特集:COP27に向けて注目される中東・アフリカのグリーンビジネスCOP27に向け、グリーン関連プロジェクトが目白押し(エジプト)
太陽光・風力発電、グリーン水素に注目
2022年10月31日
国連気候変動枠組み条約第27回締約国会議(COP27)が開催されるエジプト。開催国として注目される同国は、政府を挙げてグリーン関連投資の誘致に取り組む。その動きに合わせて、日本をはじめ各国企業が具体的な商機を模索している。
政府イニシアチブに呼応して各国のプロジェクト進む
2022年11月にエジプトのシャルム・エル・シェイクで開催されるCOP27に向け、エジプト政府は気候変動への対応と必要資金の調達を進めている。同年5月、政府は「国家気候変動戦略2050(3.3MB)」(NCCS:Egypt National Climate Change Strategy 2050)を発表した(2022年6月21日付ビジネス短信参照)。この具体化のために立ち上げたのが「水・食料・エネルギー連携プログラム」(NWFE:Nexus for Water, Food and Energy Program)だ(2022年10月12日付地域・分析レポート参照)。NCCSで掲げた計画のうち、水・食料・エネルギーを最優先事項として、国内外の金融機関と連携してプロジェクト実現のための資金調達を目指している。
こうした政府の動きに呼応するように、エジプトで再生可能エネルギー発電プロジェクトが相次いで発表されている(表参照)。
No. | 名称 | 種類 | 規模 | 参画事業者 | 稼働年 |
---|---|---|---|---|---|
1 | ベンバン・ソーラーパーク | 太陽光発電 | 1,465MW | アクシオナ(スペイン)、アクワパワー(サウジアラビア)、アルカザール(UAE)、インフィニティ・ソーラー(エジプト)、エネレイ(イタリア)、スカテック(ノルウェー)、チント(中国)、トタル・エレン(フランス)など多数 | 2017年 |
2 | ラス・ガレブ | 風力発電 | 262.5MW | 豊田通商(日本)、ユーラスエナジー(日本)、エンジー(フランス)、オラスコム・コンストラクション(エジプト) | 2019年 |
3 | ウエスト・バクル | 風力発電 | 252MW | レケラ・パワー(オランダ) | 2021年 |
4 | スエズ湾2号 | 風力発電 | 500MW | レッド・シー・ウインド・エナジー〔豊田通商(日本)、ユーラスエナジー(日本)、エンジー(フランス)、オラスコム・コンストラクション(エジプト)の合弁会社〕 | 2022年 |
5 | コム・オンボ | 太陽光発電 | 200MW | アクワパワー(サウジアラビア) | 2022年 |
6 | スエズ湾1号 | 風力発電 | 252MW | ベスタス(デンマーク) | 2023年 |
7 | アムネット | 風力発電 | 500MW | アムネット・パワー〔アメア・パワー(UAE)、住友商事(日本)の合弁会社)〕 | 2025年 |
8 | (未定) | 風力発電 | 1,100MW | アクワパワー(サウジアラビア) | 2026年 |
注:MW=メガワット。
出所:各社・機関ウェブサイト、報道を基にジェトロ作成
再エネ発電に加え、近年活発な動きを見せているのが水素製造に向けた取り組みだ。2022年8月、アイン・ソフナ地区でのグリーン水素製造施設の建設に向け、エジプト政府・企業と各国企業の間で7件の覚書(MOU)が締結された。同月、豊田通商とスエズ運河経済特区庁(SCZone)の間で締結されたインフラ開発や脱炭素事業での協力に向けたMOUにも、グリーン水素製造に関するプロジェクトが盛り込まれた。エニ(イタリア)、アクティス(英国)、マスダール〔アラブ首長国連邦(UAE)〕といった各国企業も、次々にグリーン水素関連でのエジプトへの投資や協力を表明している。
資金調達についても、政府の呼びかけに応じた動きがみられる。欧州復興開発銀行(EBRD)のオディール・ルノーバッソ総裁は9月7日、NWFEプログラムのエネルギー関連投資計画に2億~3億ドルの融資を表明し、さらに、エジプトでの再生可能エネルギー関連事業に最大10億ドル規模の融資の準備があるとした。また、英国の政府系開発金融機関ブリティッシュ・インターナショナル・インベストメント(BII)は1億ドルをエジプトのスタートアップに投資すると発表し(2022年9月14日付ビジネス短信参照)、英国はこの投資を通じて、COP27に向けたエジプトのグリーントランスフォーメーションを支援するとしている。
エジプトの再エネポテンシャル
プロジェクトが進む背景にあるのは、エジプトが持つ再エネ生産地としてのポテンシャルだ。国際再生可能エネルギー機関(IRENA)によると、1日当たりの平均日照時間は9~11時間、日射量は1平方メートル当たり年間2,000~3,200キロワット時(kWh)と、年間を通して日照量が多く太陽光発電に適している。また、紅海沿岸では平均風速が秒速8~10メートルと風力資源にも恵まれており、2021年時点でエジプトの風力発電コストは1KWh当たり0.05ドルを下回り、世界で最も競争力がある地域の1つだ。
2019年時点でエジプトの再エネ発電比率は約10%で、うち水力が6.8%、風力は1.9%、太陽光は0.8%だ(図1参照)。政府は2035年までに再エネ発電比率を42%まで引き上げる計画を打ち出しており、実際に発電容量、特に太陽光、風力発電の容量は増加を続けている(図2参照)。
また、長期的にエジプト政府が目指しているのはグリーン水素の製造・輸出だ。太陽光、風力で賄われる電力によってグリーン水素を国内製造し、再エネ発電比率目標の達成を目指す。また、グリーン水素の輸出を外貨獲得につなげる狙いもある。上述のとおり、具体的なプロジェクトが多数表明されていることから、今後の動向が注目される分野だ。
COP27の自国開催は、エジプトにとって、グリーン関連の投資機会をアピールするまたとないチャンスとなる。再生可能エネルギーやグリーン水素の生産国としての潜在性を有する同国に各国からの注目が集まっており、今後のプロジェクトの進展が期待される。
- 執筆者紹介
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ジェトロ・カイロ事務所
塩川 裕子(しおかわ ゆうこ) - 2016年、ジェトロ入構。展示事業部、ジェトロ富山、企画部(中東担当)を経て2022年7月から現職。