欧州市場に見るチャンス、中堅・中小企業の取り組みフランス市場でブランド価値を育てる(石川県・nakabi)
2026年6月23日
1985年に創業し、グラフィックデザインおよび印刷業を手掛けるnakabi(本社:石川県金沢市)は、2021年にオリジナル文房具ブランド「KASHIKO(かしこ)」を立ち上げた。2023年、フランス・パリで開催される欧州最大級のインテリア・デザイン見本市「メゾン・エ・オブジェ」に初めて出展し、輸出を開始した。従業員数6人と小規模ながら、3年でフランス・米国を中心に海外展開を着実に広げている。同社の欧州ビジネスについて、今川弘敏代表取締役社長に聞いた(取材日:2026年3月23日)。
九谷焼の美しさを文房具で伝えるブランドを立ち上げ
同社は40年以上にわたり、結婚式の席次表や招待状、カタログ、チラシなどのデザイン・印刷を手掛けてきた。しかし、新聞の購読者減に伴う折り込みチラシの減少や、コロナ禍で納品がデータへシフトしたことにより、印刷物の需要減少に直面していた。そこで、BtoBだけでなく、BtoCの新たな事業を展開しようと、2021年に自社ブランド「KASHIKO(かしこ)」を立ち上げた。今川社長は、「自社のデザイン・印刷事業でのノウハウを生かし、社会的に意義のあるものを作りたい」と考えた。
きっかけとなったのは、偶然訪れたギャラリーで目に留まり、購入した九谷焼の香合(こうごう)だった。九谷焼は、美しい色絵が特徴の陶磁器で、約370年の歴史を持つ石川県の伝統工芸だ。香合を制作した女性作家を通じて、伝統工芸品を発信し販売につなげる難しさを知り、「この美しさを伝えるお手伝いがしたい」と考えた。そこで、九谷焼作家が手で描いたデザインを買い取り、文房具として商品化した。例えば、看板商品のノート(Artist Note Book)では、表紙と扉面に九谷焼作家のデザインを使用している。現在では、4人の作家のデザインを扱う。今川社長は、「自社の文房具を通して九谷焼の認知が広がり、作品の購入にもつながれば」と語る。

(ジェトロ撮影)

九谷焼の香合(同社提供)
当初は国内の展示会やギフトショーに出展していたが、反応は良くなかったという。そのため、コスト競争が激しい日本と比べ、海外では価格競争力があり、日本の品質や伝統的な美しさが評価されやすいと考え、輸出に踏み切った。2023年、デザインの本場・フランスで開催されるメゾン・エ・オブジェに応募した。出展費用が高額だったため迷ったが、「せっかく審査に通ったご縁」と参加を決めた。同年からジェトロの専門家による「ハンズオン支援」(注1)に参加し、同展示会にも専門家が同行した。
その場で受注が決まる、海外展示会の面白さ
初めて出展した2023年のメゾン・エ・オブジェでは、メッセージカードと栞(しおり)を出展し、150件の名刺交換、84件の商談から、2件の受注(約20万円)につながった。社内調整を経て後日発注する国内の展示会と異なり、今川社長は「その場で買い付けが入るのが面白く、海外の顧客に日本の伝統的な美しさが伝わりうれしかった」と語る。2024年は扇子、風呂敷、ノートをラインアップに加え、7件の受注(約45万円)につながった。
展示会では、名刺交換や商談を通して潜在的な顧客のリストを得られることが成果となった。その場での受注だけではなく、展示会がきっかけで後々受注につながる場合もあった。2025年以降は展示会への出展を行わず、年に1~2回出張し、書店、文房具店や日本のコンセプトストアなどを訪問し、パリの顧客に直接営業を行っている。販路開拓では、2023年の出展の際に出会った、フランスでの営業活動をサポートする日系の営業代行会社と連携している。また、ジェトロの「Japan Street」(注2)に登録することで、海外からの問い合わせを定期的に受けている。インスタグラム
やピンタレストなどのSNSを活用し、自社ECサイト
での販売も継続しており、海外からも月に1~2回受注がある。SNSやカタログに使用する商品写真は、自社ギャラリーで撮影している。印刷業でのデザインのノウハウを生かし、高いCTR(クリック率)を維持している。
フランス市場でブランド価値を育てる
2025年は「KASHIKO」の売り上げの8割が海外となり、売上額も前年度の3倍に拡大した。米国からの大きな受注が牽引した。欧州市場は「参入自体は難しくなかった」が、継続して受注を得ることが難しいのが現状で、売上高としては米国の方が大きい。しかし、デザインの本場・フランスでの実績が、米国市場でもブランド価値向上と信頼につながっている。欧州は「ブランドの価値を作る市場」と捉え、フランスでの販路開拓を継続していく。今後はデパートやミュージアムショップでの販売やOEMでの受注など、フランスでも大口の取引を獲得することが目標だ。
フランスでは、デザインが優れていることはもちろん、「商品のストーリーを伝えること」が重要だ。同社の商品のパッケージには、必ずデザインした作家の紹介や商品のコンセプトを記載している。2026年6月、表紙に越前和紙を使い、あえてページ数を減らし、「ひとつのテーマを書ききるためのノート」をコンセプトにした「FINISH IT」ノートを新たに発売した。「思考をひとつに集中させ、最後までやり遂げる体験をつくる」というストーリーで付加価値を高めている。

顧客のニーズを反映した柔軟な商品展開
欧州市場は、品質やストーリーを評価し、高付加価値品を購入できる所得層が存在することから、「高くても売れる市場」と言われる。実際、ノート(Artist Note Book)の小売価格は35ユーロに設定している。商談では、これまで多くの日本企業が積み重ねてきた信頼に支えられた、高い購買力を実感している。一方、現状フランスでは個人経営の店舗など小規模な取引先が多いため、より手ごろな価格帯の商品を求められることもある。「FINISH IT」ノートはそのニーズに応え、扱える店舗を増やす狙いもある。
展示会や商談は、直接顧客のニーズを知る機会でもある。例えば、ノートは当初方眼紙だったが、商談先でのニーズを聞き無地に変更したところ、売り上げが伸びているという。このように、「日本の伝統工芸品の美しさを伝える」というコンセプトをコアに、マーケットインの発想で柔軟に現地市場のニーズに対応している。こうした小回りの利く商品展開は、中小企業の強みと言える。
情熱を持ち、挑戦を楽しむ
EU向け輸出では、域内流通に関する規制や関税制度などの変化に対応する必要がある。例えば、現在150ユーロ未満の少額小包は輸入関税が免除されているが、EUは2026年7月1日から3ユーロの関税を課す方針だ(2025年12月17日付ビジネス短信参照)。こうした最新情報をキャッチアップし、顧客への正確な情報提供に努めている。また、英文カタログの作成や英語・フランス語での複雑な内容の問い合わせ対応には、生成AI(人工知能)を活用している。「AIの普及により、中小企業の海外展開のハードルは低くなっている」という。
今川社長は、海外市場については「思っていたほど壁は高くない。まずは行ってみないとどう評価されるかもわからない」と語る。すぐに結果が出るとは限らないが、挑戦を楽しみ、情熱を持って継続することで結果がついてくる。「印刷会社のビジネスモデルを変える」情熱を持ち、海外市場に挑み続けている。
- 注1:
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海外ビジネスに精通した専門家(パートナー)が、継続的な支援面談・海外出張同行を通じて、海外展開の計画策定支援から海外販路開拓、立ち上げ、操業支援まで一貫して支援するジェトロの支援制度。詳細・申し込みはジェトロウェブサイトを参照。
- 注2:
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ジェトロが招待した海外バイヤー(海外に販路を持つ国内のバイヤーを含む)専用のオンラインカタログサイト。日本のサプライヤー企業は、企業・商品情報と商品画像などを登録し、 世界中のバイヤーに商品を紹介することができる。詳細・申し込みは、ジェトロウェブサイトを参照。
- 執筆者紹介
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ジェトロ調査部欧州課
川嶋 康子(かわしま やすこ) - 2023年、ジェトロ入構。調査部調査企画課を経て、2025年4月から現職。





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