1. サイトトップ
  2. 海外ビジネス情報
  3. 地域・分析レポート
  4. 特集
  5. 女性の経済エンパワーメント
  6. ニューヨークは女性起業家の成長を促す都市ナンバーワン(米国)

特集:女性の経済エンパワーメントニューヨークは女性起業家の成長を促す都市ナンバーワン(米国)

2018年5月11日

米パソコン大手のデルが、2017年7月に発表した、女性起業家の成長を促す都市ランキング、「2017 Women Entrepreneur Cities (WE Cities) Index外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます 」でニューヨークが前年に続き、首位に輝いた。女性起業家を支援するニューヨーク市の取り組み、女性起業家を支援するコワーキングスペース、ベンチャーキャピタルなどエコシステムの最近の動きを紹介する。さらに、女性起業家によるスタートアップの成功事例を取り上げ、ニューヨークのスタートアップの特徴を明らかにしたい。

市場、文化、資本で特に高い評価

WE Cities Indexはデル独自の調査に基づき、五つの項目でランク付けし、総合順位を決めている。五つの項目とは、「市場」、「人材」、「資本」、「文化」、「テクノロジー」である。これらの項目には合計72の指標が設けられており、このうち約3分の2にあたる45の指標には性別に基づく要素が含まれる。

1位のニューヨークの後はサンフランシスコ、ロンドンが続いた。項目別にみると、ニューヨークは「市場」と「文化」で1位を獲得、「資本」も2位と特に評価が高く、「テクノロジー」は4位、「人材」も6位と、全ての項目において高評価を得ている。なお、トップのニューヨークの他、米国の都市は2位のサンフランシスコや4位のボストンなど、上位10位以内に6都市がランクインしており、女性起業家の成長を促す環境に優れた都市が多いことが示されている。

ニューヨーク市で女性起業家の活躍は統計データでも確認できる。ニューヨーク市小企業サービス局(Small Business Services)の報告書PDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)(9.5MB) (2015年)によると、女性起業家の数は市内全体で35万9,000人で、全米における女性オーナーの企業数の割合が全米1位となっている。女性が経営する企業は19万人の雇用を創出し、年間500億ドルの利益を生み出している。企業数は男性オーナー企業が2002~2014年の間に25%増加しているのに対し、女性オーナー企業はそれを大きく上回り43%増加している。

表1:女性起業家の成長を促す都市の世界ランキング(2017)

総合
順位 都市名・国名
1 ニューヨーク(米国)
2 サンフランシスコ(米国)
3 ロンドン(英国)
4 ボストン(米国)
5 ストックホルム(スウェーデン)
6 ロサンゼルス(米国)
7 ワシントンDC(米国)
8 シンガポール(シンガポール)
9 トロント(カナダ)
10 シアトル(米国)
項目別ランキング(都市別)
順位 市場 人材 資本 文化 テクノロジー
1 ニューヨーク ワシントンDC サンフランシスコ ニューヨーク オースティン
2 サンフランシスコ パリ ニューヨーク シドニー ロンドン
3 ロンドン ボストン ロンドン トロント ストックホルム
4 シカゴ ミネアポリス ボストン ストックホルム ニューヨーク
5 クアラルンプール ロンドン ロサンゼルス シンガポール 香港
6 シアトル ニューヨーク ナイロビ サンフランシスコ シアトル
7 テルアビブ バルセロナ シンガポール ロサンゼルス サンフランシスコ
8 ベルリン サンフランシスコ シカゴ メルボルン マイアミ
9 ワシントンDC 北京 ストックホルム アムステルダム ボストン
10 バンガロール ストックホルム 北京 ミネアポリス シンガポール
出所:
米国デルの2017年「デル女性起業家都市指数」ランキングを基に作成

資金調達支援のためクラウドファンディングを立ち上げ

ニューヨーク市の取り組みとして、女性起業家支援機関「WE NYC(Women Entrepreneurs NYC)」が2014年に設立された。同プログラムは、金融機関、起業家、大学、非営利団体やメディア機関等と産官学連携によって、女性起業家への教育、トレーニング、関係者とのネットワーク作りの支援などを行うほか、資金調達や融資に関するアドバイスも行っており、企業立ち上げに必要なサポートを包括的に提供している。例えば、WE NYCが提供するプログラム「WE Master Leadership」では、起業家が投資家などに対して自身の製品やサービスを紹介するビジネスピッチの際に役立つ秘訣(ひけつ)や、指導力を磨くためのワークショップ等を定期的に開催している。2015年より起業家向け支援事業を開始した「WE NYC」は、2018年までの3年間で5,000人の女性起業家に対して、総合的支援を行うことを目標に揚げている。

WE NYCが女性起業家を対象に行った調査によると、企業を立ち上げる際に7割もの女性が資金調達が最大の課題として挙げた。そこでデブラシオ市長は、女性起業家のためにインターネットを通じて低金利の開業資金を集めるクラウドファンディング「WE Fund Crowd」の導入を発表した。新プログラムは、非営利団体のクラウド・ファンディング・プラットフォームである「Kiva.org」との提携を通じて、1万ドルまでの低金利の開業資金を集めることが可能である。市内の女性起業家が必要とする開業資金は1万ドル以下であることが多いが、銀行などは少額の融資を拒み、高金利の金融機関に頼らざるを得ない現状がプログラム導入の後押しとなった。

女性専用のコワーキングスペースなど充実するエコシステム

こうした行政の取り組み以外にも、ニューヨーク市では女性起業家への支援活動が盛んだ。最近では女性同士が同じ空間で働きながら、コミュニティー作りもできる女性専用の会員制コワーキングスペースが増えている。その中で、最も注目を集めているのが、2016年10月にニューヨーク市フラットアイアン地区に開設した「The Wing」である。同社は、開設1年目にして入会希望者8,000人が殺到し、2017年に2拠点目をソーホー地区に開業した。現在4拠点で展開しており、今後は西海岸のほか、ロンドンやトロントなど海外への拠点拡大も計画している。2017年にはコワーキングスぺ―ス大手「Wework」から3,200万ドルの資金も調達している。

室内にはパステル調の家具がゆったりとした空間に配置されており、フェミニズム関連の資料や女性作家による本が並ぶ図書室、有名女性シェフが運営する人気カフェのほか、更衣室、化粧室、授乳室など女性にとって快適な設備が充実している。年会費は2,300~2,700ドル(注)であるが、誰でも会員になれる訳ではなく、既定の応募フォームから申請を行い、一定の審査を受ける必要がある。同社は各応募者の職業や人種、年齢なども考慮した上で会員選定を行っており、各ワークスペースにおいて多様な経歴・バックグラウンドを持つ女性のコミュニティー作りに重点を置く。その他にも、ニューヨーク市内には既に女性専用コワーキングスペースの「She Works Collective」が2015年に創業しており、また、同様のサービスを提供する「ザ・XXハウス」が2018年中に開設が予定されているなど、女性同士が交流を深められるコワーキングスペースの開設が増えている。

また、女性起業家専用のベンチャーキャピタルもある。2013年にニューヨークで設立されたフィーメール・ファウンダーズ・ファンド(Female Founders Fund、以下:FFF)は、女性が立ち上げたテック系企業のみに投資をするベンチャーキャピタルだ。同ファンドは、投資先のスタートアップに資金を提供するだけでなく、テック産業で活動する最高経営責任者(CEO)やエキスパートとのネットワークも積極的に提供し、女性起業家を支援している。これまでには、女性専用オンラインクリニック「Maven Clinic」、ブライダルコンシェルジュサイト「Lover.ly」、女性専用の転職サイト「Landit」など、女性起業家によるスタートアップに投資をしている。

表2:ニューヨーク発女性起業家による女性向けサービス・商品
企業名 設立年 分野 概要
レント・ザ・ランウェイ
(Rent the Runway)
2009 ファッション デザイナーブランドの衣類やアクセサリーを低価格で貸し出すファッションレンタルサービス
バウブル・バー
(BaubleBar)
2011 ファッション 最新のトレンドを取り入れた中間価格帯のジュエリーを販売するアクセサリーブランド
ファンクション・オブ・ビューティー
(Function of Beauty)
2015 美容 個々の髪質に合ったオーダーメードのシャンプーとコンディショナーを作れるサービス
バーチボックス
(Birchbox)
2010 化粧品 高級化粧品の試供品セットが届けられる定期購入サービス
グロッシエ
(Glossier)
2013 化粧品 天然素材を使用した化粧品の商品開発を行うブランド
ランドイット
(Landit)
2014 人材雇用 女性特有の悩みに対応するメンターとのマッチングから転職支援まで行う女性専用の人材サービス
ワーク
(Werk)
2016 人材雇用 仕事と育児の両立を希望する女性に対して、柔軟性のある職場を紹介する人材プラットフォーム
ガールズ・フー・コード
(Girls Who Code)
2012 教育 10代の女子生徒を対象に無料でプログラミング講座を提供する非営利団体
エルベスト
(Ellevest)
2016 金融 ビジネスコーチングや認定金融プランナーなどからの個人指導も受けられるオンライン投資プラットフォーム
フィーメール・ファウンダーズ・ファンド
(Female Founders Fund)
2013 ベンチャーキャピタル 女性が起業したテック企業のみに資金調達・ネットワーク作りを提供する投資会社
メイヴェン・クリニック
(Maven Clinic)
2014 ヘルスケア 婦人科や小児科の診断をオンライン動画で受けられる女性専用のオンラインヘルスケアプラットフォーム
ザ・スキム
(theSkimm)
2012 メディア 若い女性を中心に、国際情勢から雑学まで、世の中の動きをわかりやすくコンパクトにまとめた日刊メールマガジン
ザ・ウイング
(The Wing)
2016 コワーキング・スペース 女性限定のコワーキングスぺース兼社交クラブ
モナーク
(Monarch)
2017 インキュベーター 女性主導の企業に対して、資金調達やメンターシップなどの支援を行う事業者
出所:
各社のウェブサイトより筆者作成

小売り、ファッションなど業界経験者の女性が次々と起業

こうしたエコシステムのサポートを受けて、ニューヨークでは女性ならではの視点を生かした女性起業家による女性向けのスタートアップが次々と立ち上がっている(表2)。その代表的な企業として、オンラインファッションレンタルサービスのレント・ザ・ランウェイ(Rent the Runway、以下:RTR、2009年設立、本社:ニューヨーク)が挙げられる。同社は、女性が憧れる高級ブランドかつフォーマルウエアのドレスやアクセサリーなどのレンタルサービスを提供している。結婚式やパーティーなどのイベントに出席する女性に、すてきなドレスを「買う」のではなく、「借りる」という選択肢を提供したのだ。RTRのCEOであるジェニファー・ハイマン氏は、「女性たちの自宅のクローゼットをクラウド化する」という理念を揚げている。利用者は250以上のデザイナーやブランドからドレス、ハンドバッグ、コートなどのアイテムを借りることができる。

また、バーチボックス(Birchbox、2010年設立、本社:ニューヨーク)は、高級ブランドの化粧品サンプルを毎月10ドルで自宅に配達するサービスを行っている。利用者は会員登録を行う際に、髪質や肌質、美容に関する質問に回答することで、個々の好みに合わせてカスタマイズされた詰め合わせが届けられる。化粧品サンプルの配達は珍しくないが、試供品を届けたら終わりというサービスが圧倒的に多い。一方、バーチボックスでは、消費者が商品を気に入れば、通常サイズの商品も購入できる仕組みとなっている。さらに、配送された商品を初めて使用する利用者を想定し、各商品の使い方を動画で紹介するというサービスも提供している。

オンラインビジネスではじまったバーチボックスは2014年7月、マンハッタンのソーホー地区に初の実店舗を開設した。店舗では、月替わりのおすすめサンプル化粧品の中から、顧客は5種類を選んでオリジナルの「バーチボックス」を作れる「BYOB(Build Your Own Birchbox)コーナー」が設置され、オンラインでは提供できない体験型サービスに重点を置く。また、店舗ではヘアスタイリングやメーキャップ、ネイルサービスを体験して各商品の使用感を確かめられるとともに、プロのアドバイスも参考にしながら、自身に合った商品を探し出せる。


バーチボックス店舗内に並ぶ各化粧品ブランドの試供品(ジェトロ撮影)

前述のベンチャーキャピタルFFFの共同設立者であるアン・デュガール氏は「ニューヨークのスタートアップ企業はより多様性に富んでいる。ニューヨークは、小売り、ファッション、マーケティング、メディアなど、多様なバックグラウンドを持つ女性が存在し、そういった人々が能力を生かせる場所である」と指摘する。またニューヨークのスタートアップ事業に詳しい専門家は、ニューヨークの特徴として、「各業界での勤務経験を持つ人々が集まり、その業界が抱える課題など内部事情に詳しいインサイダーが起業するケースが多い」と述べる。表2で紹介しているスタートアップの事例にもこうした特徴が表れている。スタートアップの中心地、シリコンバレーでは技術系スタートアップが多い一方、ニューヨークは女性が活躍するさまざまな業界の中心地であることから、女性にとってもより起業しやすい環境を有しているといえるだろう。


注:
「The Wing」は、特定の拠点を利用するプラン(年会費2,350ドル、月額215ドル)と、全拠点を自由に利用できる無制限プラン(年会費2,700ドル、月額250ドル)と、二つの会員プランがある。
執筆者紹介
ジェトロ・ニューヨーク事務所 調査部
樫葉 さくら(かしば さくら)
2014年、英翻訳会社勤務を経てジェトロ入構。現在はニューヨークでのスタートアップ動向や米国の小売市場などをウォッチ。

この情報はお役に立ちましたか?

役立った

役立たなかった

ご質問・お問い合わせ