欧州市場に見るチャンス、中堅・中小企業の取り組み環境意識の高まりを味方にゴムクローラー式運搬車を欧州に広げる
茨城県・諸岡

2026年6月23日

茨城県龍ケ崎市に本社を構える諸岡は、ゴムクローラー式運搬車を世界で初めて本格的に開発・製造した企業だ。現在は同社の売上高の1割強を欧州向けが占める。代表取締役会長の諸岡正美氏、相談役の鶴岡裕氏、営業本部副部長の中島泰生氏に、これまでの欧州市場における取り組みや、同社から見た欧州市場の特徴、今後の展開などについて話を聞いた(取材日:2026年3月24日)。

海外展示会への継続出展によるブランド力向上

諸岡は1990年代に海外展開を開始した。同社製品は高品質・高価格のため、当時から先進国である北米と欧州を海外における主要なターゲット市場に据えている。

当初は社内に海外営業を行う人員がいなかったことから、海外に拠点を有する工作機械の専門商社と連携し、現地展示会への共同出展などを通じて欧州での営業を委託していた。また、製品は日本国内で引き渡し、間接輸出を行っていた。

日本円での取引のため為替リスクがないことや、欧州で販売するための説明書や規制対応を商社にサポートしてもらえたことは大きかったという。その後、海外営業を担える社員を育成し、2010年ごろから英国向けの直接輸出を開始した。より安く最終消費者に販売できる流通形態の構築や、独自で営業ルート構築を意識した。

2016年の同商社の欧州市場撤退を機にドイツに販売会社を設立し、欧州市場全体を自社社員が営業・販売する体制を構築した。商流に介在する人が少なくなったことで、顧客や市場についてより解像度の高い情報を得られるようになった。また、ドイツ拠点を設けたことで、交換パーツの手配やアフターサービスを欧州域内から提供できるようになり、顧客の安心材料になっているという。

現在は特定の企業に独占販売権を与えず、現地社員が展示会への出展などを通じ、欧州各国において同社製品への関心が高い、あるいは販売力の強いディーラーを選定しながら契約を進めている。海外展開当初は、同社とディーラーの力関係はディーラー側が強かった。しかし、30年近く展示会への出展を継続したことでブランド力を高め、現在は同社が主導権を握っている。

環境配慮によって高まるゴムクローラー式運搬車への需要

同社のゴムクローラー式運搬車は、超湿地帯や急斜面といった不整地に強く、雨が多くぬかるみの多い国や、山岳地帯、積雪の多い地域など、欧州諸国との親和性は元来高い。また、わだちができず路面を傷つけないため、環境への影響を抑えることができ、環境意識の高い欧州各国からの関心が近年さらに高まっている。ドイツの送電網敷設工事や、2026年のミラノ・コルティナ冬季オリンピック・パラリンピックにおける雪の運搬でも、同社のゴムクローラー式運搬車が使われたという。

欧州への輸出にあたってはCEマーキングへの適合が必要となる(注) 。同社製品の場合、機械指令や屋外用機器の騒音指令、オフロード移動機械の排ガス指令などが該当する。特に騒音や排気ガス、電磁波などの基準が日本よりも厳しく、第三者認証機関に相談しながら対応を進めている。日本市場では販売で可能な仕様の製品でも、1年以上かけてCEマーキングに適合した仕様へ変更したこともあるという。

欧州に輸出するためには多くの手間とコストがかかるが、上述のような現地ニーズや、製品の価値を認める市場であることから、対応の手間をかけてでも取り組む価値のある市場とみている。欧州は1カ国単位では規模は小さいが、域内全体で見ると大きな市場だ。海外展開当初は欧州の国ごとに異なる規制への対応が必要だったが、EU統合により規制が統一されたことは、販売国を広げる上で利点となっているという。

企業規模を問わず取り組むことができる「非財務分野」

同社では「持続可能な開発目標(SDGs)」にも積極的に取り組んでいる。諸岡会長が2015年にSDGsピンバッジに興味を引かれ、SDGsの策定に携わった常磐大学学長(当時)富田敦子氏の講演を聴いたことがきっかけだ。諸岡会長は、SDGsをはじめとした新たな概念である「非財務分野」は、企業規模を問わず同じスタート地点から取り組むことができ、中小企業が大企業に肩を並べられる分野だと話す。SDGsに取り組んでいるときに偶然、これまで取引のなかった欧州の大手ゼネコンから、先方の調達方針への同意を前提に引き合いがあり、詳細を確認したところSDGsと同義であることが分かり、新たな取引につながった。環境や人にやさしい経営など、短期的な利益に直結しない取り組みを行っていることの発信が、幅広い人に関心を喚起するきっかけとなり、結果として新たな取引の広がりにつながっているかもしれないと諸岡会長は話す。

欧州市場に向けた今後の動き

今後の動きとして、同社は欧州における内燃機関搭載車の販売禁止の動きを踏まえ、電動化に向けた取り組みも進めている。EUで2035年以降の実質販売禁止が予定されていた対象は乗用車と小型商用車のため、諸岡の製品は対象外となる。しかし、今後、同様の動きが運搬車など建設用機械に広がることを見据え、ドイツ企業と協力し、エンジンを外してモーターで稼働できないかの検証を進めている〔EUは2025年12月に自動車産業支援政策パッケージにおいて、2035年以降の内燃機関搭載車の販売を容認する方向に転換した(2025年12月25日付ビジネス短信参照)〕。

EU規制への対応は必要だが、製品の価値を認めてくれる地域であることや、1つの規制に対応することで27加盟国への市場アクセスが開けることは欧州市場の魅力と言える。また、現地取引先とのビジネスを優位に進めるためには、継続的な展示会出展などを通じた現地でのブランド確立も欧州展開成功へのカギとなりそうだ。


左から代表取締役会長の諸岡氏、相談役の鶴岡氏
(ジェトロ撮影)

同社ゴムクローラー式運搬車(ジェトロ撮影)

注:
CEマーキングの詳細はジェトロ「自己宣言のためのCEマーキング適合対策実務ガイドブック」を参照。 本文に戻る
執筆者紹介
ジェトロ調査部欧州課 課長代理
牧野 彩(まきの あや)
2011年、ジェトロ入構。企画部情報システム課、ジェトロ福島、ジェトロ・ロンドン事務所を経て、2022年5月から現職。