特集:COP27に向けて注目される中東・アフリカのグリーンビジネス気候変動対策に向けたイノベーション国家へ(イスラエル)

2022年10月31日

イスラエル政府は、気候変動対応に野心的な目標を設定。2050年までに、温室効果ガス(GHG)排出量を実質ゼロにするという。

本稿では、当地のグリーンビジネスや気候変動分野のスタートアップの動き、それを支える政府の取り組みなど、気候変動対応の現状について報告する。

2030年に再エネ比率30%、2050年に無排出を目指す

イスラエル政府はGHG削減に向けて、再生可能エネルギー(再エネ)による発電量の比率を引き上げていく構えだ。具体的には、2020年に10%、2025年に20%、2030年に30%とする目標を掲げていた(2021年5月27日付地域・分析レポート参照)。

一方、国際エネルギー機関(IEA)の集計データによると、2020年時点で発電量全体に占める再エネの割合は約6%(ちなみに、そのうち9割を太陽光発電が占めた/図参照)。前述の「2020年に再エネ10%」という政府目標は、達成できなかったことになる。

図:エネルギー源別発電量の推移(イスラエル)
イスラエルのエネルギー源別発電量は1990年から2020年まで右肩上がりで伸びている。発電源は1990年時点では石炭と石油のみであったが、2000年以降は天然ガスの割合が大幅に増加傾向にあり、2010年以降は太陽光の割合も徐々に増加している。

出所:IEA統計を基にジェトロ作成

二酸化炭素(CO2)排出量に関する中期的な目標は、2030年までに1人当たり7.7トンに削減することだ(2005年時点では10.4トン)。また、2021年開催の国連気候変動枠組み条約第26回締約国会議(COP26)で、ナフタリ・ベネット首相は意欲的な計画を表明した。石炭の使用を段階的に廃止し、2050年までにGHG排出量を実質ゼロとするという。同首相は気候変動への対応に同国の技術開発と起業家精神が貢献できる考えを示し、「気候変動対策イノベーション国家(climate innovation nation)」を目指すとした。

大統領諮問機関の「イスラエル気候変動フォーラム(Israeli Climate Forum)」も、取り組みを開始。2022年5月17日に第1回会合が開催された。アイザック・ヘルツォーク大統領はその席上、「各種の成果が出始め、中東地域のパートナーシップを推進することで気候変動の危機に対応していく」と述べた。

気候変動テック分野で起業・投資が活性化

イスラエルは世界有数のイノベーション・エコシステムを有し、起業が盛んだ。気候変動分野でも活発な動きがある。気候変動対策を目的として設立された当地NPO「Planetech」は2022年9月、気候変動テック(当該対策に資する技術)に関する報告書「Israel’s State of Climate Tech 2022 Update」を公開した。この報告書によると、イスラエルの気候変動テック企業数は、2021年末時点で694社存在する。そのうち、57社が2021年に起業した。分野別の企業数では、スマート農業、クリーンエネルギー、持続可能なモビリティー・運輸、代替タンパク質、水資源関連の順に多かった。

また、イスラエルのベンチャーキャピタル(VC)が気候変動分野に投資した金額は2018年から2021年までの累計で52億ドル。2021年の投資額は25億ドルで、2018年に比べて4.4倍成長した。イスラエルの成長率は、他国と比較して2.6倍に上ったかたちだ。投資先を見ると、代替タンパク質やスマート農業などの分野で増加傾向にある。逆に、モビリティーやクリーンエネルギー関連では、減少傾向が見られる。

気候変動テックでは、ユニコーン企業も複数誕生している。前記の報告書では、(1) Via社(森ビルや伊藤忠商事とパートナーシップを締結し、ライドシェアサービスを提供)や、Wiliot社〔バッテリー不要のIoT(モノのインターネット)デバイスと機械学習(マシンラーニング)で、サプライチェーンを最適化〕などが挙げられた。

Planetechは2022年9月21日、イスラエル初のクライメット・テック特化型イベント「Planetech World」も開催した(2022年10月3日付ビジネス短信参照)。このイベントでは、スタートアップ10社(注1)が国連気候変動枠組み条約第27回締約国会議(COP27、注2)のイスラエルパビリオンに出展することが発表された。COPにイスラエルのパビリオンが出展するのは、今回が初。会期中に30以上のイベントを開催する予定だ。ここからも、COP27に向けて官民で連携して取り組む姿勢が見えてくる。


環境保護相による基調講演(ジェトロ撮影)

COP27に選抜されたスタートアップの代表者
(ジェトロ撮影)

スタートアップの動きにも注目が集まる

GHG削減に向けて目標を設定する企業もみられる。地場の大手石油精製業Bazan Groupも、その一例だ。同社は、再エネの大手サプライヤーになり、先進的で持続可能な石油化学製品を拡大することを目指すという。2030年までに、総額15億ドルの設備投資をする計画だ。具体的目標として、「グリーン水素生産能力の拡大」や「水素ステーションの全国展開」「持続可能な先進ポリマーの生産比率30%以上」を掲げた。

同時に、同社は技術革新プラットフォームとして「Bnnovation」を立ち上げている。Bnnovationを通して当地気候変動テック分野のスタートアップ企業に投資したり協業したりする活動も盛んだ。例えば2020年には、安全・効率的・安価な水素分離の技術を持つHydro Xに出資。国内での水素ステーション展開プロジェクトで協業した。

既述の通り、政府はCOP26で2050年までのゼロエミッションを宣言した。その目標達成に向け、政府の宣言や取り組みに期待が高まっている。また、イスラエルの気候変動テック分野の技術革新やスタートアップの動きにも、注目が集まる。


注1:
COP27イスラエルパビリオンに出展するスタートアップ10社は、記事中で言及したWilot社や、GenCell社(水素発電機を開発)を含む。
注2:
COP27は、2022年11月にエジプトで開催される。
執筆者紹介
ジェトロ・テルアビブ事務所
太田 敏正(おおた としまさ)
大手システムインテグレータを経て、2018年にジェトロに入構。企画部情報システム課、サービス産業部商務・情報産業課、知的財産・イノベーション部イノベーション促進課、企画部情報データ統括課を経て、2022年7月から現職。

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