欧州市場に見るチャンス、中堅・中小企業の取り組み耐久性とサステナビリティが強みに(石川県・北市漆器店)

2026年6月11日

1809年に創業した山中漆器メーカーの北市漆器店(本社:石川県加賀市)は、新型コロナ禍を機に2021年に海外輸出を開始し、2026年3月時点で欧州のほか、米国、オーストラリア、中国、シンガポールなど世界14カ国に販路を広げている。同社は、木地ではなく樹脂製漆器である「近代漆器」を主に製造・販売しており、食洗機に対応した丈夫で扱いやすい漆器が特徴だ。同社の欧州ビジネスについて、北市博之社長、北市裕子取締役に聞いた(取材日:2026年3月23日)。


同社ショールームにて、左から、北市博之社長、北市裕子取締役(ジェトロ撮影)

オンライン商談会で見えた「攻め方」

同社は、漆器の国内市場が縮小する中、新型コロナ禍を機に新たな市場を開拓するため、2021年に海外輸出に取り組み始めた。ジェトロの専門家による「ハンズオン支援」(注1)を活用し、まずはオンライン商談会から取り組んだ。初年度は50回以上、2年目は約30回のオンライン商談会を行い、北米、欧州、アジアの商社、小売店、業務用卸売りなど、幅広く商談を行った。多くの商談を組むことができ「関心がある」と手ごたえを感じた。

また、「オンライン商談会から成約につながったのは数件だが、数をこなすことでノウハウ・攻め方がわかった」ことも大きな成果となった。例えば、最初は用意していた内容を一方的に説明していたが、興味を示す商談先は少なかった。そこで、オンラインでショールームを案内しながらサイズ感、用途、食洗機対応可否などを簡潔に一通り紹介する「ショールームツアー」を導入したところ、商談先が興味を示す商品をつかむことができ、成約につながった。

国内実績を生かし、業務用の重箱に集中

同社は、日本国内でもホテル・旅館やレストラン向けの業務用製品を長年展開しており、海外で日本食レストランが増えていることから、輸出にあたっては業務用向けに重点を置くことにした。また、中心とするアイテムとして重箱を選んだ。重箱は「ふたがある」器であり、「ふたがある」器は日本文化の特徴で、「開けたときのサプライズ感」の魅力を伝えられると考えた。小売りやギフト向けの場合は幅広い商品構成が必要だが、国内ビジネスで強みがある「業務用の重箱」に絞ることで、少ないアイテム数で海外展開を進めることができた。重箱は、もともと海外にない文化のため、ジェトロの「中小企業海外ビジネス人材育成塾」(注2)で重箱の使い方を説明する英文資料を作成し、商談に活用した。

耐久性とサステナビリティが強みに

同社は、10年以上前から食洗機に対応した近代漆器の開発に取り組み、日本国内のホテルで重箱の食洗機対応に関するモニターを行ってきた。「実際にホテルの現場で10年以上使われている」実績とデータは、海外との商談でも説得力があった。漆器は「扱いづらい」「手入れが大変」という懸念があるが、「食洗機で使える」「丈夫で気軽に使える」ことを商談でアピールした。耐久性があり長く使える漆器は「サステナブル」であり、欧州で進む循環型経済(注3)の取り組みとも合致している。また、同社の漆器はリサイクル樹脂を使っており、「サステナブルなアップサイクル樹脂」として強みの1つになっている。

欧州はフランス、ドイツ、ポーランドなどに展開

欧州での販路開拓では、「1つ歯車が合うと、順番に歯車が合っていく」感覚があった。「核となる取引先」が次の商機を生む好循環が生まれている。欧州市場は、2026年3月時点でフランス、ドイツ、ポーランド、英国、ベルギーに輸出している。オンライン商談会でつながった卸売商社やEU消費者向けのECサイトを通した輸出がメインだ。直近では、抹茶ブームにより、薄茶用の抹茶を入れる茶器である「棗(なつめ)」の需要が増えている。商社を通じて現地の有名日本食レストランで同社の重箱が使われるようになり、その実績が新たな商談にもつながっている。また、重箱にレストランのロゴなどを入れるなど、OEM事業に対応していることも強みだ。

ポーランドへの輸出は、クラクフの「日本美術・技術博物館(Manggha)」(注4)で2025年11月~2026年2月に開催された「時の輝き:応用美術における日本の漆(Lśnienie czasu. Japońska laka w sztuce użytkowej)」展(ポーランド語)外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますが契機となった。同展示では、山中漆器の紹介のほか、北市漆器店の蔵に眠っていた秘蔵品を現代に復活させた「與座衛門(よざえもん)外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます」の商品が展示され、ミュージアムショップでも同社の商品が販売された。

EU市場参入のハードル

EU市場への参入にあたり、最初にハードルとなったのは「取引先からEPA(経済連携協定)の活用を求められたこと」だった。輸出入に際してEPAを活用すると、関税コストを削減できる。EPAに基づく特恵関税の適用を受けるには、原産地規則の諸条件を満たし、特定原産地証明書を税関に提出する必要がある。日EU・EPA(注5)では、生産者または輸出者、輸入者が、自ら原産性を満たしていることを申告する自己証明制度(自己申告制度)が採用されている。「最初は何もわからなかった」が、取引先やジェトロのサポートを受けて原産地証明に対応。「日EU・EPAに一度対応すれば、EU域内への輸出に生かせる」ことは、EU市場の大きなメリットだ。

また、欧州では樹脂(プラスチック)の利用に関する規制や消費者の目も厳しい。特に対応が難しいのは、EUの「食品接触材規則」(注6)だという。EUでは、食品と接触する全ての材料を「食品接触物質(Food Contact Material、FCM)」と呼び、容器・包装の材料と製品に関し安全基準が設けられている。同規則では、販売時に自己宣言をもって法律に適合していることを証明しなければならない。規則に対応する安全性評価の実施や適合宣言書の作成には、アイテムごとに検査などの対応費用が発生する。

和食とともに「SHIKKI」を世界語にしたい

同社が海外輸出に精力的に取り組む根底には、「日本の和食文化に欠かせない漆器を、文化として世界に広げたい」という思いがある。漆器は「ラッカーウェア(lacquerware)」と英訳されるが、日本の漆器の特徴が伝わらないと感じ、同社では商談や英語版カタログでも、「漆器(Shikki)」「重箱(Jubako)」という日本語を使っている。「漆器(Shikki)」を「和牛(Wagyu)」や「寿司(Sushi)」のような世界語にしたいとの思いから、今後もさらに海外市場を開拓していく。

特に欧州市場は、「これから広がっていく市場」と捉えている。ロンドンで訪れた日本食レストランでは、「味噌(みそ)汁の器が磁器で、熱くて持てない」ことに気づき、「手に持っても熱くない漆器は和食でニーズがある」と考えた。そのため、漆器では珍しい「白い漆器」を開発し展開したところ、「海外で反応が良い」という。これまで築いてきた取引先との信頼関係を核として、さらなる販路拡大に取り組む。


同社ショールームに展示されている「白い」漆器(ジェトロ撮影)

自社の得意分野を生かし、本気で海外輸出に挑む

北市社長は、「海外市場は難しくない」と語る。「海外展開は、関税や手続きなどが複雑な印象があり、当初は身構えていたが、やってみると垣根が取れた」という。「市場を理解して、自分の得意で攻めていく」日本でのノウハウは、海外市場でも生きる。言語の壁や規制対応は、取引先やジェトロと協力し、やってみると1つずつ対処できた。

海外の商習慣では、支払い方法(円建て/現地通貨建て、先払い/後払いなど)や価格設定、輸送方法など、自社の要望をはっきり伝えることで、信頼関係を築くことができた。展示会では、共同出展ではなく費用負担は大きくなるが、同社は単独でブースを構えたことで独自の事業化を進めることができ、自社のアピールができたという。

このように、欧州企業は、オリジナリティのある品質の高さや日本の伝統・文化を含めた高付加価値を評価してくれ、一度信頼を得ることができれば長期的な関係を構築できる。さらに近年、EUは循環型経済の実現に向けた取り組みを推進しており、日本製品の耐久性やリサイクル材の使用なども評価されている。一方、日本では問題ない成分・製品でも、欧州では規制対応が必要になる場合が多く、EU市場への参入には中小企業でも規制対応が必要となる。しかし、一度対応すれば27加盟国の市場にアクセスできるというメリットにもなる。北市社長は、「やるからには本気で」と語り、さらなる販路拡大に意欲を見せている。


注1:
海外ビジネスに精通した専門家(パートナー)が、継続的な支援面談・海外出張同行を通じて、海外展開の計画策定支援から海外販路開拓、立ち上げ、操業支援まで一貫して支援するジェトロの支援制度。詳細・申し込みはジェトロウェブサイトを参照。 本文に戻る
注2:
ジェトロが中小企業の社員向けに提供する無料研修。主に海外展開戦略の策定方法、海外バイヤーとの輸出商談に向けたプレゼン資料の作成方法、商談の進め方を習得し、「効果的な商談」の準備を行う。詳細・申し込みはジェトロウェブサイトを参照。 本文に戻る
注3:
EUの循環型経済関連規制については、ジェトロ調査レポート「EU循環型経済関連法の最新概要‐エコデザイン規則、修理する権利指令、包装・包装廃棄物規則案‐(2024年11月)」を参照。 本文に戻る
注4:
1994年に設立された、ポーランドで唯一日本文化を紹介する国立機関。年間10万人が来館する。 本文に戻る
注5:
日EU・EPAの特恵関税の活用については、ジェトロの「日 EU・EPA解説書PDFファイル(6.3MB)(2020年3月改定版)」を参照。 本文に戻る
注6:
EUの「食品接触材規則」については、ジェトロの貿易・投資相談Q&A「食品輸出にかかる食品接触材規則と留意点:EU」を参照。 本文に戻る
執筆者紹介
ジェトロ調査部欧州課
川嶋 康子(かわしま やすこ)
2023年、ジェトロ入構。調査部調査企画課を経て、2025年4月から現職。