米USTR、2025年の通商課題を報告、WTO体制に「我慢の限界」も改革に取り組む

(米国)

ニューヨーク発

2025年03月04日

米国通商代表部(USTR)は3月3日、「2025年の通商政策課題と2024年の年次報告」を公表外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますした(注1)。WTO改革の必要性を訴えるとともに、ドナルド・トランプ大統領が就任初日の1月20日に発表した「米国第一の通商政策」を実行する旨がうたわれている。

今回の報告書では、「設立30周年を迎えるWTOと米国の利益」と題されたセクションが設けられた。その中で、USTRは「WTOの実行可能性と持続可能性はますます疑問視されるようになっている」と指摘した。その1つに、貿易自由化交渉の失敗を上げ、他国が米国ほどの自由化を達成できていないとした。具体的には、米国の平均譲許税率(注2)が3.4%、最恵国(MFN)税率が3.3%であるのに対し、ブラジルはそれぞれ31.4%、11.2%、インドは50.8%、17.0%、韓国は17.0%、13.4%だと例示した。また、WTOは、中国の非市場経済がもたらす課題に対処できていないとも指摘し、米国は、中国の補助金プログラムや国営貿易企業に対して、最低限の透明性を提供するように何度も対抗措置を講じざるを得なかったとした。WTOの紛争解決制度は、違反行為の是正を十分に果たせていないだけでなく、中国の非市場経済による被害に対処する加盟国の能力を損なっていると批判した(注3)。

その紛争解決制度については、「紛争解決に係る規則および手続きに関する了解」の第3.2条で「紛争解決機関の勧告および裁定は、対象協定に定める権利および義務に新たな権利および義務を追加し、または対象協定に定める権利および義務を減ずることはできない」と定められているにもかかわらず、上級委員会やパネルが合意済みの規則に反する、あるいは規則を越える行動を取ることは、紛争解決システムの正当性を損なうとともに、米国の主権を侵していると批判した(注4)。その上で、「我慢にも限界がある」と記しつつ、「米国はこれらの問題の解決を試みており、今後も引き続き努力を続ける」と結論づけた。

今回の報告書に対して、政治専門紙「ポリティコ」(3月3日)は、「比較的抑制の効いた表現となっているため、議会が今年中にWTOからの脱退を決議する可能性は低い」と評した。ただし、米国のWTOに対する支持は大幅に弱まっており、トランプ氏による追加関税賦課は、WTOに違反しているとも指摘した。

報告書ではそのほか、米国が直面する経済および国家安全保障上の課題に対処するための、貿易のリバランス計画を明確にしているとし、その中には、「米国第一の通商政策」で示された取り組みも含まれているとした(2025年1月22日記事参照)。「米国第一の通商政策」ではUSTRに対して、貿易赤字への対処、非相互的な貿易関係の調査(2025年2月25日記事参照)、米国・メキシコ・カナダ協定(USMCA)の見直しに備えた手続きの開始などを指示している。

(注1)USTRは1974年通商法に基づき、貿易協定に関する取り組みや政策方針について、毎年3月1日までに連邦議会に報告を行う。前年の報告書は2024年3月5日記事参照

(注2)WTO加盟国・地域に対して、一定率以上の関税を課さないことを約束している税率を譲許税率という。

(注3)米国の1974年通商法301条に基づく対中追加関税や1962年通商拡大法232条に基づく鉄鋼、アルミニウム製品への追加関税措置を指しているとみられる。いずれも、WTOの紛争解決パネルでWTO協定と不整合との判断が示されている。

(注4)WTO改革に対する米国の主張は、2023年8月29日付地域・分析レポート参照

(赤平大寿)

(米国)

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