欧州市場に見るチャンス、中堅・中小企業の取り組み高い質と機動力を武器に、欧州市場の障壁を越える
茨城県・柴沼醤油醸造
2026年7月9日
茨城県土浦市に本社を構える柴沼醤油醸造は、欧州を含む世界60カ国以上に製品を輸出している。同社の強みは顧客や市場ごとの要望に応えられることだ。現在特に潜在可能性を感じている市場は欧州と中東だという。代表取締役社長の柴沼秀篤氏と広報担当の野崎亜美氏に、同社が見る欧州市場の魅力や海外展開についてのヒントを聞いた(取材日:2026年3月26日)。

柴沼醤油醸造は北米、中南米、欧州、アジア、オセアニア、中東、アフリカなど世界各国に、主に業務用の製品を輸出している。その中で最も売上高が高いのがスイスだ。現地の地場系回転すしチェーンにしょうゆ(醤油)やポン酢を輸出している。2012年にパリで開催された国際食品見本市SIAL出展時に商談を行った後、同チェーンの要望に応えるためサンプルを持って足しげくスイスを訪問し、フィードバックを踏まえた丁寧な調整を重ねて受注に至った。先方からの要望は、現地の人の手の大きさを考慮した扱いやすいパッケージから、現地では照り焼きソースもすしに使うことからしょうゆやソースの味・粘度の調整まで、多岐にわたった。大手企業の場合、こうした要望は採算上対応しない規模のものである。しかし、同社にとっては利益を見込める魅力的な話であり、機動性をもって対応できることが、中小企業の強みだと柴沼社長は話す。欧州といっても国によって食文化や日本食の普及状況などは異なるため、スイスに限らず、それぞれの国や取引先に応じた提案や対応を行っている。
同社は2010年のオーストラリアからの引き合いを契機に海外輸出を開始。米国やアジア市場への展開を経て、欧州市場に参入した。米国は既にしょうゆが十分に流通している市場であったこと、アジアは距離が近く大企業・中小企業を問わず多くの日本企業が参入しており、価格競争になることが多いため、欧州に目を向けた。柴沼社長は欧州市場を、製品への思いやストーリーを理解してくれる市場だと話す。また米国の資本主義とは異なり、一緒に作り上げていくことで関係性が深まりビジネスになっていくことも魅力の一つだという。前述のスイスのすしチェーンも、柴沼醤油醸造の製品造りへのこだわりを理解してくれている。同社製品は決して低い価格設定ではないが、取引は10年以上継続しており、柴沼醤油醸造は丁寧なサポートを続けている。欧州は日本からの輸送距離が長いため、長期間の賞味期限が必要であり、また食品輸入規制や包装に関する規制(注1)、森林破壊や人権侵害防止に向けた対応(注2)、消費者の関心を踏まえたオーガニックやビーガン対応など、クリアすべき内容は多い。しかしこれらが参入障壁となるため競合は多くはなく、障壁を乗り越えた者にとってはチャンスのある市場だと言う。
同社は欧州市場への参入を、前述のとおりSIALへの出展を足掛かりに行った。海外見本市に出展する日本企業は多いが、ビジネスにつなげることは簡単ではない。日本企業の中には、出展や視察自体が目的になってしまうケースも少なくない。柴沼社長は、見本市に出展した後の来場者へのフォローが非常に重要だと話す。同社はSIALへの出展を始めた当初、毎月欧州に出張し、同社ブースを訪れた数社と関係を構築し、ビジネスにつなげたという。2012年の初出展以降、継続的に出展しており、欧州約30カ国に販路を広げた現在は、同展示会を既存の取引先とのコミュニケーションの場と位置付けている。
欧州市場への参入には規制対応などの障壁もあるが、だからこそ競合は多くないという側面もある。また製品の価値を認めてくれる市場であることも相まって、価格ではなく質で勝負ができる市場だとも言える。高品質な製品に加え、中小企業ならではの強みである機動性も生かした積極的な戦略も、欧州ビジネス成功に向けた一つのカギとなりそうだ。
- 注1:
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EUでは従来の「包装・包装廃棄物に関する指令」を置き換える「包装・包装廃棄物規則(PPWR)」が2025年2月に施行。「指令」はEU加盟国に「達成するべき内容」を示すもので各国はそれに従って国内法を制定していたが、「規則」とすることでEU域内でのルールを統一し、行政側の強制力を高める。2026年8月12日に一部条項が義務化予定(2026年3月31日付地域・分析レポート参照)。
- 注2:
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EUでは森林破壊防止デューディリジェンス(EUDR)の適用が2026年12月30日から順次予定されている(2025年12月9日付ビジネス短信参照)。また人権・環境デューディリジェンスを法制化する「持続可能性デューディリジェンス指令(CSDDD)」は、2029年7月からの適用が予定されている(2025年12月16日付ビジネス短信参照)。いずれも適用開始前で、CSDDDについてはEU域外の対象企業はEU域内純売上高15億ユーロ超の企業と限定されているが、欧州の取引先や消費者の意識は高く、規制の適用前や対象外であっても、森林破壊や人権侵害を行っていないかの確認をされることもあるという。
- 執筆者紹介
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ジェトロ調査部欧州課 課長代理
牧野 彩(まきの あや) - 2011年、ジェトロ入構。企画部情報システム課、ジェトロ福島、ジェトロ・ロンドン事務所を経て、2022年5月から現職。





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