特集:女性の経済エンパワーメント米国で進む女性活躍推進の動き

2019年3月26日

米国では、女性の活躍が著しい。米国の連邦下院議会では、女性議員数が全体の2割を超え、過去最高水準に達した。州レベルでは、カリフォルニア州が全米で初めて女性役員の配置を法律で義務化したほか、組織や企業の中でも女性の活躍促進に積極的に取り組む姿が見られる。ここでは、女性活躍の推進に向けた米国の最新の動きを紹介する。

議会で増える女性パワー

2018年11月に行われた連邦下院議員の中間選挙で、新たに36人の女性が下院議員に当選した。これにより、下院議会は435議席中102議席が女性(23.5%)となり、女性議員の数、割合ともに過去最高を記録した(図1参照)。2月5日の大統領の教書演説時には、特に新たに議会入りした民主党の女性議員やナンシー・ペロシ下院議長らが、男女平等を主張するメッセージの意を込めて白い服装で登場した。女性議員は、上院の25議席を合わせると全体で127議席、州の数にすると34州を代表する重要な存在となっている。

図1:全米における女性下院議員の分布状況
女性下院102議席は全米に分布しており、全米50州中35州で女性議員が存在します。特に西海岸ではカリフォルニアが18議席とそのうちの多くを占めてるほか、フロリダ州では9議席、ニュヨーク州で7議席となっています。

出所:「ニューヨーク・タイムズ」紙(2018年11月16日掲載)を基にジェトロ作成

女性役員の配置を義務付け

米国労働省によると、2016年の16歳以上の男女の就業率は男性が53.2%で女性が46.8%だった。男女の就業率の差は6.4ポイントであり、差は縮小しているが、組織や企業内での女性が活躍できる機会が男性同様に与えられているかという議論が続く。ピュー・リサーチセンターの調査外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます によると、米国フォーチュン誌500社にランキングされる大企業での女性の取締役の割合は、2017年には22.2%となった(図2参照)。この割合は1995年の9.6%の2倍以上に達しており、女性取締役の増加は著しいが、それでも全体に占める割合は2割強といまだに少ない。

図2:フォーチュン誌500社ランキングにおける女性役員の全体に占める割合
2017年の女性の役員の全体に占める割合は22.2%となりました。この割合は1995年の9.6%の約2.3倍と増加していることがわかります。

出所:ピュー・リサーチセンターのレポートを基にジェトロ作成

女性の役員配置の促進のため、カリフォルニア州では2018年9月30日に、米国で初めて上場企業に対し女性役員の配置を義務づける法律を制定した(2018年10月3日付ビジネス短信参照)。この法律により、カリフォルニア州に本社を置く上場企業(米国で上場している外資企業を含む)は、2019年末までに役員会に最低1人は女性を含まなければいけない。また、2021年末までに女性役員の最低数が引き上げられ、役員が4人以下の企業は最低1人の女性役員、役員が5人の企業は女性役員を2人に、役員数が6人以上の企業は女性役員を3人に増やさなければならない。同州は違反した企業に罰則を科すだけでなく、どの企業が女性役員を置いているか否かといった情報をオンライン上で公開する。

カリフォルニア州は女性が安心して働くことができるように、連邦で定められている12週間の産前産後休暇「家族医療休暇法(FMLA)」に加えて、「カリフォルニア家族法(CFRA)」で育児休暇として最長12週間の無給の休暇を付与するという独自の規定を2004年に制定している。女性の経済的地位の向上の推進では、男女の賃金格差を取り除く目的で、2018年から雇用の際に候補者の過去の給料額を聞いてはならないという法律を制定した。女性が男性と同じ職務内容や役職でありながら、賃金差別を受けていた場合に、前職の給与額を参考にしてしまうと、男女間の賃金格差が縮まらなくなってしまうためである。

女性幹部をメンターに育成強化

女性の社会進出だけでなく、組織内での地位向上に向けた取り組みも見られる。女性経営幹部向けビジネス紙「ビズウーマン」は、全米43都市で女性の地位向上のためのイベントを開催している。月曜に開催される「メンタリングマンデー」のイベントは、全米各地の大手企業の女性幹部や経営者らから成るメンターグループ1万人の中から、開催都市に合わせたメンター30人から50人が選ばれ、参加者に1対1でコーチングを行うというユニークなもの。女性人材育成に関する企業の取り組みが、ディスカッション形式で共有されるほか、ビジネスウーマンの人脈形成の機会ともなっている。

ロサンゼルスでは2月25日、第6回の「メンタリングマンデー」が開催された。大手では、フォックスエンターテイメントグループ(本社:ロサンゼルス)や、欧米に93カ所の大型ショッピングモールを所有する商業用不動産開発のユニボール・ロダムコ(本社:パリ)の幹部ら約30人の女性メンターが会場に現れた。

以下、女性メンターに女性の活用促進について聞いた。

メンター1:ブライトビュー マーケティング・バイスプレジデント キャロライン・ウェレット氏

(企業情報:本社はペンシルベニア州プリマス。商業用野外スペース専門のデザイン、32州に220の営業所を持つ。従業員2万3,000人)

質問:
従業員2万3,000人の大企業だが、女性の比率は。
答え:
女性は半分にも満たない。まだ少ないと思う。業務的な観点を優先し、結果的に比率を見てみるとこうなってしまったという現状がある。しかし、組織内での女性の活用はこの1年半の間、積極的に取り組んでいる。
質問:
具体的に取り組んでいることは何か。
答え:
自己開発、ネットワーキング、リーダーシップトレーニングを取り入れているが、1年半ほど前に始めたばかりなので、これらが本当に効果があるかはまだ見えていない。
質問:
業務的な観点とあったが、男性と女性の仕事の仕方で何か違いがあるか。それが現在の男女比率の理由となっているか?
答え:
コミュニケーションひとつを挙げても、男性と女性は違う。この辺りはプロジェクトを実施する際に気をつけている。男性は結果論で物事を評価するが、女性はそのプロセスを評価するという違いがあり、管理する側として、やはりこの違いをきちんと理解して均等に評価できるようにしている。

メンター2:ウェドブッシュ証券 管理ディレクター兼エクイティ室長 クリスチン・フラウス氏

(企業情報:本社はカリフォルニア州ロサンゼルス。メルリンチ、モルガンスタンレーに並ぶ投資銀行、従業員300人)

質問:
金融産業は男性が多いようにも見えるが実態は。
答え:
当社でも女性は全体の25%の割合しかいないので、男性色が強い産業だと思う。女性のいる部署は上層部と下層部に分かれている。
質問:
具体的に組織の中でどの部分(部署)が女性なのか。
答え:
ピラミッドの下の部分で女性が多い。エントリーレベルと呼ばれる幅広いポジション。そして、上級職に少し女性がいるといった構成で、中間管理職に女性が少ない。
質問:
なぜそのような状況なのか。
答え:
採用プロセスに問題があるのだと思う。募集する管理職ポストの条件に男性の履歴書の条件が当てはまりやすいのだと思うが、男性と同じ割合で女性の採用機会を考えるように努めている。女性を採用しないことには組織内の比率は変わらないのでこの辺りは改善すべき。女性の大卒比率が増えているので、男性と同じ職務経験を持つ女性はまだいると思う。

メンター3:パシフィック・リソース・リカバリー・サービス CEO サンドラ・バーグ氏

(企業情報:本社はカリフォルニア州ロサンゼルス。機械油などの産業廃棄物を再利用するリサイクル企業)

質問:
女性CEOから見て、上級職における女性の起用はまだまだ少ないか。
答え:
管理職や役員レベルではまだまだ女性が少ないと思うし、上級職は男性社会であることは確かだと思う。
質問:
女性が役員・経営者になるにはどのようなことを培っていくべきか。
答え:
自分が居心地の良いコンフォートゾーンから常に外に出ること、そして会社や所属組織以外の人間と出会い、プロフェッショナルな姿勢を培うこと。
質問:
日本では働く女性の比率が増えているが、女性が管理職や役員といったプロフェッショナルな職に就く比率はまだまだ少ない。何かアドバイスは。
答え:
機会が無いのは残念。ボランティアを積極的にしていくことを進めたい。ボランティアのレベルでは男女の差異が無い。私にとっては、ここで自分が何をできるかを模索したことが、リーダーシップの確立に非常に役に立った。もう少し仕事レベルの話だと、企業が所属する協会(業界団体)などで何かの役を買って出ること。人に作業を依頼する能力を養い、男性と同じ目線で物事を決める良いきっかけとなると思う。

女性の活躍促進は、企業によってその取り組み状況が異なる。イベント参加者の一人に話を聞くと、「このように女性の活用についての議論を始めることや、女性幹部がメンターとなり、女性の経済的地位向上について議論することが、女性活躍推進の大きな一歩になると感じる」と語った。

執筆者紹介
ジェトロ・ロサンゼルス事務所
サチエ・ヴァメーレン
2000年に渡米。福祉研究員や経済研究員を経て、ロサンゼルス調査員として2009年7月から現職。ロサンゼルスで物流や輸入規制に関する動向をウオッチ。