特集:女性の経済エンパワーメントスタートアップの活動者と支援者(モロッコ)
モロッコ社会における女性の活躍(3)


2019年8月5日

前回に引き続き、モロッコで活躍する女性に、話を聞く。今回はビジネス・スタートアップの分野で活躍する、WaystoCapの共同創設者兼最高経営責任者(CEO)のニエマ・エルバスニ氏と、起業家・スタートアップ支援で活躍するStartUp Maroc の共同創設者兼代表取締役社長のジネブ・ララス氏の2人に話を聞いた(7月10日、6月10日)。

アフリカ初のBtoB取引オンラインプラットフォームを立ち上げる

モロッコのスタートアップであるWaystoCapは、2014年にモロッコ・カサブランカに設立。BtoB取引オンラインプラットフォームの提供を通して、アフリカ企業と世界各国企業との安全かつ適正価格での商品取引を可能にする。具体的には、商品検索から、取引先との価格交渉、契約、配送手配、保険、支払いの保証、倉庫管理まで、商品取引の一連の流れをサポートするオンライン・プラットフォームの提供だ。2018年には世界経済フォーラムの テクノロジー・パイオニア・アワードを受賞するなど、その活動が高く評価されている(注1)。


共同創設者兼最高経営責任者のニエマ・エルバスニ氏
(WaystoCap提供)
質問:
現在に至るまでの経緯、これまでの過程で苦労したことは。
答え:
モロッコのカサブランカに生まれ、カサブランカのアメリカンスクールに通い、渡英。ロンドン大学LSE校で政治経済、国際関係学などを専攻した。大学卒業後は、国際大手会計事務所でエネルギーマーケットのアドバイザリーとして働き、米国証券アナリスト資格であるCFAも取得した。この間、アフリカでのリサイクルプロジェクトなどに従事した。また、ギニアで8カ月間暮らしたことは、アフリカの可能性に気付いた人生の転機である。それで、アフリカのビジネス支援をしたいという熱意に火が付いた。
質問:
現在の目標は。
答え:
当社の目標は、アフリカの中小企業に国際市場へのアクセスを可能にするための必要なツールを与えることで、成長するアフリカの中小企業を支援することだ。

女性も男性も成長・成功するカギは一生懸命働き、自分を信じること

質問:
モロッコの女性の社会進出の現状は。
答え:
モロッコは急激に変化している国だ。この国で生まれ育ったことで、男性にとっても女性にとっても、良い影響をもたらす変化を多く見てきた。エコシステムの変化・発展は男女がそれぞれにおいて成功する上で欠かせない。また、女性の起業を促進するためには、女性起業家のサクセスストーリーを共有することが、他の女性らが自身の可能性を信じ行動を起こすきっかけになると考える。
質問:
(モロッコ)社会で成功する秘訣(ひけつ)は。
答え:
一生懸命働き、自分自身の行いを信じることは、モロッコを含め万国共通の成功へのカギではないかと思う。

モロッコのスタートアップ・エコシステムの発起人

2人目の女性は、StartUp Maroc で共同創設者兼代表取締役社長を務めるジネブ・ララス氏。StartUp Marocは、2011年にモロッコ・ラバトに設立された非営利組織(NPO)で、起業とイノベーションを通じた雇用創出と経済発展の促進を活動目的とする(2019年7月12日付地域・分析レポート参照)。設立以来の8年間で、国内16都市で約100のイベントを企画し、2万人以上の若者と300のスタートアップに影響を与えた。同氏によると、StartUp Marocの設立がモロッコでのスタートアップ・エコシステムの始まりとのこと。同氏は、Techwomen(注2)を2013年に卒業。女性や若者をエンパワーメントする多くのボランティア活動にも関わっている(注3)。


共同創設者兼代表取締役社長のジネブ・ララス氏
(StartUp Maroc提供)
質問:
現在に至るまでの経緯、これまでの過程で苦労したことは。
答え:
学校を卒業後、仕事とは別に社会活動家として、人々の生活を変えることができるような活動を探していた。その結果、ソフトウエアエンジニアや起業を促進する多くのイベントを組織する協会を共同設立。併せて、若者をメンタリングするさまざまなボランティア活動にも参加した。仕事で高めたスキルは、自己実現の強力な手段だ。そして、そのスキルをスタートアップのプログラムを組織するために活用すること、また、そのことで起業家や起業エコシステムへの良い影響が目に見えることは活力にあふれ、満足感の得られるものである。
そのため、2011年にStartUp Marocを立ち上げ、フルタイムで起業やスタートアップ設立の促進に取り組むことにした。起業家が活動を行う上で必要となる資金援助やメンター、ネットワーキングなどを提供することでモロッコの新興エコシステムの支援・促進を目指す。

20代で部のマネージャーとしてリーダーシップを鍛える

StartUp Maroc 以外で、職業上の最大の経験は、前職のフランス系保険会社(AXA Insurance)での経験だ。ヘルス・ライフプロダクション部で16人のチームをマネージャーとして率いた。マネージャーとして、会社全体の戦略に沿って部の戦略計画を立て、計画を具体的なプロジェクトに落とし込み、実績を管理、活動全体の成果を評価するためのダッシュボードを実行し、起こりうる失敗を予測する中で予防策を立てた。

26歳の時に、平均年齢が50代の部署の管理に従事した。これは本当にチャレンジングなことだった。チームへの敬意と各チームメンバーの専門を認識することで、マネージャーという新しい役割を務めることができた。チームメンバーのタスクを理解することで、革新的な結果を生み出す創造的な方法を想起することができた。管理するという経験は、自分のリーダーシップを証明するための機会であった。チームメンバー全員を組織し、目標の達成のみを追い求めたのではなく、自分たちのプロジェクトが達成するまでの大きな過程を描くことができた。モチベーションの高いメンバーの支えのおかげで、活動をモニターし、プロジェクトを動かし、全工程を見直し、管理ツールを自動化し、会社のために素晴らしい成果をもたらすことができた。

小さな力が合わさり大きな力に、若者・起業家支援を通して社会全体へ影響を

質問:
現在の目標と信念は。
答え:
周囲の人の生活を変えたいという熱意や願いは、自分の人生のすべてのステップにつながっている。仕事を通して、スキルを高め、自身のキャリア選択に大きな影響を与えた興味深い人々と出会うことができた。併せて、若い頃からさまざまな社会活動を通して若者にメンタリングすることで、私生活と職業の両面でリーダーシップ力を高めることができた。
各個人の力はたとえ小さくても、それが合わさることで社会に対して大きな良い影響を与えることができると信じている。
現在の目標は、若者や教育、起業、そして雇用創出や経済成長を導く可能性のある起業家への投資を通して社会全体に影響を与え、貢献することだ。

編集後記

モロッコは女性の就業率は23.2%と低いが、大臣が女性であったり、初の女性の地域圏知事が誕生したりするなど、社会における女性の活躍が見える。

今回、モロッコ社会の異なるセクターで活躍する3人の女性の経験や意見を聞き、3者の共通点はリーダーシップの経験を人生の早い段階で持っていること、そして子育てにも仕事にも情熱を注いでいることだと分かった。キャリアと母親業の両立はともにフルタイムワークで簡単なことではないが、その両立が両方においてよい影響をもたらしているのであろう。

モロッコも日本も、社会・政治経済活動で活躍する女性が増えることで、政治経済に女性の視点や意見が反映され、女性も男性もより平等に活躍できる社会になることを願う。


注1:
参照:WaystoCap外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます
注2:
Techwomen外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます とは、アフリカ、中央アジア・南アジア・中東のSTEM(科学・技術・工学・数学)や起業家の女性リーダーを対象とした、職業上の交換プログラム(米国・シリコンバレー)。
注3:
参照:StartUp Maroc外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます
執筆者紹介
ジェトロ・ラバト事務所
本田 貴子(ほんだ たかこ)
2016年、ジェトロ入構。東京本部にて、ビジネス講座やセミナーのライブ配信・オンデマンド配信の運営、ジェトロ会員サービスの提供に従事。2018年8月から現職。モロッコでの日本企業の投資促進や現地活動支援に従事するとともに、調査・情報発信、現地スタートアップ発掘等にも携わる。