特集:COP27に向けて注目される中東・アフリカのグリーンビジネス小型太陽光発電サービスに日系ベンチャー参入(モザンビーク)

2023年3月1日

モザンビーク政府は、再生可能エネルギー(再エネ)の活用を推進している。

経済開発を進めるには、電化が必要だ。しかし、世界銀行によると、モザンビークの電化率は2020年時点で30%にとどまる。都市部で75%、農村部では実に4.5%に過ぎない。そこで、政府は2030年までに電化100%にする野心的な目標を掲げた(2022年10月31日付地域・分析レポート参照)。ただし、特にインフラ設備が脆弱(ぜいじゃく)な未電化の農村地帯でどのように電力を供給するのかが、政府にとって重要な課題になる。

民間企業からは市民の電気の需要をふまえて、あえて配電網にこだわらず、オフグリッド(分散型電源)で電化するという発想が出てきた。しかも、それがソーラー発電で供給され、再エネ活用の拡大にもつながっている。

まさにそうしたサービスを、アフリカの農村向けに提供する日系ベンチャー企業がある。それが、ワッシャ(WASSHA外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます )だ。2022年に、モザンビークで活動を開始した。ちなみに同社は、タンザニア、ウガンダ、コンゴ民主共和国にも進出済みだ。今回、ジェトロはモザンビークでの事業の見通しや太陽光発電の可能性について、同社のモザンビーク現地法人代表兼他国展開部長の谷内愛氏に聞いた(2023年1月26日)。

質問:
現地では、どのようにビジネス展開しているのか。
答え:
当社のビジネスモデルは、(1)農村で日用雑貨などを販売する小規模小売店(注1)とエージェント契約を結ぶ、(2)当該小売店に対して、充電式LEDランタンを含むソーラー発電機器一式を貸与、(3)当該小売店は近隣住民や個人事業主にランタン一式を貸し出し、利用者は代金を小売店に支払う、(4)ワッシャは、回収した貸し出し代金の中から小売店の委託料を差し引いたものを受け取る、というものだ。
ランタンは、バッテリーも兼ねる設計になっている。すなわち、光源としての利用のほか、携帯電話などの充電器としても利用可能ということになる。実際、エンドユーザーは、携帯電話の充電器としてランタンを利用するホームユーザー(家庭での利用者)と、夜間も明かりを必要とする個人事業主の大きく2つのグループに分けることができる。

キオスクエージェントに貸与するソーラーパネル、操作端末、ランタンのセット(ジェトロ撮影)

現地のキオスクの様子
(ワッシャ提供)
質問:
モザンビーク進出を決めた要因と、現在のサービス提供状況は。
答え:
進出を検討するに当たり、人口やモバイルマネーの普及状況、未電化比率が重要なポイントになった。モザンビークは大手携帯キャリアのボーダコム(南アフリカ共和国資本)とモビテル(ベトナム資本)がそれぞれモバイルマネーのサービスを提供。これらは、農村部でも普及している。他のアフリカ諸国と比較して人口は少ないため、ターゲットの絶対数は少ない。しかし、電化率が低いため、事業ポテンシャルは高いと考えた。また、同国北部の一部地域では、テロリストによる治安悪化が問題となっている(注2)。しかし、他の地域の治安は比較的安定していることも、進出を決めた理由の1つだ。
エンドユーザーの多くは、未電化農村地帯に居住している。そのため現地法人は、モザンビーク第2の都市で、農村地帯へのアクセスも容易なナンプラ州ナンプラ市に設立した。現在はナンプラ州全域に加え、同州の南に位置するザンベジア州モクバにも支店を開設。市場開拓を進めている。
2023年1月時点でナンプラ州を中心に約60の小規模小売店と契約し、1店舗当たり22~25個のランタンを貸与している。現在は合計1,800人ほどのエンドユーザーに当社のサービスを利用してもらっている。
質問:
ナンプラ州の市場の特徴は。また、競合はいるかどうか。
答え:
ナンプラ州で広く使われているマクワ語は、タンザニア公用語のスワヒリ語と言語的類似性が高い。また、農村部の集落の分布状況など人口密度もタンザニアとの類似性がある。そのため、モザンビークの地場小売店への売り込みに当たり、スタッフが蓄積してきたタンザニア市場のノウハウを生かすことができた。
モザンビークには、(1)フランスの電力会社エンジーが提供する「マイソル(My Sol)」と、(2)ケニア発のオフグリッド・ソーラー発電の世界的大手「サンキング(Sun King)」が進出済みだった。これらは競合と考えている。しかし、これら2社が提供するソーラーパネルを用いたオフグリッド発電システムは、将来的に顧客が発電システムを買い取ることを前提にしたビジネスモデルになっている。また、価格設定などから、ターゲット層はむしろ市街地向けだ。競合と比較して、当社は確かに後発だ。それでも、未電化農村部に特化したサービス事業者は当社だけになる。
質問:
政府は「Energy for All(全ての人へのエネルギー)」プログラムなど、電化率向上を目標に掲げる。また、再エネ普及推進イニシアチブなどの施策を進めている。事業者としてこれらの政策は追い風となっているか。
答え:
農村部の電化率向上を促進するため、政府は2023年1月から、付加価値税(VAT)法改定を施行した。これに合わせ、ソーラー関連機器を輸入する際、農村部の電化を用用途とする商品についてはVATが免除になった。この措置はコスト削減につながり、事業を後押しする効果をもたらしている。
しかし、輸入時の関税や国内販売時のVATなどには、優遇措置が講じられていない。電化率向上を進めようとする他の東アフリカ諸国の施策と比較すると、物足りない。また、基本的なビジネス環境にはまだ改善の余地があると感じる。例えば、国内での支店開設や外国から投融資を受ける際など、手続きに時間を要しているのが実情だ。
質問:
太陽光発電の可能性、今後の事業展開の方向性は。
答え:
モザンビークでは、アフリカで4番目の規模を誇るカホラ・バッサ水力発電所が稼働している。このように、当地最大の発電ポテンシャルは水力発電と言える。
一方、水力で発電された電力は、南アフリカ共和国など近隣国への輸出資源になっている。その結果として国内への電力供給が限られることが、電化率の低い要因の1つにも思える。加えて、国内送電網を見ると、特に同国中部ザンベジア州から北部への送電網が老朽化。故障や電力ロストが頻発するため、この地域一帯では停電が多い。中北部では電力の大口顧客となるような産業が限定的で、費用対効果の点から民間事業者が送電事業に参入しにくい構造だ。
それに比べ、太陽光発電は初期投資が低い。しかも、モザンビークには日照条件が恵まれているという地理的特性もある。そのため、これらの地域では、分散型電源の活用可能性が高いと考えている。
今後の方向性として、まずは現在のサービスを定着していく。その上で、発電にとどまらず、農村部の伸びしろを活かせる新事業を模索していきたい。

注1:
そうした小規模小売店は、「キオスク」と呼ばれる。
注2:
日本の外務省は、モザンビークのナンプラ州の北部、カーボデルガード州などでの治安悪化のため、渡航に関する注意喚起外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます を発出している(2023年2月時点)。
執筆者紹介
ジェトロ・マプト事務所
松永 篤(まつなが あつし)
2015年からモザンビークで農業、BOPビジネスなどの事業に携わる。2019年からジェトロ・マプト事務所業務に従事。

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