特集:アフリカ・スタートアップ:成長スタートアップに聞くビットコインを活用したソーラーパネル設置・配電(南アフリカ共和国)

2020年1月24日

石炭火力発電が電力全体の約7割を占める南アフリカ共和国(南ア)。環境や気候変動問題への関心の高まりと、エネルギー・ミックスの重要性の観点から、太陽光や風力などの再生可能エネルギーのシェア拡大に向けた動きが広まっている。そのような中で、サン・エクスチェンジ(Sun Exchange)はビットコインを活用し、ユニークなシステムでソーラーパネル設置・配電事業を行っている。ジェトロは同社の創設者アベ・ケンブリッジ氏にインタビューした(2019年12月18日)。


創設者のアベ・ケンブリッジ氏(サン・エクスチェンジ提供)
質問:
起業の経緯と事業概要は。
答え:
英国で生まれ育ち、イースト・アングリア大学で気候変動分野の理学修士を取得した。ブロックチェーン構築家、破壊的技術者かつ太陽光発電起業家という肩書を持つ。2008年に英国拠点のリニューアブル・エネルギー・イニシアチブ(Renewable Energy Initiative)を起業し、太陽光スタートアップ事業を開始した。2014年に南アに移住し、翌2015年にサン・エクスチェンジを設立した。
太陽光技術コンサルタントとして案件に従事した当初、南アは日照時間に恵まれて世界でも屈指の太陽光発電のポテンシャルがあるにもかかわらず、ソーラーパネルが設置されている建物は少なく、また、法人向けの太陽光発電導入を促す金融商品やファイナンシャルスキームが不足していることに衝撃を受けた。時を同じくして、世界中の資金のやり取りはクリプト・カレンシー(仮想通貨)を通じてほぼゼロ・コストで行うことが可能になり、今後その流れは急速に拡大することを実感した。
これら2つを同時に発見したことが当社のビジネス着想のきっかけとなった。ブロックチェーン技術とビットコインを介して、ソーラーパネル設置にかかる資金を世界中の投資家(オーナー)から調達し、ソーラーパネルを南アの民間企業や公共施設に設置・リースし、契約に応じて支払われる電気料金の一部をオーナーに利益として還元していくモデルだ。米マイクロソフトのビズパーク(BizPark)プログラムの支援を経て、2015年にベンチャーキャピタルなどから3万5,000ドルの資金調達に成功した。
質問:
ビジネスの概要は。
答え:
太陽光発電システム導入に不可欠なソーラーパネル設置に関わる資金を自社のプラットフォームを通じて世界中の投資家(オーナー)から調達する。民間企業や学校などのオフテーカー(引き取り手)に設置した後、20年間のリース・売電契約に基づき、オフテ-カーからビットコインで月々の使用料を回収する。
クラウドファンディングのため、世界中の誰でも1口5ドルでソーラーパネルのオーナーになることができる。オフテ-カーにとっては、ソーラーパネル設置にかかる大規模な初期投資を行う必要がない。また、従来の送電網から供給される電力料金より安く、かつ現在計画停電が頻発している南アで長期間安定した電力を購入できることから、二重のメリットを享受できる。オフテ-カーは20年間のリース契約期間内に15~45%の電力コスト削減を見込むことができるため、特に公立学校やNGOなど、初期投資費用の捻出が難しい非営利組織への太陽光発電導入拡大につながる。また、サン・エクスチェンジのプラットフォームを通じてソーラーパネルを購入したオーナーは、カーボンエミッションと相殺することができ、20年間で10~20%の投資リターン(IRR)が期待できる。
現在、153カ国の約1万2,000人が登録しており、南ア国内で既に12件のプロジェクトが稼働している。あるプラスチック・リサイクル工場(オフテーカー)との契約を例にすると、公的な電気事業者の電気料金が1キロワット時(kWh)当たり1.14ランド(約8.66円、1ランド=約7.6円)に対し、サン・エクスチェンジとの契約では0.85ランドとなり約25%のコスト削減効果がある。なお、ソーラーパネルの設置費用やメンテナンスも電力料金に含まれているほか、火災などでパネルが損傷を受けた場合でも、売電契約で定めた電力料金の中に含まれている保険料でカバーされる。
質問:
今後の展望、日本企業との協業の可能性は。
答え:
事業は急成長しており、過去12カ月で発電容量は155キロワット(kW)から、1,153 kWにまで拡大している。事業開始当初は資金調達や優秀な社員の確保に課題があった。また、南アの電力事業規制は主に既存の大規模発電事業を前提としているため、こうした小規模電力事業向けの制度が整っておらず、苦労することも多かったが、政府との調整を含め、南アの事業環境に柔軟に対応することで問題を克服してきた。
当社がソーラーパネルを設置しているのは国内のみだが、今後はサブサハラ・アフリカ、そして、南米や中央アジア、東欧の新興国への事業拡大に意欲を持っている。日本については、クリプトカレンシー・ブロックチェーンや社会の持続性に関心を持つ個人や、機関投資家などにも当社が提供する投資機会を活用してほしい。日本企業による出資に関しては、当社の関連企業(米国拠点)の紹介が可能だ。

ソーラーパネルを設置し電力を供給するプラスチック工場(サン・エクスチェンジ提供)
執筆者紹介
ジェトロ・ヨハネスブルク事務所
髙橋 史(たかはし ふみと)
2008年、ジェトロ入構後、インフラビジネスの海外展開支援に従事。2012年に実務研修生としてジェトロ・ヤンゴン事務所に赴任し、主にミャンマー・ティラワ経済特別区の開発・入居支援を担当。2015年12月より現職。南アフリカ、モザンビークをはじめとする南部アフリカのビジネス環境全般の調査・情報提供および日系企業の進出支援に従事。
執筆者紹介
ジェトロ・ヨハネスブルク事務所
カイラ・オニール
ダーバン市出身。2015年から、ジェトロ・ヨハネスブルク事務所勤務。主に南部アフリカの経済・産業調査、訪日招聘プロジェクトに従事している。