ビジネス機会創出とレガシープラン(UAE)
2020年ドバイ国際博覧会の取り組みと今後の展望(後編)

2022年9月28日

中東・アフリカ地域初の大型登録博である2020年ドバイ国際博覧会(以下、ドバイ万博)が2022年3月31日、半年間の会期を終えて閉幕した(2022年4月5日付ビジネス短信参照)。新型コロナウイルス感染拡大の影響による1年の延期、オミクロン株の発生をはじめとするさまざまな困難の中、アラブ首長国連邦(UAE)政府は新型コロナウイルス対策の実施により、万博会期中に多くの観光客を呼び込んだ。本稿の後編では、ドバイ万博公社(以下、公社)および参加国主催のビジネスイベントや、万博会場跡地の活用をはじめとするレガシープランを紹介し、ドバイ万博の特徴について考察する。

ビジネス機会を積極的に創出

本来、万博は教育や文化交流を主目的として開催されるものであり、過度な商業活動やビジネスに焦点を当てた展示は、従来の万博にはあまり見られなかった。しかし、ドバイ政府および公社は、この万博をビジネス機会創出の場として位置付け、会期中にドバイ商工会議所や各参加国と連携して積極的にビジネスイベントを実施した。

公社が実施した主な取り組みとして、宇宙、食品、医療など10のテーマ(表参照)について、世界中から有識者を集め議論する企画「テーマウィーク」がある。公社はドバイ商工会議所と連携して、同ウィーク中に複数のビジネスイベントを企画し、すべてのテーマウィークで必ず複数のビジネスフォーラムを開催した。

また、いくつかのウィークは、同一テーマで開催された市中の見本市や国際会議とタイミングを合わせて開催された。2021年10月に行われたSPACE(宇宙)ウィークの翌週には国際宇宙会議(IAC)が開催されたほか、2022年1~2月のHEALTH & WELLNESS(ヘルス&ウェルネス)ウィーク付近には中東地域最大の医療機器関連見本市であるアラブヘルス、2月のFOOD, AGRICULTURE & LIVELIHOODS(食料・農業・生活)ウィーク付近には中東最大級の食品総合見本市ガルフードが開催された。公社は、各見本市の出展者をデレゲーションとして万博会場に招いてイベントを行うなど、市中の各イベントと連携を図り、ドバイを訪問するビジネス関係者を万博に呼び込もうとする姿勢が強く表れていた。

表:公社が設定した10のテーマウィーク
開催期間 テーマ
2021年10月3日~9日 気候変動と生物多様性
2021年10月17日~23日 宇宙
2021年10月31日~11月6日 都市と農村開発
2021年11月14日~20日 寛容・インクルーシビティー
2021年12月12日~18日 知識と学習
2022年1月9日~15日 トラベル&コネクティビティ
2022年1月16日~22日 SDGS
2022年1月27日~2月2日 ヘルス&ウェルネス
2022年2月17日~23日 食料・農業・生活
2022年3月20日~26日

出所:公社資料からジェトロ作成

ドバイ商工会議所によると、同商工会議所は会期中に98件のビジネスイベントを開催し、リアルとオンライン合わせて、130カ国以上から2万5,000人以上の参加があった。さらに、同商工会議所は、会期中に60カ国以上から1,746人のビジネスデレゲーションの訪問を受け、UAEと世界各国の投資家との間での1,500件の2国間商談を実施した。公社と商工会議所が主催したビジネスフォーラムの大半はハイブリッド形式で行われ、世界各国から公的機関および民間企業の参加があった。


SPACE(宇宙)ウィークの様子(ジェトロ撮影)

ほかにも、公社はイノベーターへの資金とネットワーキング機会の提供を目的とした支援プログラム「EXPO LIVE」を2016年から立ち上げ、会期終了までに76カ国の140プロジェクトを支援した。同プログラムでは、最大10万ドルの助成金に加え、会期中には特設パビリオンでのピッチや展示、ネットワーキングの機会が提供された。

日本企業では、車椅子での移動経路をユーザー同士が共有するアプリを運営するWheeLog(2020年12月11日付ビジネス短信参照)と、廃棄予定食品を引き取り生活困窮者などに届ける活動を行うセカンドハーベスト・ジャパンの2社が選定された。

WheeLogの活動は会場内の特設パビリオンで紹介され、会期中に同パビリオン内で開催されたパネルディスカッションに参加した。10万ドルの助成金は、同社アプリの多言語対応の開発などに活用された。セカンドハーベスト・ジャパンは2019年の開幕前イベントに招待され、事業の計画や基本理念についてのプレゼンテーションを行った。

各参加国のビジネスへの関心も非常に高く、多くの参加国が自国のパビリオンや公社が提供する場を活用して、様々なイベントや展示を企画していた。以下に、特にビジネスイベントに力を入れていたパビリオンの例を紹介する。

マレーシア館:会期中の全26週間、毎週テーマを変えてビジネスウィークを開催。公社 主催のテーマウィークに合わせたものから、マレーシア各州の産業プロモーション、農業、気候変動、医療、教育など様々なテーマを独自に設定したほか、国内外からそれぞれの優良企業を招聘(しょうへい)し、セミナーやビジネスマッチングなどを行った。パビリオンの入り口付近にはセミナーやパネルディスカッション、ピッチで活用できる小規模ステージ、1フロアすべてを使った商談スペースを設け、一般来場者とは別に、ビジネス関係者が活用できるスペースが作られた。同館の発表によると、会期を通して452の企業が同館のビジネスイベントに参加し、4,558件のビジネス商談が行われた。131件の包括連携協定が結ばれ、貿易投資見込み額は700億マレーシア・リンギ(約154億ドル)と推定される。HEALTH & WELLNESS(ヘルス&ウェルネス)ウィークに合わせて行われた同館のイベントには、装着型サイボーグの研究開発と技術提供を手掛ける日系スタートアップ企業サイバーダインも参加し、技術紹介や装着体験会が行われた(2022年1月20日付ビジネス短信参照)。

インド館:各テーマウィークに合わせてパビリオンの一部の展示内容を変更し、自国の産業や技術を映像やパネルで紹介。また、インド各州の自治体や企業と連携し、各州の特色や産業を打ち出すビジネスイベントをはじめ、セミナーやビジネスマッチングをパビリオン内で多数開催した。「SPACE(宇宙)ウィーク」に合わせて行われたセミナーには、超小型人工衛星技術を活用したソリューションを提供する、日系スタートアップのアクセルスペース(Axelspace)から執行役員の山﨑泰教氏が登壇し、宇宙開発への民間企業の参画についてインド企業と議論を交わした。


インド館のビジネスセミナーで議論するアクセルスペース(Axelspace)山崎氏(右から2番目)ほか
(ジェトロ撮影)

コロンビア館:万博期間中に、独自のビジネスイベントを60件実施した。特に、2021年11月に開催されたイベントでは、25カ国のバイヤーと同国17地域の企業との間で450件の商談を実施した。同館によると、官民合わせて258の団体と、2,371人以上の国際ビジネスパーソンや各国代表が参加し、期待される成約総額は2億1,800万ディルハム(約5,900万ドル)以上だ。また、パビリオンのウェブサイトには、同館主催者コロンビア貿易投資振興機構(PROCOLOMBIA)が運営するBtoBマーケットプレイスが表示されており、同館の情報だけでなく、コロンビアの輸出事業者にコンタクトできるようになっている。

万博会場跡地を複合施設として活用、次世代の育成を意識したレガシー計画も

ここまでドバイ万博の特徴やその果たした役割について振り返ったが、UAE政府は今後どのように万博の遺産を活用していくのだろうか。

公社が当初から公表していたレガシー計画の1つに、万博会場跡地の活用がある(2020年7月15日付ビジネス短信参照)。会場施設の 80%を再利用し、オフィス、住宅、スポーツ・レジャー、ショッピングモールなど、多彩な用途を備えた複合施設として、万博閉幕から半年後の2022年10月 にEXPO CITY(注1)がリニューアルオープンする予定だ。中でも、会場入り口に設置された4万5,000平方メートルの展示場Dubai Exhibition Center(DEC)は、会期中に続き、フォーラムや展示会、ネットワーキングイベントなど様々な用途で活用が期待される。テナントの募集は会期中にも積極的に行われ、すでにドイツのシーメンス、中国のターミナス・テクノロジー、UAEのDPワールドなどの国内外大手企業が入居を決めている。また、世界中のスタートアップや中小企業を対象とした誘致プログラム「Scale2Dubai」を通して選定した事業者に対しては、2年間のオフィススペース、滞在ビザ、起業サポートなどを提供するとしており、特にイノベーション分野に重点を置いて誘致が行われている。

EXPO CITYは、2023年にUAEで開催予定の国連気候変動枠組み条約第28回締約国会議(COP28)の会場として選定されるなど、すでに次なる国際イベントでの活用が予定されている。

ソフト面でも、レガシーが多数存在する。その1つが、「Programme for People and Planet」(注2)の継続開催だ。公社はこの企画を誘致当初から計画に組み込んでおり、開幕2年半前の2018年には、テーマウィークの主要プログラム「World Majlis」の第1回を開催した(注3)。「World Majlis」は、性別、職業、地位に関係なく車座になって自由に討論するUAE独自の文化から発想を得たものだ。これを、会期前から会期中、会期終了後にも継続的に行っていくことによって、重要なテーマを国民、移住者、参加者に意識させるとともに、この討論の文化自体を残していくことは、ドバイ万博の残す大きなレガシーだと言える。リーム・アル・ハーシミー国際協力担当国務相兼ドバイ万博事務局長は、「多様な視点を持つ人が集まりグローバルな対話を実現」し、「2020年とその先へ、ポジティブなインパクトをもたらし、強いレガシーを残す」ことを、同企画の目的として述べている。

会期中には、各テーマウィークで複数のセッションが行われ、合計52件のイベントに420人が登壇した。同イベントは、バーチャル・エキスポ・プラットフォームで配信され、会期終了後も特設サイトにアーカイブとして動画とレポートが残る。また、これらの企画はレガシー継承のために発足した新組織「Expo Dubai Group」によって、引き続き実施されることが決まっている。

そのほかにも、若者の感性を刺激し、キャリア形成を支援するイベントと展示を行ったユースパビリオンや、学校と連携して児童・生徒を会場に招きサステナビリティについて学習するユースプログラムなど、次世代にレガシーを残すことを意識した取り組みも多くみられた。

これまで見てきたように、新型コロナ感染拡大からの経済回復には、ドバイ万博の開催が寄与したと考えられる。さらに、誘致当初から計画されていた万博会場跡地の活用や次世代の育成などのレガシープランは、閉幕後にも着実に準備が進んでおり、今後も万博のレガシーを活用したUAEのさらなる発展が見込まれる。


注1:
当初の名称は「District 2020」。2022年6月20日の政府発表で新名称が公開された。
注2:
テーマウィークに沿って行われたイベントプログラム。「World Majlis」「Business Forum」「Expo Live」をはじめとする5つの企画があり、世界各国から有識者を集め、人類と地球の直面する課題について議論する場が設けられる。
注3:
第1回は「持続可能な開発」をテーマに、UAE政府機関やオフィシャルパートナー数社が講演を行った。

2020年ドバイ国際博覧会の取り組みと今後の展望

  1. 経済への影響と感染症対策(UAE)
  2. ビジネス機会創出とレガシープラン(UAE)
執筆者紹介
ジェトロ・ドバイ事務所
堀池 桃代(ほりいけ ももよ)
2019年、ジェトロ入構。市場開拓展示・事業部を経て2022年4月から現職。2021年10月から2022年3月は、ドバイ万博日本館事務局にて勤務。