特集:COP27に向けて注目される中東・アフリカのグリーンビジネス再エネとグリーン水素に注目、COP27で支援要請(アフリカ)

2022年10月31日

2022年11月に国連気候変動枠組み条約第27回締約国会議(COP27)が、アフリカ大陸のエジプトで開催されるため、途上国への気候変動対策の協力・支援について注目が集まっている。

これまで、アフリカでは、環境への配慮よりも、化石燃料などの資源を利用した経済発展を優先する姿勢が強かった。一方、近年、グリーン分野に積極的に取り組む国もある。国際再生可能エネルギー機関(IRENA)によると、アフリカでは太陽光や風力の適地があり、グリーン水素製造などの分野では優位性があるとの見解も示された(2022年3月1日付ビジネス短信参照)。また、電気需要の増加への対応や未電化地域の電化のために再生可能エネルギー(以下、再エネ)の活用が進んでいる。

アフリカでのCOP開催に関する期待

国際エネルギー機関(IEA)によると、アフリカでの温室効果ガスの排出量の割合は世界全体のわずか4%未満である。一方で、世界気象機関(WMO)によると、アフリカでは、洪水、干ばつや山火事による被害、これらの災害による農業生産の減少などの気候変動の影響があるという(2022年10月4日付ビジネス短信参照)。

特に新型コロナ禍以降の経済停滞や、ウクライナ危機以降の燃料価格と価格高騰による食料危機などにより、厳しい状況にある。途上国では、技術、資金が不足しているため気候変動に対して自国での対策・適応が困難であり、国際的な協力を求めている。

10月にコンゴ共和国で開催されたCOP27の閣僚級会合(プレCOP27)では、アフリカの閣僚などが、COP15において約束された先進国から途上国への年間1,000億ドルの支援という目標を達していないとし、さらなる支援を求めた(2022年10月6日付ビジネス短信参照)。COP27などを通して、途上国に向けた気候変動対策の支援について議論される見通しだ。

ゼロエミッションをアフリカ12カ国が宣言

アフリカ諸国の温室効果ガス排出量は少ないものの、アフリカでは12カ国がネット・ゼロ・エミッションの達成年を宣言した。人口が少ない国など、既に排出量が少ない国の宣言も多いが、アフリカの排出量の32.7%を占める南アフリカ共和国、8.4%を占めるナイジェリアも宣言しており、12カ国の合計で約40%を占める(表1参照)。2050年までの達成を掲げる国が多く、これらの国で目標が達成されれば、アフリカの排出量はさらに少なくなる。

表1:アフリカのゼロエミッションを宣言した12カ国
国名 達成目標年 アフリカでの
CO2排出割合
アフリカでの
人口割合
サントメプリンシペ 1998年に達成 0.0% 0.0%
コートジボワール 2030年 0.8% 2.1%
カーボベルデ 2050年 0.0% 0.1%
セーシェル 2050年 0.0% 0.0%
リベリア 2050年 0.1% 0.4%
マラウイ 2050年 0.1% 1.6%
モーリタニア 2050年 0.3% 0.4%
ナミビア 2050年 0.3% 0.2%
ルワンダ 2050年 N.a. 1.1%
南アフリカ 2050年 32.7% 4.8%
ナイジェリア 2060年 8.4% 16.7%
モーリシャス 2070年 0.3% 0.1%

出所:IEA「Africa Energy Outlook 2022」からジェトロ作成

2021年開催のCOP26では、エジプト、モロッコなども、石炭利用の段階的な削減や再エネの活用の推進を表明した。これらの国や残りのアフリカ諸国が、COP27などの機会に、排出量に関して宣言するか注目されている。すでに達成しているサントメ・プリンシペや、排出がほぼ0%であるセーシェルなどは、島国のため、海面上昇対策を訴える。

アフリカにおける発電源の状況

二酸化炭素(CO2)の排出の多い発電分野において、2021年のアフリカ諸国の状況をみると、レソト、コンゴ民主共和国、エチオピアの順に再エネ比率高く、それぞれ100%に近い(表2参照)。一方、南アフリカでは約8割を石炭火力に依存しており、再エネ比率は17.6%となっている。また、北アフリカでは、主に天然ガスによる火力発電で、再エネ比率はエジプトが10.6%、チュニジアが6.7%、アルジェリアが2.6%となっている。アフリカ平均では再エネ比率は23.1%であり、世界平均の38.3%には届かない。

アンゴラ、ナイジェリアなど石油・ガスが主要輸出品となる国もあり、その他の国でも経済成長や産業育成のために化石燃料を活用する。また、ウクライナ危機以降、欧州の天然ガス調達の多角化の動きもあり、アフリカからの天然ガスの供給の可能性も模索されており、依然として化石燃料の需要も多い。

表2:2021年のアフリカにおける再エネ比率上位10カ国と主要国
順位 国・地域 再エネ比率
(%)
再エネ発電容量
(MW)
1 レソト 99.8 75
2 コンゴ民主共和国 99.0 892
3 エチオピア 97.9 4,759
4 エスワティニ 94.8 179
5 ウガンダ 92.1 406
6 ザンビア 84.5 2,844
7 モザンビーク 79.1 2,273
8 マラウイ 78.9 527
9 ケニア 76.0 2,384
10 ナミビア 73.2 501
12 アンゴラ 64.0 3,794
23 コートジボワール 40.0 227
27 ガーナ 31.7 1,700
29 モロッコ 29.9 3,522
37 南アフリカ 17.6 10,193
38 ナイジェリア 16.4 2,154
44 エジプト 10.6 6,227
46 チュニジア 6.7 124
51 アルジェリア 2.6 686
アフリカ平均・合計 23.1 55,863
世界平均・合計 38.3 3,068,297

出所:IRENAからジェトロ作成

人口や経済規模が大きい国の再エネ発電が多い

アフリカにおける再エネによる発電容量が多い国としては、製造業があり経済規模が大きい南アフリカ、人口が多く電気需要も多いエジプト、エチオピア、コンゴ民主共和国、ナイジェリアなどがある(図1参照)。再エネの内訳では、南アフリカやエジプト、モロッコは、近代的な太陽光や風力でも発電されている。エチオピア、アンゴラ、ザンビア、コンゴ民主共和国、モザンビークなど、河川による水資源の豊富な国では水力発電が多い。約4割を地熱発電で賄うケニアなど、自国特有の自然エネルギーを生かして発電を行う国もある。

図1:2021年アフリカの再エネ発電容量上位国(単位:MW、出所:IRENA)
南アフリカが最大で約1万メガワットであった。次いで、エジプト、エチオピア、アンゴラ、モロッコ、ザンビア、コンゴ民主共和国、ケニア、モザンビーク、ナイジェリアの順になった。

出所:IRENAからジェトロ作成

国際エネルギー機関の報告書「Africa Energy Outlook 2022PDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)(8.38MB)」によると、アフリカでは2030年までは天然ガスと石油など化石燃料が主要な発電源となるが、再エネも増加傾向であり、長期的にはさらに再エネへの移行が進むという。

アフリカでは、気候変動の議論が積極的になる以前から、水力により発電していた(図2参照)。2010年ごろより、南アフリカ、モロッコ、エジプトなどで太陽光や風力による発電が拡大した。背景には、世界的な脱炭素の動きと併せて、中国が海外での石炭発電所への支援を打ち切ると発表した影響もあり、アフリカでは建設中の石炭火力発電所はあるが、新規の発電所の建設計画はない。

図2:アフリカの再エネ発電容量推移(単位:MW)
2000年から2021年までに徐々に上昇した。内訳を見ると、2010年頃までは、水力が大半であり、それ以降は、太陽光や風力による発電が急増している。

出所:IRENAからジェトロ作成

需要増と電化地域の拡大により再エネに適した地域では増加の見通し

世界の地域別の再エネ発電容量の推移を見ると、2001年から20021年にかけて、アフリカを含む全ての地域で再エネが増加しているが、アジアや欧州、北米などに比べてアフリカの発電容量は少ない(図3参照)。一方、国際エネルギー機関によると、アフリカには、日照日数・時間が長く世界でも有数の太陽光発電に適した地域があり、風況の良い風力発電に適した土地もある。砂漠や耕作に不向きな地域も多く、再エネ設備を設置できる土地も広い。特に太陽光発電の容量は世界のわずか1%であるが、発電コストが2030年までに減少する見込みのため、特に太陽光発電施設の建設が伸びるという。

現在、アフリカへのエネルギー投資は世界全体の5%未満であるが、2026年から2030年までのエネルギー分野への投資額は年平均約1,900億ドルまで増加する見込みだ。特に、電力部門を中心としたクリーンエネルギー投資は6倍に増加するという。

図3:地域別の再エネ発電容量推移(単位:MW)
世界の地域別の再エネの発電容量は、アジア、欧州、北米、南米、ロシアCIS、アフリカ、オセアニア、中東の順になった。推移をみると、どの地域においても、2001年から2011年にかけて増加しており、2011年から2021年の間でも増加している。

出所:IRENAからジェトロ作成

グリーン水素の製造・輸出を目指す

今後の動きとして注目が集まるのがグリーン水素だ。国際再生可能エネルギー機関によると、世界のエネルギー消費における水素の割合が2050年には約12%になると予測する。水を再エネにより電気分解し、製造過程で二酸化炭素を排出しない「グリーン水素」は、今後30年間で約11兆7,000億ドル規模になるとしている。欧州やアジアなどに比べて、アフリカでのグリーン水素製造の競争力が高いと言われており、2050年には1キログラムあたり1.5ドル未満のコストにより、サブサハラアフリカでは2,715エクサジュール、中東・北アフリカで2,023エクサジュールを製造する潜在性があるという(図4参照)。

図4:2050年のグリーン水素製造量の可能性(単位:エクサジュール)
2050年の水グリーン素製造量の潜在性を見ると、サブサハラアフリカ、中東北アフリカ、北米、オセアニア、南米、アジア、欧州の順に多かった。

注:エクサジュールは、10(ジュール)の18乗(エクサ)であることを示すエネルギー量の単位。
出所:IRENAからジェトロ作成

特に南アフリカ、ナミビア、エジプト、モロッコ、モーリタニア、ケニアの6カ国は、2022年5月に「アフリカ・グリーン水素アライアンス」を立ち上げ、グリーン水素産業の発展に取り組む。ナミビアではアフリカ初となるグリーン水素による発電設備の建設が公表された(2022年10月5日付ビジネス短信参照)。世界で最も失業率が高い国の1つである南アフリカにおいても、石炭産業から水素産業に移行することで、新たな雇用の創出を目指している。

表3のとおり、各国で自国産業および輸出向けとして、水素関連プロジェクトの施設建設が予定されている。二酸化炭素排出量の多い、鉄鋼、肥料、化学、交通・物流などの産業部門において、グリーン水素を活用することで、脱炭素化への潜在性があるという。一方で、水素関連施設の建設や輸送・貯蔵インフラの技術開発、資金も必要になり、今後、COP27などで先進国や国際機関へ支援を求める見通しだ。

表3:各国における完成予定が近いグリーン水素関連プロジェクト
国・地域名 完成予定 内容 プロジェクト名
南アフリカ 2022年 鉱物輸送トラック用3.5 MW規模の水素製造 Anglo‐American Mogalakwena mine
モロッコ 2022年 肥料用260 t H2/年規模の水素試験設備 OCP Group demonstration
ナミビア 2023年 輸送機器用4 MW規模の水素製造 O&L Group-CMB.TECH hydrogen hub
エジプト 2024年 水素・アンモニア製造FS調査 EBIC Ammonia
モーリタニア 2030年 アンモニア、肥料、輸出用水素製造(1.8 Mt H2/年) Aman Green Hydrogen

出所:IEA「Africa Energy Outlook 2022」からジェトロ作成

気候変動対策に向け各国が取り組む

アフリカ各国では、再エネや水素のほか、廃棄物処理、電気自動車(EV)、省エネ機材、砂漠化対策や海面上昇対策など各国の課題や需要に応じて、気候変動対策関連の取り組みを進める。各国の強みや特徴を生かして国家戦略を策定する国もある。また、カーボンクレジットによる排出権取引、グリーンボンド(環境債)などの金融面での取り組みも検討されている。

さらに、先進国や国際機関からの援助のみならず、民間企業の投資や誘致を目指す国もある。アフリカ54カ国において、状況は異なり、政治や経済・財政などの動向にも注視が必要であるが、グリーン分野ではビジネスの機会も見受けられる。

執筆者紹介
ジェトロ海外調査部中東アフリカ課
井澤 壌士(いざわ じょうじ)
2010年、ジェトロ入構。農林水産・食品部農林水産企画課、ジェトロ北海道、ジェトロ・カイロ事務所を経て、現職。中東・アフリカ地域の調査・情報提供を担当。

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