欧州市場に見るチャンス、中堅・中小企業の取り組み世界中の食卓にわさびを(静岡県・カメヤ食品)

2026年6月23日

1947年創業のカメヤ食品外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます(本社:静岡県駿東郡)は、1976年からわさび関連事業を手掛け、現在、おろしわさび(本わさび100%)(注1)やわさびふりかけ、わさび漬けなど、幅広いわさび加工食品の生産・加工・販売を展開している。国内市場に加え、2017年から本格的に海外市場拡大に着手し、欧州・北米を中心に販路を広げながら、将来的には世界中の食卓への浸透を目指している。2025年の輸出総額は2018年の3倍に拡大した。輸出額は総売り上げの約1割で、そのうち欧州向け出荷額は約6割を占める。

同社の海外進出の背景と課題、今後の戦略について、代表取締役の亀谷泰一氏、営業第3課の亀谷亮平氏、ジェトロ新輸出大国コンソーシアムパートナーの相谷光則氏に聞いた(取材日:2026年3月16日、4月1日)。


カメヤ食品 亀谷泰一社長(左)と亀谷亮平氏(右)(ジェトロ撮影)

インバウンドとおにぎりブームによる需要拡大

近年、インバウンド観光客の増加により、日本滞在時に本わさびの味を知る外国人が増えている。さらに海外の「おにぎりブーム」も相まって、本わさびの加工食品需要は年々増加傾向にある。一方、気候変動の影響や生産者の高齢化などにより、長期的に本わさびの生産量は減少傾向にあり、生鮮わさびの国内市場での卸値は高騰している。

わさび加工食品の生産を手掛ける同社の強みの1つは、関連企業であるカメヤ農園でわさび栽培を行い、調達から生産・加工・販売までのサプライチェーンを確立している点だ。同社は静岡県内に5つのわさび沢の運営に加え、わさびのハウス栽培も行っているため、安定した原材料の調達が可能だ。さらに、カメヤ農園のわさび沢を含む「静岡水わさびの伝統栽培」が、2018年3月に国連食糧農業機関(FAO)から世界農業遺産(GIAHS)外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますに認定されたことも同社にとって追い風となった。

カメヤ食品では、農園のわさび沢で栽培した本わさびの根茎はチューブわさび(練りわさび)に、葉と茎はふりかけなどに加工し、国内外に販売している。海外向けには、本わさび100%の「チューブわさび」や「わさびふりかけ」が主力商品となっている。欧州に食品を輸出する際に留意すべき点としてEU規制への対応が挙げられるが、同社の場合、わさび加工食品の材料の1つであるかつお節は、EU HACCP(注2)に対応した工場から調達している。


海外向け「おろし本わさび(チューブ)」(カメヤ食品提供)

海外向け「わさびふりかけ」(同社提供)

海外販路拡大へのチャレンジ

海外へは20年以上前から、商社経由による間接輸出が行われていた。間接輸出を開始した当初から、輸出総額の約半分は欧州向けで、主力商品は「わさびふりかけ」だった。商社経由でオランダのインポーターに出荷し、ベネルクス(ベルギー、オランダ、ルクセンブルク)やドイツの業務用スーパー、卸業者、小売業者に供給するオペレーションは、現在も欧州の主要販路となっている。

商社経由で輸出するメリットは、(1)輸出業務、(2)販売・マーケティングの委託、(3)輸入規制対応への支援など、輸出のハードルが低くなる点が挙げられる。一方、間接輸出は生産者にとって、商品の市場での評価(売れた理由、売れなかった理由など)や市場ニーズに関する情報が限定され、また、販売チャネルのコントロールが困難になるなどのデメリットもある。

2021年、同社の欧州向け輸出額は2018年比で2.7倍に急増した。2020~2021年のコロナ禍での「内食」需要の増加も影響したと考えられるが、当時、詳細な市場状況を自社で把握することは困難だった。2023年、カメヤ食品は、輸出総額の半分以上を占める欧州への輸出を、今後さらに伸ばすために何が必要かを検討し始めた。

図:カメヤ食品のサプライチェーン(海外向け)
カメヤ食品の海外向けサプライチェンの説明。「わさびふりかけ」と「おろし本わさび(チューブ)」の製造・加工のための材料は、わさびと野菜はカメヤ農園㈱の他、静岡県内のワサビ農家や野菜農家から調達。わさびと野菜以外の材料は、その他の材料メーカーから調達している。製造・加工された「わさびふりかけ」と「おろし本わさび(チューブ)」の海外販売は2つのパターンがあり、1つ目のパターンは国内商社に販売し、国内商社が輸出し現地輸入業者に販売する間接取引。現地輸入業者が、海外の卸業者、業務用スーパー、小売業者に納品し、各店舗から消費者に販売。もう1つのパターンは、海外の中堅スーパー、高級百貨店、高級食材店の現地指定倉庫に直接出荷する直接取引。各店舗から消費者に販売する。

出所:カメヤ食品へのヒアリングを基にジェトロ作成

カメヤ食品の商社経由の欧州向け輸出は「わさびふりかけ」がメインだが、欧州のわさび加工食品の市場全体を見ると、業務用、小売り用ともに「おろし本わさび(チューブ)」が主流となっている。「わさびふりかけ」の市場規模は「おろし本わさび(チューブ)」に比べると非常に小さく、かつ競合も少ない。一方、「おろし本わさび(チューブ)」市場には、欧州市場に既に参入しているメーカーも多く、日系企業や中国企業が、ハイパーマーケットから中堅スーパーにおいて、低価格~中価格の商品ラインアップを提供している。しかし、カメヤ食品が提供する「おろし本わさび(チューブ)」は、国産100%の本わさびによる高付加価値商品であることから、ターゲットとなる販路は高級スーパー・百貨店や高級食材店などになる。また、「わさびふりかけ」は現在も卸業者から一部の小売業者に限定して供給されているが、「おろし本わさび(チューブ)」の直接取引の新規販路が拡大すれば、「わさびふりかけ」も併せて供給することで、拡販の可能性が広がる。

欧州におけるわさび加工食品市場を分析し、「おろし本わさび(チューブ)」と「わさびふりかけ」の需要と販路を整理したカメヤ食品は2023年、新たな欧州戦略を打ち出した。ベネルクスとドイツ向けの「わさびふりかけ」を主とした商社経由のビジネスを継続しつつ、フランス、スペイン、イタリアなどの新規取引先との直接取引により、「おろし本わさび(チューブ)」と「わさびふりかけ」の売り上げ拡大を目指すというものだ。

北米での経験を生かした欧州ビジネス展開

2023年当時、カメヤ食品は既に北米市場で直接輸出を拡大していた。同社は2016年からジェトロ・新輸出大国コンソーシアムのハンズオン支援を活用し、北米向けの間接輸出を継続しながら現地法人を設立し、中期的に北米市場への直接販売を広げることを目指していた。2017年以降、北米のホール・フーズ(Whole Foods Market)などの中堅スーパーや高級百貨店、高級食材店への直接輸出を拡大し、2025年には、北米向けの直接輸出金額が商社経由の間接輸出金額を上回った。

北米への直接輸出と販路拡大の経験を生かし、同社はまず、フランスでの取引先拡大と直接取引を目指した。市場規模が大きい「おろし本わさび(チューブ)」に加えて、「わさびふりかけ」をフランスのハイエンドリテーラー(高級食材店、高級スーパー・百貨店など)と直接取引するため、さまざまなアクションを開始した。

まず、各種イベントや展示会での商品説明・試食に加えて、商品のブランディング、ローカライゼーションに取り組んだ。商品説明では、「おろし本わさび(チューブ)」や「わさびふりかけ」の食べ方などを時間をかけて説明した。例えば、本わさびは西洋わさびと異なり、熱に弱いため、ステーキと合わせるときは肉に載せるのではなく、お皿に別途添える方が適切であることなどを説明した。ブランディングについては、カメヤ食品の本わさびはGIAHSに認定された自社のわさび沢で収穫されたものを使用していることなど、商品が作られるまでの「ストーリー」を取引先や顧客と共有することに努めている。同社では英語のウェブサイトを作成し、それらのストーリーを英語でも説明している(カメヤ食品ウェブサイト参照外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)。

本わさび製品のローカライズについては、フランスの高級食材店や高級スーパー・百貨店に販売する際には、欧州向け英語パッケージにフランス語のラベルを貼って対応している。今後、ハイパーマーケットまで販路を広げる場合には、パッケージそのものにフランス語を記載することが必須となるため、商品戦略やブランディングも考慮し、慎重に検討する予定だ。

イベントや展示会への出展は、直接取引のビジネスパートナーと出会うチャンスではあるが、それだけでは、商品価値やブランドの背景を共有できる相手との出会いは限られる。カメヤ食品代表取締役の亀谷氏は、「北米への直接輸出を拡大したときも、フランスをはじめスペインやイタリアへの直接取引の拡大にチャレンジしている現在も、公的機関などによる海外展開の支援を活用しながら、常に自ら動く姿勢が大事だと考えている。明確な目標を持ち、コツコツと行動を積み重ねることが、セレンディピティ(「思いがけない発見や偶然の幸運」「価値あるものを偶然見つける能力」を意味する言葉)につながり、良きビジネスパートナーと出会うことができる」と語り、今後のさらなる海外ビジネス拡大に意欲を示す。そして、ペッパーソースやウスターソースのように、世界中の食卓にわさび加工品が置かれることを目指したいと、カメヤ食品の夢は広がる。

ドイツの総合食品見本市「アヌーガ」や、フランスで日本の食と観光を紹介する展示会「C’est Bon! Le Japon外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます」への出展をきっかけに、新たな商談や取引が開始されている。


「C'est Bon! Le Japon」のカメヤ食品ブース
(カメヤ食品提供)

「C'est Bon! Le Japon」カメヤ食品ブースでのわさび商品の試食デモンストレーション(同社提供)

2025年のフランス向け輸出額の内訳を見ると、商社経由の輸出が依然多いものの、「おろし本わさび(チューブ)」が「わさびふりかけ」の金額を上回っている。カメヤ食品は、展示会などでの商品説明やブランディングにより、確実にフランスの取引先を増やすことで、「おろし本わさび(チューブ)」市場におけるシェア拡大と「わさびふりかけ」の販路拡大を目指す。さらに、取引先との直接取引に向けても準備を進めている。

国内および商社経由の輸出による手堅いビジネス展開と並行して、新たなチャネルや取引先を自ら開拓し続け、さらに直接取引を目指すビジネスモデルは、海外とのビジネス展開を検討する際の参考となりそうだ。


注1:
日本原産のわさび。欧州原産のホースラディッシュと区別する(2026年1月8日付地域・分析レポート参照)。 本文に戻る
注2:
HACCP(Hazard Analysis and Critical Control Point)は、製品の安全性を確保するための衛生管理の手法。EUに水産品を輸出するためには、最終食品に加工するまでの全ての加工施設などが、輸出元国の政府によるEU HACCPに基づく認定を受ける必要がある。EUへの食品輸出に係る規制については、ジェトロ「農林水産物・食品の輸出支援ポータル」も参照。 本文に戻る
執筆者紹介
ジェトロ調査部欧州課
岩田 薫(いわた かおる)
2020年5月から調査部欧州課勤務。