特集:COP27に向けて注目される中東・アフリカのグリーンビジネス アフリカで官民の動き、アラブ諸国も存在感
COP27を振り返る(後編)

2023年1月17日

国連気候変動枠組み条約第27回締約国会議(COP27)が2022年11月、エジプトのシャルム・エル・シェイクで開催された(表1参照)。一方、ウクライナ侵攻に伴い、欧州はエネルギー危機下にある。その中でも、官民の気候変動対策に向けた動きは、引き続き活発だ。また、「シャルム・エル・シェイク実施計画」を受けて今後、拠出される莫大(ばくだい)な気候変動関連資金を背景に、中東アフリカでのビジネスチャンスも増していくと考えられる。

この特集では、COP27を契機に注目される中東アフリカ各国の動きを読むものだ。また、本連載の前編『COP27を振り返る―途上国の要求受け「損失と損害」基金の設立合意―』では、合意文書において「ロス&ダメージ(損失と損害)」に関する基金設立を決定したことを報告。同時に、(1)その主な内容は、前回2021年のCOP26を踏襲したものだったこと、(2)多くの議論が2023年のCOP28に持ち越されたこと、にも触れた。

後編の本稿では、まず、COP27での、アフリカにおける気候変動に対する「適応(干ばつ対策、洪水対策など)」に関して支援や事業について振り返る。次に、アフリカやエジプトの民間セクターの動きを紹介する。最後に、存在感の大きかったサウジアラビアなどのアラブ諸国と、COP28の開催を予定するアラブ首長国連邦(UAE)の気候変動対策について動きを追う。

なお、取り上げるトピックは次のとおりだ(注)。

  • アフリカでの「適応」資金活用にビジネスチャンス
  • 干ばつ・食料対策や「水」保全も話題に
  • アフリカ民間企業の動きも活発化
  • 官民がグリーン水素に注目
  • エジプトでメガプロジェクト続々
  • サウジアラビアが存在感を示す
  • 次期COPに向け、UAEが布石
表1:COP27および条約締約国の交渉に関する概要
項目 概要
日時 2022年11月6~20日(2日間延長)
場所 エジプト、シャルム・エル・シェイク
規模 条約締約国197カ国、4万人以上
条約締約国による主な議論内容(進展)
  • 産業革命以降の温暖化の「1.5度目標」(目標を堅持)
  • 化石燃料の利用(石炭火力の段階的削減から進展なし)
  • 気候変動に向けた世界の適応目標(GGA)(継続議論)
  • 排出量削減に向けた緩和作業計画(MWP)(継続議論)
  • 気候変動における損失と損害の議論(基金設立へ)
合意文書 「シャルム・エル・シェイク実施計画」
合意内容
  • 「損失と損害(Loss & Damage」基金を新たに設立
  • 気候観測・早期警報システム支援を新た追記
  • その他は主にCOP26の「グラスゴー気候合意」を踏襲
その他 合意文書に低炭素経済への世界的な変革には、少なくとも年間 4~6兆ドルの投資が必要と強調。

出所:UNFCC、COP27公式ウェブサイトからジェトロ作成


シャルム・エル・シェイクでのCOP看板
(ジェトロ撮影)

COP27会場風景(ジェトロ撮影)

アフリカでの「適応」資金活用にビジネスチャンス

COP27では、途上国から先進国に対して、(1)気候変動への「適応(干ばつ対策、洪水対策、生態系保全など)」や「損失と損害(Loss & Damage)」に対する支援、(2)気候変動に関する資金供与、技術援助、などが強く求められた。

特に、アフリカ各国は、「長期気候資金」の公約達成を求めた。当該資金は、先進国から開発途上国に対し、目標として毎年1,000億ドル(約13兆円、1ドル=約130円)提供をすることで合意をみていたものだ。2021年のCOP26や、2022年10月のCOP27閣僚級会合(プレCOP27)などでも、この目標達成について繰り返し要請してきた経緯もある。COP27で改めて途上国から資金目標の達成を求めたことで、隔年で進捗報告書を作成することが決まった。

また、COP27では、干ばつや洪水対策といった気候変動に対する「適応」に向けた資金についても、途上国の要求により、進捗報告書作成が合意された。この資金についてはCOP26で、先進国全体の拠出を2025年までに倍増する目標が掲げられていた。国連環境計画(UNEP)によると、この適応資金については、2030年までに1,600億~3,400 億ドルのニーズが見込まれる。しかし、実際の適応資金の拠出は5 分の1以下にとどまるという。今後は、国際機関などが大規模なイニシアチブやプログラムを展開していくことが期待される。

アフリカ開発銀行(AfDB)が主導して最大130億ドルの調達を目指すのが、気候変動対応窓口(Climate Action Window、CAW)だ。このイニシアチブに対しては、COP27で英国が2億ポンド(約320億円、1ポンド=約160円)を拠出すると公表。ドイツも、4,000万ユーロ(約56億円、1ユーロ=約140円)の拠出を表明した。CAWは、気候変動に対して脆弱(ぜいじゃく)な国に対して、100万ヘクタールの荒野の再生や、農家2,000万人への農業技術指導などを目指す。西アフリカ開発銀行(BOAD)やアフリカ連合(AU)なども、適応関連の資金を公表した(表2参照)。

COP27での新たな動きもある。国連のアントニオ・グテーレス事務総長は、異常気象や気候変動に関する「早期警報システム」の構築に対し、31億ドルが必要と訴えた。こうしたこともあり、「シャルム・エル・シェイク実施計画」で、同分野への支援が明記された。今後、実際に構築が進められていくこととなるだろう。米国も、アフリカ諸国への早期警戒システム拡充など支援として新たに1億5,000万ドルの拠出を表明した。日本の持つ気象関連データや、早期警報システム、防災技術などを活用できる可能性もある。

表2:COP27におけるアフリカに関する主な「適応」資金の動き
支援国・機関 内容
アフリカ開発銀行(AfDB)、英国、ドイツなど AfDBが主導し最大130億ドル調達を目指すClimate Action Window(CAW)へ、英国が2億ポンド、ドイツが4,000万ユーロを拠出。
西アフリカ開発銀行(BOAD) 2021年から2025年までの干ばつ対策や農業分野、太陽光発電などの気候変動ファイナンスの目標を、13億ドルに引き上げると発表。これは、同行が供与する投融資全体の25%に当たる。
アフリカ連合(AU) 今後3年間で、気候変動対策に向けて5億ドルを投資。中低所得国で脱炭素社会への公正かつ公平な移行を加速させるのが、その狙い。
エジプト、国際援助機関 「公正な資金調達のためのシャルム・エル・シェイク・ガイドブック」を公表。グリーン資金を動員し、アフリカへ民間投資や融資を促進する。
国連 気候変動対策の世界気象情報の早期警報システムに対し、アフリカを含む途上国向けに31億ドルの支援を実施すると表明。
米国 異常気象の早期警戒システム拡充など、アフリカ諸国の気候変動対策支援に新たに1億5,000万ドルを拠出する。
フランス 京都議定書に基づく適応基金に1,000万ユーロを供与する意向を示した。

出所:COP27ウェブページ、各機関ウェブページ、報道からジェトロ作成

干ばつ・食糧対策や「水」保全も話題に

今後、適応資金を活用してアフリカで食糧・農業分野に関する取り組みが増えていくことも、予想されている。

一方で、国連によると、東アフリカに位置する「アフリカの角」では、記録的な干ばつにより、3,700万人以上が深刻な食糧危機に直面している。気温が1.5度上昇すると、西アフリカではトウモロコシの収穫量が9%減少し、南部と北アフリカでは小麦の収穫量が20~60%減少するという予測もある。折しも、国際的に食料価格が高騰しているさなかだ。中東アフリカなど、とりわけ食糧を輸入に頼る途上国にとっては危機に直結する。

そのためCOP27では、エジプトや国連食糧農業機関(FAO)が主導して、「持続的変革のための食料・農業イニシアチブ(FAST)」の発足が公表された(2022年11月22日付ビジネス短信参照)。気候変動に適応するため、2030年までに農業・食料システムの変革を目指すとしている。また、干ばつや食料危機対策などについて、サイドイベントが多数開催された。食糧安全保障をテーマにしたアフリカ開発銀行主催のウェビナーも、その一例だ(アフリカ各国から農業相が登壇)。農業や緑化関連の展示もみられた。

さらに合意文書では、議長国エジプトの呼びかけにより、COPとして初めて「水」の確保・保全に触れた。エジプトでは、水源の約95%をナイル川に依存。上流のエチオピアでダムが建設されると、農地が将来的に減少する懸念が生じる。農地減少は、海面上昇でも引き起こされる。また、淡水確保対策の重要性も、従前同様に訴えた。


「水パビリオン」、気候変動と水に関するイベントも
開催(ジェトロ撮影)

アフリカ開発銀行の食糧関連サイドイベント
(ジェトロ撮影)

砂漠拡大対策と緑化に関するナイジェリアブース
(ジェトロ撮影)

FAOによる農業と気候変動対策のサイドイベント
(ジェトロ撮影)

アフリカ民間企業の動きも活発化

COP27では、企業がビジネスの一環として気候変動対策に取り組んでいく意欲も確認された(2022年11月16日付ビジネス短信参照)。「アフリカビジネスリーダーによる気候に関する声明」の発表が、その現れの1つだ。この声明には、アフリカ企業の最高経営責任者(CEO)50人以上が署名した

声明の主な内容は、次のとおり。

  • アフリカ大陸で、再生可能エネルギー(再エネ)比率27%を2030年までに達成する(実行を表明)
  • 弱者を取り残さないように、脱炭素社会に向け公正に移行する(実行を表明)
  • 温室効果ガス排出量に見合う責任の公平な分担(要請)
  • 途上国に対する気候変動への「適応」の援助や融資、技術協力などの支援(要請)

国際再生可能エネルギー機構(IRENA)主催のサイドイベントでは、アフリカの民間企業やNGOなどから、アフリカ向け再エネ投資や技術支援を求める声が相次いだ。再エネのプラント建設には民間投資や、民間ファイナンスを活用する動きもある。太陽光や風力の世界大手企業などの連合ブースなどでも、サイドイベントが開催やネットワーキングが進められた。


風力と太陽光に関連する企業の連合ブース(ジェトロ撮影)

官民がグリーン水素に注目

COP27で水素活用が取り上げられたのも、注目点として挙げられる。

エジプトでは、グリーン水素プラント「エジプトグリーン」の計画が進む。太陽光・風力発電だけを活用して水素を生産する取り組みは、アフリカ初になる。なおこの計画には、 (1)ノルウェーの再エネ電力会社スカテック、(2) UAEの窒素肥料メーカー、フェルティグローブ、(3)エジプトのオラスコムコンストラクションなどの企業が共同で参画。COP27の会期中にあわせて、第1フェーズの試験開始が発表された。

このほか、エジプトでのグリーン水素製造事業に、欧州企業など多数が参入を表明している。

また、オランダ政府は11月7日、オマーンでの水素生産に関する覚書締結を発表。さらに11月10日には、ナミビアでのグリーン水素製造に4,000万ユーロを投資するとした。ナミビアは気候面で、太陽光発電や風力発電などに優位性を持つ。それら再エネを利用し、グリーン水素を製造・輸出するアフリカのハブとして地位確立を目指している。

中東アフリカで再エネ製造されたグリーン水素の輸入には、欧州各国などが関心を示している。


ナミビアブース(ジェトロ撮影)

エジプトで、メガプロジェクト続々

COP27の議長国エジプトは、電源の再エネ比率を2035年までに42%にする目標を掲げ、気候変動対策を進めている。太陽光・風力発電に有利な立地条件があり、地場・欧州企業などが数多くの事業を展開している。日本企業の参入事例もある。

会期中に示されたエジプトへの支援・事業事例は、欧米など先進国からだけではない。湾岸諸国による投資計画も発表された。UAEのマスダール(再エネ大手)は、地場のインフィニティ(再エネ・デベロッパー)、ハッサン・アラム(財閥企業)と合弁して、エジプトに陸上風力発電所を建設する計画を発表した。発電容量は、世界最大級の10ギガワット(GW)に及ぶという。COP27の前後で、気候変動に関連する当地プロジェクトが活発化している(当特集記事「COP27に向け、グリーン関連プロジェクトが目白押し(エジプト)」参照)。

一方、エジプトは、石油や天然ガスの産出国でもある。そのため、今回のCOP27でも、化石燃料の全面的廃止には消極的な姿勢を見せた。実際、東地中海地域などでは、なおもガス田開発が進む。ちなみに政府は、天然ガスを「低排出エネルギー」と位置付け、天然ガス車の普及などを進めている。

サウジアラビアが存在感を示す

COP27では、アフリカのほかに、湾岸諸国が目立った。湾岸諸国は世界有数の資源を有するため、一般的に、化石燃料の廃止そのものには消極姿勢だ。その一方で、国土の大半が砂漠を占め、淡水に恵まれない国が多い。干ばつなどの影響を受けやすいことになる。やはり、気候変動対策は必須な状況だ。さらに、世界的な脱炭素の流れを受け、中長期的な視点で見ると、化石燃料の需要減少が予想されることから、産油国では、石油・天然ガスに代わる産業を発展させる必要に迫られている。

今回のCOP27では、特にサウジアラビアが大きな存在感を示した。11月7日に「第2回中東グリーン・イニシアチブ(MGI)」サミットを開催し、ムハンマド・ビン・サルマン皇太子は「サウジアラビア公的投資基金(PIF)は2050年までにネットゼロ達成を目指す」とした。中東グリーン・イニシアチブへ今後10年間での25億ドルの拠出も発表した。産油国でも、将来に向けて脱炭素の取り組みを進めていることがうかがえる。

COP27では、COP会場内のサウジアラビア・ブースとは別に、近隣にサウジアラビアの取り組みなどを紹介する独自施設まで建設した。当該施設には「循環型炭素経済」エリアを設けた。ここで、(1)サウジアラムコの水素製造技術を紹介したり、サウジアラビア基礎産業公社(SABIC)のCO2回収・精製プラントについてモデル設備を展示したりした。

11月11~12日に開催した「サウジ・グリーン・イニシアチブ・フォーラム」では、50以上のイニシアチブが発表された。フォーラムで紹介された主な取り組みは次のとおり。

  • 13件に及ぶ再エネ事業(年間でCO2を約2,000万トン削減見込み)
  • 2023年に「温室効果ガス(GHG)クレジット・オフセット・スキーム」立ち上げ
  • 国営石油会社サウジアラムコとの共同で、世界最大規模のCO2回収・貯留(CCS)ハブを開発
  • サウジアラビアと国連気候変動枠組み条約(UNFCCC)事務局の共同で、2023年にMENA(中東・北アフリカ地域)気候ウイークを主催

サウジ・グリーン・イニシアチブ・フォーラム会場(ジェトロ撮影)

次期COPに向け、UAEが布石

また、次回COP28を開催するUAEの印象も、強かった。今回のCOPには、1,000人以上が参加登録。交渉やネットワーキングに参加したという。

そうした場で、UAEはしばしば化石燃料の継続利用についても言及。「世界が必要とする限り、石油や天然ガスを供給する」と主張した。実際、新興国などで、化石燃料需要は依然として高い。ウクライナ危機以降はとくに、欧州でも天然ガスなどの需要が急増した。このように、産油国が化石燃料の有用性を訴える声を上げやすい状況にあったことも、この背景にある。

UAEは、COP27でエジプトに次ぐ規模のブースを設置した。エミレーツ・グローバル・アルミニウム(EGA)が製造する「太陽光発電アルミニウム」も紹介された。CO2をはじめとする世界のGHGのうち2%は、アルミ精錬による排出といわれる。その製造を再エネで賄えると、排出を効果的に削減できることになる。そのため、既にドイツ自動車メーカーのBMWが同製品の導入を決めた。周辺国への販路拡大も見込めそうだ。


UAEブース(ジェトロ撮影)

なお、次回のCOP28は、2023年11月30日から12月12日までの会期で、ドバイで開催が予定されている。COP27「エジプト・アラブ共和国」に続いての「アラブ首長国連邦」開催だ。アラブ諸国の強い存在感は、引き続き維持されることになるだろう。前述のとおり、UAEをはじめとする産油国の意向があらわれる可能性もある。

一方で、ドバイでは将来的な経済の選択肢として、脱炭素に積極姿勢を見せる。「ドバイEXPO2020」会場跡地の「再利用」自体を、その一例として受け取ることもできるだろう。再エネ・水素活用の推進や、中東でのマングローブ植林、CO2の回収・貯蔵(CCS)など、新たな動きも注目される。

また、アフリカでは電気普及率が今なお低い。それだけに、COP27では電気自動車(EV)などの話題が少なかった。しかし、欧米などでは今後、EVが本格的に普及していくと見込まれる。そうした新時代に向けた産業技術も求められていくことになりそうだ。湾岸諸国の気候資金も背景に、新たなビジネスチャンスも見えてくる。


COP28開催予定地のドバイEXPOシティー
(ジェトロ撮影)

COP28開催予定の看板(ジェトロ撮影)

注:
当記事に関連して、ビジネス短信特集「COP27に係る各国・地域の反応」も参考になる。

COP27を振り返る

  1. (前編)途上国の要求受け「損失と損害」基金の設立合意
  2. (後編)アフリカで官民の動き、アラブ諸国も存在感
執筆者紹介
ジェトロ海外調査部中東アフリカ課
井澤 壌士(いざわ じょうじ)
2010年、ジェトロ入構。農林水産・食品部農林水産企画課、ジェトロ北海道、ジェトロ・カイロ事務所を経て、現職。中東・アフリカ地域の調査・情報提供を担当。

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