特集:COP27に向けて注目される中東・アフリカのグリーンビジネスグリーンビジネス推進により経済再興や雇用創出を目指す(チュニジア)

2022年10月31日

天然資源の乏しいチュニジアは、石油・天然ガスなどのエネルギー源の大半を輸入に依存してきた。近年、国内のエネルギー需要が増加する一方で、供給は減少していることから、政府はグリーンエネルギーへの移行を積極的に進めている。政府は、グリーンビジネスの推進により、経済復興やイノベーション創出、若年層の雇用創出を目指している。

天然ガス火力発電が大半

チュニジア産業・鉱業・エネルギー省によると、2010年から2019年までの10年間で、国産天然ガスなどの一次エネルギー源は毎年7%の減少を記録し、7.8Mtoe(100万石油換算トン)から、3.9Mtoeへと半減した。一方、エネルギー需要は毎年2%の伸びで拡大し、2010年には10%であったエネルギー需給ギャップ(消費エネルギーに対する一次エネルギー供給不足)は、2021年に48%まで拡大した。エネルギー不足の深刻化は、エネルギーの輸入依存度を高め、補助金の肥大化と外貨流出を助長した。

発電のエネルギーミックスを見ると、天然ガスによる火力発電が大半で、2010年以降、92%から97%の間で推移している。天然ガスは、3分の1が国内生産であり、残りの3分の2はアルジェリアからの輸入だ。なお、アルジェリアから欧州向けに輸出される天然ガス・パイプラインはチュニジアを通過しており、「通過料」に相当する対価は、天然ガスでチュニジアに支払われている。

再生可能エネルギーの割合は、2010年の 1.2%(189ギガワット時=GWh)から 2019年には3.7%(約800GWh) に増加した。主に、2014年に北部ビゼルト風力発電所で400GWhの電力供給が開始されたことによる。また、太陽光発電も、2020年に合計で約400GWhの発電となるなど、増加している。

図:再生可能エネルギーによる発電可能量の実績と目標(単位:メガワット)
チュニジアにおける再生可能エネルギーの発電可能量は、2015年の275メガワットから2020年には1223メガワットまで増加した。2025年、2030年の目標はさらに増加する見込みである。電源の割合はいずれも風力発電が多い。

出所:チュニジア産業・鉱業・エネルギー省

表:再生可能エネルギーによる発電可能量の実績と目標(単位:メガワット)(-は値なし)
項目 2015年 2020年 2025年 2030年
風力発電 245 775 1305 1755
太陽光発電(個別) 30 153 392 642
太陽光発電所 250 555 868
バイオマス 45 80 100
集光型太陽熱発電 150 450
275 1223 2482 3815

出所:チュニジア産業・鉱業・エネルギー省

グリーンエネルギー開発のための法的枠組み制定

天然ガスの輸入依存に対応すべく、政府は2013年にエネルギー戦略を盛り込んだ「持続可能な開発国家戦略(SNDD)」を打ち立てた。戦略には、エネルギーの持続可能な消費と生産、天然資源の管理、グリーン経済の国家戦略(持続可能な農業・観光業、ごみ処理体制、省エネ、再生可能エネルギー)などが含まれる。2015年には、再生可能エネルギー発電に関する法律が施行され、2030年までに発電の30%を再生可能エネルギーに転換、2010年比で30%の省エネの実現、二酸化炭素排出を41%削減などの目標を示した。

さらに、政府は以下のとおり、チュニジア電力・ガス公社(STEG)の独占状態であった発電事業に、民間企業を参画させる政策を打ち出した。2017 年以来、民間部門の参加と認可制度を柱に、太陽光発電および風力発電の取り組みを積極的に進めている。

  1. 電力制度:太陽光発電 10メガワット(MW)、風力発電は30 MW、バイオマス発電15MWを超える公共事業へ外資を含む民間企業の参加を可能とする。
  2. 認可制度:1での発電量を下回る独自プロジェクトを認可する。
  3. 発電システム:1と2で発電した電力をSTEGへ100%販売する制度を制定。

さらに、2022年度予算法では、以下のとおり、グリーンビジネス関連企業への部分的免税措置、環境配慮型機器の消費税や輸入関税率の引き下げといった奨励策を定めた。

  • グリーン経済に関する企業税・個人所得税の免除
    課税価格から、グリーンボンドやソーシャルボンド、サステナビリティボンドの利子分の控除が可能。年間 1万 チュニジア・ディナール(約46万円、1チュニジア・ディナール=約46円)が上限。
  • 電気自動車などの消費税の軽減
    ハイブリッド、電気モーター搭載の自動車の消費税を50%軽減。
  • 電気自動車、太陽光パネルの輸入関税の引き下げ
    ハイブリッド、電気モーター搭載の大型車・普通車、商用運搬の電気自動車の輸入関税を免除(HSコード870240、780380、8704)。太陽光パネルの輸入関税を10%に引き下げ。
  • 環境保護税の見直し
    2003年度予算法第59条で定められた環境保護税の税率5%を7%に引き上げ。

欧州への輸出も視野に大型太陽光発電を計画

チュニジア産業・鉱業・エネルギー省は、2022年9月5日に、アラブ首長国連邦のアメア・パワー(再生エネルギー関連発電所建設企業)、アフリカ開発銀行、国連国際金融公社(IFC)との間でチュニジア中央部のケルアンでの太陽光発電所(100MW)建設計画の融資契約を調印した。同計画は合計500MWの太陽光発電計画における、発電所第1号の建設となる。このほか、ボルジ・ブルギバ発電所(200MW)、ガフサ発電所(100MW)、トザー発電所(50MW)、シディ・ブジッド発電所(50MW)の建設が予定されている。政府は、毎年500MWの増強により、2030年までに再生可能エネルギーでの発電量を4,300MWに拡大し、太陽光発電のシェアを30%に引き上げると強気の姿勢を示す。

新しい試みとして、フランスの電力会社ケール(Qair)によって2022年6月25日にチュニスのベルジュ・ドュ・ラック地区に設置された北アフリカ初の浮体式の水上太陽光発電ユニットも注目される。約130人分の200キロワットの電力能力がある。浮体式の水上太陽光発電の開発の布石となることが期待されている。

輸出を視野に入れた発電プロジェクトとしては、2009年に中東・北アフリカ地域の砂漠地帯で太陽熱・太陽光や風力により発電し、欧州に送電するという壮大な計画「デザーテック」が発案されていた。2014年に「デザーテック産業イニシアティブ(Dii)」は事実上の解散となったが、ロシアのウクライナ侵攻による欧州のエネルギー不足を背景に、大型の太陽光発電計画が再浮上している。2022年8月16日には、英国ヌアーのチュニジア子会社チュヌアー(TuNur)が欧州への輸出を視野に入れ、15億ドルを投資し、南部ケビリ県とガベス県に500MWの太陽光発電所を設置すると発表した。南部における政府開発支援地域での投資インセンティブが、同地域の選定理由の1つであった。

グリーンビジネスの可能性

現在、グリーンビジネスとして注目となっているグリーン水素では、チュニジア初のプロジェクトである「チュニジアの持続可能な成長と低炭素経済のためのグリーン水素(H2Vert.TUN)」 が、2022年6月28日に正式に開始された。ドイツの国際協力公社(GIZ) が、チュニジア産業・鉱山・エネルギー省と協力し、グリーン水素および関連ビジネスのためのバリューチェーンの構築を目指している。中期的に最も期待できる分野としては、肥料産業がある。現在輸入されているアンモニアを、再生可能エネルギーによる自国生産のグリーンアンモニアに置き換える計画だ。

また、チュニジアはEUの融資による地中海沿岸南部でのグリーン経済開発プログラム「スウィッチ・メッド」に参加している。この枠組みを通じて、各産業において、以下のようなグリーンビジネスの取り組みが行われている。

  • 観光業:エコツーリズムの推進。
  • 農業・食品加工業:オーガニック製品の製造と輸出の推進。
  • 繊維・衣料製造業:グリーンビジネスを織り込んだ付加価値製品の製造や、水不足と環境保護を配慮した水の浄化と再利用の推進。

既に、スウェーデンのジーンズメーカーのヌーディー・ジーンズと、チュニジアのデニム・オーソリティーとシテックスの共同企画によるリサイクルのオーガニック高級ジーンズが開発された。

グリーン・スタートアップ支援

グリーンビジネスによる技術開発促進と雇用創出を狙う観点から、スタートアップへの期待が大きい。2022年に民間スタートアップ支援団体Flat6Labsとフランス投資団体のインパクト・パートナーズは、チュニジアのグリーン分野のスタートアップと中小企業への支援プログラム「グリーン4ユース」を開始した。これまでプラグラムに参加した16社の中でも、水不足対策に取り組むキュミュリュス(Kumulus)が注目される。太陽光により稼働し、空気中の湿気を捉えて毎日20~30リットルの飲料水を生産できる機械を開発し、2022年9月には100 万ユーロの資金調達に成功した。


キュミュリュス第1号(同社提供)
執筆者紹介
ジェトロ ・パリ事務所
渡辺レスパード智子(わたなべ・レスパード・ともこ)
ジェトロ・パリ事務所に2000年から勤務。アフリカデスク調査担当としてフランス及びフランス語圏アフリカ・マグレブ諸国に関する各種調査・情報発信を行う。

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