サンフランシスコ市、給与全額支給の育児休暇を義務付け-全米で初の制度導入-

(米国)

サンフランシスコ発

2016年04月22日

 サンフランシスコ市内の企業に対して、2017年1月から順次、給与を全額給付する育児休暇が義務付けられることになった。給与の全額支給と、有給育児休暇の義務化は全米で初めて。高騰を続ける住宅価格と物価はもはや低・中間所得層だけの問題ではなくなっており、行政が被雇用者の保護に乗り出す。

<従業員20人以上の企業が対象、2017年から順次実施>

 サンフランシスコ市議会は45日、同市内の企業に対して、最長6週間の育児休暇中の給与を全額給付することを義務付ける条例案を可決した。給与の全額支給という点と有給育児休暇付与の義務化という点で、全米初の制度となる。

 

 対象となる企業は、従業員が20人以上で、そのうち少なくとも1人がサンフランシスコ市内で勤務していれば条例が適用される。受給対象者は1週間に8時間以上勤務し、後述するカリフォルニア州有給家族休暇プログラムの受給資格があることが条件だ。養子を迎えるカップルであっても母親、父親ともにこの有給休暇取得が可能で、同性カップルも例外ではない。ただし、同休暇の取得以前に少なくとも180日勤務していなければならない。

 

 従業員数50人以上の企業は201711日から、35人以上50人未満の企業は201771日から、20人以上35人未満の場合は201811日から条例が施行される。

 

<企業が45%を負担し給与の全額支給を実現>

 米国では連邦政府の定める最長12週間の無給育児休暇の付与が企業に義務付けられているだけで、それ以外は各州や雇用主に委ねられているのが現状だ(2015年8月25日記事参照)。州政府として、何らかの有給育児休暇を支援する制度はカリフォルニア、ニュージャージー、ロードアイランドの3州で提供されている(「ジェトロセンサー」2015年9月号エリアリポート参照)。また、ニューヨーク州は44日、アンドリュー・クオモ知事が最長12週間の有給育児休暇法案に署名し、2018年から段階的に施行される。一方で、2015年に施行予定だったワシントン州は、財源不足で実施を見送ったままだ。

 

 カリフォルニア州では現在、傷害保険と有給家族休暇プログラムによって、被雇用者は週給の55%を最長6週間受給できるが、これは被雇用者の給与から差し引かれる積立金を財源としている。今回の条例は残り45%を企業側が負担することで、給与全額支給の有給休暇を実現しようとするものだ。

 

 なお、同州のジェリー・ブラウン知事は411日、有給家族休暇プログラムの拡張法案に署名した。これにより、週給の55%だった被雇用者の負担額が所得に応じて60%または70%に拡大され、企業の負担を緩和することになる。

 

<生活費の高騰に悩まされるベイエリア住民>

 同条例に関し、地元中小企業は多大な負担になるとし、「他市の企業との競争力に関わってくる。サンフランシスコから移転するところも出てくるかもしれない」と反発する様子が報道されている。

 

 しかし、シリコンバレーの大手IT企業が高額な給与と有給育児休暇を含む福利厚生を充実させている一方で、サンフランシスコ・ベイエリアの低・中所得層が企業から有給育児休暇が付与されることはほとんどなく、厳しい生活の現実にさらされている。サンフランシスコ市のアパートの家賃(中央値)は、1ベッドルームが3,590ドル、2ベッドルームは4,850ドル(不動産検索サイトのザンパー調べ、20163月時点)と高騰しているのに加えて、物価も全米平均と比べ極めて高い(表参照)。

表 全米平均とサンフランシスコ市の物価比較

 サンフランシスコ・ベイエリアにおいて、生活費の高騰に悩まされているのは低・中間所得層だけではなくなってきている。証券会社チャールズ・シュワブがサンフランシスコ・ベイエリア在住の2175歳の1,001人を対象に行った調査(329日発表)では、66%が「ベイエリアの生活費は法外」と回答した。また、回答者が考える「米国の他の地域における裕福の基準」は「純資産2572,000ドル」だったのに対し、「ベイエリアにおける裕福の基準」は「純資産6386,000ドル」で、ベイエリアでの「経済的に快適に暮らせる基準」は「純資産1446,000ドル」という結果だった。

 

(田中三保子)

(米国)

ビジネス短信 42b92f971d05f39c