特集:COP27に向けて注目される中東・アフリカのグリーンビジネス脱炭素加速でMENA地域をリード(UAE)

2022年11月11日

産油国であるアラブ首長国連邦(UAE)は、気候変動に対する取り組みをさらに加速させ、国際社会との協調をアピールしている。2021年にカーボン・ニュートラル達成目標を中東北アフリカ(MENA)地域で初めて掲げるなど、「脱炭素」へ大きく方針転換し、同地域をリードしている。本稿では、2021年9月1日に公開した地域・分析レポート「産油国UAEも再生可能エネルギーの活用と水素製造に取り組む」の続編として、脱炭素に向けた取り組みや、近年、UAEが特に注力する水素・アンモニア関連プロジェクトについて紹介する。

2050年までのネットゼロを目指す

UAEは2021年10月、2050年までに温室効果ガス(GHG)排出量ネットゼロ(いわゆる「カーボン・ニュートラル」)の達成を目指すと発表した。同政府は目標達成に向けた「戦略イニシアチブ」を公表し、再生可能エネルギー関連事業に6,000億ディルハム(約24兆円、1ディルハム=約40円)以上を投資する。また2022年9月には、気候変動への取り組みに関する「パリ協定」(注1)へのコミットメントとして定めた2030年までのGHG排出削減目標を、従来設定していた23.5%から31%へ引き上げると発表した(2022年9月20日付ビジネス短信参照)(注2)。

政府とビジネス界の間でも、協力体制の構築が始まっている。気候変動・環境省は2022年8月、ネットゼロ実現に向けた枠組みである「UAE気候変動対策における企業の誓約(UAE Climate-Responsible Companies Pledge)」を立ち上げた。在UAEの国営企業や外資企業、国際機関を含む21企業・団体(表1参照)が参加を表明した。同枠組みに参加する企業は、透明性を担保した方法でGHG排出量を計測・報告し、排出削減計画を策定の上、政府に共有することで、UAEのネットゼロ実現に貢献するとしている。

表1:「UAE気候変動対策における企業の誓約(UAE Climate-Responsible Companies Pledge)」に参加表明した企業(21社・2022年8月29日時点・順不同)
NO 企業名(本社所在地) 業態
1 マジッド・アル・フッタイム・グループ(Majid Al Futtaim Group、UAE・ドバイ) 大手財閥
2 ストラタ・マニュファクチャリング(Strata Manufacturing、UAE・アブダビ) 航空部品製造
3 スタンダードチャータード銀行(Standard Chartered Bank、英国) 銀行
4 HSBC(英国) 銀行
5 マスダール(Masdar、UAE・アブダビ) 再エネ事業等
6 BEEAH(UAE・シャルジャ) 環境マネジメント、ごみ処理等
7 エマソン・エレクトリック(Emerson Electric、米国) 電機・エンジニアリング
8 エミレーツ・ネイチャー‐WWF(Emirates Nature-WWF、UAE) 国際NGO〔世界自然保護基金(WWF)〕
9 エミレーツ・グローバル・アルミニウム(Emirates Global Aluminium、UAE) アルミ製品製造
10 エミレーツ・スチール・アルカン・グループ(Emirates Steel Arkan Group、UAE) 鉄鋼製品製造
11 アルダー・プロパティーズ(Aldar Properties、UAE・アブダビ) 不動産
12 エミレーツ・エンバイロメンタル・グループ(Emirates Environmental Group、UAE・ドバイ) 環境専門家団体
13 アル・ヤー・サテライトコミュニケーションズ(Yahsat、UAE・アブダビ) 衛星通信
14 シャルフーブ・グループ(Chalhoub Group、UAE・ドバイ) 大手財閥
15 ピュアハーベスト(Pure Harvest、UAE・アブダビ) スマート・ファーミング
16 AESG(UAE、英国、シンガポール) コンサルティング
17 タカ・ソリューションズ(Taka Solutions、UAE・ドバイ) コンサルティング
18 ラファージュ・エミレーツ・セメント(Lafarge Emirates Cement、UAE・ドバイ) セメント製造
19 EY(英国) コンサルティング
20 EV Lab(UAE・ドバイ) 電気自動車(EV)、電動ヨット販売
21 トタルエナジーズ(Total Energies、フランス) エネルギー

出所:エミレーツ国営通信

2021年11月には、UAEが2023年に開催される国連気候変動枠組み条約第28回締約国会議(COP28)のホスト国となることが決定した。2022年のエジプトに続き、MENA地域での開催となる。会場は、ドバイ万博会場跡地の「EXPO CITY」に決まり、ドバイ万博のレガシー計画の一環として活用される(2022年9月28日付地域・分析レポート参照)。UAEは、気候変動への取り組みのコミットメントを国際社会へさらに示すべく、今後も新しい政策やプロジェクトを計画、発表していくことが予想される。

進む再エネプロジェクト

マリアム・ビント・ムハンマド・アル・ムハイリ気候変動・環境相は、UAEの「クリーンエネルギー(再エネと原子力発電)の発電キャパシティは、2030年までに14ギガワット(GW)に達する軌道に乗った」と、2022年10月にUAE国内で行われたエネルギー・サミットで発言した。これを裏付けるのが、着々と進む発電所建設プロジェクトだ。アブダビとドバイを中心に、太陽光発電のプロジェクトが各首長国で数多く発表され、順次操業を開始している(注3)。ドバイでは、5つのフェーズからなるムハンマド・ビン・ラーシド・アル・マクトゥーム・ソーラーパーク(MBRソーラーパーク)の建設が進んでいる。現在の発電キャパシティは1,627メガワット(MW)で、今後さらに1,233MWの増加を計画している。同ソーラーパークの開発を進めるドバイ電気水道局(DEWA)によると、ドバイの発電キャパシティに占めるクリーンエネルギーの割合は(2022年5月時点のDEWAマネージング・ディレクター兼最高経営責任者サイード・ムハンマド・アル・タイアー氏の発言によると)11.4%だが、2022年末までには14%まで増えることが予想されているという。


ドバイ・MBRソーラーパーク(ジェトロ撮影)

また、2020年8月に1号機(発電容量1,400MW)が稼働したアブダビのバラカ原子力発電所は、2022年3月に2号機(同1,400MW)が商業運転を開始した。さらに同年10月には3号機(同1,400MW)が国内送電網に接続され、数カ月以内に商業運転を開始予定だ。最終的には4号機まで建設し、合計5,600MWの電力を供給する計画となっている。これにより、UAEの電力需要量の約25%を占めることになる見込みで、太陽光発電と合わせてUAEの脱炭素実現に向けた動力となる。

水素・アンモニアの生産、輸出プロジェクトを加速

長期的には世界の石油・天然ガス需要の先細りが予想される中、UAE国内で水素や、水素を原料にしたアンモニアの生産、輸出に向けた準備も活発化している。エネルギー・インフラ相のスハイル・ムハンマド・アル・マズルーイー氏は、2022年1月に「世界の水素マーケットシェアの約25%をUAEが担うことを目指す」と発言し、取り組みをさらに加速することを強調した。ブルー水素の製造に使う天然ガスを多く埋蔵するUAEは、製造コストを抑制できるため国際的に価格競争力を持つとされる。グリーン水素も同様に、再エネの発電コストが安く価格競争力を持てるため、UAEは水素分野においても優位性を持っている。水素への取り組みに最も積極的なのはアブダビ首長国で、同エネルギー局は2022年8月、同年末までに水素政策と規制の枠組みを取りまとめる方針であると発表した。連邦全体での水素戦略の加速を目指し、首長国レベルでは具体的方針、ルール作りを進める。

足元でUAEの水素関連プロジェクトをリードしているのはアブダビ国営石油会社(ADNOC)だ。今までに発表されたUAEの水素・アンモニア関連プロジェクトを見ても(表2参照)、ADNOCは、多くの外国企業との売買契約やサプライチェーン、関連技術の開発に向けた覚書(MOU)を締結している中心プレイヤーとなっている。相手国としては日本、ドイツ、韓国が目立つが、中でも日本政府や企業との協業事例が多い。伊藤忠商事、出光興産、コスモエネルギーグループなどが、ADNOCからのブルーアンモニアの購入契約を結び、既に輸送実証試験も行われるなど、日本へのサプライチェーン形成が進む。また、三井物産は2021年11月、アブダビ・ルワイスのタジーズ(TA'ZIZ)開発地区でのブルーアンモニア製造事業に参画すると発表。製造面での水素・アンモニア事業へのコミットメントを示している。

表2:UAEの主な水素・アンモニア関連プロジェクト
内容
2020年 1月 丸紅とアブダビ・エネルギー庁(DOE)が「水素社会実現に係わる覚書」を締結。
2021年 1月
  • ムバダラ・インベストメント(UAE)、ADQ(アブダビ政府系持ち株会社)、アブダビ国営石油会社(ADNOC)が「アブダビ水素アライアンス」の設立を発表。アブダビをブルー・グリーン水素の国際ハブにすることを目指す。
  • ムバダラ・インベストメントはシーメンスとグリーン水素、化合燃料の協力に関するMOUに署名。
  • マスダール(UAE)がシーメンス、丸紅とグリーン水素エコノミーの開発に取り組むMOUを締結。MOUにはDOE、エティハド航空(UAE)、ルフトハンザ航空(ドイツ)、ハリーファ科学技術大学(UAE・アブダビ)も参画。5月には同枠組みの中で持続可能な航空燃料(SAF)への活用を見据え、グリーン水素プラントを2022年までに建設すると発表。
  • UAEとドイツが「エネルギー転換における水素の役割」と題した共同スタディを発表。
  • 経済産業省はADNOCと協力覚書を締結。燃料アンモニアおよびカーボンリサイクル分野での2国間協力を加速。
3月 ADNOCとGSエナジー(韓国)がアブダビにおける水素経済および運搬・輸出協力に関するMOUを締結。
5月
  • ADNOCはアブダビのルワイス工業地区で世界最大級のブルー・アンモニアプロジェクト生産施設を、アブダビ・ハリーファ工業地区(KIZAD)はグリーン・アンモニア製造工場の建設を開始すると発表。
  • ドバイのムハンマド・ビン・ラーシド・アル・マクトゥーム・ソーラーパーク(MBRソーラーパーク)は太陽光エネルギーを活用したグリーン水素の製造プラントを中東・アフリカ(MENA)地域で初めて稼働。プラントはシーメンス(ドイツ)が受注。
  • アブダビのハリーファ工業団地(KIZAD)はヘリオス・インダストリー(UAE)と共同でグリーンアンモニア生産施設を建設すると発表。同年8月にはティッセンクルップ(ドイツ)も参加。
7月
  • アブダビ国営エネルギー会社(TAQA)とアブダビ・ポートは2GW級のグリーンアンモニア製造施設の建設を発表。アブダビ港を水素・アンモニアの輸出ハブにする狙い。
  • ADNOCと日本のINPEX、JERA、石油天然ガス・金属鉱物資源機構(JOGMEC)の4社が、ブルー水素からアンモニアを製造するサプライチェーンの共同調査開始を発表。
8月
  • ADNOCは、伊藤忠商事にブルーアンモニアの初輸出発表。
  • TAQAとエミレーツ・スチール・アルカン(UAE鉄鋼大手)がグリーン鉄鋼の生産で提携。
  • ADNOCは、出光興産にブルーアンモニアを販売すると発表。
  • ADNOCは、INPEXとクリーンアンモニアの販売およびサプライチェーン構築について合意。
9月 ADNOC、マスダール、BP(英国)が2国間の「クリーン水素ハブ」の構築で合意。
11月
  • ADNOC、三井物産、GSエナジー(韓国)はアブダビ・ルワイスのタジーズ(TA'ZIZ)開発地区でのブルーアンモニア製造事業に参画。
  • 連邦産業・先端技術省(MOIAT)とロシアの産業貿易省が水素分野でのMOUを締結。
12月 出光興産はADNOCから購入したブルーアンモニアの輸送実証試験を実施。
2022年 1月
  • アル・マズルーイー・エネルギー・インフラ相は、世界の水素マーケットシェアの25%をUAEが担うことを目指すと発言。
  • マスダールとコスモエネルギーHDは洋上風力発電事業と水素エネルギー・燃料アンモニア・二酸化炭素回収・利活用・貯蔵技術(CCUS)の協業検討を開始。
  • マスダールとエンジー(フランス)がグリーン水素開発で提携、ルワイスにあるファーティグローブ(UAE窒素肥料製造)のアンモニア製造プラントに供給。
3月
  • 産業・先端技術省とオーストリア財務省が水素技術の協力に関するMOUを締結。
  • ADNOCとコスモエネルギー開発は、CCUSの事業化に向けた共同調査のMOUを締結。
  • ADNOCとドイツの複数企業が、UAEからドイツへの水素輸送協力について、またハリーファ港とハンブルク港での輸送協力について複数のMOUを締結。水素運搬実証実験にはJERAも参画。
4月 マスダールとハッサン・アラム・ユーティリティーズ(エジプト財閥企業)が2030年までにエジプトでグリーン水素の製造施設を建設すると発表。
6月
  • 韓国電力公社(KEPCO)、サムスン物産、韓国西部発電の韓国3社とペトロリン・ケミー(UAE)がグリーン水素・アンモニア事業の共同開発協約を締結。
  • ADNOCとコスモエネルギーHDがブルーアンモニアの売買契約を締結。
  • ADNOC、三井物産、ENEOSの3社がUAE-日本間のクリーン水素サプライチェーン構築に向けた共同事業化検討契約を締結。
9月 UAEからドイツに向け、初のブルーアンモニア輸出を実施。

出所:各社プレスリリースなどを基にジェトロ作成

日本以外では、ドイツが2022年3月に水素分野での協力に関する複数のMOUを締結し、輸送実証実験には日本のJERAも参画することが発表された(2022年3月29日付ビジネス短信参照)。同年9月には、UAEからドイツに向け、初めてブルーアンモニアが輸出された。ドイツでは、ロシアのウクライナ軍事侵攻によりエネルギー安全確保が喫緊の課題となっており、液化天然ガス(LNG)についても新たにUAEやカタールから調達を増やし、中東との結びつきを強めている。加えて、水素・アンモニアの製造や調達への取り組みを強化し、中長期的には天然ガス依存からの早期脱却を加速したい狙いも背景にある。また韓国も、同国財閥系のGSエナジーが2021年11月に三井物産、ADNOCとともに前述のブルーアンモニア製造事業に参画。2022年6月には韓国電力公社(KEPCO)、サムスン物産、韓国西部発電の3社が、UAEのペトロリン・ケミーとグリーン水素・アンモニア事業の共同開発プロジェクトを発表した。アブダビのハリーファ工業地域(KIZAD)に、年間生産量20万トン規模のグリーンアンモニア生産プラントを建設する計画だ。文在寅(ムン・ジェイン)大統領(当時)は2022年1月、ドバイ万博の韓国ナショナルデーに合わせてUAEを訪問し、両国間での水素エコシステムの協力を加速する、と発言している。

最後に、脱炭素に貢献する民間プロジェクトの事例を挙げる。UAE鉄鋼製造大手のエミレーツ・スチール・アルカンは、伊藤忠商事、JFEスチールと提携し、アブダビで低炭素の「グリーン鉄鋼製品」を生産すると発表した。伊藤忠商事が高品質の鉄鉱原料を供給し、エミレーツ・スチール・アルカンが、同社が保有する二酸化炭素回収・利活用・貯蔵(CCUS)技術を用いて低炭素の鉄鋼製品を生産。JFEスチールを含むアジアの顧客に向け輸出する計画で、2025年下半期の生産開始を目指す。これにより、世界の鉄鋼産業の低炭素化に貢献するとしている。

このように、UAEは官民を挙げて脱炭素を目指し、同時にエネルギー分野での国際的地位を保つための取り組みを着実に進めている。


注1:

2015年12月の国連気候変動枠組み条約第21回締約国会議(COP21)で署名された、2020年以降のGHG排出削減などの気候変動抑制に関する多国間協定。UAEは2020年12月に発表した2度目の「国が決定する貢献(NDC)」の中で、2030年までのGHGの削減目標を国内の自助努力で23.5%と設定していた。

注2:
UAEはこれまでも、環境・エネルギー関連の戦略・政策を多く発表している。2021年9月1日付地域・分析レポートの表1を参照。
注3:
プロジェクト事例は、前述の2021年9月1日地域・分析レポートの表3を参照。
執筆者紹介
ジェトロ・ドバイ事務所
山村 千晴(やまむら ちはる)
2013年、ジェトロ入構。本部、ジェトロ岡山、ジェトロ・ラゴス事務所を経て、2019年12月から現職。執筆書籍に「飛躍するアフリカ!-イノベーションとスタートアップの最新動向」(部分執筆、ジェトロ、2020年)。

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