特集:COP27に向けて注目される中東・アフリカのグリーンビジネスグリーンビジネスに大きな可能性(アルジェリア)
人口増加と欧州の脱ロシア依存戦略が追い風

2022年11月7日

アルジェリア経済は、2021年の原油価格上昇に続き、2022年のロシアによるウクライナ侵攻に伴う世界的なエネルギー価格高騰によって、短期的には好調に推移している。国立統計局(ONS)の発表によると、2022年上半期の貿易収支は56億8,900万ドルの黒字、輸出額は259億2,200万ドルで前年同期比48.3%増を記録した。天然ガス、石油など、エネルギー部門の輸出額はそのうち86%を占め、224億1,500万ドルとなった。アルジェリア経済は、いまだ化石燃料の輸出に強く依存しており、原油価格の推移に大きく左右されている。

他方で、主なエネルギー輸出先である欧州諸国は、長引くロシアによるウクライナ侵攻の影響を受け、省エネ・エネルギー供給の多角化・再生可能エネルギーへの移行の加速を目指している(2022年7月13日付ビジネス短信参照)。外貨獲得の手段を長期的に維持するため、再エネの活用が求められるアルジェリアについて、その背景と取り組みを整理する。

電源構成は天然ガスに強く依存

2021年の天然ガスと石油の生産量は共に世界トップ20に入っている。電源を化石燃料に依存するアルジェリアは、天然ガスが電源構成の97%を占めている(図1参照)。太陽光発電など再エネによる発電は2.5%、ディーゼル燃料による発電は0.5%となる。このため、国内で化石燃料の生産がないモロッコと異なり、輸入電力および輸入化石燃料への依存度を下げるための再エネ導入を行う必要がなかった。

図1:アルジェリアの電源別発電容量(2021年)
2021年時点、アルジェリアの総合発電能力は23GWで、そのうち97%を天然ガスに依存している。太陽光などの再エネは、わずか2.5%にとどまる。

出所:国際再生可能エネルギー機関(IRENA)統計からジェトロ作成

複数の国家計画にもかかわらず、展開が遅れている再エネ

天然ガスは自国内消費により輸出量が減少することから、外貨収入を維持するために、代替のエネルギー源、すなわち再エネを開発する必要がある。そのため、政府はエネルギー効率・再生可能エネルギー開発・促進国家計画(Programme National de Developpement des Energies Renouvelables et del’Efficacite Energetique, PNEREE)を2011年に導入し、2030年までに再エネによる発電容量を、全体の電源構成の40%を占める2万2,000MW(メガワット)に引き上げ、そのうち1万MWを輸出に充てることを目標としていた。

政府は2015年に同計画を改定し、再エネの割合を以下のとおり調整した。集光型太陽熱発電(CSP)の展開スケジュールを延期しつつ、発電容量目標を7,200MWから2,000MWに引き下げた。他方、太陽光の発電容量目標は1万3,575MWとし、再エネ全体の発電量の62%まで引き上げた。

  • 太陽光1万3,575MW
  • 集光型太陽熱発電(CSP)2,000MW
  • 風力5,010MW
  • バイオマス1,000MW
  • 地熱など415MW

しかし、同計画の管理および運用に問題が発生し、アルジェリアの再エネ発電容量の開発は大幅に遅れ、現時点で686MWにとどまっている(図2参照)。

図2:アルジェリアの再生可能エネルギー発電容量割合(2020年)
2020年のアルジェリアの再生可能エネルギー発電容量は全体で686MWであり、そのうち62%を占める423MWが太陽光発電である。次いで、水力が33%を占める228MWであり、太陽熱は4%となる25MW、風力は1%となる10MWの発電容量である。

出所:アルジェリア再生可能エネルギー・省エネ庁(CEREFE)、国際再生可能エネルギー機関(IRENA)レポートからジェトロ作成

管理および運用問題に伴う再エネの国内展開の遅れに対応するため、アルジェリア政府は2020年6月にエネルギー転換・再生可能エネルギー省を新たに設立した。同省は2021年4月、新たに「再エネ国家計画」を発表した。太陽光発電容量の目標は1万6,000MWへさらに引き上げられたが、達成は2030年から2035年に延期され、内訳は以下のとおり調整された。

  • 太陽光(オングリッド)1万5,000MW
  • 太陽光(オフグリッド)1,000MW

国家計画を実施する専用公社の設立で初めての入札へ

エネルギー転換・再生可能エネルギー省は政府の再エネ国家計画の実施を管理するために、同省およびエネルギー・鉱業省が共管しているアルジェリア再生可能エネルギー公社「シャエムス」を設立した。国営電力公社ソネルガスが50%、国営炭化水素公社ソナトラックが50%の出資比率を占めている。

2021年12月、シャエムスはアルジェリア中部における複数の太陽光発電所建設計画「Solar 1000 MW」に関する入札を公示した(2022年1月14日付ビジネス短信参照)。発電容量は、各発電所が50MWから300MWで、合計1,000MWとなる。同国で太陽光発電所建設に関する入札が行われたのは初めてとなった。当初の入札期限は2022年4月30日であったが、海外からの融資が許可されるか不明で、入札参加企業が少なかったため、同年6月にシャエムスは入札期限の延長を発表した。新たな入札期限はいまだ不明のまま、同社は2022年中に第2の「Solar 1000 MW」に関する入札を公示するとしている。

世界最大級の太陽光と風力発電のポテンシャル

海外からの融資許可や、利益送金など、投資環境上の課題が残るものの、そもそもアルジェリアの再エネにはどのような可能性があるのかが重要な点となる。

年間日照時間は2,000時間(北部)~3,900時間(南部)で、水平面全天日射量(global horizontal irradiance, GHI)は北部で5.1kWh/m2(平方メートル当たりのキロワット時)、南部(タマンラセット県とイリジ県)で6.6kWh/m2に達しており、南部地域は特に世界最大級のレベルである(図3参照)。

図3:アルジェリアの平均水平面全天日射量
アルジェリアにおける、1日あたりの平均水平面全天日射量は、北部の方が小さく、南部に行くほど大きくなる。北部では、5.1kWH/m2だが、南部では6.6KWh/m2に達する。

出所:アルジェリア再生可能エネルギー・省エネ庁(CEREFE)「Transition Energetique en Algerie, Edition 2020」

また、平均風速が1秒あたり5~6メートル(m)以上あれば、大型風力発電事業の採算が取れるとされるところ、アルジェリアには、対地高度80mで平均風速が1秒あたり7~8mとなる地域(アドラール県、ティンドゥフ県、イン・サラー県など)がある。図4のとおり、風力発電に適切な地域は中部に集中しており、太陽光発電に向いている地域と異なる。

また、国の面積は238万平方キロメートル(km2)とアフリカで最も大きく、南部の砂漠地帯は約200万km2を占めるため、太陽光および風力発電に活用できる土地は十分にある。

図4:アルジェリアの対地高度80mにおける年間平均風速(m/秒)
アルジェリアには、対地高度80mで平均風速1秒あたり7~8mとなる地域 が点在していて、特に中部に集中している。

出所:アルジェリア再生可能エネルギー・省エネ庁(CEREFE)「Transition Energetique en Algerie, Edition 2020」

太陽光発電の展開に基づくグリーン水素の可能性

アルジェリア再生可能エネルギー開発センター(CDER)によると、グリーン水素製造の開発を後押しする要素として、太陽光発電の巨大なポテンシャル、国面積の広さ、主要輸出先となる欧州諸国との地理的な近さが挙げられている。

アルジェリアは、太陽光発電容量の拡大を前提として、欧州市場への水素輸出を目指している。2021年11月にアルジェリア政府は、国家水素戦略のロードマップを準備するために、エネルギー・鉱業省、エネルギー転換・再生可能エネルギー省、高等教育・科学研究省および再生可能エネルギー・省エネ庁(CEREFE)で構成されるワーキンググループを設置した。詳細な内容は発表されていないものの、同グループは既にロードマップの主要柱をまとめた中間報告を政府に提出したとされる。さらに、アブデルマジド・テブン大統領は2022年2月、グリーン水素の展開を加速するため、国家戦略の策定を準備していると表明した。

しかし、アルジェリア国内のみでは技術が不足しているため、水素の開発実績があるドイツなどの外国関係機関や外国企業とのパートナーシップが必要になる。

水素産業の開発に積極的な姿勢を見せるドイツとイタリア

アルジェリアとドイツは、2015年に締結したエネルギーパートナシップに基づき、グリーン水素に関する交流を実施している。

ドイツ連邦経済・エネルギー省(BMWi)とエネルギー・鉱業省をはじめとする関係省庁は2021年12月、「アルジェリアのグリーン水素、生産ポテンシャルと協力の可能性」をテーマとした第3回ドイツ・アルジェリア・エネルギーフォーラムをアルジェで開催した。ドイツ国際協力公社(GIZ)は、アルジェリアの電力と天然ガスインフラの分析、グリーン水素製造のポテンシャルとコスト、グリーン水素に適している地域など、グリーン水素に関連するデータをまとめて発表した[ドイツ国際協力公社(GIZ)作成資料参照(フランス語)PDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)(6.33MB)]。

また、両政府は2022年2月、ドイツ復興金融公庫(KfW)との協力に基づき、アルジェリア関係省、関係機関および国営公社などを対象に、電力をグリーン水素へ変換する「再生可能なパワー・トゥ・エックス(Power to X、PtX、注)とグリーン水素」をテーマとしたトレーニングコースを実施した。両国関係者は、グリーン水素製造の協力について意見交換を行った。

2022年5月には、アルカブ・エネルギー・鉱業相がドイツの産業専門家のミッション団を受け入れている。同相は、グリーン水素製造などの新技術分野におけるドイツとアルジェリアの協力の重要性を強調した。

一方、イタリアのエネルギー大手エニと国営炭化水素公社ソナトラック社は、2021年12月と2022年5月に、太陽光発電、リチウム、バイオ燃料などの再エネ、グリーン水素、およびブルー水素の開発に関する複数の合意書に調印した。

グリーンの展開を間接的に後押しする人口増加、油田の老朽化とウクライナ情勢

最後に、グリーン産業の展開を牽引する内部要因(人口増加と石油・ガス田の老朽化)と外部要因(ウクライナ情勢)について考察する。欧州諸国の脱ロシア依存を受け、アルジェリア政府はイタリアなどに対して天然ガスの追加供給を約束している。パイプラインやLNG(液化天然ガス)輸出基地などのインフラ面では供給余力がある一方で、天然ガスの生産能力は、石油・ガス田の老朽化に伴い2018年から下がっているため、輸出余力が低下している。また、年間約80万人の国内人口の増加に伴い、電力の需要、言い換えれば天然ガスの消費が増加しているため、輸出できる天然ガスの量はさらに低下している。政府は再エネの普及と省エネ措置の実施により、国内の天然ガスの消費拡大を抑制することができれば、輸出能力の回復に寄与すると期待している(2022年10月12日付ビジネス短信参照)。その意味で、アルジェリアにとって今まで優先度が高い政策課題とは言い難かったグリーン産業の育成や展開は今後、必要不可欠となるだろう。


注:
Power to Xとは、電力により水を電気分解して水素を生成する技術の総称。グリーン水素は輸送用燃料や産業燃料として使用するほか、アンモニア、メタノールなど他のPtX製品や合成燃料(Eフューエル)への加工も可能。
執筆者紹介
ジェトロ ・パリ事務所
ピエリック・グルニエ
ジェトロ・パリ事務所に2009年から勤務。アフリカデスク事業担当として、フランス語圏アフリカ・マグレブ諸国に関する各種事業、調査・情報発信を行う。

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