2026年7月のUSMCA見直し、北米3カ国の合意は難しいとの見方も
(米国、メキシコ、カナダ)
ニューヨーク発
2025年10月17日
米国・メキシコ・カナダ協定(USMCA)は、協定発効16年目(2036年7月)に失効すると定められている。ただし、発効6年目(2026年7月)に見直しを行い、3カ国が合意した場合、16年後(2042年7月)まで延長される。米国通商代表部(USTR)は2025年9月、USMCAの見直しに向け、パブリックコメントの募集を開始した(2025年9月18日記事参照)。北米に進出している日系企業のビジネスは、USMCAの利用を前提にしているケースが多く、見直しの内容によっては、事業に大きな影響を及ぼす可能性がある。だが、見直しで3カ国が合意に至る可能性は低いとの見方が大勢だ。
ジェトロが10月14~15日にかけて米国の首都ワシントンで行った複数の通商政策の専門家へのヒアリングを総合すると、米国は必ずしもUSMCAの継続にコミットしておらず、メキシコ、カナダそれぞれとの2国間協定の締結を示唆している一方、米国‐メキシコ間、米国‐カナダ間ではそれぞれ関税・非関税障壁が複数あることなどから(注1)、2026年7月の見直しで、協定の存続で合意に達するのは難しいと現時点ではみられている。合意できなかった場合、それ以降毎年、見直しを実施することが規定されている。こうした状況になれば、USMCAが中長期的に存続するのか不透明な状態が続くことになり、企業の事業計画に影響を及ぼし得る。
なお、USMCAの見直しで、日本企業に最も影響があるのは、原産地規則が改定されるか否かだ。米国政府は、中国など米国が懸念する外国の事業体(FEOC)が生産した部品を一定程度利用している場合、USMCA原産として認めない制度を提案する、と指摘されている(注2)。2018年から始まった米中対立を機に、大企業を中心に、中国向けと、日本や米国を含むそれ以外向けとでサプライチェーンの切り離しを進めた企業は多い。それでも、中国製の部品をメキシコで組み立て、USMCAを利用して米国へ輸出するサプライチェーンは残る。現状では米国政府が提案する具体的な措置は不明ながら、FEOC製部品の利用を制限する割合が高くなれば、在米日系企業への影響は大きくなる。
メキシコとカナダへ追加関税が課されている現状では、USMCAの利用がコスト削減の観点から重要となっている。国際緊急経済権限法(IEEPA)に基づくフェンタニルなどの流入阻止を目的としたメキシコとカナダに対する追加関税、1962年通商拡大法232条に基づく自動車・同部品への追加関税は、USMCAの原産地規則を満たすことで、適用除外あるいは緩和措置を受けられる。元々、無税の品目も多かった米国では、2024年のUSMCAの利用割合は対メキシコ、対カナダ輸入どちらも50%未満だったが、足元では大きく増加し、2025年7月にはそれぞれ86.3%、85.3%となった(注3)。
2026年7月のUSMCAの見直しは、このようにUSMCAの重要性が高まる中で行われる。北米でビジネスを行う企業は、USMCA見直しの行方を注視する必要がある。
(注1)USTRは毎年、米国企業の輸出や投資に対して障壁となる外国の貿易慣行などをまとめた「外国貿易障壁報告書(NTE)」の連邦議会への提出が義務付けられている(2025年4月2日記事参照)。例えば、2025年版では、メキシコについて、知的財産保護に関する法規制の欠如や、模倣品・海賊版製品に対する取り締まりの不充分さ、エネルギー分野の参入障壁などを指摘している(2025年4月3日記事参照)。
(注2)インフレ削減法(IRA)で定められた、クリーンビークルに対する税額控除の要件をUSMCAの原産地規則に転用するのではないかとの指摘もある。詳しくは、2024年12月12日付地域・分析レポート参照。
(注3)特定の品目で、USMCAを利用する割合が急増している。例えば、パソコンなどが分類される米国関税分類番号(HTSコード)8471のUSMCA利用率は、2025年6月までゼロだったが7月に92%と急上昇した。
(赤平大寿)
(米国、メキシコ、カナダ)
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