特集:アフリカ・スタートアップモロッコの起業文化・スタートアップ育成に尽力(モロッコ)

2019年7月12日

モロッコには、500以上のスタートアップがあるとされている。2019年5月には欧州最大規模のイノベーション見本市「Viva Technology」(パリ)に、同国からスタートアップ・新興企業16社の代表団が産業・投資・貿易・デジタル経済相と共に参加するなど、国を挙げてモロッコのイノベーション促進を図る動きがある(2019年5月30日付ビジネス短信参照)。

モロッコのスタートアップエコシステムの主要組織「StartUp Maroc」の創立者兼代表取締役のジネブ・ララス(Zineb Rharrasse)氏と、「New Work Lab」の創立者兼代表取締役のファティムゾハラ・ビアズ(Fatim-Zahra Biaz)氏に、活動内容や展望についてそれぞれ話を聞いた(6月10日、6月27日)。

豊富な支援プログラムの提供で若者と起業家の発展に貢献

StartUp Marocは、起業とイノベーションを通じた雇用創出と経済発展の促進を目的とした非営利組織(NPO)のアクセラレーター。2011年にラバトに設立以来、国内16都市で設立され、多くのプログラムを実施。ララス氏によると、StartUp Marocの設立がモロッコでのスタートアップエコシステムの始まりとのこと。

質問:
サービス内容と利用者の概要は。
答え:
学生・若者向けの教育プログラムと、起業家向けのアクセラレーションプログラムの2つの主要プログラムを提供している。計2万人がプログラムに参加、300のスタートアップを支援した実績がある。主なプログラムの内容は以下のとおり。
  • StartUp Maroc Roadshow
    若者と国内外の起業家との交流機会をつくり、若者の起業精神の育成、各都市での起業家コミュ二ティ―やイノベーション環境の活性化を通して、国全体での起業エコシステムを向上させることを狙ったツアー。若者がメンターや専門家とともにピッチからビジネスモデルの創造・審査までを行うイベント「Startup Weekend」 やブートキャンプをプログラムに含む。2016年のRoadshowで、20の特許、400人の雇用、500万ディルハム(約5,500万円、DH、1DH=約11円)の売り上げと800万DHの投資を創出した。
  • StartUp Maroc Booster
    6カ月のパッケージプログラムとして、資金援助や国内外の専門家とのメンタリング、ワークショップなどを提供することで、起業支援、ネットワーキング構築を促進する。資金援助として、1スタートアップにつき20万DHを上限に補助金、50万DHを上限にローンを提供。また、同プログラム参加者は、国内外の主要なスタートアップイベントへの参加機会を得ることができる。例年、国内約100のスタートアップから申請があり、2018年は7社が選ばれた。
そのほか、投資家、起業家などのスタートアップエコシステム関係者の意見交換・交流機会を創出している。スタートアップの国際イベント「StartUp AFRICA SUMMIT」をラバトでEUなどと共同開催。2018年までの過去3年間に2度開催した。2018年は3日間にわたるイベントで、欧州と中東北アフリカ(MENA)地域20カ国以上からスタートアップ、投資家、専門家など約300人が集まり、アフリカにおけるビジネスと投資機会について情報交換の機会を得た。

イベント開催時の様子(StartUp Maroc提供)
質問:
ファンドや政府機関などからのサポートは。
答え:
モロッコ中央保証基金(CCG)、EU、在モロッコ・オランダ大使館からプログラム運営のため資金援助を受けている。また、起業支援・促進の国際的な組織「The Next Society」や「DiafrikInvest」と協力し、スタートアップの交流機会やビジネス拡大機会を提供している。
質問:
日本企業と現地スタートアップの連携可能性について。
答え:
現地スタートアップにとって日本企業との協業は、資金調達を得て、市場を拡大するために良い機会だと考える。ただ、日本企業とモロッコのスタートアップという異なる2つの(ビジネス)文化を結び付け、うまく連携するためには、日本企業のニーズとモロッコのスタートアップのニーズの両方を明確にする必要がある。
質問:
モロッコにおけるスタートアップエコシステムや起業の今後の見通しについて。
答え:
StartUp Marocや他団体の活動により、当国のスタートアップエコシステムは着実に進化している。新興スタートアップ誕生の促進を通して、エコシステムは国内経済に寄与し、グローバル化してきていると考える。しかし、スタートアップに対する支援はまだ十分ではない。スタートアップにとって立ち上げ1年目は大変不安定で、多くのリスクを回避するため資金援助が必要。モロッコのスタートアップに必要なことは、プロジェクトを安定的に立ち上げ発展させるための十分な資金に加え、プロジェクトを安定的に発展させる優れた人材、市場へのアクセス機会、大企業との連携だ。人材については欧州などに流出する課題があり、大企業との連携ではスタートアップの地位がモロッコでは低いため難しい状況だ。

起業家と企業をつなぎ、スタートアップのさらなる成長促す

New Work Labは、起業家を大企業・大学・メディア・専門家・メンターにつなぎ、起業する上で必要なトレーニングやネットワークなどのサポートを提供するアクセラレーター/インキュベーターで、2012年にカサブランカに設立された。


創立者のFatim-Zahra Biaz氏(New Work Lab提供)
質問:
サービス内容と利用者の概要は。
答え:
主なサービスとして、以下を提供している。
  • New Work Class
    モロッコ国営リン公営社(OCP)の社会貢献事業である「OCP Entrepreneurship Network」と連携して立ち上げた、起業家のビジネスビジョンや戦略、収益モデルの策定などビジネス開発を全面的にサポートする、4カ月のアクセラレーションプログラム。約90人の起業家が過去に利用し、350人の雇用を創出した。
  • School of changes
    キャリア再構築プログラムとして、ブートキャンプやアクセラレーションプログラムを提供。参加者は、さまざまなプログラムの中から自身のキャリアを再構築するメンタリングやトレーニングを受けることができる。すでに1万7,000人がプログラムに参加。
  • オープンスペースの提供
    オープンスペース(1,500DH/月)、シェアオフィス(2,500DH/月)、プライベートオフィス(4,500DH/月)を提供。利用者は起業家交流イベントやスタートアップのアクセラレーションプログラムに特別価格で参加が可能。過去5年で国内外の300人の起業家を受け入れた。
New Work Labのサービスを利用した起業家の中で、特に紹介したいのは、ソーシャルビジネスを行うAnou外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます だ。Anouは、織物や木工品などの職人の生活向上を目的に、職人のハンドクラフトを直接、米国など海外市場に販売するオンラインプラットフォームを設立・運営する。同プラットフォームを通して、読み書きできない職人が、デジタルエコノミーへのアクセス機会を得た。日本企業がAnouのプラットフォームに関心を持つことを願う。
質問:
日本企業と現地スタートアップの連携可能性について。
答え:
進んだテクノロジーを持っている日本から、モロッコは多くを学んでいる。Anouのように優れた価値を生み出した組織と日本企業が結び付くことで、モロッコ文化を紹介する機会にもつながるのではと思う。
質問:
モロッコにおけるスタートアップエコシステムや起業の今後の見通しについて。
答え:
世界は急速に変化しており、モロッコのスタートアップにとって大きな挑戦であると同時に、機会でもある。モロッコは、起業家が解決すべき課題を多く抱えており、起業家にとっては素晴らしい国だと考える。現在抱える課題を2つ挙げたい。1つは、科学技術やサービスにアクセスできていない人々にアクセス機会をいかに提供するか、包括的なテクノロジーを築き上げるかである。2つ目は、若者がインターネットを通してビジネスの機会を手に入れるため、どのようにして技能レベル向上やスキルアップするかである。
執筆者紹介
ジェトロ・ラバト事務所
本田 貴子(ほんだ たかこ)
2016年、ジェトロ入構。東京本部にて、ビジネス講座やセミナーのライブ配信・オンデマンド配信の運営、ジェトロ会員サービスの提供に従事。2018年8月から現職。モロッコでの日本企業の投資促進や現地活動支援に従事するとともに、調査・情報発信、現地スタートアップ発掘等にも携わる。