特集:女性の経済エンパワーメントインドの女性の社会進出 現状と今後
徐々に変化を見せる伝統的な認識

2018年5月9日

2018年3月8日の国際女性デーは世界中でプレイアップされた。女性の社会進出が後進的であるインドでも、女性の就業機会拡大、社会進出支援を進める流れが広がっている。人々が豊かになり、グローバル化が進む中で、伝統的な認識が刷新されつつある。

男性優位の認識

伝統的にインドの女性は、男性に比べ教育の機会が限られるなど、社会に出て仕事をするよりは家庭に入ることを優先させられてきた。こうした傾向は今でも貧困層や地方部で特に強い。働き手や後継ぎとして女性よりも男性が好まれてきたという文化や、人口の約8割を占めると言われるヒンズー教では、婚姻の際に新婦側家族が新郎側に持参金を用意する風習があり、家計の面から男の子供が望まれる傾向が強かった。インドで胎児の性別判断が禁じられているのは、こうした背景があるからである。しかしながら、国勢調査によると、0~6歳の男子乳幼児1,000人当たりの同年代の女子乳幼児の数は、1991年で945人、2001年で927人、2011年では918人と減少傾向にある。減少の背景は不明だが、健康上の理由など、必ずしも性別判断だけが関係しているとは言えないようだ。

世界経済フォーラム(WEF)の「グローバル・ジェンダー・ギャップ・レポート2017年版」によると、インドの順位は144カ国中108位と低位にとどまる。女性の政界への進出項目では15位である一方、出生率や寿命を評価する健康項目では141位、経済への参加項目では、労働市場への参画や所得における格差が大きいと評価され、139位となった。教育水準の低い層で女性の雇用が限られていること、安全で清潔な交通インフラ、トイレなどの設備が限られていることも、女性の就業を困難にしていると言われている。企業で働く女性を見てみても、ボンベイ証券取引所(BSE)上場の500企業のうち、女性のトップ経営者を持つのは8社のみだ。

表:インドの男女格差における主要指標(―は値なし)
項目 順位 女性 男性
経済への参加 139
階層レベル2労働力参加(%、15~64歳) 136 29 82
階層レベル2推計所得(USドル、PPP) 137 2,424 10,428
階層レベル2議員やマネジメントの割合(%) 114 13 87.1
階層レベル2プロフェッショナル、技能労働者(%) 118 25 74.7
教育 112
階層レベル2識字率(%) 118 59 78.9
健康 141
政界への進出 15
階層レベル2議員(%) 118 12 88.2
階層レベル2官職(%) 76 19 81.5
階層レベル2国家元首(年、直近50年間) 3 21 29.5
その他
階層レベル2就業、就学していない若年層(%、15~24歳) 49 8
階層レベル2失業成人(%、15~64歳) 8 4.1
階層レベル2金融機関での口座保有(%) 43 62.5
階層レベル225歳時点の既婚率(%) 74 34.7
出所:
世界経済フォーラム(WEF)、「グローバル・ジェンダー・ギャップ・レポート2017」

政策も女性支援を強化

こうした状況にも変化は起きている。人々が徐々に消費力をつけ、海外の文化の流入や、都市化なども進む中で、女性のさらなる社会進出を促進するムードが近年特に高まっているのだ。

2013年会社法では、一定の規模以上の公開(有限責任)会社(注)に対し、1名以上の女性取締役の選任が義務付けられた。労働法においても、2017年3月の改正で女性の産休取得期間が従来の12週間から26週間に拡大された。

モディ政権も「ベティ・バチャオ ベティ・パダオ(ヒンディー語で『少女を救おう、少女を教育しよう』の意)」という女子乳幼児の保護と教育の促進政策を推進しており、政策に基づくプログラムの実施地域は167カ所から640カ所に拡大したという。また女性起業の振興に向け100万~1,000万ルピー(約160~1,600万円、1ルピー=約1.6円))の範囲での借り入れを可能にする「スタンドアップ・インディア」スキームが実施されており、これまでの貸付総額は約690億ルピー(約1,100億円)に上っているという。

啓発活動の拡大も

インド各地で女性をテーマにしたイベントの開催も活発化している。2018年4月5日には、インド商工会議所連盟(FICCI)傘下のFICCI女性協会(FLO)の年次総会がニューデリーで開催された。総会には、ラーム・ナート・コビンド大統領も参加し、医療、ビジネス界、ソーシャルワークなどさまざまな分野の9名の女性が、社会で活躍するロールモデルとして表彰された。コビンド大統領は、「女性は社会や家庭の中で多くの役割を担っている」と評価した上で、「女性の就労割合がまだ低水準にとどまっていることは遺憾。女性がより安心して働くことのできる環境づくりに努める」と述べた。総会では、表彰者によるパネル・ディスカッションが実施され、女性として各分野でどのように成功を成し遂げてきたか、男女平等を進めるためには何が必要かなどが語られた。

受賞者の一人、エクタ・カプール氏は、17歳からテレビ・映画業界の制作分野で活動し、40代を迎えた現在もテレビ・プロデューサーとして活躍している。彼女は周囲から最もよく聞かれる質問が、「いつになったら落ち着くのか(結婚するのか)ということだ」と話し、「私は現在独身で幸せに落ち着いており、なぜ人々の基準が結婚にあるのか」と指摘した。


FLOアイコンアワード受賞者達
(ジェトロ撮影)

FLO総会には、多くの女性達が参加
(ジェトロ撮影)

女性の結婚感に変化、新たな消費層に

これまで、女性が若いうちに結婚する傾向が強かったインドだが、国勢調査における女性独身者の人数を2001年と2011年で比較すると、約4割増加しているという(2018年3月12日、エコノミック・タイムズ)。

インドは他国と比べ女性の就労割合が低く、こうした変化が見られるのは都市部が中心であるものの、経済力をつけた女性独身者は消費市場における新たなマーケティング対象として重要度を高めている。これまで男性が購入者の大半を占めてきた自動車や不動産販売でも、独身女性購入者の存在感が高まってきているという。他にも、食品や日用品の販売マーケティングにおいて、家族向けに内容量を多くした「ファミリーパック」が一般的に展開されているが、独身女性を想定した少量包装の商品の検討など、従来のマーケティング手法にも変化が求められる。

その他、同記事では、日常の社会・人間関係から離れ、新しい経験を求めて、一人で旅行する女性が増加していることにも触れており、新たなツーリスト市場のターゲットとして位置づけられてきていると伝えている。


注:
全ての上場会社、もしくは資本金が10 億ルピー以上の公開会社、または売上高が30億ルピー以上の公開会社のいずれかの要件を満たす会社。
執筆者紹介
ジェトロ・ニューデリー事務所
古屋 礼子(ふるや れいこ)
2009年、ジェトロ入構。在外企業支援課、ジェトロ・ニューデリー事務所実務研修(2012~2013年)、海外調査部アジア大洋州課を経て、2015年7月からジェトロ・ニューデリー事務所勤務。

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