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特集:女性の経済エンパワーメント多様性社会カナダのジェンダー・イクオリティ
政治をリードする女性たちとビジネスにおける女性活躍推進の現状

2019年2月6日

カナダのジャスティン・トルドー首相が、2015年10月の選挙で勝利して組閣したのは、男性15人、女性15人の完全な男女同数の内閣で、当時も大きく話題になった。この内閣は、ジェンダー・イクオリティ(男女平等)を筆頭に、先住民、移民出身者、元パラリンピック選手など多様なバックグラウンドを持つ人々から構成されていたことから、国民の多様性(ダイバーシティ)を重んじるカナダらしい内閣と言われている。

自称フェミニストの首相が導くカナダのダイバーシティ社会

トルドー首相は、フェミニストを自称していることからも知られている通り、ダイバーシティの中でもジェンダーイクオリティを重視している。2015年10月の組閣から、その後数回の改造を経た現在も、35人のうち女性は17人とその構成割合はほぼ変わっていない(表参照)。

表:カナダ閣僚リスト(2019年1月1日時点)(※は女性閣僚)
役職 氏名
首相 ジャスティン P.J.トルドー
公安・非常時対応準備相 ラルフ・グッデイル
農務・農産食品相 ローレンス・マコーレー
※政府‐先住民関係相 キャロリン・ベネット
予算庁長官 兼 デジタル政府相 スコット・ブライソン
政府間関係・北方・国内貿相 ドミニク・ルブラン
イノベーション・科学・経済開発相 ナヴディープ・シン・ベインズ
財務相 ウィリアム・フランシス・モルノー
※法務相 兼 司法長官 ジョディー・ウィルソンレイボールド
※外務相 クリスティア・フリーランド
※先住民サービス相 ジェーン・フィルポット
家庭・子供・社会開発相 ジャンイブ・デュクロ
運輸相 マルク・ガルノー
※国際開発相 マリークロード・ビボー
国際貿易多様化相 ジェームズ・ゴードン・カー
※観光大臣、公用語・仏語圏諸国連合相 メラニー・ジョリー
※歳入相 ディアンヌ・ルブティリエ
※環境・気候変動相 キャサリン・マッケナ
国防相 ハルジット・シン・サージャン
天然資源相 アマルジート・ソーヒ
※女性の地位相 マリアム・モンセフ
※公共サービス・調達・アクセシビリティ相 カーラ・クワルトロー
※科学相 兼 スポーツ相 カースティー・ダンカン
※雇用・労働力開発・労働相 パトリシア A.ハイデュ
※与党下院院内総務 バーディッシュ・チャガー
インフラ・地域社会相 フランソワフィリップ・シャンパーニュ
※民主機構相 カリナ・グルド
移民・難民・市民権相 アハメッド D.フッセン
※保健相 ジネット・プチパ・テイラー
復員軍人相 兼 国防副大臣 シームス・オリーガン
カナダ民族遺産・多文化主義相 パブロ・ロドリゲス
国境警備・組織犯罪削減相 ビル・ブレアー
※中小企業・輸出振興相 メアリー・エング
※高齢者相 フィロメナ・タッシ
漁業海洋・カナダ沿岸警備隊相 ジョナサン・ウィルキンソン
出所:
カナダ大使館ウェブサイトを基にジェトロ作成

政界の要職につく女性たち

筆者がここトロントに赴任した2016年8月当時、カナダにある10の州のうち、3つの主要州[トロントのあるオンタリオ州、バンクーバーのあるブリティッシュ・コロンビア州(BC州)、そして天然資源でカナダ経済を支えてきたアルバータ州]で州首相を務めるのは女性で、そのことに、純粋に驚いたことを覚えている。

そもそも、カナダという国の国家元首は英国の女王エリザベス二世であり、女王の名代を務めるカナダ総督は、2017年10月に元宇宙飛行士のジュリー・ペイエット氏が就任している(女性としては4人目)。女性がトップに君臨していることが、ごく自然に受け入れられている社会だ。

対外的にも、2016年当時、クリスティア・フリーランド国際貿易相は、EUを相手にEU・カナダ包括的経済貿易協定(CETA)の調印に貢献するなど、リーダーシップを発揮する姿が目を引いた。その後の内閣改造で外務相に抜てきされた同氏は、2018年の北米自由貿易協定(NAFTA)再交渉の難局においても、冷静に粘り強い交渉を続けた。トランプ米大統領が「NAFTAからの離脱」や「カナダを外したメキシコとの単独交渉」などをちらつかせる中、最終的にカナダにとって良い結果に導いたことが高く評価され、カナディアン・プレスの「2018年経済分野・今年の顔」に選ばれた。

そのような政界における女性のリーダーシップを絵に描いたような国カナダだが、ビジネスにおいてはまだまだ課題が多い。

女性の社会進出の推移

1950年代のカナダでは、女性の就業率は24%で男性(96%)との差は70ポイント以上もあったが、その後、女性の社会進出が促され、2014年にはその差が10ポイント未満に縮まった(図参照)。職場に占める女性の割合も、47%と半数近い数字になった。

図:カナダにおける25歳~54歳の就業率
1953年男性96%に対し女性24%、1990年は男性93%に対し女性76%、2014年は男性91%に対し女性82%。

出所:カナダ統計局

しかし、今も男女の賃金格差や保育所の整備、性別に基づく暴力への対策など、改善の取り組みは続く。カナダアジア太平洋基金(APF)バイスプレジデントのクリスティン・ナカムラ氏は、女性がビジネス界で力を発揮するために必要な要素が4つある、と語る。

  1. 女性の就職または再就職を可能にするため、子供を預けられる十分な保育施設と保育料の適正化
  2. 女性がより早くトップに立つためには、より多くのパイプライン(幹部候補)を確立
  3. 指導的立場に立つことを希望する女性を支援するためのトレーニングプログラム(官民の出資による)
  4. 女性の声を強化するために、ビジネスにおけるさまざまな女性のための既存ネットワーク(カナダには約400存在)の結び付け

クリスティン・ナカムラ氏(アジア太平洋基金提供)

これは、ナカムラ氏が日頃、カナダ各地で働く女性たちとの会話に基づく見解だ。それでもカナダでは、上級管理職・役員の女性割合を30%とすることについて支持が拡大している。すでに女性が経営トップに就いている組織では、役員において男女平等を達成しているケースが多いという。日本では、2017年時点で上場企業における女性の役員割合は3.7%外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます 。第4次男女共同参画基本計画において、上場企業役員に占める女性の割合を「早期に5%、さらに2020年までに10%を目指す」こととしている状況と比べれば、3~6倍も先に進んでいる。

中小企業・輸出振興相に聞く女性起業家推進政策

カナダ政府は、女性起業家を推進する政策も進めている。トルドー内閣の、メアリー・エング中小企業・輸出振興相とインタビューをする機会を得て、現在の取り組みについて聞いた。


メアリー・エング中小企業・輸出振興相(カナダ連邦政府より入手)
質問:
カナダがジェンダー・イクオリティにおいて、すでに進んでいると思われる点はどのようなことか。
答え:
カナダの内閣は50%が女性で構成されている。これは、社会での女性の参画を増やし、ジェンダー・イクオリティを促進する政策を築いていくための、意識的な取り組みとなっている。また、カナダでは、女性が育児の責任をパートナーと共有しながらキャリアを継続できるように、育児休業法に関する方針を変更した。また、この問題について、特に労働者階級の家族を支援するため児童手当制度もある。トルドー政権になってから、保育施設を4万カ所増やし、状況を改善している。
このほかにも、連邦法によって設立された企業に対しては、取締役会の構成員と上級管理職の性別比率を公開するよう奨励したり、男女賃金格差を解消するための賃金衡平法を導入したりしている。さらに、ジェンダーに基づく暴力に対処するための戦略の制定や、また、女性を支援するために手頃な価格の住宅提供の政策といったところである。
質問:
エング中小企業・輸出振興相は、トルドー首相から女性起業家推進を任されているが、どのような経済効果があると考えるか。

インタビューに応じたエング中小企業・輸出振興相(中央)と筆者ら(ジェトロ撮影)
答え:
私は、トルドー首相より、2025年までに女性起業家の数を倍増するという使命を受けている。カナダの企業の99%中小企業で、そのうちオーナーまたは経営トップが女性なのは16%に過ぎない。マッケンジー研究所のレポートでは、女性主導の企業数を増やすことで、2026年までにGDPを1,500億カナダ・ドル増やすことが可能になると言われている。政府は「女性起業戦略(Women Entrepreneurship Strategy)」のために20億カナダ・ドルの予算を投じているが、これが莫大(ばくだい)な投資収益率(ROI)となることを期待している。
質問:
先日、カー国際貿易多様化相が「現在、女性主導の企業のうち、海外輸出をしているのは11%にすぎない。今後のカナダ全体の輸出促進のためには、こうした女性主導の企業に輸出に挑戦してもらうことが重要である」と述べている。
答え:
カー国際貿易多様化相と私の仕事は非常に補完的な関係にある。カー国際貿易多様化相は他国との交渉によって扉を開けること。 そして私の責任は、カナダの企業がそのドアを通り抜けるのを助けることだ。今後、環太平洋パートナーシップに関する包括的および先進的な協定(CPTPP、いわゆるTPP11)の発効を通じて、特に日本との貿易の機会を活用できるように、カナダの企業の輸出準備を強化したいと考えている。

カナダと日本の共通点と相違点

2018年に管理職になったばかりというカナダ人女性から、こんな話を聞いた。「これからお客さまに会うのに、まだこのポストについて間もないから、うまく説明できるか分からなくて緊張する。女性は完璧に近くないと自信が持てないけど、男性って70%の自信でも『(自分は)できる』って言うじゃない? 」。北米のキャリアウーマンたちは、ジェンダーの垣根を越えて、自信にあふれた心持ちなのかと勝手に想像していたので、確信が持てるまでつい手を挙げることにちゅうちょしてしまう自分にも重なる発言に驚いた。彼女の発言のとおり、男女の行動傾向に違いがあるとすれば、実力をなかなか発揮できない女性たちを励まし、育て、機会を与えることが、社会を動かす大きな原動力になりそうだ。その機会の与え方が、閣僚の割合でいえば50%が女性、上級管理職および役員の割合でいえば30%が女性と、日本と比較して格段に大きな割合のカナダにおいて、ジェンダー・イクオリティが持つ強みを誇りとし、世界に発信していくように、今後も注目していきたい。

執筆者紹介
ジェトロ・トロント事務所 次長
江﨑 江里子(えざき えりこ)
国際交流部、貿易投資相談センター、総務部等を経て、2016年8月より現職。

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