米最高裁がIEEPA関税を無効と判断も還付方法や詳細な関税率は不透明
(米国、世界)
ニューヨーク発
2026年02月24日
米国の連邦最高裁判所は2月20日、国際緊急経済権限法(IEEPA)に基づいて大統領が関税を課すことはできないとの判決
を下した。ただし、輸入者が既に支払い済みの関税の還付方法や、トランプ政権がこれまでの交渉で合意した各国・地域で異なる関税率の取り扱いについては触れておらず、不透明な状況が続いている。
トランプ政権は2025年2月以降、IEEPAに基づき合成麻薬フェンタニルなどの流入阻止を目的とした追加関税や相互関税などを課してきた。だが、IEEPAには「輸入を規制する」との文言はあるが、「関税を課すことができる」と明示的に記載されていない。これまでにIEEPAに基づき関税を課した大統領もおらず(注1)、その合法性が最高裁で審理されていた(2026年1月5日記事参照)。今般、最高裁は、議会が憲法上有している課税権限を大統領に委譲する際は「常に明示的な文言と厳格な制限を伴って行われてきた」として、IEEPAは大統領による関税賦課を認めていないと結論付けた。判決には、判事6人が賛成、3人が反対だった。
ただし判決は、既に輸入者によって支払われた関税の還付方法について言及しなかった。IEEPA関税をめぐっては、将来的な還付のプロセスにおいて、「自動的に還付が受けられるのは訴訟を起こした原告に限られる可能性がある」といった懸念から、関税の還付を求める訴訟が相次いでいた。ドナルド・トランプ大統領は最高裁による判決後に会見を開いたが、関税還付に関して明言を避けた。ただし、トランプ政権は訴訟の過程で、裁判所が「還付を命じた後、違法に徴収したと認定されたIEEPA関税を全額還付する」と明言している。また、このトランプ政権の主張は、「禁反言の法理」(注2)により覆されないとされている(2025年12月17日記事参照)。詳細については、今後、米国国際貿易裁判所(CIT)によって審議されるとみられる。
こうした状況を受け、トランプ氏は同日、1974年通商法122条に基づき、全ての輸入に原則10%の課徴金を課すと発表した(2026年2月24日記事参照)。また米通商代表部(USTR)のジェミソン・グリア代表は、同法301条に基づく複数の新たな調査を開始する意向
を表明した。グリア代表は、調査対象として、輸入相手国の過剰生産能力や強制労働、医薬品価格設定の仕組み、デジタルサービス税などを例示した。調査期間の短縮についても示唆した。また、財務省のスコット・ベッセント長官は、ダラスで行った講演
で「裁判所はトランプ大統領の関税措置を否定したわけではない」「単に、IEEPAの権限を用いて1ドルたりとも歳入を調達することはできないと裁定したに過ぎない」と述べ、301条や1962年通商拡大法232条など、異なる法律を基に関税措置を継続する方針を示した(注3)。なお、ベッセント長官は、IEEPA関税の還付について「数週間、数カ月、あるいは数年にもわたって長引く可能性がある」との見解を示している(米通商専門誌「インサイドUSトレード」2月20日)。
また、これまでにトランプ政権が各国・地域と締結した相互貿易協定に基づく関税率の扱いも、現時点では不透明だ(注4)。グリア代表は2月22日、CNBCのインタビューで、EUなどと既に協議したと明かした上で、「これらの協定は、最高裁の判決に左右されるものではない」「われわれは協定を順守する。相手国も協定を順守してほしい」と述べた。ただし、相互関税率の引き下げなどで合意したインドの政府担当者は、内容の精査などから、ワシントン訪問を延期したなどと報道されている(「インサイドUSトレード」2月22日)。
相互関税などIEEPAに基づく関税措置が無効と判断されたことによって、トランプ政権は新たな関税措置を発表するなど、当面、予見可能性が低い状態が続くことになる。対米投資にあたっては、関税率が定まらないことによってコストを計算できない不確実性を嫌う傾向にある(注5)。対米ビジネスを行っている企業は、今後の状況を注視する必要がある。
(注1)IEEPAに基づき関税を課した大統領はいないものの、IEEPA自体は金融制裁の根拠法になるなど、頻繁に利用されている。
(注2)一度主張した内容と矛盾する主張は許されないとする考え方。
(注3)301条は、外国の通商慣行が貿易協定に違反している場合や、不合理・差別的である場合に、大統領の指示に従ってUSTRに輸入制限措置を発動する権限を与えている。232条は、ある製品の輸入が米国の安全保障を損なう恐れがあると商務省が判断した場合に、当該輸入を是正するための措置を取る権限を大統領に与えている。いずれも一定の調査期間が必要。301条と232条の発動までの仕組みなど、詳細については2024年12月10日付地域・分析レポート参照。
(注4)日本に対しては、相互関税と自動車・同部品の232条関税について、一般関税率(MFN税率)が15%未満の場合は一般関税率と相互関税・232条関税を合計して15%、一般関税率が15%以上の場合は、相互関税・232条関税は課さないと定めている(2025年9月16日記事参照)。
(注5)日本企業による対米投資動向については、2026年1月19日付地域・分析レポート参照。
(赤平大寿)
(米国、世界)
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