシア企業部門で受賞した大手銀行グループのCIMBでは、従業員の女性比率が60%に上る。女性や家族向けの福利厚生として、託児所や授乳室の完備、フレックスタイム制度の導入、産後休暇の延長、男女とも利用できる育児休暇制度などを整えているという。

貿易促進を目的とする政府機関のマートレードでは、従業員向けの託児所を併設している。また、近年増加するスタートアップ企業向けのコワーキングスペースでは、子どもを持つ企業家のために、キッズルームや授乳室が用意されている施設もある。


クアラルンプール市内にある民間コワーキングスペース。スペース内にカーテンで仕切れる授乳室がある。
ガラス扉には、授乳室を意味する「哺乳瓶マーク」が。(ジェトロ撮影)

2018年は女性活躍推進の年

ナジブ首相は、2017年10月に発表した2018年予算案スピーチで、「今後の国家の発展において女性が重要な役割を担う」として、2018年を「女性活躍推進の年」と宣言した。2018年予算は、特に公的部門における女性支援を強化する内容となっている。2018年末までに政府関連機関(公社、投資会社など)における役員の女性比率を30%以上に引き上げることを目標とする他、公的部門で働く従業員の産後休暇の延長、2年以上の離職期間後に復帰した女性に対し個人所得税を一定期間免除する職場復帰支援策などの施策が盛り込まれた。また、公的部門で働く女性に対し、妊娠5カ月以降は1時間の勤務時間短縮を可能にすることが盛り込まれたが、その配偶者が同じ地域で勤務している場合、配偶者も1時間の勤務短縮ができる。女性の復職を阻む要因を考慮し、女性だけではなく家族単位での支援も女性活躍促進の一手になるだろう。

2018年1月、政府は「女性活躍促進年2018」という国家計画を発表した。女性の労働参加率の向上、男女格差是正による経済発展を目指したプログラムを実施する他、国民から政府に対して問題提起や提案ができるウェブサイトを設置した。また、女性たちの手本となる存在として、ビジネスや社会活動において著名なニローファ氏、ビビ・ユスフ氏、セランゴール州のゼタシャー王女の3人の女性を選出した。

筆者自身の経験でもあるが、働く女性として先駆者の存在は目標にも指針にもなる。タレントコープのウェブサイトで紹介されている女性たちの復職ストーリーは、国は違えど日本人の筆者から見ても参考になり、励まされるものが多い。2020年までに女性の労働参加率を59%まで引き上げるという目標を掲げ、女性の活躍の取り組む2018年のマレーシアに注目したい。


注1:
男女格差指数は0が完全不平等、1が完全平等を意味する。指数が1に近いほど、男女間の格差がないことを示す。
注2:
『世界ジェンダー・ギャップ報告書』の「経済」の分野は「労働参加率」以外にも、収入格差や職種別の労働参加率などさまざまな要素が含まれており、フィリピンは、労働参加率は評価が低いものの、収入格差は21位、「専門・技術系ワーカー数」が1位と高いため、総合順位は高くなっている。
執筆者紹介
ジェトロ・クアラルンプール事務所
田中 麻理(たなか まり)
2010年、ジェトロ入構。海外市場開拓部海外市場開拓課/生活文化産業部生活文化産業企画課/生活文化・サービス産業部生活文化産業企画課(当時)(2010~2014年)、ジェトロ・ダッカ事務所(実務研修生)(2014~2015年)、海外調査部アジア大洋州課(2015~2017年)を経て、2017年9月より現職。

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